ダンガンロンパ・フラワーズ   作:むらさき@ロンフラ

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■作品についてのご注意

・この作品はスパイク・チュンソフト社の作品「ダンガンロンパ」シリーズの、オリジナルキャラクターを使った二次創作です。
モノクマ以外の登場人物は(おそらく)登場しません。
・「ダンガンロンパ」シリーズのネタバレと作者の自己解釈(ゲーム・アニメ共に)が含まれる場合があります。
・17歳以上を対象とした人を選ぶ描写、残虐描写が含まれています。
・文章、トリック、ストーリー共に素人のものです。大目に見てやってください。

以上のことをご理解できる方のみ、お読みください。
では、どうぞ。


Chapter2「廻リ空転スル黙祷ノ薔薇」非日常編-オシオキ

「まさかまさかの…今回も大正解!なのだ!」

「『超高校級の科学者』藍葉美郷さんを殺したのは…『超高校級のバスケ選手』紅葉留架さんでしたアアァァ!

オマエラが正解するとは思っていなかったけど、オマエラを信じてよかったな…と思うよー!」

 

モノクマは両手で、カラフラは両手代わりの葉っぱでハイタッチしている。

 

「…正解、だったのか…」

一方のわたしたちは…どうしようもない、陰鬱なムードに満ちていた。

特に二階堂さんは、友人が殺された怒りに満ちているのか、体を震わせている。

「おい…どうして」

二階堂さんは、紅葉さんに詰め寄り、身長が自分よりも高いであろう彼女に掴みかかる。

 

「どうして…藍葉を殺したんだ。何の罪もない人間をどうして!どうして…っ!」

揺さぶられているうちに、紅葉さんは沈黙を破った。

「…復讐だよ」

…復讐?藍葉さんが、紅葉さんに何かをしたのか…?

 

「えーと。それについては紅葉さんに語らせるのも何か物足りないので…ボクが教えましょう」

 

自分の席から立ち上がったモノクマが丸い両手を広げると、スクリーンに少女漫画風の美少女カラフラが描かれている表紙が映った。

「動機の漫画本!?これで事件が起きるのかー!?」

梅田くんが驚きの声をあげる。

 

「まずはこの『漫画でわかる紅葉留架の真実』をご覧ください!」

 

…スクリーンは、かなり初期の学年誌に載っているような、デフォルメされたギャグ漫画のような絵柄で描かれた、カラーの大きなコマを写す。

二階堂さんが紅葉さんから手を離す。紅葉さんは、全てを諦めたかのように立ち竦んでいる。

モノクマは、四角形の吹き出しに書かれたナレーションを読み上げた…。

 

 

 

 

 

『漫画でわかる紅葉留架の真実』

 

 

『紅葉留架さんは大都市で知られる○○都○○市生まれ。住宅街でも評判のバスケ少女。』

 

『生まれた頃から高い身体能力を生かし、様々なバスケ大会で優勝してきた幼き紅葉さん。

彼女にはお父さんとお母さんと…何歳か年下の妹がいたのです』

 

 

幼少期の紅葉さんと思わしき少女が、両親や妹に囲まれバスケットボールを持っているコマから始まる。

 

 

『妹は紅葉さんのようなスポーツの才能は微塵もありませんでしたが、頭が良く、幼少期から様々なことを学んできました』

 

 

妹の絵が大きくスクリーンに映る。紅葉さんに似た、青い髪だ。

 

 

『紅葉さんと妹は大変仲良しでした。才能は違えど同じ家族。二人は助け合って生きてきたのです』

 

 

妹は、どこかで見たことのある少女だった。

 

 

『ある雨の日。紅葉さんはいつも通りに家の中で筋トレを、お母さんはリビングでドラマ鑑賞を、妹はキッチンで何かを作っていました。ちなみにお父さんは職場です。

妹が何を作っていたかというと…もうすぐ母の日だったのでしょうか、それとも知的好奇心を満たすためのものだったのでしょうか。今となってはわからないことですが…』

 

 

三つのコマそれぞれに、腹筋をする紅葉さんとテレビを見る母親。そして、キッチンでガラス瓶を持つ妹が描かれている。

 

 

『しかし、悲劇は起こりました。アホなのかは知りませんが、妹は…何故か有毒ガスを発生させてしまったのです!

有毒ガスはリビングにいた紅葉さんとお母さん、そして妹を襲います』

 

 

漫画に描かれた母親と姉妹は、有毒ガスによってコミカルに大騒ぎしている。

 

 

『よほど強い有毒ガスだったのでしょう。お母さんが窓を開ける前にガスは家の中に充満し…三人は気絶してしまいました』

 

 

三人が、家の中で倒れているコマ。まるで死んでいるかのような、悪意のある描き方だ。

 

 

『夕方。お父さんが帰ってくると…家族が三人も倒れているのを見つけてしまいました』

 

 

父親が家の中で倒れている三人を見つけ、茫然としている。

 

 

『急いで救急車を呼ぶお父さん。三人は病院に運ばれました』

 

 

救急車が夜道を走る。

 

 

『三人は緊急入院しましたが、ガスが命まで取らないものだったのか。一命を取り留めたのです』

 

 

病院のベッドで寝ている、母親と姉妹。

母親の目に包帯が巻かれているのを見て…わたしは嫌な予感がした。

 

 

『しかし、またしかし。そこらの昼ドラよりエグいことに…

 

 

姉妹はこれまでの記憶を無くしてしまい、お母さんは目が全く見えなくなってしまったのです!』

 

 

何かを探すように手を前に伸ばす母親と、姉妹が「?」の吹き出しを出しながら病院の医者と思わしき人物に質問されている…。

 

 

『こうして、紅葉さんの両親は色々あって離婚を選び…紅葉さんはお母さんとその兄弟に、妹はお父さん側に貰われていきましたとさ』

 

紅葉さんとお母さん、妹とお父さん。その間には、雷のような亀裂が走っている。

 

 

『めでたしめでたし』

 

 

 

 

 

スクリーンが真っ暗になり、モノクマの乾いた拍手の音だけが聞こえる。

 

「その後の家族の行方は…わかるよね?笑えるよね?うぷぷ!まさか紅葉さんの大切なお母さんを失明させたのが妹だったなんて!」

 

「なるほど…紅葉は、本人の真実を受け取った訳なんじゃな」何かを察する湖林くん。

「勘のいいやつならわかるだろうけど…藍葉は、あいつは…私の妹だったんだよ」

 

母親から光を奪った、妹を殺した。

その真実に、みんなは強いショックを受けているのか…何も言葉を発さなかった。

ただ一人、二階堂さんを除いては…。

 

「おい…もしかして、藍葉があんたの母ちゃんの目を見えなくしたから…藍葉を、自分の家族を殺したのか!?」

「その通りだよ。私のお母さんは盲目だった。生まれつきのものだと思っていたけど、まさか失明の原因が家族とは思わないでしょう?」

でも、今の彼女には疑問がある。わたしは、紅葉さんに尋ねた。

「紅葉さん、ちょっといいかな…」

「鈴原、どうしたの?」

「あの漫画だけじゃ『母親を失明させた原因が藍葉さん』ってことはわからないと思う。あと、藍葉さんはあなたが自分の妹ってのを知ってたのか?」

「あの漫画を信じるのには時間は掛からなかったよ。私には小さい頃の記憶がなかった。

妹が藍葉だと思ったのは…藍葉にドリンクを渡されたのと…今日、納屋に11時に来いと呼び出された時だね。

そして…納屋に来た時、ある会話を聞いたんだ…」

 

「それについては紅葉さんも説明するのは面倒だろうし、どうせなら襲撃当時の映像をオマエラにお見せしましょう!」

 

…モノクマの濁声だ。

何処かから持ち出したドラムを二つのバチでバンバン、と叩くと、スクリーンに再び映像が映し出された。

 

 

納屋の中で…二階堂さんと藍葉さんが話をしている。

 

「納屋なんかに呼び出して…藍葉、ここを実験室にするから掃除して欲しいとかか?」

「違う。実は…ボディーガードになって欲しいの…」

「…アタシ、腕っぷしは強いしそこらの男には負けないつもりだけど…なんで?」

「お姉ちゃんが来てくれる。でも、今のところは…怒っているかもしれないから。今回だけは二階堂さんに守って欲しいの」

映像の中の藍葉さんは、嬉しそうにしている。

「あの人って…誰だ?何で姉ちゃんだってわかったんだ?」

「実は汗をタオルで拭いて、調合した遺伝子検査薬ちゃんで…!?」

「…っ!?」

その瞬間、二階堂さんは頭をスコップで殴られたのか、急に倒れてしまった。

気絶した彼女を踏み越え現れたのは…スコップを持った紅葉だった。

「あんたが…私の妹だったんだね…」

「…紅葉さん…!?」

後退りし、崩れ落ちる藍葉さん。その顔は恐怖で満ちていた。

「あんたのせいで…母さんが…どれだけ辛い思いをしたかわからないのか…?」

「や、やめて…」

藍葉さんはカバンの中を慌てて漁り、電気警棒を取り出す。スイッチが入ると、電流が警棒に流れた。

「違う…私は…お姉ちゃんに会いたくて…!」

「そうだ、あんたさえ…あんたさえいなければあああああああっ!!!!」

紅葉さんは、スコップを使い藍葉さんの頭を物凄い勢いで殴る。藍葉さんは、一撃で卒倒する。

そして、藍葉さんの持っていた電気警棒を奪い、スイッチを切った。

 

…映像はそこで終了する。

 

 

 

 

「悲しいがな、電気警棒じゃリーチが足りなかったのだ。攻撃力が高くてもリーチが足りなきゃ意味がないのだ」

 

カラフラは自らの花の部分を左右に揺らす。

「…これが、私の動機の全てだよ。私が真実を知ってからは、藍葉に復讐することだけを考えていた。

殺害場所を温室にしたのは…事件を複雑にするため。死にたくないって思ったんだろうね。

今となっては、どうしようもないことだけど…」

「バカヤロー…」

二階堂さんが震えながら、背負っている改造箒に触れる。紅葉さんは、下を向いたまま無言だ。

「藍葉に命を…返してくれよおおおおぉぉぉぉっ!」

「やめてよ、二階堂ちゃん!」

取り乱しながら改造箒を抜く二階堂さんを雨崎さんが止める。

「は、離してくれ藍葉!」

「所詮綺麗事だろうけど、復讐は復讐を生むだけなんだよ。あたしは誰にも死んで欲しくないんだよ!そんなことしても、藍葉ちゃんは喜ばないって!」

「藍葉が死んだのはアタシも悪いんだよ!アタシがお茶会なんて開くから!納屋で藍葉を守れなかったから!だからこれはケジメだ!頼む!一発でいいから…」

 

その瞬間。バチン、という音が聞こえた。

雨崎さんが、二階堂さんの頬を叩いたのだ。

 

「…悪くないのは、二階堂ちゃんだけじゃない。みんな、何も悪くないんだよ…悪いのは…」

「雨崎…もういいよ…アタシ…は…うぅ…」

改造箒を背中に戻し、二階堂さんは頬を抑え黙り込む。その目には、大粒の涙が浮かんでいた。

 

「思い出があるということは、自分を動かしてしまうのと同意義でしょう」

「…蒲生、また何か屁理屈でも並べるのか?」

蒲生くんが、何かを考えるように言う。湖林くんを無視しながら。

「藍葉嬢は姉との思い出に動かされ、紅葉嬢は母との思い出に動かされた。

家族との思い出なら尚更…それが悲劇を招こうとも強いもの。思い出のお陰で…人は動くことができるのです」

蒲生くんは持っている本をパン、と閉じる。

「蒲生様、この御本には一体何が書いているのですの?」

「天の教え、とだけ答えておきましょう」

そして、好奇心からであろう一ノ瀬さんの答えを流す。

 

…わたしは。

殺人を犯した紅葉さんを許せないと感じても、責めることはできなかった。

親しい人や希望を奪われた怒りは、容易く消えるものではない。

 

自分は『物語』の記憶がない人間なのに、なぜこんなにも、『紅葉留架という復讐者』の気持ちが理解できてしまうのか。

それは…わたしにもわからなかった。

でも…一番責められるべきは紅葉さんじゃない。

 

わたしたちを監禁し、この悪趣味なゲームを仕込んだ黒幕こそが、一番の悪だ。

 

「ねえねえもう待ちくたびれたんだけどさぁ。お涙頂戴な告白も終わったことですし、次のステージに移りましょうじゃないですか!」

 

モノクマが口に手を当て笑った。

「次のステージ!?また…あのオシオキってやつか!?」

 

「今回は、『超高校級のバスケ選手』である紅葉留架さんの為に、スペシャルなオシオキを用意しました!」

 

二階堂さんは愕然とした様子で叫ぶが、あの白と黒の狂気は一切聞き入れなかった。

「そこまでして欲しい訳じゃない!頼む、処刑だけは、やめてくれ…!」

「もういいよ、二階堂。できるなら…最後にシュート、したかったなぁ…」

紅葉さんは、力無さげにモノクマの方向へと向かっていく。

 

一瞬。

彼女がわたしの隣を通り過ぎる際。

赤いコートのポケットに、何かが入ったような気がした。

 

「…紅葉さん?」

 

紅葉さんは一瞬だけ別れを告げたいのか、こちらを向く。

 

 

「頼む…みんな…『美郷』の分まで…生きてくれよ…」

 

 

しかし、モノクマはハンマーを掲げながら。無邪気に笑っていた。

 

 

 

「では、張り切っていきましょう!オシオキターイム!」

 

スクリーンは、紅葉さんがモノクマに連れ去られるドット絵を映し出す。

その直後、紅葉さんの首に天井から伸びる鎖が付けられた…。

 

 

 

 

 

 

『GAME OVER

モミジさんがクロにきまりました。オシオキをかいしします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

…紅葉留架は、とてつもない長さの平均台の上に立たされていた。平均台の下には大量の針と、大砲が置かれている。

道の行き止まりには、白と黒に塗られたゴール。

紅葉は…両手に3分のカウントダウンを映し出す黒いバスケットボールを持っていた。

 

 

 

『BOMBER WOMAN』

超高校級のバスケ選手 紅葉留架処刑執行

 

 

『3:00』

ブザーが何処かから流れると、紅葉は走りながらボールをドリブルする。

常人なら歩くのが精一杯であろう狭い道の上でも、落ちることなくボールは平均台の上を跳ねていく。

 

『2:30』

途中。大砲からバスケットボールが飛んでくる。

避ける紅葉。ドリブルのペースは落ちることはない。

 

『2:00』

放たれるバスケットボールの数が増えていく。

疲れからなのかペースは多少落ちたが、ボールが平均台を跳ねる位置は正確なままである。

 

 

『1:45』

大砲からボールが飛ばなくなる。

代わりに…様々な実験道具が紅葉目掛けて飛んでくる。

フラスコ、塩酸の入った瓶、顕微鏡、ビーカー、リトマス紙、アルコールランプ…

紅葉の顔に動揺が現れた。実験道具は体にに当たっていく。

それでも…ボールが平均台から落ちることはなかった。

 

『1:00』

実験道具の飛んでくる量が多くなった。

薬品、磁石、シャーレ、乳鉢、怪しい薬品の入った瓶、プレパラート、メスシリンダー、試験管…。

避けていくが、紅葉の服は所々が割れたガラスで破れ、肌の一部は薬品で溶けていた。

ボールが跳ねている位置が多少乱れてきた。

 

『0:30』

再びバスケットボールが、実験道具と共に大砲から放たれ、紅葉に当たる。

紅葉は弱ってきたのか、偶に落ちそうになり息も乱れている。

ゴールは見えてきた。ボールも紅葉も、平均台から落ちそうにない。

 

『0:08』

ついに、ゴールへとたどり着いた。

紅葉は薬品と障害物でボロボロになりながらも、狙いを定める。

シュートをすれば、『超高校級のバスケ選手』である彼女の最期の希望も叶うことだろう…。

 

『0:06』

しかし。

 

紅葉留架は、ボールを手から放つことができなかった。

 

 

 

『0:05』

何故なら。

 

『0:04』

彼女の妹でありる今回のシロであるはずの『超高校級の科学者』藍葉美郷とモノクマが…ゴールの上にいた。

 

『0:03』

どうして、と紅葉は失意の表情を浮かべる。

 

『0:02』

紅葉の手から、ボールが落ちていく。

 

『0:01』

ボールは、地面にごとんと音を立てて落ちる。

 

 

 

『0:00』

その瞬間。

ボールから大きくブザーを鳴ったと思うと、大きな爆発音が起きた。

紅葉の身体は…爆発により、跡形もなく燃えていく。

 

 

 

『暫くして』

モノクマは爆風により吹き飛ばされたが、燃えてしまったマネキンを盾にしたお陰で無傷で済んだ。

ゴールの下には、バラバラになった焼死体の一部。それだけが存在していた。

 

 

 

 

「あははははー!やっぱりオシオキはサイコーだぜ!フゥーハハァァァァァ!!いやー、人を殺した悪いやつを殺すと、気持ちいいなぁ!」

モノクマは何かをやり遂げたような表情をしている。正直…見たくない。

 

「ひどい…女とはいえもうこんなコロシアイは嫌ですわ…!」

「紅葉さんの『超高校級のバスケ選手』のプライドすら、へし折ろうとするのか…!?」

「うう…えらいこっちゃや…なんでこうなるんや…」

 

一ノ瀬さんや未隅くん、灰寺くんなど、皆が絶望の叫びをあげる。

 

「畜生…」

無念の表情の、檀くん。

 

「家族同士のコロシアイ…なんて悲しいのかしらね」

メロドラマを見るかのように、処刑を眺めていた黒木さん。

 

「紅葉嬢…天へと登っていったのですね。せめて、来世では幸福な人生があらんことを」

いつもの笑顔な蒲生くん。

 

そして。

「なんで…どいつもこいつも、平気で殺すんだよ…!」

大粒の涙を流す二階堂さん。

 

「紅葉さんはメンタルが弱かったのだ?それともただの家族思いだったのだ?復讐を後悔したのか、それとも果たしてスッキリしたのか…知る術は皆無なのだ」

「というわけで、今回の裁判はこれにて平和に終わったのです。ってことでオマエラ、次回のコロシアイもよろしくねー!バイバーイ!」

 

カラフラとモノクマは、裁判場からどこかへと消えていく。

 

二階堂さんは、糸が切れたように崩れ込んだ。

「二階堂さん、気を取り直して!」

「さっきは、おかしなこと言っちゃってごめん…」

わたしと雨崎さんは、彼女を心配そうな目で見つめながら慰める。

 

二階堂さんは俯いたままだ。

「アタシ、これからどうしていいのかわかんねえよ…」

後悔もあるのだろう。絶望しているのだろう。彼女は頭を抱えて、メッシュの入った黒髪をクシャクシャにする。

「雨崎。鈴原。誰かを憎んでも、裁判に勝っても、藍葉は報われないのかよ…?あいつは、もう生き返らないのなら…ううっ…!」

 

ふと。

あることを思いついた。

これで、二階堂さんが立ち直れればいいのだけど。

 

わたしは首に下げていたオルゴールペンダントを開ける。

ペンダントからは、『きらきら星』のメロディが流れた。

 

「鈴原…これは…?」

「…鈴原ちゃんのそのペンダント、オルゴールだったのね。『きらきら星』じゃん。いい感じの音色だけど…」

 

「…モーツァルトの作曲した曲だね。素敵な曲でしょ」

「これ、モーツァルトだったんか?知らへんかった。ところでモーツァルトって戦士だったよね?」

「貴様、音楽家の偉業も知らんのか…?」

絹川くんが解説すると、湖林くんが灰寺くんに解説を始めた。

 

 

わたしは、ここにいる全ての人間に語りかける。

「みんな…ここまでの嬉しかった記憶も、悲しかった記憶も、どうか忘れないで欲しい。

それこそが…わたしたちの歩むべき道を開く鍵と、死んでしまったみんなの弔いになるからね…」

 

「…忘れないことが、皆のためになる…?」二階堂さんが顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃになっていた。

 

ただの説教みたいだし、恥ずかしいし、即興での励ましでしかない。しかし、これで残された皆が落ち着けるのなら構わなかった。

 

 

「記憶を、希望に変える。わたしたちができる…黒幕への叛逆だよ」

 

 

ペンダントを閉じる。『きらきら星』の音色は消えたが、皆は落ち着きを取り戻している。

 

「そうか…」

二階堂さんは、ゆっくりと立ち上がる。

 

「…なら、アタシは今日の事件を、絶対に忘れねえ」

 

「うん。あたしも友達のこと忘れちゃったら、悲しいもんね!」

「イヴァン君や藍葉さんだけじゃない。バニラさんや紅葉さんを忘れない、それこそが道…なのかもしれないな!」

二人で手を組み合う雨崎さんと未隅くん。

 

 

二階堂さんは、こちらを向く。

「…ありがとうな。鈴原、みんな」

 

彼女の笑顔を見たのは、久しぶりな気がした。

 

 

 

こうして二回目の、二度と起きて欲しくない事件は終わった。

 

 

 

わたしには『過去の物語』の記憶はない。だが、この『ヒストリヱランドでの物語』の記憶はある。

その記憶を武器にして、絶望と戦い抜く…わたしなりの、明日も、生き抜くための生存戦略だ。

 

 

 

【幕間】

 

 

ある人物が部屋に戻る。部屋にはカラフラがベッドで飛び跳ねていた。

「『あの場所』で作られたベッドはやっぱりふかふかしているのだ。今のわーが美少女だったら寝そべってグラビア写真撮りまくりなのだ」

カラフラは飛び跳ねるのをやめ、ある人物に語りかける。

 

「さて、今回の『生還者特典』も机の上に置いておくのだ」

「…カラフラ」

「グラビア写真集の発売日は未定なのだ…って何なのだ?」

 

人物は、トーンを落とした声でカラフラに聞く。

本当は、そんなことはしたくないのではないか。

あの子から作り出された筈なら、どうしてモノクマに協力するのか。

 

「かつてのわーはそうだったのだ。でも今はあのお方の『絶望』を叶えるために、日夜働いているのだ」

 

人物は、またカラフラに聞く。

そうか。今のカラフラは、黒幕に支配されているのか。

 

「支配って…全てを失ったわーが居場所を与えられただけなのだ。そんなどうしようもない言葉を放つのはやめるのだ」

 

人物は、唖然としている。

 

「でも、生還者さんには大いに期待しているのだ。あの人の希望を叶えられるように…頑張って欲しいのだ!」

 

…人物は、何も言葉を話さなかった。

 

 

 

 

夕食を終え、ホテルの自室に戻る。

 

そういえば、紅葉さんが処刑の直前、何かをわたしのコートのポケットの中に入れたような気がする。

ポケットの中身を探る。薄くて硬い感触がする。さっと取り出すと…一枚のICカードがあった。

メルヘンな馬らしきもののイラストが描かれている。

 

馬。ICカード。もしかして…。

 

 

 

檀くんの入っていった、メリーゴーランドの中央部分。

そこに入るためのものなんだろうか。

 

 

夜時間になり、第二エリアのメリーゴーランドへと向かう。第一エリアで蒲生くんと出会うことはあったが、メリーゴーランドの回りには誰もいない。

木馬に当たらないように中央の柱に近づき、そこに付いている四角い枠にICカードをかざすと、扉が開かれた。

メリーゴーランドの内部へと、慎重に入っていく…。

 

 

部屋の壁には小型のモニターが大量に埋まっていた。電源が付いているのは1/3のモニターのみだ。

モニターに映っているのは洋館の内部、ホテルのエントランス、喫茶店、ゲームセンター…どれも見たことのある風景だ。

部屋の中央には机と…それの上にはノートと4桁のパスワードで開かれるであろう正方形の金庫が置いてある。

ノートを拾い、ペラペラと捲る。罫線が引かれているだけで何も書いていないようだ。しかし…

 

「あれ?」

真ん中くらいのページに、文字が書いてあった。

 

『お姉ちゃん、生まれてきてくれてありがとう。』

 

『私が信じる人にプレゼントします』

 

…今回の証拠となった、持ち物リストの文字と似たものだ。藍葉さんの文字だろう。

 

これは…遺書だろうか?それとも何かの暗号なんだろうか。

暗号だとしたら…

 

 

ある考えが思い浮かぶ。

電子生徒手帳を取り出し電源を入れ、『プロフィール』の項目をタップ。目的の情報が載ってあるページへと向かう。

 

 

あった。

 

 

『紅葉留架 超高校級のバスケ選手

 死亡済

 誕生日:2月17日

 好きなもの:菓子パン、寿司

 嫌いなもの:借金』

 

 

憶測だが。

『お姉ちゃん』『生まれ』と藍葉さんの文字で書いてあるということは…パスワードは紅葉さんの誕生日ってことだろう。

電卓のように数字が並べられた金庫のボタンを『0217』の順にゆっくりと押す。

金庫は、カチャリという音を立てて簡単に開いた。

 

金庫の中には、赤い液体の入った5cmほどのガラスの小瓶が一つ入っていた。

小瓶を手に取ってみる。白いラベルが貼ってあり、『思い出しドリンク』と手書きで書いてある。

ラベルを良く見ると、説明書きと原材料が四角で囲まれてある。説明書きをじっくりと読む。

 

『記憶を失った時にご利用ください。少しの出来事ですが思い出すことができます。一人一本のみ飲んで下さい。一人二本以上飲んだ時の副作用については保証致しません』

 

…材料の欄を見る。様々なハーブや薬品の他に、あのケルブレムが含まれていた。

わたしたちに恐ろしい幻覚を見せたケルブレム。それが含まれているとなると少し怖くなる。

それでも、探求心からか、義務感からか。飲んでみたいという気持ちが出てきた。

 

もしかして、藍葉さんが調合していたのは、自分と姉との遺伝子検査薬の他にも思い出しドリンクだったのな。

消えたケルブレムの二本のうち、一本を取っていったのは彼女なのか。

用心深い藍葉さんのことだ。遺伝子検査薬で鑑定し、思い出しドリンクで姉との記憶を思い出したのだろう…。

ノートの『私が信じる人』は…恐らく信頼できる人だと思う。

わたしは藍葉さんにどう思われているのかはわからないけど、彼女の遺志は継ぎたいと思っていた。

 

 

思い出しドリンクを頂戴し、メリーゴーランドの内部から去っていった。

 

 

部屋に戻る。

照明に照らされ赤く輝く思い出しドリンクをじっと見つめる。

「もしかしたら、わたしの失われた記憶も戻るのかも…」

一本しかないのが残念だし、怖いけれど。

自分の記憶を消したであろう黒幕に立ち向かうためには、記憶を取り戻すことも重要かもしれない。

それに、藍葉さんがこのドリンクを遺したのなら、仲間のために動いたであろう彼女も信じたかった。

 

小瓶の蓋を空け、思い出しドリンクを飲み干す。

独特の甘辛い味がした。

 

 

その瞬間。

 

「────────っ!」

 

 

割れるような激痛が背中の傷と頭に走り、思わず声にならない叫び声をあげる。

 

目の前の世界が、光で満ちていくような…

 

光が──

 

 

 

 

 

■■うの■■■は■■わで■い■■な■■い

ぜ■■うの■■いは■■んさ■■■かい

■■しは■■■かいに■■■らした

■■■とはぜ■■■■わ■■は■■■を■■■った

 

 

 

 

全ての人々が笑っている。

全ての人々が助けを求めている。

大切だった人々は別れを告げた。

あの幻覚のように、顔の見えない男が刃物をわたしに向けている…。

 

どれも。写真のように断片的だった。

 

 

 

 

 

 

唯一、思い出せた…

 

 

くっきりとした記憶は。

 

 

 

 

 

満天の大空の下。

 

少女が隣に座っている。

「わたし、流れ星に願うんだ。みんなの願いが叶いますようにって」

少女の声だ。どこかで聞いたことがある。いや、わたしはこの声を知っている。

「じゃあわたしは…せめて、自由になりたいって願おうかな」

空には流星群。恐らくこの地域で一番空が綺麗な場所だ。

 

 

 

 

隣の少女は、誰だろう。

 

 

 

気がついたら倒れていた体を起こす。

 

 

 

 

 

「…ち…」

 

 

 

 

 

頭痛に耐えながら、机の引き出しの中から、それを取り出す。

 

 

 

「なんで…」

 

 

 

 

思い出した。

かつて、わたしの友達だった。

写真の少女。赤褐色の髪と、黄色いワンピース。

 

 

 

 

 

 

 

叶千華。

そういう名前の少女との、星空の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンガンロンパ ・フラワーズ Chapter1

「廻リ空転スル黙祷ノ薔薇」

END

 

 

 

生き残りメンバー

残り12人

 

To be continued…

 

 

 

 

 

 

 

・「夢色のコラール」を入手しました。

2章にて模索した証。紅葉留架の遺品。

小説家・松笠楽海女の代表作であり青春小説の文庫本。紅葉の愛読書。

信心深い落ちこぼれの少年がバスケ部に入部し、成長していくシンデレラストーリー。

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