ダンガンロンパ・フラワーズ   作:むらさき@ロンフラ

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■作品についてのご注意

・この作品はスパイク・チュンソフト社の作品「ダンガンロンパ」シリーズの、オリジナルキャラクターを使った二次創作です。
モノクマ以外の登場人物は(おそらく)登場しません。
・「ダンガンロンパ」シリーズのネタバレと作者の自己解釈(ゲーム・アニメ共に)が含まれる場合があります。
・17歳以上を対象とした人を選ぶ描写、残虐描写が含まれています。
・文章、トリック、ストーリー共に素人のものです。大目に見てやってください。

以上のことをご理解できる方のみ、お読みください。
では、どうぞ。


Chapter3 「怪奇!悪夢の湯けむりナイトメアは実在していた!」11日目

11日目、閉じ込められている非常事態の中の、いつもどおりのレストラン。

今日は目玉焼きと程よく焦げ目のついたソーセージ、ほうれん草のソテー、そして野菜スープだ。

テーブル上にはソースやマヨネーズといった備え付けの調味料が置かれてある。

 

「絹川、お前目玉焼きには何もかけねえのか?」

「確かに美味しそうなんだけど、調味料をかけるのはお行儀が悪そうだし…それに食品のそのままの味が引き出されないしね」

「半熟の目玉焼きの黄身にソーセージやら野菜やらを付けて食べれば美味いんだよなー」

今日の同席は…二階堂さんと絹川くん、梅田くんだ。

「言われてみればそうだけど…塩コショウしか味付けしてないからなんか足りなくなっちゃうよね」

一方のわたしは、目玉焼きにテーブル上にあったウスターソースをかけている。

「鈴原も案外味付け派なんだなー」

「まあ、醤油でもソースでもマヨネーズでも何でも美味しいよな。目玉焼きって!」

そういう二階堂さんは…目玉焼きにお酢をかけている。ポン酢や黒酢ならまだわかるけど、普通の酢をかけるって美味しいのか…?

「マヨネーズ…試してみようかな。どういうのかすごく気になるし…」

絹川くんは机の上のマヨネーズを手に取ると、蓋を開けて中身をちょっとだけ目玉焼きにかけ始めた。

目玉焼きのマヨネーズのついた部分を箸で切り、口に入れる。

「…味が、まろやかになった気がするよ…!」

絹川くんは目を輝かせながら味わっている。なんだか、マヨネーズの道へと進んでいっているような感じが…。

 

「ほうれん草はいいぞ!あと野菜スープもきっちりと飲めば病気の心配はないからな!」

檀くんは未隅くん、雨崎さんと一緒に朝食を食べている。

というか、未隅くんが食べながら、檀くんに一方的に話しかけられている。

「目玉焼きにはやっぱり蜂蜜だよね。今日は置いてないけど…」

蜂蜜と目玉焼き。雨崎さんの組み合わせはたしかにアリっぽいよなと思ってしまった…。

 

一ノ瀬さん、湖林くん、灰寺くんのグループ。

「…ごちそうさまでしたわ」

一ノ瀬さんが空になった食器の前で手を合わせる。食べるスピードが早い。そして、立ち上がりレストランの外へと出ていく。

「なあ、一ノ瀬姉ちゃんは一体どこへ行くんや?」

「あいつのことじゃ、掃除でも行ったんじゃろう…どこをするかは知らんがな」

そういえばこの三人、一緒によく食べているような…

 

黒木さんは、恐らく図書館から持ち出してきたであろう本を読みながら朝食を食べている。

「黒木嬢、この本はどういったものなのでしょうか?」

隣りにいる蒲生くんは、黒木さんの読む本が気になるのか質問を投げかける。

「これ?冤罪で全てを失った男が怪しげな老人と共に復讐の道を歩む…そんな話よ。映画にもなったわ」

「なるほど。無実の男が罪を犯すお話…なのでしょうか」

「だいたいそんな話ね。最終的には主人公たちもヴィランも破滅するバッドエンドだけど、どこかカタルシスがあるのよね。蒲生も読む?」

「バッドエンド…救いのない結末なら、遠慮させていただきます」

…どうやら小説談義をしているらしいが、バッドエンドについて語る黒木さんの表情はなぜか生き生きとしている…。

 

 

 

そうしているうちに時間は過ぎ、朝食が終わる。

「鈴原!あのさ、ちょっと付き合ってくれねえか?」

レストランから出ようとしたその時、二階堂さんがやってきた。

「昨日温泉旅館が開放されたんだしさ、折角だし女子全員で温泉行かねえか?昨日温泉見に行ったら結構キレイに掃除してあったんだよな!」

温泉…モノモノマシーンから出てきた黄色い桶のことが頭に浮かび上がる。

「女湯に入るならいいよ。ちょうどいい感じの桶、持ってるし」

「ちょうどいい感じの…マイ桶?鈴原、まさかの温泉マニアだったのか!?まあ露天風呂から星空眺めるのって良さげだもんな!」

わたしは温泉に入った記憶がないが、露天風呂での天体観測はなんだか面白そうだ。

「じゃあ今日の夕方五時集合な!女子全員で裸の付き合いしようぜ!」

二階堂さんは笑顔でレストランから去っていった。

夕方の五時か。今日は、何事もないといいんだけど…。

 

 

 

 

ホテルのエントランスへと辿り着く。

「…鈴原、少し時間を貰うぞ?」

部屋に戻ろうかなと思った瞬間…誰かの声が聞こえた。湖林くんだ。

「…何かあったのか?それともゴミが付いてたとか?」

「ゴミは付いとらんが…今日の正午、第三エリアの旅館一階の大広間に来い。一ノ瀬が『おもてなし会』を開くのじゃ。会席料理を振る舞うらしい。来れるか?来れるならアレルギーも教えろ」

少しだけ圧を感じる。一ノ瀬さん、あれほどあの旅館を酷評しといて結局は使うんだな…

でも、『超高校級の女将』である一ノ瀬さんのおもてなし…ちょっと気になるな。

「じゃあ、行こうかな。アレルギーはないよ。時間がちょっと気になるけど…」

「12時30分迄には来い。オレと一ノ瀬が芸を披露する。『おもてなし会』の終了時間は二時頃じゃ。では、旅館で待っておる」

湖林くんはホテル外へ向かっていった。

 

『おもてなし会』。そこでの記憶も、いい思い出になるといいんだけど…。

 

今は午前の9時。12時半まで、少し時間がある。暇だから、誰かと過ごそうかな…?

 

 

 

 

【自由行動】

モノクマが『驚異の部屋』と呼んでいた博物館。

それぞれの部屋を物色していたのは、黒木さんだった。

「鈴原さん?何かインスピレーションを与えそうなものでも持ってるかしら?」

邪魔して悪いっぽいけど…黒木さんと過ごそうかな?

 

黒木さんと博物館を見て回った。黒木さんと仲良くなったようだ…。

 

電気いらずでアニメーションを見られるアイテム…『ゾートロープ』をプレゼントすることにした。

「これは…いいアイデアが浮かびそうだわ!ありがとう、鈴原さん!」

良かった、結構嬉しいらしい。

 

「ねえ今度、私の部屋で…映画を見ない?」

黒木さんと会話の途中、いきなり映画鑑賞に誘われた。

「映画?どうやって見るんだ?」

「お土産屋を漁っていたら、映画のディスクを何本か見つけたのよ。これがその一本よ」

彼女はどこからかディスクのパッケージを取り出し、わたしに渡す。

裏面にはあらすじが書いてある。家族愛について描かれたファミリー向けの映画だ。見たことはないけど…。

「家族の話、か…わたしは喧嘩ばかりだから、こういう仲よさげな家族は少し羨ましいと思っちゃうな」

「私もね。うちにはお父さんが三人もいるし、お母さんはいつも違う男を連れてくるような人だったの…」

え?…お母さんが違う男を連れてくるのも恐ろしいけど、お父さんが三人?

黒木さんは、なぜか元気そうな笑顔で話している。

「幼い頃、ワンルームのアパートに住んでてね、お母さんはいつも私を蹴り飛ばしてたのよ。

お父さんもそれぞれいたわ。一人目のお父さんは幼稚園の頃は稀に会いに来ていたけど、お母さんを残して音信不通になって、

二人目は…小学生の時お腹に火の付いたマッチを押し付けたり、お母さんと一緒に私をお風呂に沈めたりして。

三人目は、夜になったら私に『パパ様』って呼ばせて…」

「こ、これ以上は大丈夫だって…!」

あまりにも辛すぎる人生だ、なんでこういう酷い目に遭わなきゃならないんだ!

「あら、ごめんなさいね。でも、お母さんには感謝しているわ。だって、私に映画という選択肢をくれたんですもの」

…もしかして、お母さんがくれた選択肢って…

「…お母さんから、お小遣いを貰って…それで映画を見に行ったとか?」

「そうね。お母さんから月にちょっとだけお小遣いを貰ってたの。」

黒木さんは、思い出すような感じの笑顔を向ける。

「私の人生で初めての映画は、近所の小さな映画館で見た古いアニメ映画だったわ。

昼ごはんのパンを買いに行く途中、元気なキャラクターのポスターに一目惚れして見たくなったの。

パンが買えなくてもいいから見てみたい、と思ってね。

作品のタイトルは失念してしまったけど…主人公のお姫様が出会った青年と共に冒険し、恋をし、魔女を倒し、ハッピーエンドを迎える。そんなストーリーだったわ。

お姫様が逆境に立ち向かうファンタジー。滑らかなアニメーション。壮大なマジックのような演出…。

見終わった後、映画はいいものだと思ったわ。だって、フィクションの世界は…あんなに輝いているんですもの。

たった二時間での出来事なのに、永遠に続く美しい夢を見るような気分だったわ…」

 

…もしかしたら、彼女があの時みた映画が、黒木さんの数少ない救いだったのかな。黒木さんにとって映画は、灰色の人生に差し込んだ光だったんだね…。

「映画を見た後は幸せだったわ。その後はお金が余ったから駄菓子を買おうと思ったら上級生にカツアゲされて、家に帰ったらお母さんに帰るのが遅いと怒られて、そして…」

「だからこれ以上は語らなくても大丈夫だって…」

「ごめんなさい。けれど、折角いいものを見れたからその時は死んでもいいと思ったし、今でもあそこで死んでも良かったかなと思ってるわ。

…中学の時にお母さんと二人目のお父さんが捕まって、施設に送られたからこそ、今の私があるのかもしれないけどね」

「…いまでも、自分が死んでいいと思ってるの?」

「思ってるわよ。ただし、素晴らしいエンタメを見れた後ならね」

 

いいエンターテイメントを見れたのなら、死んでもいい…

黒木さんはそう思っていたけれど、わたしはどれだけ感動したとしても死にたくはないし、誰にも死んでほしくない。

当然、目の前にいる黒木さんにもだ。

 

悲惨な過去を持つ黒木さんに同情できても、彼女の考えは、あまり理解できなかった…。

 

『何もいいことがない灰色の幼少期。母親からの数少ない小遣いで見た映画の魅力にとりつかれる。それは、いいものを見れたのだから死んでもいいと思うほどに…。』

 

時間が来たので、黒木さんと別れることにした。

そろそろ12時だ。早めに旅館へ向かうことにしよう。

 

 

 

 

第三エリア、相変わらず浮いている和風のお城のような旅館。

エントランスでは、一ノ瀬さんがお淑やかな笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。す、鈴原…様。一階大広間へと案内いたしますわ」

深くお辞儀をする一ノ瀬さん。何かわたしの名前を無理に言ったような気がするが、気にせずついていこう。

 

 

 

 

「どうぞ、お入りになられてください」

大広間の前へと案内される。一ノ瀬さんは再びエントランスへと戻っていく。

ふすまを開け、靴を脱ぎ、広い畳の部屋へと入っていった先には…和室用の大きなテーブルに豪勢な会席料理が並べられている光景だった。

 

サーモンからマグロまで、全てが宝石のように輝く刺し身。

エビや大葉などの貴重な食材を包むかのように、しっかりと衣のついた天ぷら。

調味料が細部まで染み込んでいる、上品に飾り付けられた魚の煮付け…。

他にもあるが、これが12人分も並べられているのである。まさに極上と言える和食のフルコースだ。尤も、飲み物は缶ジュースだけど。

 

「ひ、一人で…全部用意したのか…?」

「鈴原、来たか。その通りじゃ。一ノ瀬が全て用意したんじゃよ」

「これ、全部食べていいんか…?」

「食べていいわけなかろう、一人分だけじゃ、食っていいのは」

今の所席についているのは、誘ってきた湖林くんと、料理を前に恍惚の表情を受かべる灰寺くん。

笑談する未隅くんと雨崎さん。まぜか漫画本を読んでいる檀くんだ。

テーブルには料理の他にもそれぞれ名前が書かれたカードスタンドが置いてある。

とりあえず、『鈴原』のカードの席に座ろう。

 

それからすぐに、絹川くんと二階堂さん。時間を少し置いて黒木さんと梅田くん、最後に一ノ瀬さんに連れられて蒲生くんもやってきた。

わたしの前の席には絹川くん、右には雨崎さん、左には二階堂さんが座っている。

「…マヨネーズ、持ってきてもよかったかな…?」

「いや、こういう場では持っていかなくていいよ…」

絹川くんはどうやら、マヨネーズの味が忘れられないらしい。

 

「皆が集まったようですわね。では、『おもてなし会』を開催致しますわ」

座っていた一ノ瀬さんが立ち上がり、ステージにたおやかな足取りで登っていく。

ステージの真ん中でゆっくりと一礼した後、スタンドに付いていたマイクを持つ。

「何か歌でも歌うのかしら?」

黒木さんがきょとんとしている。彼女がこうするのは珍しい…のかな?

 

「塞翁ヶ馬学園の生徒の皆様、本日は私の主催致しました『おもてなし会』にお集まりいただき、誠にありがとうございます。

この窮屈な遊園地に閉じ込められて、やや11日目が経ちました。

そんな中で、私がこの『おもてなし会』を開いたのは、この現状の中でもせめてこれ以上は殺し合うことのないよう…皆様に親睦を深めて欲しいという願いからございます」

一ノ瀬さんは楽しそうでも、冷やかすわけでもなく真剣な真顔だ。あれほどコロシアイに怯えていた一ノ瀬さんがだ。

「本日はどうぞ、一ノ瀬旅館の和食コースを再現した会席料理をお楽しみながら、様々なお話を語り合えればと思っております。

それでは、乾杯の音頭を取らせていただきます。皆様は缶ジュースをお取りになられますよう、お願いします。」

わたしは慌てて、席に置かれたわたしの分のコーラの缶を持つ。

こういう集まりはよくわからないないんだよな。こういう時は、乾杯した後すぐにジュースを飲めばいいのかな…?

 

「…死んでいった皆様への追悼と、今ここいいる皆様のこれからの生存をお祈りして…乾杯!」

 

「…乾杯!」

恐怖への逃避からか、生への執着からか。缶をぶつけ合う音が響き合う。

そのあとわたしは、持っていたコーラ缶のプルトップを開けてゆっくりと飲む。冷たくも甘い炭酸の味が口内に広がる。

「今日は一ノ瀬の無礼講じゃ。毒は微塵も入っとらんから安心して食え!」

湖林くんがジュース缶を開け、豪勢に笑う。いかにもそれらしい仕草だ。

 

皆が食べ始めたので、わたしも食べてみよう。

まずは先付け…薬味を乗せられ、小さな深い白色の小鉢の中に入れられている、薄茶色のごま豆腐からだ。

器を片手で持ち、ごま豆腐を箸で挟み、一口大に切る。

切られたごま豆腐を箸で、ゆっくりと口に運ぶ…

「…っ!?」

口内で…爽やかなごまの風味と、昆布だしの味付けが掛け合っていて。

それらとねっとりとしつつ滑らかな触感が、矛盾することなくハーモニーを奏でていて…。

要するに…美味しい!こんな美味しいごま豆腐、食べたことない!

 

「何から何まですっげえ味やな!じわーってなってチュルってなってる!」

「このプリンなんてクリーミーで甘くて、あたしが特別な存在だと思えちゃうよー!」

灰寺くんががつがつと食べていて、雨崎さんも真っ先にスイーツに手を出していて。

「マグロの刺身、醤油だけでも結構いいじゃん!あと煮魚も醤油の味がしっかりとついてて…」

「たしかに魚はうめえけどさ、酢の物も食べたほうがいいんじゃねえの…?」

海の幸を味わう檀くんに、二階堂さんが酢の物を食べながら突っ込んで。

「この天ぷらはサクサクとした衣が野菜の味をよりよいものに仕上げていますし、何より油っぽさがないのが良いですね…」

蒲生くんは、天ぷらに舌鼓を打って。

「おかわりはちゃんと用意していますわ。どうぞゆっくりお食べになられてくださいね」

一ノ瀬さんも、マナー良く料理を吟味していて。

 

あちこちで、一ノ瀬さんの会席料理は称賛を受けていた。

 

それにしても、どの料理も本当にいい味だ。

煮物からおひたしまで、全てに料理へのこだわりがあって、美味しくしたいという信念が伝わってきて…。

これも、『超高校級の女将』のなせる技なんだろうな!

 

「本当にいい味だけど…一ノ瀬さんは、どうしていきなり『おもてなし会』なんてやろうと思ったんだ?」

「す、鈴原の分際で質問だなんて!お酌しなくていい分ありがたく思いなさい!」

「…いいから答えろ、一ノ瀬」

「うぅ…仕方ないので答えてあげますわ」

湖林くんに一ノ瀬さんが恐縮する。

「私が『おもてなし会』を開こうと思ったのは…『次回からは一日三食、カラフラの代わりに料理を作る』という決意表明ですの」

「それって、一日三食…じゃないよね?」

「ボクも手伝っていいかな?」

一日三食、12人分の料理を一人で作るというのが大変そうだったのか、雨崎さんも絹川くんも驚いている。

「大丈夫ですわ。私、料理を作るのには慣れていますし、スピードには定評ありますし、食材は用意されてますし…カラフラの許可もちゃんと得ていますの。

それに大切に作った料理で女含めた他人を殺そうだなんて思っていませんわ。この会席料理の食材には低アレルゲンのものを使ってますの。どうか、信じてくださってね」

ニコニコとながら一ノ瀬さんは語る。

「…最初は殿方様だけで『おもてなし会』を開きたかったのですが、昨日湖林様を誘ったら『お得意のおもてなしをするなら男だけでなく全ての生徒にしろ』と言われましたの…」

彼女の根本は変わってない。けど、いかにも忙しくなりそうな決断を一ノ瀬さんが自分の意志で決めたことなのかな…

「一ノ瀬姉ちゃん!なんかお肉のおかわりあらへんか?」

灰寺くんが一ノ瀬さんに空になったお皿を差し出す。

「ごめんなさいね。お肉のストックはもうありませんの…でも肉の代わりのソイミートのハンバーグなら今から作れますわ」

「この旅館、ソイミートまで用意してあるんだなー…」

「代わりでも肉ってのなら美味しそうやな!僕、楽しみにしておるで!」

一ノ瀬さんは、ソイミートを作りに大広間の外へと去っていく。

 

それからは灰寺くんがハンバーグを一口でたいらげたり、黒木さんが刺し身に大量の醤油をかけてみんなを驚かせてたり。

楽しい食事の時間は、だんだんと過ぎていって…。

 

 

 

…皆の食事が終わった後。マイクを持った一ノ瀬さんと、和服に着替えた湖林くんがステージに立つ。

「そういえば、何か芸を始めるって言ってたね…」

「一体何が始まるんだろうな?」

ざわめきの中、ステージ上の二人がお辞儀をすると、一ノ瀬さんがマイクを握る。

 

「…これより皆様にお見せしますは、織田信長が愛した舞の一つ『敦盛』でございます。

『敦盛』は信長が名を上げたとされる桶狭間の戦いの前夜、彼が一節を舞ったことでも知られております。

『人間五十年下天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり』のフレーズで知られるこの舞を、ぜひお楽しみください…」

 

一ノ瀬さんは後ろに下がり、ステージの後ろに置いてあった鼓を持つ。

一方の湖林くんは和服の袖と片手に扇子を持ち、両手を広げ、『敦盛』を謡い始める。

 

静かな大広間に、湖林くんの謡と、一ノ瀬さんの叩く鼓が響き渡る。

『人間五十年下天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり』

湖林くんは、扇子を広げ足踏みを始める。

わたしは『敦盛』の内容は知っているのだが、意味までは知らないような人間だ。それでも、舞から戦の世の悲哀は伝わってくる。

日本の伝統芸能らしくシンプルで、何よりも力強さを感じられる舞。

皆が、釘付けになっていた。

 

 

 

 

舞が終わり、ステージ上の二人が礼をすると。その場にいる皆が拍手をする。

「皆様、湖林様と私の芸を見てくださって…ありがとうございましたわ」

「かつてのオレが舞ったとされる『敦盛』…どうじゃったか?」

「うん、飾らない美しさ…と言ったほうがいいのかな?『敦盛』のことを知っていたら、素直に凄いなって思えてくるよ」

「これをあの信長公が踊ったと思うと…なんというか、芸も得意だったんやな…僕、信長公のこと今川焼きの発明者ってことしか知らんけど」

「いや、今川焼きは発明しておらん。あと桶狭間の戦いで敗れ討ち取られたのは今川義元じゃ」

「ち、違ったんか!?」

灰寺くんのトンデモ知識に、湖林くんが突っ込む。

「貴様はもっと歴史を学ばんかい。義元は暗君と言われることも多いが…あやつは『海道一の弓取り』と言われるほどの男じゃ。決して無能ではない。ただ、相手が悪かっただけなのじゃよ」

無能ではなく、相手が悪かった。

自分に負けた相手を、そう言えるのはある種の自信から来るものなのかな…

 

こうしてるうちに、一ノ瀬さんたちの旅館での『おもてなし会』が終わった。

 

 

 

 

今は午後の三時だ。

集合の五時半まで時間がかかるので…とりあえず、散歩に行こうかな。

 

 

【自由行動2】

光が様々な書籍に差し込む図書館。

湖林くんは、なぜか本を漁っていた。背表紙を見るに歴史や料理の本ばかりを集めているようだ。

「ここには良い資料が置いとらんのう。鈴原、貴様も探すか?」

料理の資料は一ノ瀬さんのために集めているのかな。一緒に探そうかな?

 

湖林くんと資料探しをした。

湖林くんと多少は仲良くなったかな…?

 

博物館に日本刀が置いていなかったことを思い出し、『津田遠江長光・レプリカ』をプレゼントした。

「これは…歴史に名を残す伝説の逸品!なんということじゃ!いつかお礼をしてやるとしよう!」

結構嬉しいみたいだ。良かった!

 

「おい鈴原。貴様…歴史に関心や興味はあるか?」

湖林くんが、突然質問してきた。こっちも答えてみるとしよう。

「…一応、星座の歴史については知ってるよ。確か…学者のプトレマイオスが48星座を決めて、でも星座が増えすぎて、国際天文学連合が88星座を定めて…」

「じゃあ…アンティノウス座と呼ばれる星座が、誰をモデルにしているかは知ってるかのう?」

「…アンティノウス座って確か、今は失われていて88星座には含まれない星座だったよね…たしか…ローマ皇帝のハドリアヌスが寵愛していた美少年の名前だっけ?」

「その通りじゃ!アンティノウスは謎が多い輩でのう。川に落ちて若いうちに死んでしまうが、ハドリアヌスのおかげで星座が作られたのじゃ。

死後は星座になっただけでなく、ハドリアヌスによって神格化され、ローマ中に石像が立ち信仰対象にされた…死後のエピソードのが濃い男なんじゃよ」

湖林くんは腕を組みながら、アンティノウスについて語っていく。

「ローマ皇帝も美少年にこれほど入れ込むなんて、案外愛とやらが深いんだな…」

「ローマ皇帝で愛が深いのは彼だけではない。ヘリオガバルスなんかは同性愛や女装を好んでいた。

そして名高いネロは音楽や芸術を楽しみ、古代のオリンピックに音楽競技を無理やりねじ込み自らも参加したのじゃ。尤も、どちらも暴君として知られているがな」

そこまでは知らなかったなぁ。わたしの前の学校の歴史の授業、あんまり覚えてないけど。

歴史について語る湖林くんはとても生き生きしている…。

「ところで鈴原、貴様は何を愛している?」

「い、いきなり!?何でそんな質問を!?」

「…いつの時代もリーダーというものは愛がある。それが歪んだ形であれ、美しい形であれ、冷徹で何も愛さないリーダーなど存在せんのじゃよ。

愛といっても人間同士の恋愛だけではない。友愛、親愛、自己愛、大切なものや人…様々な愛の形がある。

オレもかつては幸若舞や茶の湯を愛した。帰蝶と蘭丸という人間を愛した。もう一度聞こう。貴様が愛するものは何なのか?」

「今のところ愛してるのは…天文学とロックだなあ…」

趣味のことについてだけど、これでいいのかな…

「なるほど、鈴原は星とロックを愛しているんじゃな。愛があるというのはいいことじゃ。

オレは迷信の類は信じんが、ある日流れた彗星がオレに死をもたらしたというエピソードは有名じゃな」

「彗星が、信長に死を…?ハレー彗星の迷信みたいな…?」

「違うのう。そういう言い伝えが残っているだけじゃよ…」

 

その後、信長と死の彗星のエピソードについて長い時間聞かされた…。

 

『意外なことに星座や西洋の歴史にも詳しい湖林。愛のないリーダーなど存在しないと語る。』

 

 

 

 

約束の五時になったので、旅館へとやってきた。

 

「よし!鈴原に雨崎に黒木に…アタシが呼んだ奴は集まってきたみてえだな!」

二階堂さんは着替えの入っているであろう袋をぶんぶんと回している。

どうやら一ノ瀬さん以外の全ての女子が集まっているようだ。

「そういえばさっきミーくんが男子全員でお風呂に入るって言ってたよね。間違って混浴風呂に入らないようにしないと…」

「大丈夫よ。混浴風呂、あまり広くなかったし。男子が変態ばかりでも7人も入ったらぎゅうぎゅう詰めになって男湯に戻るんじゃないの?」

心配する雨崎さんの隣で、黒木さんはなぜか温かい紅茶のペットボトルを持っている。

「じゃあお前ら!電子生徒手帳とタオル、着替えは持ったか!?」

丸太を持って戦いに挑む勇士たちのごとく、女たちは女子脱衣所へと入っていく…。

 

 

 

 

女湯はかなりの広さだった。大風呂はもちろん、打たれ湯にジャグジー風呂、炭酸泉に…なぜか一ノ瀬さんが入っている、赤い色のワイン風呂まである。

「ぎゃあああああっ!触らないでぇ!わ、私に蕁麻疹が出ますわよ!?」

わたしたちを見るなり叫ぶ一ノ瀬さん。

「やっぱりこの旅館、結構気に入ったんじゃないのか?」

「鈴原…私は気に入ってなんてないですわ!ただの偵察!こんなオンボロ旅館どうでもいいですわ!」

もしかして、一ノ瀬さんはこの旅館をどうにかしたいと思ってるのかな。

「それにしてもここの温泉、女湯にサウナがないのよね。男子たち、サウナで我慢大会して死んだら大事件よね…」

黒木さんはサウナに入りたかったのか、少しがっかりした様子だ。

 

 

「これ、ローズの香りのマルセイユ石鹸じゃん!結構いいもの置いてあるね!ここの温泉、またリピしちゃおうかなー?」

まず身体を洗う私の隣で、全身を洗う雨崎さん。

「ねえ、鈴原ちゃんの使ってる石鹸はどんなの?色が違うけどさ…」

「リンゴの香りがするけど…やっぱりリンゴなのかな?」

「カモミールだってリンゴの香りなんだよね。あたしはどっちの香りかわからないけど…」

雨崎さんは右手で髪を、左手で身体を洗うという器用なことをやってのけている。

 

身体を洗い終わり、借りたタオルを黄色い桶に入れてから縁に置き、大風呂に浸かる。

「アタシ、温泉貸し切った際にはこうしたかったんだよな!父ちゃんが入れ墨入れてたせいで温泉行けなかったし!」

…二階堂さんがバタ足で泳いでいた。浅い温泉なのに、上手にクロールしている。安全にできるといいんだけど。

「炭酸泉って一回入ってみたかったんだよね!身体がいい感じに引き締まるー!」

隣りにある炭酸泉には、雨崎さんがストレッチしている。健康に良さそうだ…。

「ホラー映画じゃバスルームで女性が殺されることが多いけど、温泉ではまず人が死ぬイメージがないわよねぇ…」

黒木さんは、身体にバスタオルを巻いて優雅にジェットバスに浸かっている。

縁に温かい紅茶のペットボトルを飲みながらだ。飲んでてのぼせないんだろうか。

 

ふと、一ノ瀬さんがずっとワイン風呂に浸かっているのに気付く。

「………様の………なんて………いん…すの…?」

というより、壁の方面を向いて、何か呪文のようにぶつぶつと呟いている。

一ノ瀬さんは立ち上がり、ニヤニヤとした表情でワイン風呂から出ていく。

…一体、何を見てニヤニヤしていたんだろうか。

 

…まさか?

 

…うん、そのまさか。

 

 

いけないことだとわかっていても、好奇心は抑えられない。

だってここは『知的好奇心とやすらぎの第三エリア』なんだ。

そう、わたしにはロマンがある…!

 

バレないことを願いつつ、お守り代わりの黄色い桶を持ってワイン風呂へ入る。

ワイン風呂の壁に近づくと…小さな穴があった。

音を立てないように、ゆっくりと覗きこむ…

 

 

 

「あははー!打たれ湯ってやっぱ面白いなぁ!絹川はどこ打つんや?間違っても股間は打たんようにな!」

「これ、疲れた人が肩をマッサージするためのじゃないかな…?」

「別にいいんや!これでシャンプーとか流せたらきっと楽しいやろうなぁ!」

「お湯が、泡だらけになっちゃうけどいいの…?」

打たれ湯で頭をマッサージする灰寺くんと、普通に肩を打たせる絹川くんが見えた。

「露天風呂さえあれば、もっと天と繋がれたのですが…」

炭酸泉には…マナーがいいのか、髪をバスタオルでまとめて湯に浸かる蒲生くんもいる。

「ははははは!こうやって裸の付き合いってのもいいよね!僕はサウナに行ってくるよ!」大きく筋肉の付いた裸体の、サウナへと向かう未隅くん。

「未隅!後でサウナで我慢大会でもせんかのう!」シャワーで長い髪を洗う、別人のような湖林くん。

 

一方、大風呂では。

「北欧のサウナってさー、やっぱ男女混浴だったりするのかー?」

本が読めなくて暇なのか、入浴でハイテンションになっているのか、隣りにいた檀くんに語りかける梅田くんがいた。

「…いや、男女別のが多いし、混浴でも水着を着るから…」

「え!?混浴入ったことあるのかー?やっぱ美人多いのかー?」

「入ろうとしたら親父といっちゃんに…いやなんでもない。じゃ、ちょっと上がるね」

檀くんは、少し困惑した様子で上がっていく。

その瞬間、梅田くんは硬直した。

 

「ま…檀…?」

梅田くんは、ただじっと下を見ている。

「…あれが…提督の…ド級戦艦レベル…?あんなの…入るのかー…?」

…檀くんの大切な部分を見てしまったのかな…。

 

 

 

 

こうして、わたしたちの温泉での入浴タイムは終わった。

…脱衣所から出ていった後、男子たちと鉢合わせしてちょっと気まずくなったけど。

 

夕食はやはり一ノ瀬さんの作ったシチューだった。肉と野菜の塊がごろごろしているが、どちらの食材にも程よく味のついたルーが絡んで美味しい。

食べている間、ずっとこのまま平和な時間がすぎればいいのになと思った。

 

 

 

 

しかし。平和は続かない。

翌日わたしたちは、更なる『絶望』を目撃することになる。




ロマンの含まれた平和回です。自由行動が重いけど…
しかし食事のシーンは案外難しい。映像を文章にするのって案外大変だよね。
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