ダンガンロンパ・フラワーズ   作:むらさき@ロンフラ

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■作品についてのご注意

・この作品はスパイク・チュンソフト社の作品「ダンガンロンパ」シリーズの、オリジナルキャラクターを使った二次創作です。
モノクマ以外の登場人物は(おそらく)登場しません。
・「ダンガンロンパ」シリーズのネタバレと作者の自己解釈(ゲーム・アニメ共に)が含まれる場合があります。
・17歳以上を対象とした人を選ぶ描写、残虐描写が含まれています。
・文章、トリック、ストーリー共に素人のものです。大目に見てやってください。

以上のことをご理解できる方のみ、お読みください。
では、どうぞ。


Chapter3 「怪奇!悪夢の湯けむりナイトメアは実在していた!」12日目(合法コンパ編)

…ログハウスのドアには、緑色の無地に『D』と書いてある貼り紙が貼ってあった。

「えーと…このログハウスに一晩泊まって、明日の正午まで過ごすだけでいいんだなー?」

梅田くんは戸惑いを隠せない様子で、ログハウスの周辺を見回している。

「モノクマとカラフラの用意した動機だからね…。ログハウスの中に何かあってもおかしくないよ」

「本当に何もなければいいんですけどね。では、入っていきましょう」

 

蒲生くんは鍵を開けると、掴んだドアノブをゆっくりと回し、中へと入っていく。

わたしと梅田くんも、続けてログハウス内へとお邪魔した。

 

 

 

 

ログハウスの中には掘り炬燵テーブルが中央にある、一つ窓の付いた大きな明るいリビングと、それぞれ『キッチンルーム』『シャワールーム』『トイレ』とプレートに書かれた三つのドアがあった。

「至って普通のログハウスといった感じですね」

ただ異質なのは…リビングの左の窓際には教会の懺悔室にあるようなテーブルと椅子が二つ。

右の壁には、童話から図鑑、純文学やノンフィクションまで沢山の本が並べられた本棚。

そして掘り炬燵テーブルには…小型プラネタリウムと、三つずつメモ帳とペンが置いてある。

「才能に関係するものが、置いてあるのかな…にしても、このメモ帳は…」

「ここ、トイレとシャワールームが一緒じゃないし、エアコンまで常備してある!いい部屋なんだなー!」

感激する梅田くんを無視して、テーブル上のメモ帳を手に取る。

モノクマのイラストの印刷してあるメモ帳の表紙には、小学生がボールペンで一生懸命書いたような文字。

 

『自分のひみつを、正午までにここにかいてね』

『Dグループの人には出前があるよ』

 

…出前があるってことは、食料には困らないとして。

自分の秘密を、このメモ帳に書かなければならないのか?

そう考えているうちに、キッチンルームを探っていた蒲生くんがドアから出てきた。

「極めて普通のキッチンでしたが、冷蔵庫…あれの中にはジュースなどの飲料しか入っていませんでした」

「食料なら出前が用意してあるみたいだし、大丈夫じゃないかな」

「そうなのかー。まあ人間は水分がないと生きていけないからなー。何もないよりはマシだなー」

 

それよりもメモ帳だ。正午までに書かなければおそらく処刑が待っているんだろうけど。

ログハウスに泊まるのはただのブラフで、これが真の動機なんだろうか…?

 

 

 

 

【Aグループのログハウスにて】

右側にはボルタリング用なのか沢山の突起の付いた壁と、その近くには大量の服や帽子のかかったポールハンガー。そして掘り炬燵のテーブルの上にはメモ帳とペンが三つずつ、そしていくつかのあたしの知らない軍艦のプラモデルと工具一式。

…あたしたちの才能に関係あるであろうものが置かれた、珍妙なログハウス。

灰寺くんがどれだけ力を入れても入り口のドアは開かず、檀くんは早速プラモの包装を破り始めている。

「一体、どうすればいいんだろう…」

明日の正午までここにいろと言われても、やったこともないボルタリングとプラモの組み立てでは流石に退屈しそうだ。

ポールハンガーに近づき、かけてある服を一着頂戴する。たまに雑誌に載ってる、レトロ特集にあるような雰囲気のワンピースだ。

折角だし、これでなんかやってみようかな。男子二人が喜ぶかはわかんないけど。

 

「ねえ、檀くん。灰寺くん。今からファッションショー、やっていいかな?」

「…りりりん?どうかしたの?」

「ショーはわかるけど、ファッションショーって?」灰寺くんが質問してくる。

「わかりやすく言うと、モデルさんが色んな服を着てお客様を楽しませるショーのことなんだ。本当はステージ上で音楽を流しながらやるんだけど。ここには音楽を流す機械がないっぽいから無音のファッションショーになるけど…いいかな?」

「…プラモ、組み立てながら見てもいい?」檀くんがやる気なさげな声で言う。

「別にいいけどさ…ちゃんと拍手はしてよね」

「拍手はショーの基本やし、ちゃんとやらんとな。楽しみやな!」灰寺くんはファッションショーというものが初めてなのか、ワクワクしているようだ。

雑誌がメインのモデルだからファッションショーに出た経験はあまりないけど…やる気が出てきたなぁ。カメラもあったら、後で写真をミーくんに見せたのにな。

 

「じゃあ、しばらく待ってて。これより雨崎梨々のファッションショーを行いまーす♪」

あたしは服と帽子をいくつかポールハンガーから取り、シャワールームへと向かった。

いつも着ている服を脱ぎ、向日葵の柄が特徴的な半袖のシャツワンピースに着替えていく。ヘアゴムとリボンを外し、一つ三つ編みを作って再びゴムで留める。それにしても、ワンピースのサイズがぴったりだ。

メイクができないのは残念だけど、お肌のコンディションは最高だから大丈夫!

 

 

…お色直しが終わったので、ドアを大きく開け、シャワールームから出ていく。

ショーモデルのように背を伸ばして、手を振りながらリビングを歩いていく。

「あ、雨崎姉ちゃん、三つ編みになっとる!?いつもとは違うし…すげーなぁ!」

灰寺くんが驚きの声を上げながら拍手する。あたしはいつもツーテールだから、こう言う姿を見るのは初めてだろうな。

檀くんもプラモを組み立てつつではあるが、一応は手を叩いている。

「どう?癖毛の人は三つ編みも様になるんだよー」

スカートがふわっとなるように一回ターンして、二人に笑いかける。ランウェイも派手な音楽もないけど、あたし自身が輝いているように見える。

 

しばらくして、またシャワールームに戻る。

次の服…紺色で無地の、どちらも大きな白いリボンの付いた帽子とワンピースに着替えた。

ヘアスタイルはフェミニンさが可愛いと評判のルーズシニヨンだ。

ドアを再び開き、早速ポーズを決める。

「すごく可愛い…って言えばいいんかな、これ!」

灰寺くんはもちろん、檀くんももはやプラモそっちのけで見惚れている様子だ。

 

他にも様々な服に着替えた。置いてあるの、なぜか全部ワンピースだったけど。

エレベーターガール風、フリルの沢山付いたロリータのようなもの、薔薇の花柄のワンピ…。

ポールハンガーにある全ての服をコンプリートした時点で、あたしのファッションショーは終わった。

 

 

「ファッションショー、あんなに小さいのに形になってる所は凄かったね」

「檀くん、流石に小さい言われると傷つくなあ…」

「えーと、れんそーほー?ってパーツ?どこにあるんかな?」

ショーが終わった今、あたしたちはプラモデルを三人で手分けして組み立てている。

檀くん曰く敵の艦隊に囲まれて沈んでしまった戦艦…の2m越えのプラモだ。

軍艦にもプラモにも詳しくないあたしと灰寺くんとは違い、檀くんはテキパキと手を動かしている。

 

組み立てている途中、檀くんがあたしたちに話しかけてきた。

「あのさ…メモ帳の話なんだけど」

「…どうしたの?」

「表紙に『秘密を書け』なんてあるけど、一体誰が書くんだ?自分の秘密なんて…」

…自分の秘密。どうしても言えない、人に軽蔑されるような秘密ならあるんだけどな。

でも、明日の正午までに書かなきゃいけないよね…。忘れないうちに、今書いた方がいいかな…?

「ねえ、ちょっと休憩して…先に秘密書いてていいかな」

「いいけど、俺とランきゅんのは絶対見るなよ」

「わかったよ。でも…あたしのも何があっても絶対見ないでね」

「了解や。ところで檀兄ちゃん、このパーツは…」

 

二人がプラモ遊びに取り組んでいる所で、ペンとメモ帳を持ってキッチンへと駆け込む。

少し非常識かもしれないけど、テーブル代わりの調理台のあるここならあたしの秘密を書ける。

メモ帳を開き、文字を素早く書き込んでいく。

 

『雨崎梨々は生まれつき、味方のいない人やものの味方になる性質である』

 

 

書いている途中で、思い出す。

 

5歳くらいの頃だった。

あるテレビ番組にある悪役がいた。彼は主人公たちからはもちろん、部下からは慕われるどころか下に見られ、ボスからは役に立たないと判断されているような嫌われ者だった。

幼稚園の男子からも「あいつ嫌い」と言われてたような気がする。

やがて主人公たちに追い詰められた時は、ボスに「お前は用済みだ」と言われて無残にも殺されてしまった。

でも、彼の最期を見ていると、何故か悲しくなり、涙を流してしまった。

悪の限りを尽くしてきたやつなのに、どうしてだろう。

 

あたしは彼が死んだ回の次の日、庭に咲いていた綺麗なお花を摘んでテレビの前に供えた。

パパに何をしたんだと聞かれた時は「あの番組のあの人が、可哀想だったから」と返した。

「でも、あいつはテレビの中とはいえ悪いことをしたんだ。可哀想と思うなんて、ちょっと不思議だな」

…それが、パパの返事だった。

 

 

小学生になって、友達も沢山できた。

でもクラスには、同級生一同から嫌われて、文房具を壊されたり、すれ違いざまに殴られる女の子がいた。

ある日彼女が一人で泣きながら下校しているのを見て、彼女と一緒に帰ることにした。

自分でもどうしてかはわからない。また可哀想、と思ったのかもしれない。

でも彼女は、普通なら暖かく迎え入れてくれるはずの家に帰れば殴られ、悪口を言われるような境遇の子だった。

 

こうしていつも一緒に帰っているうちに仲良くなった。

遊ぶ時に部屋には呼んでもらえなかったし、成績も良くなくて体も痣だらけの、一緒にいて楽しいとは言い難い子。

それでも、あの子の明るい笑顔を見ていると「あたしがこの子の味方で、本当に良かった」と思えた。

 

でも、あの子を救うことはできなかった。

夏休みの途中、自宅の風呂場にてカミソリで首を切って死んでいるのが発見された。

先生から「○○さんが亡くなりました」というお知らせがあった後、クラスのみんなからは「あいつが死んでくれて良かった」「清々した」みたいな声があがった。

クラスのみんなはあの子の机にゴミや虫の死骸を置くなどして笑っていた。あたしがそれを片付けて机を綺麗に拭いたのを見られた時は、「○○菌持ち」とか言われて…あたしへのいじめが始まった。

葬式は行われず、墓参りに来て花を供えたのは、あたし一人だった。

 

 

色々あって『Alice』の人気読者モデルになってからも、人気の低いブランドの衣類を着ていた。そのブランドの商品が奇跡なのかヒットしてからは、『超高校級のモデル』と呼ばれるようになった。

クラスの嫌われ者の友達になっていく。ボランティアで人気のない猫を飼う。酷評されている漫画を全巻揃えていく。

…そうしているうちに、やがてあたしは、味方のいない人やものを見ると助けたくなる性分なんだと気づいた。

 

ふと思った。

あたしは生まれつきの狂人なんだろうか。愛されないものを好きになるって、おかしいんだろうか。

そんなことを考えたある日、思わず泣きそうになった。

もしかしたら、あたしの本性を誰かに知られたらきっと嫌われるかもしれない。

そう思ったのか。ガラケーしか持っていない、親しい仲の男子にこういうメールを送った。

 

 

『愛されない何かを愛するって、おかしいですか?』

 

 

少し自由帳に書くような詩みたいで恥ずかしかった、でも、受け入れてくれることを期待していたかもしれない。

 

そうしているうちに、メールが来た。

 

親しい仲の男子からの返事は、こうだった。

 

 

『何かを愛することにおかしいことなんてないよ』

 

思わず、涙が出た。

そうやって、あたしは彼…ミーくんに惚れていったんだろう。

その日は、少しだけあたしが報われたんだなと思った。

 

 

 

「雨崎姉ちゃーん?寝てるんかー?」

 

「…は、灰寺くん!?ごめん、すぐ戻る!」

…回想しているうちにキッチンのドアを開いて、灰寺くんが呼びかけてきた。

過去をつらつらと書いてしまったメモ帳を閉じてから持って、キッチンから出ていく。

「…もう15分もキッチンに篭ってたけど、どうしたの?」

「いや、なんでもない…」

檀くんも少し心配そうな顔をしている。

 

「雨崎姉ちゃんが無事みたいで良かったなあ。折角だからプラモデルは休憩して、僕も檀兄ちゃんもメモ帳に秘密書いたんや。でも、さっきの約束通り見せるのは禁物や。じゃ、プラモデルの続きやろ!」

「…そうだね」

 

プラモデルの組み立ては、実は初めてだけど凄く楽しい。

今夜は、なんとか乗り切れそうだと思った。

 

 

 

 

【Bグループのログハウスにて】

「この刀と鎧は…源義経のものじゃな。見てみればわかる」

「いや、見ればと言われてもわかんねーよ!それにしても、キレイな部屋だな。あのモノクマとカラフラが健気に掃除したのか?」

ボクたちは今、日本刀を装備した日本鎧が飾られてて、ロッカーがリビングの床に置かれていて…

真ん中のテーブルに、お内裏様とお雛様が飾られているログハウスにいる。

テーブルには三セット分、メモ帳とペンもある。表紙には、

 

『自分のひみつを、正午までにここにかいてね』

『Bグループの人には出前があるよ』

 

って書かれてるけど…秘密を書くのが、また動機になるのかな。

忘れないうちに書いてしまおうと、さっさとメモ帳とペンを取る。すると横から二階堂さんに取り上げられた。

「絹川、早とちりは流石にやめとけ」

「…ごめん、二階堂さん。早く書いた方がいいかなと思って…」少ししゅん、となる。

「こういうのは、めっちゃ大事な秘密を書けばもしかしたら黒幕連中にバラされるかもしれねえんだぞ?」

二階堂さんは注意するように言う。

「でもそうなら、どんな秘密を書けばいいんだろう…?」ボクは疑問に思う。

書かなければ、モノクマにひどいことされるかもしれないし…。

 

「こういうのはさ、朝食を抜いたことがあるとかカブトムシをこっそり飼ってたとか、バラされてもいいようなどうでもいい秘密でいいんだよ」

「うむ、確かにメモ帳には『重要な秘密を書け』とは全く書いておらん。どうでもいい秘密でも、案外なんとかなるかもしれんのう」

どうでもいい秘密…ということは、バラされても大丈夫な秘密を書けばいいのかな。

「じゃあ、早速どうでもいい秘密ってのを書いていいかな?」メモ帳を開いてみる。

「いいけど。個人情報は書くなよ!」

ボクはペンを握り、メモ帳に書き始めた。手紙を書くように、ゆっくりと丁寧に、記憶を辿りながら。

 

そして…それを二階堂さんと、湖林くんに見せつけた。

 

「き、絹川!?」

「いきなりどうしたんじゃ…って、何じゃこりゃ。『実は料理ができません』って?」

「秘密を、ここにいるみんなで共有したいんだ。でも、誰かに言ったら怪しまれそうだからここだけの話だよ」

さっきまで驚いていた二人は、少しほっとした顔をしている。

「しっかし、料理ができないってそんなの奴沢山いるじゃねえか。アタシのクラスメイトの親だって料理ができなくて毎日ピザとか出前頼んでるし」

「随分と金持ちな一家じゃな…」

 

ところで、メモ帳にも書いてある…出前って何だろう?

 

「ねえ、出前っていうのはそんなにお金がかかるものなの?」

「金がかかるのは作る手間もかからず料理が来るんじゃから当たり前じゃ。金で時間を買っとるんじゃよ」

「絹川…お前、出前頼んだことねーのか?」二階堂さんは、こっちを覗き込んだ。

「…ボク、出前っていうのがよくわからないんだよね…頼んだら、料理が出てくるものらしいけど…」

そう言うと、二人は一瞬目を丸くした。

「あんた、出前、知らねえのか…?」

「うん。お金を出さなくても、料理って出てくるものなんでしょ?」

「そうじゃないのう。出前というものは、ピザやラーメンや寿司などの料理をメニューの中から『これが食べたい』ってやつを自分で決めて、店に電話で注文したら家に持ってきてくれる…そんなシステムじゃ。プロの料理人が作っているから極上の美味しさじゃ」

 

出前がどういうものか、大体想像は付く。でも、ボクの知らない世界のものだ。

ボクの家の場合は料理人が食事を作ってくれる。自分でメニューを決めることはできないけど、栄養バランスは良かったので特に嫌だな、と思うことはなかった。

「絹川は育ちよさそうだし、料理に関してはうるさそうだと思ったけど。出前、いつかは頼めるといいな」

…恐らく、叶わない願いだと思う。だって、ボクの家は…。

 

それからボクたちは、自分たちのどうでもいい秘密について語った。

湖林くんは小学生の頃、暴力教師とやらに水鉄砲とやらで立ち向かったこと。

二階堂さんはバレーボール部に所属していて、誤ってボールを割ってしまったこと。

そうやって語り合っていくうちに夜が来て。チャイムが鳴ったと思うと、ドアが開いた。二階堂さんがドアの前に出る。

「えっ?まさか…脱出できるのか!?」

「違うのだ。脱出したら即オシオキなのだ。というわけで…カラフラ印のピザ・マルゲリータなのだ」

平べったい箱を三つ抱えたカラフラの声だった。どこか無理しているような声だ。

二階堂さんが箱を受け取ると、カラフラはさっさとドアを閉めた。

「何だピザか…でも、何もないよりはマシかな」

少し落胆しながら箱を抱え、テーブルの上に置く二階堂さん。

「…これも、出前なのかな…」

「自分で選ぶことができないのは残念じゃが…安心な食べ物じゃと信じたいのう」

 

もし叶うなら、平和な世界での出前も頼んでみたい。

ボクは、少しだけそう思った…。

 

 

 

 

【Cグループのログハウスにて】

テーブルの上にはラグビーボールに台所道具一式、秘密を書けという指示と『ご飯は自分で作ってね』と書かれたメモ帳セット三人分。

リビングの隅にはディスク再生機能の付いたテレビに、キッズアニメ映画のDVDが置かれている小さな棚。

一ノ瀬さんはキッチンで夕食の支度をしていて、黒木さんは映画に釘付けになっている。

 

僕以外の二人がそうしているうちに、もう思い出したくもない秘密を書き終えた。

そうだ、書いてしまうだけでいいんだ。後は、自分のメモ帳を誰にも見られないように明日の正午まで隠しておくだけ。

メモ帳を閉じ、服の胸ポケットに素早く仕舞う。

 

…テレビ画面には、主人公と思わしき少年が斧で魔物の首を刎ねているシーンが写っている。

『エドガーと恐怖の村』というタイトルの映画らしいけど、とても子供向けとは思えない残酷さだ。

黒木さんは様々な映画を作ってきたからこそ…こういう映画も観れるんだろうな、と考えた。軽蔑でも、尊敬でもないけどね。

 

しばらくして、映画のスタッフロールが流れる。

冷蔵庫に入っていたコーラ瓶を飲みながら黒木さんがいいものを見た、という表情でこっちを向いた。

「未隅。この映画、あなたはどう思った?」

突然の質問だ。僕はメモ帳に書くのに集中していたので、映画の内容はあまり覚えてない。

「少し、怖い映画だと思ったな」

当たり障りのない答えだ。けど、それしかなかった。

「…そう。私はこの映画、痛快な復讐劇って感じで好きだけどね。

脚本もある程度の王道は守りながら、少し予想外の展開を入れていて中々楽しめたわ。

映像はあの年の映画にしてはよく頑張ったって感じだし…」

 

黒木さんの映画感想が始まった。映画はテレビスペシャルと梨々にせがまれて行った恋愛映画ぐらいしか観ないので、聞くことしかできない。

あのシーンの演技が良かった。あの悪役は少し詰めが甘い。あの音楽のシーンが臨場感あって好きだ。

映画について語る黒木さんはいつもより目をキラキラさせている。まるで、クリスマスにプレゼントを貰った少女のように。

 

…全てを語り終えたであろう時、だった。

 

「そういえば、聞いたことある話なんだけど…

 

あなた、中学は中高一貫校だったわよね?」

 

思わず…思考が止まった。

 

「確か、数年前の話なんだけど。ある学園のラグビー部が大きな大会で優勝して、その祝賀会が部員だけで開かれたの」

 

何を、言っているんだ?

 

「その際先輩たちは、当時雑用係だった部員に「家にジュースの入ったカバンを忘れたから持ってこい」と言って持って来させた。

そして、雑用係はそれを中身も確認せずに先輩の家から学校に持ってきた。…カバンの中身はお酒だったんだけどね。」

 

「どうして…そのことを…?」

 

「お陰で祝賀会は大盛り上がり。いつもハブられがちの雑用係を除いてね。

でも、お酒の飲み過ぎはハメを外すこともある。先輩たちは…無免許なのにワゴン車に乗ってしまったの」

 

「…ろ…」

 

「そして、歩道を歩いていた学生の子を…」

 

「…めろ…」

 

「その子は二度と歩けなくなって、家族は絶望して遠いところに引っ越してしまって…」

 

「…やめろ…」

 

「なのに先輩たちの親は権力者揃いだから、お咎めなしで今でも青春をエンジョイしてて…」

 

 

「やめろやめろやめろやめろやめろおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 

思わず、大きな叫び声を上げてしまった。黒木さんは一瞬驚いたようにビク、とする。

でも、すぐにニヤリとしながら話を続けた。

 

「雑用係…あなたは罪悪感からか、家より遠い場所の高校に転校してきたのよね?」

「もうやめてくれ!一体どこからそれを知ったんだよ!二つ目の動機なのか!?それとも映画スタッフからの又聞きなのか!?」

僕はブルブルと震えながら、黒木さんを指差す。

「…そんな噂話、沢山転がっているでしょう。でも、私も踏みにじられた側の人間として許せない話と思うわ」

「だったらどうして…こんな話をしてくるんだ…?」

 

「だって、こんな動機じゃゲームが盛り上がらないじゃない」

氷のように冷たい言葉と、恐ろしいほどの真顔。

僕は、最悪の感情を想像した。

 

「まさか…第三の事件を起こそうと…?」

「まあ、そんなものね。正直誰が誰を殺そうが構わないけど。そんなにあなたの過去を知っている私が嫌なら、私を殺すか。

雨崎さんに生きて脱出して欲しいなら、彼女をクロにすればいいじゃない」

「そ、それだけはダメだ!僕は梨々には本当に生きてて欲しい…!

でも、殺人は悪いことだ。殺された側の人生は終わってしまうし、殺した側の人生も変わってしまう。

それに、外の世界に絶望郷があるとしたら、もしかしたら梨々は絶望郷に…」

 

罪というものは、傷になる。

罪悪感を持たない外道のような人物でない限り、加害者にも被害者にも付くものだ。

そんなもの、僕だけじゃない。絶対梨々にも付けたくない。

 

「ふーん。殺すことも、殺させることもできないんだ。このコロシアイの中で。

もう四人も死んでるのに、未だに殺したくないとか言ってるの?」

 

そんな黒木さんは、こっちに近付いたと思うと…絡みつく蔦のように抱きついてくる。

それはまるで、梨々にもされたことないがないような…おぞましい介抱だった。

 

「だったら…墜ちる所まで堕ちてみる?」

「!?…く…く…ろきさん…?」

抱きしめる強さを強め、背中に手を回してくる。

僕の脳裏に梨々のことが浮かぶ。

もしこのことが、梨々に本当に知られたら…。

 

「あなたも奴らと一緒になればいいじゃない。何も生み出せないクズになればいいじゃない。偽善者のままでいるよりは、あなたのことなんか上っ面しか見ない人よりはマシよ?」

…何もできない。

「梨々は…僕を愛してくれているんだ…彼女の想いを…否定するわけには…」

「そうやって罪を隠して、自分の仮面に恋をする女と付き合って…そんな愛なんて、8mmフィルムより薄いわよ」

 

やがて、梨々のことで頭がいっぱいになる。

その瞬間。僕は叫び声を上げて…

 

 

「うわああああああっ!!」

 

 

蛇のように纏わりついていた、黒木さんを突き飛ばしていた。

彼女は大きな音を立てて壁にぶつかり、力なくその場に倒れ込む。

 

「はぁ…はぁ…はあっ…」

 

気分が悪い。こういう時は、外の空気を吸いたい気分だ。

でも、ドアも開かないのならできるはずがない。まさに袋小路だ。

 

「…痛いわね」

黒木さんは立ち上がり、服を手で払った後。何事もなかったかのように映画のディスクを替える。

『フェアリーマンZ』と呼ばれるアニメ映画だ。

 

直後、一ノ瀬さんがお玉を持ってキッチンのドアを開けてきた。

「未隅様ー?先ほど大きな音がしたようですけど…何かありましたの?」

「…なんでもない、黒木さんが大きく、転んだだけだよ」

「未隅様が言うなら仕方ありませんわね。では、再び調理に参らせていただきますわ」

一ノ瀬さんは颯爽とドアの向こうへと戻っていった。

 

 

やがて、夜が来た。

その後僕たちは、一ノ瀬さんお手製の豪華な洋食フルコースをなんとか食べた。

なぜか味がしない。梨々の作ったバレンタインチョコレートを食べた時は、あれほど美味しいと思えたのに。

一ノ瀬さんはせっかくだから殿方様たちとバーベキューしたいとか、ドラマは刑事物がいいとか僕だけに話しかけてきて。

黒木さんは黙々と料理を食べながら、なぜか棚にあった映画のパンフレットを見ていた。

 

 

二人が寝ている時。

僕は…トイレに籠り、料理を吐き出してしまった。

一ノ瀬さんには申し訳ないけど、あの事件のことを知っていて、更に誘惑してくる人と一緒にいたら吐き気がする。

 

頼むみんな、梨々には何もしないでくれ。

僕はそう思いながら床についたが、一睡もできなかった…。

 

 

 

 

【Dグループのログハウスにて】

「突然ですが、なんでも相談室でも開きましょうかね」

「え…?いきなり?」

「懺悔を話し、天に許しを乞うのは人の営みです。では二人は悩みや疑問、心配事などをどうぞお話し下さい」

…そんな蒲生くんが懺悔室のテーブルに座っている。なんというか、神父らしく様になっている。

ここに明日の午後までいなきゃいけないので、退屈なのはわかるけど。

 

「とりあえず、オレからいいかー?」梅田くんが椅子に座り、自分を指差しながら言う。

彼は一呼吸して、少し切なげな口調で蒲生くんに相談した。

「小学生の頃、父ちゃんと母ちゃんがダンプに轢かれて死んでさ。父方の爺ちゃんと婆ちゃんに育てられたんだよなー。

二人ともいい人たちだったし、生活にも全く困らなかったんだけどさ。クラスメイトからはよく『婆ちゃん子だから甘やかされてる』ってからかわれてたんだよなー。

それ、オレの運が悪いのかなー。オレの運が悪くなかったら、両親は死なずに済んだのかなー…」

 

…すごく重い相談事だ。

たとえ家族から愛されていたとしても、社会から見てみたらおかしいと思われればおかしいのだ。

そう思われるのも、梅田くんの不運の一つなのかな…。

 

蒲生くんは、いつも通りニコリと笑いながら梅田くんの肩を持った。

「梅田殿。貴方自身は何一つ悪くありません。しかし、運が悪いと言うことは、何か悪いものが取り憑いていると言うことだと思います。

大丈夫ですよ。今から天から授かりし御祓方法を…」

「いや、いいんだなー。ところで鈴原には何か悩みがあるのかー?」

梅田くんが答えをスルーしてこちらを向き、立ち上がった。少し蒲生くんが可哀想だけど。

 

折角だから、わたしも何か相談してみよう。

テーブルの前の椅子に座り、瞬きした後思いついた悩みを述べる。

「わたし…お父さんと仲、悪いんだよね。いつも喧嘩ばかりで。早く家から出たいんだとすら思ってる。

…ヒストリヱランドから出られて、家に帰れたとして。お父さんとは仲良くした方がいいのかな…って」

 

不仲の原因がわからないので、梅田くんのものより簡潔な質問になってしまった。

それでも、蒲生くんは口角を上げて答える。

「たとえ肉親だとしても、合わない人とは仲良くする必要はありません。しかし、親から離れたいと言う場合は自分の力で立つことも必要だと思います。あるいは信用できる何かを頼るのもいいでしょう」

誰かに頼る、か…。蒲生くんらしくない回答だ。

でも、少し危うい人々がいても、ここには信用に値する仲間がいる。

その人たちの力を借りれば、ここから出られて自由になれるんだろうか。

「ありがとう、蒲生くん。頼ったって、いいんだね」

「いえ。と言うわけで明日教会特製の聖水を…」

「ところで、メモ帳に秘密は書いたかー?」梅田くんがメモ帳を持ち、話を遮る。

…秘密。そう言えば、書いていなかった。

「こういうものは、黒幕に再利用される可能性があります。誰かに知られてもいい秘密の方が、コロシアイが起きる可能性も低くなるでしょうね」

それもそうかもしれない。わたしも立ち上がり、テーブルに置かれているメモ帳を開いた。

 

秘密。

一瞬、何を書けば…と思う。

ここは記憶がないことや、叶千華のことを…いや、やめておこう。

ペンを走らせ、わたしのちょっとした秘密を書いていく。

 

『鈴原椿は、元気をくれるメロディや歌詞がある曲が好き』

 

…秘密になってないけど、これでいいかな。

 

 

秘密をそれぞれ書いた後。することもないので、わたしたちは棚にあった本を読むことにした。

『新説世界の神話』と書かれた本のページを捲る。マイナー所まで抑えた、学者が喜びそうな本だ。

梅田くんは緑一色のカバーが特徴的な『事故の原因大全』をパラパラと、蒲生くんはやはり林檎の写真の表紙の『赤い林檎入門』の本をじっくり読んでいる。

「ねえ、ここにある本…部屋に持っていっていいのかな?」読書の途中、二人に聞いてみる。

「いいんじゃないのかー?ログハウスの物を持ち出してはいけないとはどこにも書いてなかったしなー」

「それがいいのなら僕は、色々な写真集を持っていきましょうかね。文字の本もいいですが、たまには絵の載ってある本も読みたいですしね」

「もうコロシアイは怒らないと思いたいけど、念のためにこれを持っていこうと思うぜー」

梅田くんが、ページが開かれた『事故の原因大全』の表紙をわたしたちに見せつける。

 

「わたしは…あの星座図鑑を持っていこうかな」

本棚の、星座図鑑が置いてある方向を指差す。

図書館にはいい星座の本がなかったし。というかモノクマとからふら、色んな本を図書館からログハウスに持っていったのかな…。

 

こうして出前のピザを食べたり、本をまた読んだり、プラネタリウムを見たりして、時間は進んでいく。

誰も死なず、誰も絶望せず。そんなことを願いながら…。

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