ダンガンロンパ・フラワーズ   作:むらさき@ロンフラ

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■作品についてのご注意

・この作品はスパイク・チュンソフト社の作品「ダンガンロンパ」シリーズの、オリジナルキャラクターを使った二次創作です。
モノクマ以外の登場人物は(おそらく)登場しません。
・「ダンガンロンパ」シリーズのネタバレと作者の自己解釈(ゲーム・アニメ共に)が含まれる場合があります。
・17歳以上を対象とした人を選ぶ描写、残虐描写が含まれています。
・文章、トリック、ストーリー共に素人のものです。大目に見てやってください。

・この作品については
  ・Chapter3の被害者・犯人の自由行動
 の内容が含まれています。ネタバレにご注意ください。

以上のことをご理解できる方のみ、お読みください。
では、どうぞ。


Chapter3 「怪奇!悪夢の湯けむりナイトメアは実在していた!」特別編

【被害者1 自由行動】

 

 

わたしと一ノ瀬さんは今、1.5mほど距離を空けている。

蕁麻疹の事を考えたら空けたほうがいいんだろうけど…何かこっちから話したほうがいいのかな。

「…一ノ瀬旅館のレストランとかのメニューで、好きなものとかある?」

典型的な質問だが、ないよりはマシ…かな?

「…はぁ…やっぱりそうですのね。女は常にスイーツとか食べ物とか原始的なことしか脳味噌にない…スマートで現代的な殿方様のように最新のニュースの話でもしたらどうですの?」

最新のニュースといっても、閉じ込められてしまっているから話ができないんだよな…

一ノ瀬さんは、わたしを何か嫌そうな目で睨みつけている。えーと、とりあえずここは一ノ瀬さんの好きそうな…。

「…一ノ瀬さんの好みの男性のタイプって、一体誰なんだ?」

「い、いきなり恋愛話!?どうしていきなりこんな質問をしてくるのですの!?やはり女という生き物は生殖で考える生命体なのですわね!これだから、下等生物は…!」

質問を質問で返してて、怒られないのかな…?

「大体、世の中の殿方様である方に嫌いなお方などおりませんわ。私の周りの殿方様は素晴らしい人たちばかりでしてよ。

優秀な一ノ瀬旅館のオーナーであるお兄様、新鮮な食材を見極め絶品グルメを調理する板前の皆様、顧客のニーズに合わせたサービスを考案する経営陣…

それに比べて中居はバカばかりなのか、接客、掃除やベッドメイクなどの低級な仕事しかできない…やっぱり、女は無能しかいませんわね」

「でも…お客様と接したりするのって、案外難しいよね。皆が満足するように、声掛けやメニューの準備とかするのって、以外と頭使うし…」

「そんなの当たり前ですわ。アッパッパー女同士の会話のように何も考えずに話したり、低能専業主婦のように手抜き料理を作るだけの事とは訳が違いますの。だから私は…仕事の時は常に頭をフル回転させていますわ。例えば、お辞儀のタイミングやお客様ごとに出すメニュー、どうしたら客室が完璧に綺麗になるかなど。これを、男女問わずやらなければならないのが一苦労ですの」

…一ノ瀬さん、仕事の時は男女差別はしない性格なのかな?プライベートの時はともかく。

日本一の旅館と呼ばれる為に、お客様の居心地のいい空間を作り上げる。だからこそ、『超高校級の女将』と呼ばれてるのかな。

そんな一ノ瀬さんだけど、せっかくの着物に埃が付いている。どこかを掃除した時に付いたのだろう。

「あの、一ノ瀬さん。着物にゴミが…」

「す、鈴原!?ち、近寄って何を…やめて下さる!?ひぃぃぃぃ!こ…来ないでえええええええっ!」

鈴原が取ろうとした瞬間、一ノ瀬は叫びながらどこかへと逃げていった。

 

彼女、よほど女性が嫌いなんだな…。

 

 

『重度の女性嫌いで、頭の中には女性に対する偏見がいっぱい。そんな一ノ瀬とコミュニケーションを取るのに鈴原は悪戦苦闘。しかし、自分の仕事には真面目。』

 

 

 

 

「一ノ瀬旅館は大丈夫かしら…中居どもはともかくお兄様などの殿方様が心配ですわ…」

一ノ瀬さんはどこか不機嫌そうにため息をついている。やっぱり中居はどうなってもいいのかな。

「それに学業も怠ってしまいますわ!このままでは…将来の旦那様が逃げていきますわ!」

「学業…一ノ瀬さん、勉強も頑張っているんだね」

「!?ひ、ひぃっ!?鈴原、ここにいましたの!?」

わたしの存在に気づいていなかったのか。少し傷つくな…。

「いや、ずっとここにいたんだけど…」

「空気みたいになっていればいいのに話しかけるのはよして欲しいですわ…ところで要件がありそうな顔ですわね、一体何ですの?」

「一ノ瀬さん、前の学校は何してたのかなって。気になるだけだよ」

「前の学校?それなりに勉強して、部活は帰宅部。昼休みは図書館で料理本などを読む…それだけですわね。成績は少なくともあなたよりはマシだったと思いますわ」

確かに『それだけ』と言ってもおかしくない学校生活だ。やっぱり旅館での仕事が大事なのかな。

「こう見えてもそこらの醜女よりは同じクラスの殿方様にモテていましたの。オカルト研究部の眼鏡が魅惑的なお方、40代のお方、制服の下にアニメのTシャツを着られているふくよかなお方…みんな、断ってしまいましたわね…」

明らかに微妙な案件だらけだ。でも…。

「みんな断った?一ノ瀬さんにしては意外だね。将来心に決めている人でもいるの?」

「本当は殿方様なら誰でもいいのですけど。それには深い事情がございまして。昔中三の時に目の上に黒子のついたお方に告白されて、もうこれ以上ないくらい尽くして来たのですが…ある日のデートの待ち合わせ中に、行方不明になりましたの…」

行方不明…!?なんかの事故や事件に巻き込まれたのか!?

「大規模な捜索にも関わらず、あのお方は見つかりませんでしたわ。私は嘆きました。デートに誘わなければ良かったと…。でも、その後はお兄様が更に優しくしてくれるようになりましたわね…」

「優しいお兄さんだね…」

「お兄様は言いました。『学校の男子からの告白は全て断るんだ、君にはもっと相応しい人がいる』と。それからは、告白は断っていますわ。悲しげな殿方様の顔を見ると心が痛みますが、これも将来の旦那様の為でもありましてよ…」

…前言撤回だ。付き合ってた男子を消したのは、お兄さんなのではないかと思えてくる…。

「じゃあ、男友達はいるのかな?」

「学校に友達はいませんわ。お兄様が『大和撫子は友達を作らない』と言ってますもの。お兄様の言いつけはきっちり守らないと…」

一ノ瀬さんは、なぜか恍惚の表情を浮かべている。

明らかに怪しいお兄さんの本性、早めに気付けるといいんだけど…。

 

少しモヤモヤした感情を抑えながら、ホテルへと戻った。

 

 

『学校ではモテているが、告白は全て断っている。一ノ瀬旅館のオーナーである兄の言いつけを守っているが、彼女の元彼を消したのはもしかしたら…?』

 

 

 

 

「鈴原…どうしてまたここにいるんですの?」

「一ノ瀬さんが少し、不安になってきてね。学校じゃ友達いないみたいだけど、旅館でも上手くやっているのかなって…」

「まあ、それなりにやってますわね。中居どもには嫌悪感を抑えながらも喋れてますし。ただ、義理の母と姉がちょっと…」

「義理のお母さんと、お姉さん…何かあったのか?」

「あの雌豚どもは私の草履に画鋲を乗せたり、着物を汚したりして虐めて。お兄様には毎日毎日媚びへつらう。この世のヘドロを詰めたような、悍ましい邪悪生命体ですの」

苦虫を噛み潰したような顔で義母と義姉を語る一ノ瀬さん。よほど酷い迫害を受けてきたんだろうか。

「そのうちドバイで暮らされているお父様も食い物にするつもりなんですわ…」

「お父さん、海外にいるんだね」

娘たちを放っておいて、ドバイにいるってのはどうかなと思うけど…。

「あのお方は、お兄様曰く救世主レベルでかなりの人格者ですの。一ノ瀬旅館の元オーナーですけど、私が物心つく頃から全く家に帰らずに送ってくれるのは写真付きの手紙だけ。そんな人も、きっといいお父様に違いありませんわ」

「風景とか、出会った人たちの写真かな?」

「…お父様と、彼に纏わりつく女が4人ほどですの。あいつらも財産目当てに違いありませんわ…」

また嫌そうな顔をしているけど、ドバイに住んでることを考えると、一ノ瀬さんのお父さん、もしかして…。

「ハーレムを作ってるのかな?」

「そんな感じですわね。でも、お父様も被害者でしてよ!実の妻があんなのだったら、殿方様は誰もが家から出て行きたくなるのも仕方ありませんわ」

実の妻。一ノ瀬さんのお母さんかな。

「イケメンとの不倫を繰り返して、お兄様は可愛がるのに私には『女将ならきっちりしろクズ』と言って、修行に失敗したら蹴る殴るの暴行を加えてきて、私が十歳になった時に失踪して…ああ、これ以上は何も言いたくないですわ!」

そうか。彼女が女性嫌いになったのって、お母さんの虐待のせいでもあるんだろうな…。

「そんな私の唯一の味方がお兄様でしたの。あのお方は一人ぼっちで泣いている私に『何かあったら誰かに頼るんだ』『本当に助けてくれるのは男しかいない』と言ってくれましたわ。本当に、素敵なお兄様ですの…」

お兄さん、やっぱり怪しいな…?一ノ瀬さんを思い通りに育てようとしている気がする。

「あと、お兄様はいつでも助けてくれますの。この前は配膳していてうっかり中居にぶつかって…お兄様がすぐに駆けつけてきてくれて…」

 

一ノ瀬さんのお兄さんの自慢は、まだ続きそうだ…。

 

 

『義母姉の迫害や、幼い頃の実母からの暴力のせいで女性嫌いになってしまったようだ。それでも兄や父などの男性のことはいい人だと信じている。』

 

 

 

 

「ああ…時雨が不安ですわ…」

一ノ瀬さんが心配している『時雨』という名前の人物。もしかして、彼女の友達だったりするのかな…?

「中居はともかく、勤勉なお兄様なら餌をあげていると思いますけど…」

「一ノ瀬さん。時雨ってペットみたいだけど…」

「う、うぎゃああああ!?鈴原、考え事してる途中に話しかけないでくださる!?」

どっかのギャグ漫画のツッコミヒロインみたいに大口を開け、飛び出た目を見開く一ノ瀬さん。

「ごめん…次からは気をつけるよ」

「やはり女ってのは非常識ですわね…時雨みたいに黙ってぷかぷかと浮かんでいればいいものを」

…黙ってぷかぷかと浮いている。それができる女性はそこまでいないだろうなと思う。

あと、一ノ瀬さんの飼っている時雨がどういう子かはなんとなくわかる。

「時雨って…ペットの魚だよね?」

「あ、当てたァ!?」

一ノ瀬さんがよろめく。ここまで驚いてる彼女は珍しい。

「うう…超能力でも使ってるんですの?とりあえず言っておきますけど時雨は…私の、唯一の友達の金魚ですわ」

和風が似合う一ノ瀬さんだから、金魚を飼っているのは割とイメージ通りだけど、友達でもあったのか。

「時雨は私が縁日で貰ってきたランチュウですの。メスだけど人間の豚女と違って陰口も叩かないし、ネチネチとしたいじめもしない。毎日話を聞いてくれる。ある意味理想の大和撫子のような子ですわ。世話は大変ですけど」

人間の豚女という矛盾めいた言葉はともかく、一ノ瀬さんの数少ない話し相手なんだろうな、時雨…。

「メスってことは…世話する時の蕁麻疹は大丈夫なの?」

「なぜか起こらないのですわ。もしかしてメスじゃなくてオスかと思って、金魚に詳しい殿方様のお客様を呼んで診てもらいましたけど、何もなかったですし…」

少しがっかりするように俯く一ノ瀬さん。ペットの性別に拘っていいのかな。

「でも、自室で時雨の世話をしているのが私の数少ない安らぎですの。ゆったりと泳いでいるのを見ると、本当に癒されるのですわ…美しい日本庭園の風景と共に、素敵な時間を過ごす…これが私の休日の過ごし方ですわ」

「自室から綺麗な日本庭園が見えるのか。少し羨ましいな…」

「当たり前でしてよ。私の自室…三階の白鴎の間は昔客室でしたけど、古びた上に狭く誰も取らないような場所だったので貰いましたの。窓からお父様の残された風流な庭園が見えて、これがとても綺麗ですのよ…」

何かを懐かしむようにうっとりとする一ノ瀬さん。

普段は罵倒の多い彼女だけど、綺麗なものや一ノ瀬旅館を愛する心はとても強いんだな。

『ここから出られたら一ノ瀬旅館に泊まりに行ってもいいかな、日本庭園がどんなのか見たいし』と言ったら、流石に激怒しそうだけど。

 

 

『唯一の友達は自室で飼っているメスの金魚・時雨。父の残した庭園の見える自室で世話したり、眺めるのが彼女の癒しの時間なんだとか。』

 

 

 

 

「鈴原。一つお願いがありましてよ」

「お願いって…どうかしたのか?」

「最近私に馴れ馴れしく話しかけているようですけど、正直迷惑だから…間違っても一ノ瀬旅館に泊まらないで欲しいですの」

ある意味一ノ瀬さんらしい頼みだけど…それ、逆に困るんじゃないかな?

「私の目指す一ノ瀬旅館は、世の殿方様たちを癒す宿ですの。お兄様が困るから仕方なく泊めてますけど、本当は女人禁制にしたいくらいですわ」

「でも…一ノ瀬さんはこの前男女問わずお客様と接する時は頭をフル回転させる…みたいな事言ってたよね」

「えっ…」

一ノ瀬さんの体が固まる。

「どれだけ嫌いな相手にも、しっかりおもてなしする…それが女将なんじゃないの?」

「…ええっ!?!?!?」

大きく仰け反り、よろけそうになる一ノ瀬さん。

「あ、危ない!」

わたしは倒れる一ノ瀬さんの手を、しっかりと握り…。

 

「えーと、大丈夫?怪我とかは流石にないかな…」

「…あ…あれ…?さっき女に…触れて…!って、あれ…?」

なんとか起き上がった一ノ瀬さん。その白い手にも、身体中にも…蕁麻疹は出ていない。

「う、嘘でしてよ!?あれほど強い握力で掴まれたのにどうってこともない…夢でも見ていますの!?」

頭を抱え、落ち着かない様子で混乱する一ノ瀬さん。

正直言葉にするのが難しいけど、ここは言うしかないみたいだ。

「女性に触れても蕁麻疹が出なくなった…みたいだね」

「そんな…もし私がこのまま女に慣れていったら、やがて薄っぺらいバカ女の輪に入る羽目になって…大和撫子どころか安っぽいアホ売女になってしまいますわ!」

「…慣れてもいいんじゃないかな」

ゆらゆらしていた一ノ瀬さんの体がピタリ、と止まる。

「たとえ女性が嫌いじゃなくなっても、一ノ瀬さんの何かを大切にする心はなくならないような感じがするんだ。自分が変わっても、自分がなくなる訳じゃないと思う」

「…は?今になって説教ですの?」

一ノ瀬さんは自分の体を抱え、こっちに恥ずかしそうに赤くなった表情を向けてくる。

 

「あなたはそこらの女よりは少しだけマシってだけですわ。覚えておきなさい、鈴原…!」

 

そんな言葉を吐き捨て、一ノ瀬さんはダッシュでどこかへと去っていった。

彼女と本当に友達になれる日は、まだ遠いだろうけど。絶対に来ないってことはない。そういう予感がするんだ…。

 

 

『女性に触れると出る蕁麻疹が、鈴原に掴まれた時は全く出なくなっていた。一ノ瀬が女性に慣れ、鈴原と本当に友達になれる日はきっと来る…はず。』

 

 

 

・『一ノ瀬のパンツ』を入手しました。

一ノ瀬愛用の赤いストリングパンツ。男性受けを重視した結果こうなった。

その他にもTバックやバックレースなどのセクシーパンツも持っているようだ。

 

 

 

 

 

【被害者2 自由行動】

 

 

「あのさ、鈴原ちゃん。少し聞きたいことあるんだけどさ」

「…どうしたの?」

「鈴原ちゃん、そのサロペットとシャツとコート、どこで買ったの?」

「え?バイト先近くのショッピングモールだと思うけど…店名は忘れたな」

「店名忘れるの!?普通アプリにメモっとくよね!?」

そういえば雨崎さんは『超高校級のモデル』だったような。

モデルだし、やっぱりファッションの研究はしとくものなのかな。

「今度脱出したらいいアプリ教えておくねー。女の自分磨きは大切だよ」

ファッション、あんまり拘りはないんだけどな。動きやすければなんでもいいし。

「でもさ、ファッションに一番大切なのは流行とかじゃないと思うんだよね。

流行ってる洋服を無理して着る必要なんてないし。」

もしかして、ファッションに一番必要なのは…服の値段、じゃない…

「その人の個性、だったりする?」

「…ピンポン!正解!あたしが言いたいのはそれなんだよね。たまに和服やそれをアレンジした服を着た女の人とかいるじゃん。かっこよくて尊敬しちゃうよね。他にはロリータ系の人もいいよね。あたしは男ウケいい服とかより、自分ウケのいい服を着てる女の人が好きだな」

言い得て妙だ。

「ところで鈴原ちゃん、何か似合いそうな気がするんだよね」

「…何が?」

「うーん、ヴィジュアル系とか。十字架とか黒を基調としたやつ」

「ヴィジュアル系か…あれあんまり聞かないんだよね。ロックは好きだけど。一番好きなのは…ギターサウンドがメロディックなやつで…」

 

あ…しまった!音楽の話題になってしまった!しかも、長々と語ってしまった!

「あたしもあんまり聞かないんだけどね。洋楽やK-POPのが好きだし」

良かった。というか邦楽ファンではないんだね、雨崎さん。

彼女の意外な一面が見られたようだ…。

 

『ファッションにおいて一番大切なのは個性だと信じている。ちなみに鈴原に一番似合いそうなのはパンク系ファッションらしい。』

 

 

 

 

「うーん、どうしたら喜んでくれるのかな…」

雨崎さんが何か悩んでいる。いつもは元気な彼女だけど、何かあったのかな?

「あ、鈴原ちゃん!ちょっと聞いてくれる!?」

「いいけど…未隅くん関連かな」

「そうなんだけどさ、お土産屋見てたら映画のディスクとか色々見つけて、せっかくだからミーくんと二人でお部屋で見ようかなと思ったけど…」

頭を抱える雨崎さんは話を続ける。

「ミーくんの好きな映画、青春スポーツモノなんだけど…なぜかディスクが一つもなかったんだよね」

雨崎さんと未隅くんのことだから映画デートには行ったことはありそうだし、映画の好みも知ってそうだ。

それにしても、何でも揃ってそうなお土産屋にもないものってあるんだな…。

「他にミーくんの好きな映画って何かあるのかな。やっぱり黒木ちゃんに教えてもらった方がいいかな…」

なんとなく、黒木さんはB級映画を紹介しそうな気がする。

「だったら…ヒーローアクションもの、とかどうかな。スポーツと同じで体を激しく動かすことが多いし、ストーリーも単純明快で面白いのが多いし」

「…確かにそうだね!後で借りに行こ!ミーくん、楽しんでくれたらいいなー!そうだ、鈴原ちゃんも来る?」

ということで、お土産屋に向かうことにした。

 

「『スーパーソード』って面白いのかな?なんかヒロインとのラブストーリーが展開される、って書いてあるけど…」

お土産屋で雨崎さんが、映画のパッケージを持ってはしゃいでいる。

「あ、この前テレビで見たやつだ!面白かったけどミーくんの好みじゃなさそうだなあ…」

「雨崎さんと未隅くんって、デートの時はどうしてるんだ?」

雨崎さんがこちらに振り向く。

「まずはコミュニケーション用のアプリじゃなくてメールで待ち合わせかな。ミーくん、ガラケー使っててアプリ使えないんだ」

意外だけど、ラグビーに集中するとかそういう理由でもあるんだろうか。

「んで次はショッピングかな。男子用のアパレルショップとかも行くんだ。ミーくんはファッションには疎いんだけど、今着てるミーくんの服はあたしがコーディネートしたやつなの」

「どおりで爽やかなファッションだなと思った。他にはどこに行くんだ?」

「カフェでお茶したり、映画見たりゲーセンで遊んだり…あたし、ゲーセンの『ホッケーマニア』で全然勝てないの。でも、ミーくんと一緒にいるととても楽しい、って思えてくるんだ」

そんなことを話しながら、映画を選ぶ雨崎さんはとても幸せそうな笑顔だ。

これが、愛ってものなのかなと思えてくる…。

 

ようやくディスクを選んだ雨崎さんと分かれ、自室に帰った。

 

『恋人・未隅実とはかなりの仲良し。映画やショッピングにデートに行ったり…。未隅の爽やかなコーディネートは雨崎が担当しているんだとか。』

 

 

 

 

雨崎さんと他愛のない話をしている途中のこと。ふと気になることがあったので、彼女に聞いてみることにした。

「雨崎さんは…なんで読者モデルになろうと思ったんだ?」

スナック菓子を夢中で食べていた雨崎さんがこちらを向く。

「読モになったきっかけ…?何で知りたいと思ったの?」

「いや、ファッションとかポートレートとかに興味があったのかなって」

「えーと、鈴原ちゃんの言う通り服に興味があったのもそうだけど…実は、中学生の時の友達のおかげなんだー」

友達のおかげ?モデルになることを後押ししたとか、そんな感じかな?

「ありがちな話だけど、数少ない友達が勝手に『Alice』に手紙を送ったんだ。『梨々ちゃんを読者モデルにしてください』みたいな感じで」

確かによくありそうな話だ…。

「でも、あたしあの時ちょっと太ってたんだよ!そのせいで罰ゲームで告白されたり、靴箱に呪いの手紙送られたりしたの。友達がああやった時も最初は嫌がらせだと思ったんだよ!」

雨崎さんがぷんぷん怒っている。本当の友達だったのかな、その人…。

「そのおかげで『このままじゃダメだ、読モみたいな女の子になろう』って思って、ダイエットするきっかけになったのはいいんだけどね。成功して可愛くなって、読モとして正式に認められた時は嬉しかったなー」

自分のダメな所を省みて痩せられる、努力できる人間。それが雨崎さんなのかな。

 

「ところで、読モって…仕事はどんなことをするんだ?」

「仕事?普通に雑誌でトレンドのファッションとかメイクとか紹介したり、写真とか撮ったりするよ。それが結構好評なんだー」

左手で二つに結ばれた髪を指に巻きつける雨崎さん。

「普通のモデルと、一緒の仕事が多いのかな?」

「そんな感じかな。ギャラはプロモデルのが多いけど。あと、SNSの更新とかも読モには必須なんだ。応援のメッセージもあるんだけど稀に『こういうのは好きじゃない』とか『ダサい』とかのリプライも来るの」

批判のコメントまで相手にしなきゃいけないなんて大変だな…。

「でも、ファンからの手紙やリプライとか読んでると結構嬉しくなるよ。『雨崎ちゃんらしくてかわいい』って声が一番多くてね。読モって少し個性があっても人気出ること多いんだ」

「モデルって…個性があったらダメなのか?」

「個性があるからこそ人気なんだよ。読モって言うのは一般の人から選ばれるから『読者と同じ、リアルな女の子』が多いの。身長が高くなかったり、スマートじゃなくても選ばれるし、恋愛や日常について語っても許される。だから、読者の子たちが共感できるんだよね」

雨崎さんは、自分らしさもトレンドも大切にしてるんだな。リアルな女の子だからこそ、持てる視点があるんだなと思った。

「あたしらしさなんて、大したことじゃないけどね…」

一瞬、彼女から笑顔が消えたような気がするけど、どうしたのかな…?

 

それからは、二人でスナック菓子を食べながら過ごした。

 

 

『読者モデルになったきっかけは中学生時代の友人のおかげ?個性やリアルさあってこその読モだと語るが、どうやら自信がないらしい…』

 

 

 

 

「…」

噴水広場のベンチ。いつもは明るく元気な雨崎さんが、今日はどこか暗く大人しげだ。

「あたしが…馬鹿なのかな…」

そう呟く雨崎さんの手をよく見ると整えられた爪が土で汚れている。ガーデニング…ではないようだけど。

「なあ、手が汚れてるみたいだけど…」

「…実は…助けられなかったの」

わたしの言葉を遮るように、雨崎さんは呟き、街路樹の下を指差す。

掘り返された跡のある土の上には、手の平に乗るぐらいの石と小さな花が供えられている。

もしかして、雨崎さんがやっていたことって…。

 

「墓を、作ってたのか?」

「そんな感じかな…ヒストリヱランド、壁が高いのになぜか鳥が迷い込んでくるんだよね。ウォーターライドの近くで小鳥がカラスの群れにいじめられてて、何とか引き離して小鳥を助けようとしたんだけど…近づいてきたら、もう動いてなかったの」

悲しげな声を出しながら、目を瞑る雨崎さん。

「だから、墓を作ったんだけど…モノクマが出てきて『群れからはぐれただけの落ちこぼれを助けて悼むなんて、君はおかしいんだね!普通なら病原菌気にして助けないでしょ』って言ってきたの…それだけなんだけど、正直悲しかった」

彼女の閉ざされた瞼から、一粒の涙が出てくる。

「あたし、やっぱりおかしいのかな。弱ってる子は手を差し伸べるよりも…助けない方が、普通なのかな」

 

「…助けること自体は、絶対におかしくないよ」

わたしは、雨崎さんの肩に手を乗せる。

「何かを『助けたい』と思うのは普通だし、それを実行に移せるってことは…雨崎さんは、とても優しい人なんだと思う」

「…鈴原ちゃん…?」

「それに、あの小鳥はきっと嬉しかったんじゃないかな。こんな状況でも寄り添ってくれる人がいると、きっと感じられたんだから。雨崎さんは決して馬鹿なんかじゃないよ」

雨崎さんが、こちらの方向に顔を向ける。その瞳には涙が溜まっていた。

「う…うう…」

そして…わたしに泣きついてきた。

「うわああああああああんっ!そんなこと言ってくれる人、ミーくんと鈴原ちゃんくらいだよー!」

泣き声混じりの高い声で叫ぶ雨崎さん。

「あたしの個性はおかしいとか、そんなことずっと言われてきたのに…ここまでめっちゃ肯定されるとなんか…ううっ…!」

「後で、ハンカチかティッシュ持ってくるね」

「大丈夫だよ…ハンカチはあるから…ありがとう、鈴原ちゃん…」

雨崎さんは、涙を枯れるまで流し続けていた…。

 

モデルらしく未隅くんを引っ張っている雨崎さんだけど、そんな彼女の意外な一面がわかった気がする…。

 

『助けたかったものを救えず、モノクマの心ない一言に傷付く。鈴原に慰められた彼女は思わず泣き叫んでしまう。強く肯定されることには慣れていないようだ。』

 

 

 

 

「そうだ!折角だし、あたしの部屋で二人で菓子パしようよ!」

菓子パって…お菓子パーティーのことだっけ。

「いいけど…雨崎さんってモデルなのに、お菓子食べて大丈夫なのかな…」

「少しくらいは大丈夫でしょ!いざとなったらミーくんと筋トレすればいいし。さ、まずはお土産屋を物色だー!」

「あ、雨崎さん…!?」

雨崎さんはわたしの手を引っ張り、お土産屋へと向かっていった。

 

…お土産屋から大量のお菓子類を頂戴した後、雨崎さんの部屋に入る。

そこにはファッション雑誌が置かれた本棚や女優が使いそうなドレッサー、服を掛ける為のトルソーなどが置かれてある。

まさに『超高校級のモデルの部屋』といった感じだ。

「すごい…雨崎さんの部屋、中々豪勢だね…」

「あたしの部屋、最初からこうなってたんだよね。鈴原ちゃんのはどうなの?」

「なぜか天文台のポスターが一枚貼られている、それだけのシンプルな部屋なんだよね…」

「え?望遠鏡もプラネタリウムもないの!?」

本当だ。わたしの部屋と比べてみると、インテリアが貰える雨崎さんが少しだけ羨ましく思えてくる。

「そうだ!今度モノクマとカラフラにインテリアが少なすぎるって抗議しない?」

「それもいいかもね…」

 

「ミーくんと映画を見たんだけどさ…本編も結構面白かったし、話も盛り上がったんだよねー」

チョコレートやグミなどのお菓子を食べながら、雨崎さんと会話していく。

「ねえ、鈴原ちゃん…今、ちょっと真面目な話していいかな。突然かもしれないけど、あなたにしか言えないことがあるんだ」

雨崎さんのグミを食べる手が止まり、彼女はこちらを真剣に見つめてくる。

「実はあたし、どうやって人を愛すればいいのか分からなかったの。詳しくは言えないんだけど…ミーくんが好きでも、もしかしたら愛し方が間違ってるんじゃないか、ミーくん側は迷惑なんじゃないかと思うレベルで不安だったんだ」

人を愛する方法がわからない…雨崎さんにしては意外だ。

「でも…色々考えてたら、気づいたの。あたしの愛し方も、誰かに寄り添うことも、間違ってないって。そう気付けたのは…鈴原ちゃんのおかげだよ」

わ、わたしのおかげ…?

「なんか止まってるけど…鈴原ちゃんがあたしがおかしくないって言ってくれたから、自分に自信を持てるようになった。それだけの話だよ!」

雨崎さんは、太陽のような笑顔で語りかける。

「それなら…良かったかな。雨崎さんが立ち直ったみたいで嬉しいよ」

「えへへ、じゃあ菓子パ再開ね!」

それからわたしと雨崎さんは、お菓子を食べながら幸福な時間を過ごした。

友達と過ごす時間が、とても楽しい。わたしは心の底からそう思ったのだった…。

 

「あたし、これからは自分を肯定していけると思うんだ。自分らしく生きるのも…いい道なのかもね!」

 

 

『雨崎の不安は解消され、いつもの元気な彼女が戻ってきた。そのきっかけをくれた鈴原に感謝し、自分に自信を持てるようになったとか。』

 

 

 

・『雨崎のパンツ』を入手しました。

雨崎愛用の青色のショーツ。女子高校生に人気の下着ブランド『ラブスタイル』の限定品。

フリルと装飾によって女子力が大幅にアップするタイプのパンツ。

 

 

 

 

 

【犯人 自由行動】

 

 

「ところで鈴原さん。君は…体を鍛えてるかい?」

未隅くんがいきなり質問してきた。わたしの学校の体育の授業がどうだったのかは忘れたし、筋トレとかはやってないんだよね。

「あまり鍛えてはないかな…」

「筋トレが面倒なら、軽いストレッチや散歩から始めてみよう。疲れも取れるし、ストレス解消にもなる。体を動かすことは何よりも重要だぞ!」

いきなり運動についてアドバイスされた。

「じゃあ、ストレッチだけでも取り入れてみようかな」

「ははははは、その調子だ!梨々も毎日しっかり体操やってるからね!」

雨崎さんが体操?それって運動大会にあるような、本格的な体操じゃなくて…

「…ラジオ体操だよね?」

「その通りだ!誰でも手軽にできる、それがラジオ体操!一日に男性なら五回、女性なら三回やれば運動量は補えるんだ。鈴原さんもやってみるかい?」

「ラジオ体操か…。内容はあんまり覚えてないんだけど、どこかに映像とかないのかな」

「じゃあ僕が教えてあげよう!という訳で、噴水広場に行こうか」

…未隅くんと噴水広場でラジオ体操することになった。

 

「やはり体を動かすと楽しいな!今なら十回、いや百回はできそうだ!」

ラジオ体操三回分が終わった。少しだけ体が温かくなったような気がする。

…運動といえば、どうして未隅くんはラグビーを始めるようになったんだろう。

「いきなりかもしれないけど未隅くん。ラグビー部に入ったきっかけって何なんだ?」

「きっかけ?そりゃあ僕自身が体験して『楽しい』と思ったからさ!」

「体験入部して、楽しかったのかな?」

「そう!実は僕は昔から結構流され気味でね。誰かの影響で何かを好きになる…そういう人間だった。僕はそんな自分が嫌でたまらなかったんだ」

未隅くんは一瞬真顔になるが、話を続ける。流されやすいなんて意外な一面だ…。

「でも、高校に入学したての時。ラグビー部の勧誘を見ていたらふと『楽しそう』と感じたんだ。体験入部したら…これが中々面白いスポーツだった!肉体も頭脳もフル稼働させて、体をぶつけ合い戦術を練っていく…いいスポーツだと確信したよ。僕が初めて自分の意思で『楽しい』と思えたからね」

スポーツについて語る未隅くんの目はとてもキラキラしているし、ハキハキとした、大きく元気な声がする。

「ラグビーはどんな体格の人でもできるスポーツだけどね、僕の大きな体格も活かせるような気がした。それもあるんだよね」

流されやすい未隅くんが、自分の意思で楽しいと感じたラグビーを始める。

それもまた、一つの自立なんだろうか。わたしは心の中でそう思っていた。

 

ラジオ体操を続ける未隅くんと別れ、自分の部屋に戻った。

 

 

『ラジオ体操が何回も出来ると言い張るレベルでスポーツが大好き!そんな彼だが流されやすいことにコンプレックスを感じていた…らしい。』

 

 

 

 

「梨々が喜ぶもの…梨々が喜ぶもの…」

未隅くんは腕を組みながら悩んでいる。雨崎さん関連の事だろうか…?

「…何か雨崎さんのことで、悩み事でもあるのか?」

「うわあっ!って鈴原さんだったね…」

驚く未隅くんだが、わたしを見るとすぐに冷静になった。

「梨々がこの監禁生活で少しだけ不安になってるから、プレゼントか何かをして励ましてあげたいと思ったんだ。鈴原さんのオススメは何かあるかい?」

恋人にプレゼント、か。雨崎さんみたいな女子が喜ぶものといえば…。

メイク用品は人によって当たり外れが激しいし、服もサイズ合わせが大変だし…。

「アクセサリー…はどうかな?」

わたしの言葉を聞いた未隅くんは、どこか『わかった』と言いたげな顔をしている。

「…ああ!それだよ、それ!梨々の喜ぶもの…流行りのアクセサリーだ!」

好きな人が喜ぶものが、ついさっきまでわからなかったのか…。

「思い出したけど僕はここに監禁される前、梨々に蝶のイヤリングをプレゼントしたんだ。大人ぽくて可愛い、って喜んでたよ」

「要するに、大人っぽいものが好きなのかな」

「梨々は身長が低いからね。確か大人びた感じのアクセサリーが好きだよ」

未隅くんと話していると、雨崎さんの事までわかる気がする。

 

「あと、梨々はスイーツも好きなんだ」

確かに雨崎さんは甘いもの好きそうな人だけど。未隅くんはスイーツ、好きなのかな?

「食べるのも作るのも楽しいって言ってて、よくプロテイン入りのクッキーやケーキを焼くんだよね」

「プロテイン入りって…それ、美味しいの?」

「梨々の作るものだから当然美味しいさ!あと、プロテインは誰でも飲みやすいように甘い味のが多いぞ!」

雨崎さん、未隅くんの事本当に考えてるんだな。

「じゃあ…カフェとかスイーツバイキングとか行ったことある?」

「勿論!アフタヌーンティーとやらにも行った事あるぞ!」

アフタヌーンティー…紅茶を飲みながら、スタンドに乗せられた軽食やお菓子を頂くやつだよね。

「この前、梨々とアフタヌーンティーで有名な『ロザリンドベビー』ってお店に行くことになったんだ。上品なお店だから正装で行こうと考えて…家にあるやつで一番高級な白いスーツを着て行ったら、梨々に笑われたんだ…」

軽食に行くのに正装?まあ、マナーが厳しそうだし間違ってはなさそうだけど…。

「少し恥ずかしかったけど、店に入ったら梨々がアフタヌーンティーのマナーを教えてくれたから楽しめたよ。あの時のスコーンやカップケーキは美味しかったなぁ…」

雨崎さんがマナーについて教えてくれたのならよかったけど。

「その後お店を出て別の場所でショッピングしてる時に、大学生くらいの男二人に梨々が付き纏われたんだ。あんな奴よりも俺らと遊んだ方がいいってね」

嫌なナンパ男達を追い払ったのかな…?

「梨々が危ないと思って近づいたら、彼らは僕を見て怖いものを見たような表情で…『すいません!』って一万円札を渡してきたんだ!『別にいらない』と言ったら、一万円札を置いてどこかへ逃げて行ったんだよ!」

未隅くんのガタイの良さが怖くて逃げ出したのかな…?未隅くんの意外な一面が見られた気がする。

「梨々は僕に『来てくれてありがとう』って言ってくれたんだ。あの時の梨々、最高に可愛かったなぁ…。」

恋愛自慢は、まだ続きそうだ…。

 

 

『恋人・雨崎梨々とはかなりの仲良し。有名なお店にデートやショッピングに行ったり…。愛の秘訣は未隅の一途で天然なところにあり?』

 

 

 

 

「あの子達、今頃何してるのかな…?」

未隅くんがまた悩んでる。『あの子達』って誰だろう?

「あのさ、また悩み事でもあるのか?」

「…それがね…家族の話、鈴原さんは大丈夫かな?」

今度は驚いていない。それどころか、至って冷静な様子だ。しかし、家族の話か。デリケートな話なんだろうか。

「別に構わないよ」

「わかった。実は僕の家…五人家族で、弟が二人いるんだ」

未隅くんのことだ。年下の人の扱いには慣れてるんだろうし、弟がいてもおかしくはないけど…。

「一つ下のカケルって生意気な弟と、生まれたばかりのショウって弟。反抗的で中々家に帰らないカケルはともかく、ショウがとても不安なんだ…」

いつもは活気に溢れた未隅くんでも、弟に対して『反抗的』と呼ぶことはあるんだな…。

「ショウくんが、どうかしたのか?」

「母さんが小説家でね。仕事で忙しいからベビーシッターを呼んでるんだけど、その人がちょっと変わった人なんだ。会うたびに姿がコロコロ変わってる」

お母さんは凄い人なんだろうけど、シッターがどうかしたのか?かなりファッショナブルな人なのか?

「稀に化粧用のコンパクトを取り出して、何か呪文みたいなものを唱えたら次の瞬間に別の姿になってるんだ…」

非現実的だが、未隅くんに嘘の気配は見当たらない。

「ある時は小学生、ある時はセーラー服の美少女。ある時は肉弾戦で戦いそうな女の子、ある時はウエディング姿…。その人はシッターとしてはとても優秀だけど、変化しすぎてショウを泣かせることが多いんだ」

「信じられないけど…すごく、マジカルなシッターさんなんだね」

「母さんも『泣きやまないのは辛いけど、懐かしい気分になれるし、起きてる時の育児はともかく寝かしつけが上手いから中々解雇できない』って言ってるんだよね。根は悪い人じゃないから、僕もあの人を責められないんだけど…やっぱり、僕自身が面倒見た方がいいのかな」

「…そんなベビーシッターを雇っているということは、それほどあの人を信用しているってことなんだと思うよ。今は優秀なシッターさんに任せて、未隅くんは自分自身のやりたいことをやればいい」

しまった…思わず、意見を言ってしまった。

「自分自身の、やりたいことか…」

未隅くんが、考えるように腕を組んで目を閉じている。

「やっぱり、探していくしかないのかな…」

小さな彼の声が聞こえた気がする…。

 

「あと、父さんが家にいないのも心配なんだ」

「未隅くんのお父さん…どんな人なんだ?」

「署内の検挙率No.1のエリート警察官で、僕の憧れの人。どこまでも不正を許さない正義の人なんだ。昔はよく家にいてボール遊びとかしてくれたけど、最近は夜遅くにしか帰らないんだよね。休日も部屋に閉じこもってばかりだし…」

警察官なら確かに忙しいだろうけど、家に中々帰ってこないってのもどうかと思うな…。

わたしだったら…お父さんに面と向かって『少しは家の事を考えろ』って言うだろう。

「やっぱり、言いたい意見はちゃんと伝えた方がいいのかな…」

普段は自信に満ちた未隅くんが、こんなにも悩んでいるとは。

わたしが彼に、できることはあるんだろうか…?

 

 

『警察官の父、小説家の母、そして二人の弟との五人暮らし。マジカルなシッターを雇う母に正義の仕事人間…少し変わった家庭環境に悩みがち?』

 

 

 

 

「はぁ…」

未隅くんがため息をついている。心配なので、どうしたのか聞いてみることにした。

「…何か嫌なことでもあったのか?」

「鈴原さん、聞いてくれるかい?…実は梨々の部屋に呼ばれて、僕は…一緒にいただくための飲み物とお菓子を持ってきたんだけど…それから…うう…」

恥ずかしそうに顔を赤くしているけど、部屋で何かあったのか?

「梨々の部屋のベッドを、汚してしまって…」

ベッドを汚した。何か不埒な予感がする…。

「いや、何を言ってるんだ!断片的に言っちゃ駄目だ!僕は…飲み物を飲んでる最中に、床に飲み物の入ったコップを落として、ついでにベッドも汚してしまったんだ!」

…不埒だったのはわたしの方だったみたいだ。

「しかもコップが割れて梨々が足を怪我するし、救急箱とシーツを持ってこようと部屋を出たら二階堂さんに梨々に酷いことしたと勘違いされて、箒で叩かれそうになって…」

頭を抱え、話を続ける未隅くん。

「ようやく梨々の部屋に戻って、応急処置したりシーツを敷いたりしたんだ。でも梨々は、全く笑っていなかったよ。それどころか『ありがとう。ちょっと二階堂ちゃんに弁解してくる』って言って部屋を出ていって…」

トラブルのせいで雨崎さんとすれ違った…そう思い込んでるのかな。

「僕のせいで、梨々が不機嫌になってしまった…僕が、ミスを犯したから…梨々は僕のことを…!」

 

「雨崎さんは、未隅くんを決して嫌いになった訳じゃないと思う」

「…え?」

「自分を助けようとして救急箱やシーツを持ってきた人を、雨崎さんは嫌いにはならないよ。それに、彼女が部屋を出ていったのは、悲しんでる所を見られたくなかったのと、二階堂さんに『誤解しないで欲しい』って言いに行ったんじゃないかな」

「梨々が、僕を許してくれるのか…?」

「まだ許されないか心配なら、雨崎さんに実際に会って自分の気持ちを伝える…それがベストだと思う」

少し説教っぽくなってしまったけど、未隅くんは何にでも自分の責任を感じてしまうような人だ。

だからこそ、こうやって励ましていくのがいいんじゃないかと思う。

「ごめんとか、許して欲しいとかでもいいのかな…?」

「大丈夫だと思うけど…土下座とか、やりすぎなことは流石にやめた方がいい」

「分かったよ。じゃあ早速梨々に『この前の事は本当にごめん』って伝えてくるよ。だって僕は…スポーツマンだからね」

 

立ち上がり、その場を後にする未隅くん。

彼の後ろ姿には、持ち前の明るさが戻ってきている。そんな気がした…。

 

 

『いつもは愛し合う未隅と雨崎の悲劇のすれ違いが発生?鈴原は仲を取り持とうと相談に答える。果たして仲直りすることはできるのか…?』

 

 

 

 

「ははははは!やっぱり背筋はいいな!心が豊かになっていくぞ!」

…前までのネガティブな雰囲気は消え、未隅くんはスポーツマンらしいご機嫌さを取り戻している。

「雨崎さんとは、仲直りできたのか…?」

「その通りさ!君のアドバイス通りに梨々に自分の気持ちを伝えたんだ。『僕が誤ってコップを落としてしまったから、梨々にも二階堂さんにも迷惑をかけた、本当にごめん』ってね」

ニコニコと笑いながら、未隅くんは胸に勢い良く手を当てる。

「梨々は『少し不機嫌だったあたしも悪かった』って謝ったけど…最終的にはお互い許しあおうってことにしたよ!」

「良かった…仲直りできたんだね」

「君のお陰だよ!ありがとう、鈴原さん!今度部屋でデートする時は、ジュースが溢れないようにペットボトルのものを持っていくことにするよ!」

自分が仲間の元気を取り戻せたのはいいんだけど、お礼とデートの時のジュースに話の脈略はないんじゃないかな…?

 

「あと、もう一つ君にお礼を言いたいんだ」

お礼?わたしが未隅くんにしたことはそんなにない筈だけど…。

「僕の『夢』を決めてくれたのは、君が『自分自身のやりたいことをやればいい』って後押ししてくれたからだよ」

「ラグビー選手になりたいとか?それとも、他に夢があるのか?」

「違うよ。実は僕、大学を卒業したらラグビーを辞める予定なんだ。ラグビーが嫌いになったんじゃなくて、もっとやりたいことがある。引退したら…あの人のような職業に就きたいんだ」

未隅くんの言う『あの人』。思い当たるのは彼しかいない…

「お父さんと同じ、警察官?」

「その通りだ!父さんは『危険な職業だ』って反対するけど、弱さという罪を償ってケジメをつける為に、人助けもできる道を進んでいきたいんだ!」

…罪を償う?何か引っかかるけど…あまり聞かない方がいいみたいだ。

「さっきまでは少し迷ってた。父さんの言う通りにするか、自分の夢を叶えるか。でも、君の言葉を聞いて自分の意思を持つことは何よりも大切、と思えてきたんだ」

「…なら、応援するよ。自分の夢、大切にしてね」

「わかったぞ!じゃあ、明日の為の一歩だ!ジョギングしてこようかな!」

 

夢への意思を持ち、自分の夢の為に進んでいく。

それこそが、未隅くんの歩むべき道なんだろうな。

友達の悩みが解消されていくと、こっちまでいい気分になっていくな…!

 

「過去は変えられないだろうけど、未来は決められる。そんな感じがするんだ!」

 

 

『雨崎と仲直りし、父と同じく警察官になりたいという夢を見つけた未隅。自分の夢の為に生きることを決め、スポーツマンは今日も道を進んでいく…。』

 

 

 

・『未隅のパンツ』を入手しました。

未隅愛用のスポーツブリーフ。伸縮性と吸水性に優れている。赤い色なのは未隅の母親とカタログで選んだからというのはここだけの話。

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