ダンガンロンパ・フラワーズ   作:むらさき@ロンフラ

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■作品についてのご注意

・この作品はスパイク・チュンソフト社の作品「ダンガンロンパ」シリーズの、オリジナルキャラクターを使った二次創作です。
モノクマ以外の登場人物は(おそらく)登場しません。
・「ダンガンロンパ」シリーズのネタバレと作者の自己解釈(ゲーム・アニメ共に)が含まれる場合があります。
・17歳以上を対象とした人を選ぶ描写、残虐描写が含まれています。
・文章、トリック、ストーリー共に素人のものです。大目に見てやってください。
・この特別編にはGL、百合要素が含まれています。

以上のことをご理解できる方のみ、お読みください。
では、どうぞ。


特別編
バレンタイン特別編〜チョコレートハウスの女子たち〜


「…」

 

乙女の部屋に置かれているだろうファンシーな家具と、ピンクのハートがプリントされた壁。

座っているのはふわふわのハート型のソファだし、板チョコの模様のテーブルクロスが敷かれた丸いローテーブルもある。

そして、後ろには菓子を作る為であろうカウンターキッチン。

そういえばこのチョコレートハウスじゃ、相手はわたしを理想の相手だと思い込むんだよな…?

 

チョコレートハウスにいるみんなには、わたしはどう見えるんだろう…?

 

 

 

 

「ねぇ、最新作の主演の件なんだけど…」

最新作…黒木さんが監督した最近の映画のことかな?黒木さんが撮ったんだから、主演はかなりの演技力の持ち主なんだろうな…。

「あなたの演技…最高だったわ!感情の出し方から台詞の言い方まで全てが完璧!これなら大ヒット間違いなしね!」

主演、わたしだったのか?わたしはいつから女優になったんだ?記憶にない。

「まあ、沢山の人に見てもらえたらいいよね。みんなに見られて初めて名作になると思うし」

「だからこそ観客がみんな楽しめる、そんな面白い映画の主演にはあなたが必要だったのよ?ね、私の白馬の王子様♡」

「…白馬の、王子様…!?」

「ネタ切れとかスランプとかから救い出してくれて、主演も引き受けてくれて、おまけに笑顔がとても似合う…そんな素敵な人、あなた以外にいないじゃない?」

黒木さんの理想の相手。映画制作に最高の形で携わってくれる人ってことなのかな…。

 

「ねぇ…鈴原さん」

黒木さんがこっちに近づいたと思うと、自分の片手をわたしの片手と組み合わせてきた。

「これからも、私の映画に出演してくれる?」

潤んだ視線で、こっちを見つめてくる。そうされたのなら…答えは一つしかない。

「…いいよ。わたしも、黒木さんの側にいたい。与えられなかった分は与えたいし、貰ったのなら貰いたい」

 

「ふふ…」

そう笑うと黒木さんは、鮮やかなアイシングが塗られたチョコクッキーの入った袋を取り出してきた。

「はい、どうぞ。作るの大変だったのよ」

「そのクッキー、わたしに?」

そういえば『夜のバレンタインをどうぞ』とは書いてあったけど…本当に今日はバレンタインになってるんだな。

「ありがとう、黒木さん」

袋のリボンを解き、中のクッキーを口に入れる。

 

…あれ?

にににに…苦い!?

お菓子なのにどうしてこんなに苦いんだ!?

ピーマンとゴーヤ、隠し味に魚の肝を濃縮したような…そんな風味がする!

「クッキー、どうかしら?一応味見もしてみたんだけど美味しい?」

味見しておいて、この苦さはどうなんだろう。でも、食感はそこまで悪くない。それなりに相手のことを考えて作ったんだろうな。

 

「作ってくれてありがとう…黒木さんの味がするよ」

 

「こちらこそ、私を救い出してくれてありがとう。そんなあなたには、もっと…私の人生に関わってほしいの。現実でも、映画でも…」

 

 

 

 

バニラさんのバレンタイン。何だか、大変なことになりそうだ…。

 

「鈴原殿、地球であなたと知り合ってから…今日で4年なのです」

あめだま星のプリンセスを自称するバニラさんだけど、わたしとは4年前のバレンタインに出会った設定なのかな…。

それにしても、バニラさんは緊張しているようだ。

「アテクシが不時着した時に警察の目を盗んで墜落現場から連れ出してくれたり、おばあちゃんが病気の時に看病を手伝ったり、動画の為にパワースポットに一緒に行ったり…色々な思い出があるのです」

わたしとバニラさんの思い出、一杯あるんだね。どれも記憶にないけど…。

「そんなアテクシを愛してくれるあなたに…プレゼントがあるのです…。あめだま星には、結婚したいと願っている人に対してお菓子とアクセサリーを送る風習があるのです」

バニラさんを、愛しているのか…って、いきなりプロポーズ!?4年も仲良しだったのなら当然なんだろうけど…。

 

わたしが目を丸くして驚いていると、バニラさんは顔を赤くしながら、ピンクのリボンに包まれたハート型の箱を取り出した。

「だから…これは、アテクシからの…心からのプレゼントなのです!」

「ありがとう…早速、開けていいかな?」

「いいのです!因みにアクセサリーを目の前で付けたら、送った人のフィアンセになるということになるのですよー!」

フィアンセって婚約者の意味だったよな。

「わかったよ。どんなものか楽しみだ」

リボンをゆっくり解き、箱を開くと…可愛らしく包装されたマカロンと共に、白い指輪のケースが入っていた。

まず、包装を外してチョコレート色のマカロンを食べる。カカオとアーモンドが混ざった味が口の中に広がっていく…。

「…美味しい…!」

「アテクシの手作り、喜んで貰えたのですね!ありがとうなのです!」

バニラさんは笑顔ではしゃいでいる。指輪ケースを開けると…小さな宝石が飾られた、金色のリングが鎮座していた。

「これは…アテクシが配信で稼いだお金で買ったものなのです。地球では婚約指輪を送るのがプロポーズと言われているので、それに合わせてみたのです」

 

バニラさんの目の前で、ケースからリングを外し、自分の指にはめていく。赤い宝石が光に照らされ輝く。

「婚約指輪をはめてくれたということは…アテクシのフィアンセになってくれるのですね!?」

「そうだね。もう4年も付き合っているなら、考えてもいいと思う」

「あぁ…これが幸せということなのですね!あめだま星の住民も、おばあちゃんもきっと喜んでいるのです!」

恍惚の表情を浮かべるバニラさんが、わたしを強く抱きしめる。

 

「…これが、愛というものなのですね!アテクシ、幸せなのです…!」

 

 

 

 

「鈴原様…私の初恋のお方…」

一ノ瀬さんが声を掛けてくる。というか、初恋の人?一ノ瀬さんが好きになるのは男性だけじゃな買ったよね…?

もしかして、今の一ノ瀬さんにはわたしは男性に見えるってことなのかな?

 

「幼き頃に出会った時から、あなたとずっと愛し合いたいと思っていましたわ。それが今日、叶えられるとは…私、とても幸せですのよ」

一ノ瀬さんがこっちに顔を近づけてくる。わたしを男性だと思い込んでいるとはいえ、このままじゃ彼女に蕁麻疹が出てしまうかもしれない…!

「…流石に、結婚もまだなのに一線を超えてしまったらダメなんじゃないかな。こういうのは、大切にとっておくべきだも思う」

…思わず声が出てしまった。

「あら。鈴原様は自分を大切にできるお方ですのね。私、ますますあなたにメロリンですわ!お兄様も、きっと気にいるはずですわ!」

一ノ瀬さんが顔を離すが、それでも表情はうっとりとしている。

 

「そういえば…今日はバレンタインでしたわね。これは私からのプレゼントですわ」

彼女は袖の中に手を入れ、青い紙製の上品そうな箱を取り出した。

「私が知る限りの最高級のチョコレートを包んだ特製大福が入っていますわ」

「最高級って、どれくらいかかったの?」

「一粒5000円ですわ。美味しくなるように様々なレシピを熟読し、二週間前から試作を重ねついに完成させた逸品ですの…」

5000円。

けれどただお金や時間をかけただけじゃなくて、ちゃんと食べてくれる相手の事を考えて作っているからこそのチョコ大福なんだろうな。

「じゃあ、早速食べてみるね」

 

箱を開け、中に一個だけ鎮座している大福を箱の中にある和菓子用の太い楊枝で一口分に切る。

切られた大福を口に入れ、和の感触を味わっていく…。

 

程よい柔らかさの餅、ぎっしりと詰まっているチョコレート…一ノ瀬さんの作ったお菓子だ、当然の如く美味しい!

「ありがとう、今まで食べたことないくらい美味しいよ!」

「喜んでくれるのですか?そう言われると私もとても…嬉しくなりますわ!鈴原様、お茶はいかがですか?今すぐ用意いたしますが…」

「遠慮なく頂こうかな。このチョコ大福に合うやつがいいな」

「了解いたしましたわ。しばしお待ちを」

一ノ瀬さんは立ち上がり、キッチンの方面へと向かっていった。

 

しばらくして。

お盆にポットと緑色の飲み物が注がれたカップを載せて、一ノ瀬さんが戻ってきた。

「和菓子に合う、煎茶を入れてきましたわ。熱いので火傷には気を付けてくださいませ」

「煎茶…一ノ瀬さんが入れてくれたものだから、きっといい味なんだろうな」

一ノ瀬さんは顔を赤くし、煎茶を啜る様子を見つめてくる。

 

「いつも麗しく、優しい鈴原様。そんなあなたに、私の本当の愛を授けます…♡」

 

 

 

 

雨崎さんの妄想か…。

彼女には未隅くんがいるけど、どんな事になるんだろうか。

そう思っているうちに、元気のない様子の雨崎さんはこちらを向いてきた。

「ねえ、今日も相談いいかな?鈴原ちゃんにしか言えない事なんだけど…」

ということは、今のわたしは相談役ってことなのかな?

「あたし、ミーくんの事で読モ仲間と喧嘩しちゃったんだよね。『あんたの彼氏は体育会系だし何かやらかしそう』だとか言われたの。耐えられなくなって『やめてよ』って言ったら驚かれたり、おかしいって言われたりして…」

話を聞いてるとなんだか、凄く悲しい気分になってくる…。

「あたしが、あの子に強く当たったから悪いのかな。人を好きになるって、そんなに悪いのかな…」

雨崎さんは落ち着いていないのか、組んでいる手を動かしている。

 

わたしは、雨崎さんの手を優しく握る。

「相手が誰であろうと人を好きになることは、いい事だと思う。限度はあるけどね」

「いい、事なの?」

「…それに、言い返した事は何も間違ってないよ。悪口を言う人が正しいと考えてたら、雨崎さんの個性や自分らしさはなくなるかもしれない。酷い事を言ってくる人とは、しばらくは距離を置いた方がいい」

自分なりの回答だけど、雨崎さんの役には立つかな…?

「そうなんだ。鈴原ちゃんに相談して、本当に良かった」

雨崎さんが少しだけ微笑んだ。

 

そうやって、雨崎さんの淹れたお茶を飲んだりしているうちに。

「あ、今日はバレンタインだったね。鈴原ちゃんの分も持ってきたの!」

元気を取り戻した雨崎さんが、マスキングテープで口を留めた黄色い袋を差し出してきた。

アラザンやトッピングで飾られた、カラフルなピックの刺さった丸いチョコが三つ入っている。

「友達の証のチョコポップだよ。本命のミーくんのはまた別にあるんだ!」

「ありがとう。お茶と一緒に頂いていいかな?」

「うん!結構自信作なんだ」

雨崎さんから貰った袋を開けて…桃色のピックが刺さっている、星が散りばめられたチョコポップを取り出し食べる。

チョコに包まれているのは、どうやらスポンジケーキらしい。中々の味だ。

 

…全て食べ終える。テーブルの上には、三色のピックが黄色の袋の中に入っているのが置かれている。

「結構美味しいね。ケーキは自分で作ったのか?」

「ううん、市販のスポンジケーキだよ。自作した方が良かったかな…?」

「大丈夫だよ。見た目は映えるくらい可愛かったし、これでも十分な友チョコになると思う」

雨崎さんの顔がパッと明るくなる。

「こっちこそありがとう!ねえ、写真撮っていいかな?」

どこからかスマホを取り出す雨崎さん。折角だし、ここは記念に撮っておこう。

 

「やっぱり、鈴原ちゃんはミーくんと同じくらい大切な人だよ!だから、これからも仲良くしてほしいな…!」

 

 

 

 

一人を好む紅葉さんだけど、どんな妄想が待ってるんだろう…?

 

「練習で忙しいのに、誘いに乗ってくれて…ありがとうね」

いつもの紅葉さんからは想像できない、大人しげでたじたじとした態度だ。

「別にいいけど、一体何の用件なんだ?」

「正直、あんたにはいつも感謝してるんだよね。練習の後マネージャーを手伝ってくれるし、試合の時にはいつもエールを送ってくれてる。応援部の部長活動で忙しいだろうに」

今のわたしは、応援部の部長か…。

「あんたの声を聞いてると…私には頑張れるんだとか、負けられないって気持ちになってく。だから、一回話がしたかった…んだけど」

紅葉さんはテーブルの上にあった紙袋から何かを取り出す。

「こんな陳腐でつまらないチョコじゃ、どうせ喜んでくれないよね…」

彼女の両手には、四角いチョコ菓子が入れられた小さい透明な袋が一つ。

「ふ、袋は100均のものだし…材料三つぐらいしか使ってない生チョコだけどいいの?」

紅葉さんは頬を紅潮させる。

「いいよ。…他人を思いやれる紅葉さんの事だから、きっと美味しい気がする。だから…貰おうかな」

左手を相手の肩に乗せると、彼女は一瞬だけビクッとした。

「私が、他人を思いやれる…?」

更に顔を赤くしていく紅葉さん。

「じゃあ受け取ってくれるの?味見は一応したけど、不味かったら、ごめん」

ボールをパスされるように、袋を渡される。

 

早速、生チョコをキッチンにあったフォークで頂く。

…甘ったるいミルクチョコレートの味と、苦いココアの味が調和している。

うん、いい生チョコだ。紅葉さんは料理もできるのかな、と思う。

「…どう?ココア、入れすぎちゃった気がするけど」

「ありがとう。美味しいよ」

「そうなんだ…これ、たまに作ると家族が喜ぶんだよね」

安心したような表情を見せる紅葉さん。

「本当はプロテインチョコレートってやつを作ろうとしたんだけど、正直イロモノすぎて引かれるかなと思ったんだ」

プロテインチョコ…運動やダイエットをしてる人にはいいんだろうけど。

「ねえ、何か話でもしない?何か読み応えのある小説とか、筋トレのメニューの話とかがいいのかな」

「じゃあ、小説の新刊の話でもする?」

「新刊の話、ね…あんたが好きそうな話といえば『鉄琴と暁』とか?あんたと同じ、応援部の部長が主人公の学園ラブコメなんだけど」

「紅葉さん、もしかしてラブコメが好きなの?」

「!?う、ううう…恋愛だけじゃなくて、サスペンスとかミステリとかファンタジーとかも読むのに…」

紅葉さんは再び顔を赤くする。

「いや、紅葉さんの『鉄琴と暁』の感想が聞きたいのもあるんだけど…」

「だから…そういう所だよ!もう!」

彼女は腕を組み、わたしから目を逸らす。言い方が悪かったのかな…。

 

「私の気持ち…気づいてくれるよね?鈍感で真っ直ぐだけど、私は…そんなあんたが本当は…」

 

 

 

 

「せ、先輩…」

ソファに座っていると、隣にいる二階堂さんが話しかけてきた。というか『先輩』って…?

「生徒会書記のお勤め、お疲れ様です!」

いきなり大声をあげてきた。妄想の中では、わたしは生徒会の一員なのか?

「…二階堂さんも、いつも美化委員として頑張ってるよね。ところで、用件は…」

「知らないんですか?今日はバレンタインじゃないですか!アタシ、先公の目を盗んで持ってきたんですよ!」

そういえば今はバレンタインという設定だったな…。

二階堂さんは普段はタメ口なのに、目上の人に敬語を使うなんて意外だ。

 

「学校をキレイにするのが忙しくて、バレンタインには作れなかったんですけど…先輩、どうぞ!」

二階堂さんが取り出したのは、チョコ菓子『カカオタイフーン』20個入りの箱。

しかも、『GABAとカフェイン入り!ヤングでナウな若者に大人気!』と書いてある。

「これなら気軽に食べられるし、GABAやカフェインが入ってるから授業中や会議中にも眠くならないだろうし、と思って買ったんですが…」

「中々元気が出そうなチョコレートだ。今食べてもいいかな?」

「いいですよ!ただ、カフェイン中毒と食べかすには気をつけてくださいね」

箱から『カカオタイフーン』を取り出し、包装を外す。丸い渦型のチョコレートを口に入れる。

…これ、クッキーが少しだけ入ってるのか。二階堂さんの言う通り、食べかすが出そうだから一口ずつ食べなくてよかったと思う。

「体にも良さそうだし、一口サイズで食べやすいし、これを選んでくれてありがとう」

「せ、先輩!どういたしまして!」

二階堂さんがいきなり頭を下げてきた。

 

「やっぱり先輩は、強くて優しいですね…」

「強くて、優しい…?」

「この前掃除してたら体罰野郎の先公の不倫パパ活の証拠を見つけちまって、色々あってそいつに殴られそうになった時に必死に庇ってくれましたよね」

パパ活する体罰教師って。二階堂さんの学校ってかなり治安悪いんだな…。

「さっきのは、その時のお礼です。こんなんだけど、ずっと前から渡したかったんです」

「いいよ。酷い事するような奴には罰が下るのは当たり前だ。それに、あのチョコは美味しかったよ」

「ありがとうございます。先輩は、とても紳士的ですね…」

二階堂さんが人差し指を合わせ、顔を赤らめる。

 

「先輩…MINEのアドレス、交換しませんか?日常とか宿題のお話でいいんで、先輩と話し合いたいんです」

「わたし、SNSはあまりやらないんだけど…いいの?」

「暇な時で大丈夫です。アタシ、先輩と繋がれるだけで幸せ…って!何恥ずかしいこと言ってんだよアタシ!」

二階堂さんは自分の頭をぽかぽかと殴る。

「自分で自分を責めない方がいいと思うよ…」

わたしの声はそんな彼女に届いていないみたいだ。

 

「先輩と一緒にいるのに、なんでこんなに恥ずかしいんだよ…ちくしょー!」

 

 

 

 

藍葉さんのバレンタインの妄想は、どんなものなんだろう…?

 

「鈴原さん。こんな私の、実験にいつも付き合ってくれてるよね…」

妄想の中でわたしは、藍葉さんを手伝っているのか。

「時々ミスしてビーカーちゃんを割ったり、実験用の塩と砂糖を間違えたりするけど。私が思いつかないような凄いアイデアを思いつく」

…どれだけドジなんだ、わたし。それに、アイデアを出すのが得意なんだな。

「挑戦が怖い私の背中を押して、どんなことがあっても信じてくれる。そういうあなたに、今日はありがとうの気持ちを伝えたいんだ…」

「今日はバレンタインだから、チョコレートなのかな?」

「そうだよ。喜んでもらえるかな…?」

相変わらずの慎重派だけど、彼女の事だからチョコを忘れる…ということはなさそうだ。

 

藍葉さんはカバンの中に手を入れ、リボンと包装紙でラッピングされた赤い箱を取り出す。

「鈴原さん、ごめんね。最初は自分で作ろうと思ったんだけど、埃が入るかもしれないと思ったら怖くて、結局市販のチョコレートちゃんになっちゃったの…」

「いいよ、気持ちがこもっていれば」

「うん…都心部の高級チョコレートショップで50分並んで買えるか買えないかのものだけど」

…そんなレアなものをプレゼントしようとしてるのに、謙遜した態度を取るのか…。

「でも、藍葉さんが50分も並んだってことは、わたしに美味しくて安全なものを食べて欲しいってことなのかな。そういう気持ち、大切にした方がいいと思う」

「そうなんだね。一応毒は入ってないと思うから…食べて欲しいな」

藍葉さんが箱を差し出してくる。受け取り、ラッピングを外し、箱を開ける。

金と銀のアルミに包まれた、一口サイズの丸いお菓子が入っていた。

「ありがとう。じゃあ、食べるね」

アルミを外し、丸いチョコレートを口に運ぶ。中にクリームが入っているようだ…。

「うん。美味しい」

「…よかった…鈴原さんが喜んでくれるなんて、こっちも嬉しくなるなぁ」

幸せそうな笑顔を浮かべる藍葉さん。どうやら安心しているようだ。

 

「ねえ、鈴原さん…」

藍葉さんが見つめてくる。プレゼント以外に何かあるのかな?

「万が一の場合、もし私がどこかで道を間違えていたとしたら…あなたはどうするの?」

大切な人が、間違えるとしたら…わたしは、ちゃんとした方向へと導けるんだろうか、と考える。

「たとえ藍葉さんが誰かにとっての間違いを犯したとしても、わたしはあなたの味方だよ。だから、安心してほしい」

「私の味方になる…あなたのこと、信じてもいいの?」

「大切に思うってことは、そういう事だと思う」

そう言った直後。藍葉さんは、わたしに近づいたと思うと。

「…!?」

いきなり、抱き締めてきた。

「鈴原さん…私も、あなたを信じていいかな?」

思考が停止するが、わたしは無意識に藍葉さんを抱き返す。

彼女の体温が、コート越しに伝わってくる…。

 

「全力で、私を安心させてね。私も、鈴原さんを安心させるから…」


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