・この作品はスパイク・チュンソフト社の作品「ダンガンロンパ」シリーズの、オリジナルキャラクターを使った二次創作です。
モノクマ以外の登場人物は(おそらく)登場しません。
・「ダンガンロンパ」シリーズのネタバレと作者の自己解釈(ゲーム・アニメ共に)が含まれる場合があります。
・17歳以上を対象とした人を選ぶ描写、残虐描写が含まれています。
・文章、トリック、ストーリー共に素人のものです。大目に見てやってください。
・この特別編には乙女要素が含まれています。
以上のことをご理解できる方のみ、お読みください。
では、どうぞ。
「…」
乙女の部屋に置かれているだろうファンシーな家具と、ピンクのハートがプリントされた壁。
座っているのはふわふわのハート型のソファだし、板チョコの模様のテーブルクロスが敷かれた丸いローテーブルもある。
そして、後ろには菓子を作る為であろうカウンターキッチン。
そういえばこのチョコレートハウスじゃ、相手はわたしを理想の相手だと思い込むんだよな…?
チョコレートハウスにいるみんなには、わたしはどう見えるんだろう…?
◆
「…」
いつも純粋な絹川くんだけど、どんな妄想をしてるんだろう…?
「鈴原さん。今日は、勉強はお休みみたいだけど…」
わたしは絹川くんの妄想の中じゃ、勉強を教えているのか…?
「ボクにいつもみたいに、色んなお話を聞かせてほしいんだ」
絹川くんはわたしの話を聞きたいらしいけど、何を話せばいいのかわからない…。ということで、質問してみよう。
「どんな話が聞きたい?話せる事といえば…星座に纏わる神話とか、世界の珍しい風習とか、古典文学のあらすじとかそんなのしかないけど」
「じゃあ…神話の話がいいな。これならお父様にも怒られないだろうし」
…怒られないって?絹川くんのお父さん、結構厳しいのかな?
それでも絹川くんが目を輝かせて待っているみたいなので、早速話そうかな。
「まずはアルゴ船の探検隊の話でいいかな?おひつじ座やヘルクレス座の由来でもあるんだけど…」
「ヘルクレスって確か、凄い英雄なんでしょ?楽しみだなぁ!」
「…その王様の娘が、イアソンのことを好きになったんだよね。そのおかげで…」
絹川くんは、目を輝かせながらわたしの語る神話を聞いている。
わたしは記憶を辿り、本で読んだ英雄たちがどんな活躍をしたのか、どうやって空に輝く星々となったのかを口述していく。
「メーディアの弟さんは、なんで殺されちゃったの?」
「そこがわかってないんだ。時間稼ぎの為なんじゃないかとは言われてるけど…」
「どんな理由でも…弟さんが可哀想だね…」
感情移入しているのか、しゅんとした表情をしている絹川くん。
時に登場人物の成功を喜び、死を悲しみ、活躍を楽しむ。
話しているうちに、絹川くんが本当は感情豊かな人間だということがとてもよくわかってきた。
覚えている限りのアルゴ探検隊の話を終えた後。
「鈴原さんのお話、本当に面白かったよ。そう言えば今日は、チョコレート…を送る日だよね?」
絹川くんが、いつの間にかテーブル上に置かれていた紙袋から、小さな黄緑色の正方形の箱と。
もう一つ、10cmほどの大きさの亜麻色に塗装された木箱を取り出してきた。
「ありがとう。この二つには一体何が入っているの?」
「開けてからのお楽しみ!お菓子の方は作るのは初めてだし大変だったけど、鈴原さんが喜んでくれたらいいなと思ってるよ」
プレゼントされた箱を開けてみよう。まずは正方形の箱を開ける。
…中には、ココアが振りかけられた小さな四つの丸く茶色いお菓子と、白い楊枝が入っていた。
「これはチョコ餅。味見は一応しているからね。気に入ってくれたら嬉しいな」
「早速頂くね。絹川くんだし、きっと美味しくできてるよ」
楊枝でチョコ餅の一つを刺し、口に入れる。甘く柔らかな感触を噛み締め、飲み込んでいく…。
「…甘くて美味しいね。残り三つも食べていいかな?」
「いいよ!鈴原さんの為に作ったし…もっと沢山、作れば良かったかな?」
残りのチョコ餅を全て食べた後、プレゼントされたうちのもう一つの箱を開けることにした。
木箱の蓋を開けると…梱包材に包まれた陶器の人形があった。
壊れないように取り出してみる。背中には白い翼が生えており、大きな星を両手で抱えながらわたしたちに優しく微笑みかけている。
「天使の…人形?」
「うん。ご利益のある粘土を使って、焼いたんだよ」
陶器の感触は硬く冷たいが、それでも絹川くんの想いと熱が伝わってくる。
「鈴原さんがこれからも、幸せに生きていられるように。そんな願いを込めて作ったんだ。気に入ってくれるといいんだけど…」
「相手の幸せを願って、作られた人形だもの。わたしは嬉しいよ」
「…本当?ありがとう!」
絹川くんは顔を赤くしながら、わたしを優しく抱きしめる。
「ひゃっ…!」
つい驚いてしまう。でも、すぐに抱き返す。こうして、わたしたちはお互い笑いあう。
「鈴原さん。これからも一緒に側にいて、一緒に色んなことをお話して…一緒に生きて欲しいな」
◆
湖林くんの妄想は…どういったものなんだろう?
「…おい、濃姫。貴様は現代に随分適応しているようじゃのう」
湖林くんがわたしの肩に手を乗せてくる。そういえば濃姫って、帰蝶とも呼ばれている織田信長の正室だよね。
彼女もまた、彼の中では赤ちゃんの姿でタイムスリップしてきた設定なんだろうか?
「まだ記憶が戻っておらんようじゃ。まあ、ゆっくり思い出せばいい」
「でも、濃姫まで都合良く現代に来るとは思えないんだけど…」
湖林くんがこっちを見て、ため息をつく。しまった。ここは妄想に合わせるべきだったかな…?
「そのはっきり言う態度は相変わらず、マムシに似てるのう」
「…マムシって?」
「斉藤道三じゃ。恐らく様々な武将を殺していき、油売りから大名にまで登りつめ、梟雄と美濃のマムシの異名を与えられた男。貴様の父親でもある…そんな武将じゃ」
妄想のわたしは、そんな下克上に定評のある人の娘なのか。
「教えてくれてありがとう。ところで、濃姫って帰蝶とも呼ばれてるんじゃなかった?」
「帰蝶は江戸時代の『美濃国諸旧記』に出てくる名前じゃ。正直、オレにとってはしっくり来ん」
…後から付けられた名前だから、しっくり来ないのかな。
「ところで、今日はバレンタインだったのう。喜んでくれるかどうかはわからんが…」
湖林くんはテーブルに置いてあった茶色い手提げ袋を手に取り、わたしに渡す。
「駅前で売ってたチョコのかりんとうじゃ。一応手を拭く用のやつも用意しておる」
手提げ袋の中身は…殺菌ウェットティッシュと、甘い油の香りがする白い紙袋が入ってあった。
「湖林くん、ありがとう」
感謝を述べた後、紙袋をゆっくり開けると…褐色で棒状のお菓子が大量にあるのがわかる。
「こんな既製品しか用意ができなったんじゃが、食べてくれるかのう?」
「湖林くんが用意したものなら、きっと心はこもってると思う」
そう言うと、湖林くんの顔が少し嬉しそうな雰囲気になった。
わたしはまずウェットティッシュで手を綺麗に拭き、かりんとうを取って一口食べる。
甘く優しくコーティングされたチョコレートの味と、揚げたてのかりんとうのサクサクとした食感が口の中に広がっていく…。
「…チョコがいい感じに絡んでる。結構美味しい」
「そうか。貴様が喜んでくれたのなら良い。もっと食え」
お言葉に甘えて、更に食べることにした。
「ねえ…湖林くんはかりんとう食べないの?こういうのは、一緒に食べた方がいいと思うよ」
「なっ!?」
そんなことを聞かれた湖林くんは驚いた後、少し照れくさそうに顔を赤くする。
「そうきたか濃姫…貴様は積極的じゃのう。戦国の世も、現代でも変わらん」
「でも今は分かち合ったり、理解したりしていく時代だからね。こうやってお菓子を食べるのも同じだと思う」
湖林くんは紙袋に手を入れ、中のかりんとうを取って食べていく。
「確かに、貴様の言う通りかもしれんのう…」
紅潮した顔を、恥ずかしそうに背けながら…。
「たとえ時代が変わったとしても…オレは貴様には、決して勝つことが出来んのじゃよ…」
◆
未隅くん、どんな妄想をするんだろう。雨崎さんという大切な恋人がいるけど…。
「鈴原さん。今日は話がしたくてここに呼んだんだけど…」
未隅くんは真剣そうな顔でこちらを見つめてくる。
「弁護士の娘である、正義感の強い君なら…あの件について言えると思ってるんだ」
妄想の中のわたしは、弁護士の子供なのか?それにしてもあの件って?
「どんな話なんだ?聞けるならなんでも聞くけど…」
「そうか。ありがとう…。実は僕が教えている後輩が、この前の他流試合で…ペナルティを沢山犯してしまったんだ」
後輩のミスか。責任感の強い未隅くんだから、自分のことのように苦しんでいるんだろうな。
「ハイタックル、コラプシング、アクシデンタルオフサイド…。後輩は上級生たちに責められて落ち込んでた。でも、その日は僕も調子悪かったし、監督不十分だったのも悪いんだろうね…」
…ラグビー用語はよくわからないけど、頭を抱えているのを見ると未隅くんの本心と後悔が窺える。
深呼吸し、未隅くんに語りかける。
「責任を感じているんだね。後輩が落ち込んでたってことは、ペナルティについてはそれなりに反省しているんだと思う」
「鈴原さん…」
「後輩と一緒に反省できる未隅くんはちゃんと頑張れてる。だからこそ、育成を任されたんだろうね」
ラグビー部の現場を知らないわたしの言葉が正しいかどうかはわからないけど。
未隅くんには冷酷なアドバイスではなく、励ましの言葉が必要だと思う。
「梨々も、許してくれるかな…」
彼が雨崎さんが好きなのは相変わらずだ。少し安心した。
「雨崎さんはしっかり悔いているあなたを、嫌いになることはないと思うよ」
それを聞いた未隅くんは、ちょっとだけ笑顔を取り戻している。
「…ありがとう。心がなんだか軽くなったよ」
わたしも安心する。落ち込んでいる未隅くんを見ると、なんだか辛くなるから。
色々相談を聞いていくうちに、未隅くんが懐から何かを取り出してきた。
「これは、話を聞いてくれたお礼だよ。チョコレートじゃないけど」
渡されたのは、ラムネ菓子が入っている青いアルミの袋だった。ご丁寧に『ブドウ糖85%』と大きな文字で書かれてある。
「小説家の母さんがいつも食べているんだ!ブドウ糖は集中力を与える脳の栄養になる唯一の栄養素だからね。これを食べて、頭からスッキリ!筋肉もスッキリ!」
未隅くんが、いつもの元気を取り戻している。
「こちらこそありがとう。じゃあ、食べていいかな?」
「構わないさ!リフレッシュは全てのスポーツマンに必要なものだからね!」
わたしはスポーツマンではないけど…。まあいいや。
青い袋のチャックを開け、中の小さなラムネ菓子を口に放り込む。爽快感とパンチの効いた味が、口の中で溶けていくような…。
「うん。これを食べると、力が湧いてくるような気がする」
「ははははは!母さんは懐かしい気分になれるって言ってたけど、鈴原さんはみなぎってくるんだな!」
懐かしいかどうかはわからないけど、未隅くんの楽しげな様子を見るとこっちも嬉しくなってくる。
「ところで…雨崎さんにはバレンタイン、何か渡す予定とかある?」
「梨々とかい?渡すというより、少しお高めのアフタヌーンティー?を予約しているよ!梨々が喜んでくれるといいんだけど…」
雨崎さんのことだから、きっと喜んでくれると思う。
わたしは未隅くんがこの部屋を出ても、雨崎さんと二人で上手くやっていけることを願った。
「君は僕の数少ない、信頼できる友達…そう思ってるぞ!」
◆
「…」
檀くんが、じっとこっちを見ている。どんな妄想が始まるんだろう…?
「ヴルカーン…あんた、人間になって上手くやれてる?」
早速人間になった、と言ってきたけど…ヴルカーンって誰なんだ?
「アウリンコ海軍が誇る、スピードの速さと対艦に特化した能力がウリのミサイル駆逐艦…」
もしかして今のわたしは…そんなハイスペックそうな駆逐艦が擬人化した存在なのか?
「一応は、なんとか生活できてるよ」
「そっか。元は駆逐艦だから妹系みたいな感じかなと思ってたけど、どっちかって言うと、同級生タイプだな…」
同級生、まあ確かにそんなものかもしれないけど。駆逐艦だから妹系ってどういう事だろう。
「檀くんは、妹系が好きなのか…?」
軽く質問してみる。檀くんは、ビクリと驚いてから顔を赤くする。
「いや、妹系は流行りだけどさ、妹でも姉でも遊んでくれる人の方が個人的には好きだな…」
「…ここで何かで遊んでみる?」
「だね。そういやヴルカーン、テレビゲーム好きでしょ?一応携帯ゲーム機は持ってきてるんだよね」
即答だった。今のわたしはゲーム好きか。檀くんはテーブル上の紙袋から二つ分の携帯ゲーム機を取り出した。
しかし、ヴルカーンと出会って長そうだし、あだ名では呼ばないんだな…。
早速ゲームで遊んでみることにした。対戦アクションものだ。わたしが慣れていないせいか、それとも檀くんが強すぎるのか中々勝てない。
防御して隙を突こうとするのが精一杯だ。
何回目かの勝負の後に、檀くんがわたしに語りかけてきた。
「あんたを操縦して海賊連中を撃破した時、凄く扱いやすい艦だって思った。けど、人間のあんたは違うみたいだ」
…いきなりどうしたんだ。そういえば檀くん、海賊を駆逐艦一隻で倒したって言ってたよね。
「勝つために何度でも必死に足掻いて、突破口を見つけ出そうとする。それが人間の姿のヴルカーン…な気がする」
「そうだね。わたしはアウリンコの英雄とも言える存在だから。操縦させる為の柔軟さと軍の勝利の為にむしゃらになることがわたしのモットーなんだ」
「いつでもアグレッシブなんだね、ヴルカーン。やっぱすごいや」
目をキラキラさせている檀くん。…彼の理想、これでいいのかな。
「そういや今日はバレンタインだったね。本当は女の子が男の子にチョコ送る日だけど。これ、買ってきたよ」
檀くんはまた紙袋から爽やかな青色の箱を取り出し、わたしに渡す。
「檀くん、ありがとう」
箱を包む『jeg skal sende det til deg.』と書かれた金色のリボンを外し、蓋を開けると…赤や黄色、オレンジの綺麗な色のマカロンが入っているのがわかった。
「アウリンコ出身の人気パティシエが作ったやつなんだ。ヴルカーン、今すぐ食べる?」
「じゃあ、遠慮なくいただこうかな」
オレンジ色のマカロンをそっと手に取り、口に入れる。
チョコレートがサンドされた、爽やかなオレンジの味がする…。
「…結構美味しい。流石アウリンコの血を引くパティシエだ」
「気に入ってくれて良かった。俺も食べていいかな」
「いいよ。こういうの、二人で食べた方が美味しいと思うし」
「相変わらず人たらしなんだね。じゃあ一個だけ頂くよ」
人たらし?そんな事を言われると少し驚いてしまう。檀くんは、嬉しそうな様子だけど…。
「元の姿に戻っても、俺のこと忘れないで欲しいな。俺もあんたとの思い出、絶対忘れないからさ…」
◆
「今日は親しい人間に菓子類を贈与する日と言われているが、どのような菓子が正解となるだろうか…?」
イヴァンくんが相変わらず独り言を呟いている。
彼の妄想のバレンタインは、どのようなものなんだろうか…?
「アウリンコとこの国を結ぶ親善大使である貴女が、私と相識してからだいぶ経ちますね。ツバキ」
いきなり名前で呼んできた。それにしても、わたしが親善大使…?
「最初は留学生の一員だと思考していましたが、様々な会話や交流を重ねていくうちに、共にいるだけで心臓が早鐘を打つようになって…そこで認識したのです」
少し人間らしさのない口調は、いつものイヴァンくんだけど…。
「…貴女が、誰よりも大切な存在であると」
イヴァンくんは、真剣そうな眼差しで見つめてくる。
「やがて私は『ツバキと婚約したい』と思考するようになりました。私は、幼少期の時以来に父に意見しました。どうか、婚約させてほしいと」
…わたしがイヴァンくんと婚約?なんだかキラキラした漫画みたいな展開だ…。
「ところで、返事はどうだったんだ…?」
「『お前の連れてきた人間にろくな奴はいない。諦めろ』という回答が返ってきただけでした」
冷たい親だな。イヴァンくんは確か貴族の生まれだから、お父さんも厳しいだろうな…。
「そこで、私は考案しました。『駆け落ち』という行動を取ればいいと」
か、駆け落ち!?思わずソファから立ち上がる。
「イヴァンくん、どこでそんなことを知ったんだ!?」
「外国のテレビドラマです。交際を承認されない人間同士が共に逃避することだそうです。ツバキは、駆け落ちしないのですか?」
ここはイヴァンくんの妄想に合わせた方がいいよな…。
「無論、駆け落ちするよ。わたしのお父さんも割と厳しいから婚約に反対してた。でも、この時が自分の親に反抗できるチャンスだと思ったんだ。荷物も詰めて家出しちゃった」
「…反抗、ですか。実にツバキらしい行動ですね」
「だからイヴァンくんも一緒に、どこかへ逃げよう。旅は大変だろうけど、二人一緒にいればなんとかなると思う」
イヴァンくんに手を差し出すと。彼は大きな手を、わたしの掌に乗せる。
「賛同します。では、次の飛行機が到達するまではここに隠伏しましょう」
手袋に包まれた手からは、熱が伝わってきた。
「そういえば、今日はバレンタインでしたね。ツバキは、アレルギーなどは有してますか?」
「アレルギーはないよ」
「了解しました。では、私からの贈与品であるガトーショコラです」
イヴァンくんは、透明な箱の中に入れられた茶色いカップケーキを渡してきた。
「スプーンと紅茶も一応は用意しています。摂取されますか?」
「ありがとう!じゃあ、飛行機が来るまでゆっくり食べようかな」
箱を開け、スプーンでケーキを掬い口に入れる。
しっとりとした、ほろ苦いビターチョコレートの味がする。
「美味しいね。これ、自分で作ったの?」
「インターネットで検索したレシピに記載されたものを参考に調理しています。ビタミン剤も混入していますが…貴女の評価が高いのなら光栄です」
通りで少し酸味があると思ったけど…まあ、体に良さそうだからいいかな。
「そろそろ、飛行機が到達する時間ですね。空港に向かわれますか?」
全てを食べ終え、わたしとイヴァンくんはソファから立ち上がる。
「いいよ。まず二人でどこに行く?遠い所がいいかな?」
そう言ってチョコレートハウスのドアを開ける。わたしたち二人は、眩い光に包まれていく…。
「ツバキと二人なら、どこまでも行けそうな気がします。貴女は、私の翼です…」
◆
「あ、鈴原姉ちゃんやん…こういう所にいるなんて珍しいなぁ!」
灰寺くんの妄想、どんなのなんだろう…?
「灰寺くん、今日はどうしたの?」
「どうしたって何も…今日はバレンタイン、好きな人とか友達とかにチョコ送る日なんやないの?ってことでチョコ、渡しとくけん」
灰寺くんはいきなり、大きなチョコレートの一つ入った青い透明の袋を渡してきた。中のチョコレートは星型だ。
「何かナッツみたいなものが入ってるけど…」
「これ?マテバシイやな。ドングリの一種で食べられるんやで」
食べられるものなら安心だけど、実に灰寺くんらしいチョコレートだな…。
「…ドングリの入ったものか。じゃあ、早速食べていいかな」
「よかよ!味見もしっかりしてるからお腹は壊さへんと思うで!」
袋を開けてチョコレートを取り出し、食べる。癖の少ないドングリと甘い風味がマッチしている。
「なかなか美味しいね。ありがとう」
「やったー!マテバシイ見つけるの大変だったけど、そう言われると嬉しくなるねん!」
「そういえばさっき、『こういう所にいるなんて珍しい』なんて言ってたけど。一体どうしたの?」
「鈴原姉ちゃん、こういう都会みたいな場所にいることあんまないやん。いつもはテント張って、椅子に座って焚き火してるし。釣りとかカヌーとかもやってるし」
妄想の中のわたしは、アウトドア好きの女子なのかな。
「君に会ったのは…確か裏山の森で昆虫採集とかバードウォッチングとかしてた時やったな。雨が降って、川辺の洞窟で雨宿りしようとしたら中からなんか声がするなーと思ってたんや」
灰寺くんは、少し困ったように話す。
「そんで洞窟の奥に入っていったら足を怪我してる君がいて…大変だ、と思って。雨が止んだ後君を抱えて下山したねん」
灰寺くんは、わたしの命の恩人なのか…。
「それから鈴原姉ちゃんにはお世話になってるな!しっかりとしたテントの張り方とか、森の中で飲むコーヒーの美味しさとか。僕にも分からんことを教えてくれて、本当感謝してるねん」
テントを張った記憶はないけど、灰寺くんも、わたしの恩人なんだな。
「灰寺くん」
わたしは楽しそうに話す灰寺くんを見つめる。
「…え?鈴原姉ちゃん?」
「わたしも、あなたに出会えてよかったって思ってる。あの時洞窟にあなたが入らなかったら、わたしは今ごろここにはいなかっただろうし」
灰寺くんは顔を赤くしたまま硬直する。
「だから、これからも一緒に森の中でアウトドアやっていこうね」
「…そう、やな…」
例え妄想の中だとしても、目の前にいる灰寺くんは灰寺くんだ。
だからこそ彼を尊重したいし、彼らしさを肯定したい。
夢から覚めても、そうやっていきたいと思った…。
「鈴原姉ちゃん。やっぱり、一緒にいたいんやろうか。僕も…同じかな…」
◆
目の前の蒲生くんは、いつも通りの笑みを浮かべている。こんな彼だけど、どういう妄想をしているんだろうか。
「今日も、天が輝いていますね…」
優雅に本を読み、チョコレートハウスのプレッツェルのような窓をうっとりと見つめる蒲生くん。
「ねえ蒲生くん。今読んでいる本はどういうものなんだ…?」
「知らないのですか、シスター。これは天の書うちの一書。天の言葉が書かれたものです」
わたしは蒲生くんの信じる宗教のシスターなのか。それにしても、蒲生くんの信仰の深さは凄いな…。
「確かシスターは、インターネットで見た広告で天について知られましたよね?」
インターネットでも広告やってるんだな、蒲生くんの宗教。
「そして、アイドルのオーディションを受ける感覚で蒲生教会にやってきて…書斎の天の書を読み漁って…見事天を信じるようになられた」
なんてアグレッシブな入信の経由なんだろう。
「貴女は天の書を読み、こう申されました。『天は美しく、厳しく、そして嘘をつかぬもの』だと。天の素晴らしさに目覚めてシスターとなられたのですね」
確かに天気予報はともかく天候は正直だ。雲の動きで雨が降るかが分かるし。
それに、雨の日も晴れの日もある。天の書に書かれていることは…ってあれ?
なんでわたし、天の宗教に共感しているんだろう?これが妄想の中にいるという代償なのかな?
「ところで、今日はバレンタインですね」
蒲生くんが懐から、取っ手のついた正方形の紙箱を取り出してきた。
「天も『大切な日、親しき者には甘いものを捧げよ』と申されています。これは、僕からのギフトです」
渡された紙箱を早速開ける。茶色い、チョコレートのかかったリング状の揚げ菓子…ドーナツが三つ入っていた。
「ありがとう。蒲生くんの手作り?」
「はい。天の教え通り、国産のグルテンフリーの小麦粉と揚げ油に米油を使っていますね。因みにチョコレートは指定産地のものです」
天という存在は健康や産地にも気を使っているんだな。随分と現代的な宗教だ…。
「じゃあ、いただきます」
手に取ったドーナツを一口食べる。しっとりとしているし、味がチョコレートといい感じに共生しているのが良い。
「結構美味しいね。蒲生くん、料理できたりする?」
「機械を使わなければ作れますね。ミキサーなるものを使おうとしましたが、なぜか故障してしまったのでやめました」
ドーナツ作るのってミキサー必要だったっけ…?
「シスター。一つ、お願いがあります」
蒲生くんが、ドーナツを全て食べ終えたわたしに声をかけ、手を握ってくる。
「例え貴女にどのような不幸があったとしても、どうか天と…僕だけは裏切らないでください」
「…いきなり、どうしたの?」戸惑いを隠せないあまり、口をぽっかりと開けてしまう。
「天はいつも貴女を愛しています。天の言葉は貴女に光を与えます。そして、僕は貴女を導きます。だから、いつまでも信じていてください」
こんな状況でも蒲生くんは笑顔を絶やさない。
蒲生くんも天も、わたしの信仰を試しているのかな。
考えているうちに蒲生くんの握る手の力が強くなっていく…。
「貴女の心を、天は信じています。そして僕も貴女の心を、守りますからね…」
◆
梅田くんの妄想は、どんなものだろうか。
わたしには想像がつかないけど…。
「一年C組の、鈴原椿…だったよなー?」
一年生?わたしはそれよりは少し上だけど、妄想の中では梅田くんの後輩なのかな。
「今度の日曜、遊びに行って見ねえかー?新しいブックカフェが出来たんだよなー」
いきなり遊びに誘われた…!?目の前の梅田くんはモジモジしながら会話をしている。
「いいけど…どうして誘ったんだ?」
「…いつも図書館で本読んでるから、読書好きなのかなと思ったんだよなー。それにあんた、オレと同じ図書委員だし」
図書委員の後輩か。やっぱり、いつも行動を共にしてるのかな。
「折角だしいい感じのブックカフェで一緒に読書したいなー、と思ってるんだよなー」
「そうか。わたしの趣味、知っててくれてありがとう。日曜日、二人でブックカフェに行こうね」
梅田くんのお願いなら、断りきれないな。
「…やったぜー!あそこにはいろんな本あるらしいし、楽しみだなー」
万歳する梅田くん。それほど妄想の中のわたしと、一緒にブックカフェ行きたかったんだな…。
「あと、今日はバレンタインだったよなー。これ、食べねえかー?」
梅田くんがいつの間にかテーブルに置かれた紙袋から、箱を取り出した。
箱は美しい幾何学模様が表紙に書かれた本のような形をしている。
「ありがとう。結構センスある本の箱だね」
「こっちこそなー。オレもこの箱、気に入ってるんだよなー」
蓋を開けると、ナッツやココアパウダーなどで飾られたトリュフチョコレートが入っていた。
高級店か百貨店で買ってきたのかな。そう思いつつ、早速一つを手に取って食べる。
ココアによって引き立てられた、生チョコレートの柔らかい味がする…。
「結構、美味しいね。もっと食べていいかな?」
「OKなんだなー。これ、あんたの為に買ってきたしなー」
梅田くんが胸を張る。わたしは次のトリュフを口に入れ、味わっていった。
「そういや鈴原、髪型変えたのかー?」
「わたしの髪型が、どうかしたのか…?」
「いや、いつもの三つ編みじゃないんだなー…」
髪を結ぶのは得意じゃないんだけど、妄想の中ではわたしは日常的に三つ編みなのかな。
「その…解いてるのも、いいなって…」
はにかみながら梅田くんに褒められた。なんだかこっちまで緊張してくる。
「三つ編みじゃない方が、風呂に入る時にわざわざ解かずに済むって知ったんだ。似合ってるって言われたなら…嬉しいな」
「ううっ…!」
わたしが感想を述べた直後、梅田くんが胸を押さえたと思うとソファにドサリと倒れた。
「大丈夫か!?なんか水、持ってきた方がいいよな!?」
必死に起こそうとするが、梅田くんは多幸感に溢れた表情のまま目を閉じている…。
「今、なんだか胸が熱いんだなー…オレでも上手く言葉にできないけど、これが…あぁ…」