・この作品はスパイク・チュンソフト社の作品「ダンガンロンパ」シリーズの、オリジナルキャラクターを使った二次創作です。
モノクマ以外の登場人物は(おそらく)登場しません。
・「ダンガンロンパ」シリーズのネタバレ(ゲーム・アニメ共に)が含まれる場合があります。
・文章、トリック、ストーリー共に素人のものです。大目に見てやってください。
以上のことをご理解できる方のみ、お読みください。
では、どうぞ。
わたしたちがヒストリヱランドに連れてこられてから、3日が経とうとしていた。
その日のレストランの朝食はカレーだった。朝からカレーだなんて重い。
「3日が経過したが、助けは来ない。それに朝に私がステージ上に作成したSOS信号は消失していた。
モノクマとカラフラの仕業だと言うのか…。」
イヴァンくんの独り言は相変わらずであり、檀くんは黙ってそれを聞いている。
「なあ、これって巨大組織どころか政府の陰謀じゃねえんか?」
湖林くんもカレーを頬張りながらイヴァンくんに尋ねる。
「政府、ですか。マフィアやギャングといった犯罪組織よりは現実味がありますね。
ですが、目的が不明だ。塞翁ヶ馬学園の卒業生は各界に巨大なパイプを持つとはいえ、将来有能な人材となる我々をなぜ殺し合わせるのだろうか」
途中から独り言になってしまっているみたいだ…。それほど追い詰められているのか、それともまだ冷静なのか。
「ねえイヴァン。私の考えを聞いてくれないかしら?」
冷静な態度で、隣の席の黒木さんが言った。
「私たちが参加するこのコロシアイ。犯人を当てる推理ゲーム要素。
…これ、スナッフフィルムとして撮影されているんじゃないの?」
「え…?砂遊びビル?」灰寺くんは驚いた様子だ。
「裏社会で流通される、人が殺される様子を娯楽目的で撮影した映像作品。イヴァンなら知ってそうだけど?」
「存じ上げてますが…なぜそう思考されたのでしょうか」
スナッフフィルム…名前はある映画で知っていたが、まさか現存するとは思っていなかった。
黒木さんは電子生徒手帳を取り出すと、校則の項目をタッチし、わたしたちに見せつけてきた。
⑤監視カメラの破壊を禁じます。
⑦ヒストリヱランド内で殺人が起こった場合、生存者による全員参加の学級裁判が行われます。
⑧学級裁判で正しいクロを指摘できた場合、殺人を犯したクロだけが処刑されます。
⑨指摘できなかった場合、クロ以外の全員が処刑されます。その場合、クロだけが卒業し、ヒストリヱランドから脱出することができます。
「確かあいつらは言ったわよね?『正しいクロを指摘するのが学級裁判』『指摘できなければクロ以外が処刑される』って。つまり犯人当てゲームなのよ、これ。
私たちの様子は犯人当てゲームとして撮影されているの。監視カメラを破壊してはいけないのも撮影するためでしょうね。
芸能人たちが正解を答えるクイズ番組と同じく見世物にされてるのよ」
「スナッフフィルムなんかとクイズ番組を一緒にするのはどうかと思うなー…」
「あの…黒木さん…ちょっと思ったんだけど…」藍葉さんが手を挙げた。
「あら、どうしたの?」
「…犯人が誰なのか、正しい答えを黒幕自身が知る方法でもあるんじゃないかな…?」
藍葉さんの声は弱々しい声でもあったが、真実を言い当てる強さも持ち合わせている声だった。
「それもありますね。正しい解答を認知しない黒幕というのは、テスト問題の解答を所持していない教師と同じと思えばわかりやすいでしょう」
「私もそう思ってるわ。恐らくモノクマにルールが破られない限り、何もしていない人間をクロにすることはないと思うわ」
わたしたちの様子が、スナッフフィルムにされる。
思わずふざけるな、という声が出そうになる。わたしたちの命は見世物じゃないんだ。
綺麗事かもしれないけど、命の火は消したら終わるものだ。だから、人の命を自分の快楽のために消すことは決してしてはならないんだ…。
その時。緊迫した空気に似合わないチャイムと放送が流れた。
「えー…塞翁ヶ馬学園遠足実行委員会がお知らせします」
「午前9時から『動機』をプレゼントいたしますのだ」
「生徒のオマエラは至急、全員第一エリアのステージにお集まりください!」
「集まらない人はなんちゃらコンバットよろしく脊髄引っこ抜かれて死んじゃうのだー!」
モノクマと、カラフラの声だった。
「…え?動機って?」
「静かに。死を防ぐために今はモノクマの指示に従いましょう」
「僕はまだカレーは4杯目なんやけど…ステージに集まれって?」
「オレもカレー2杯目なんだけどー…」
嫌な予感しかしない。けど今はステージに向かうしかない。
◆
ステージにたどり着く。演台には金持ちの家に飾られてそうな、巨大な液晶テレビが鎮座していた。
そしてモノクマは…リモコンを持って演台の中央に座っていた。
「モノクマ、君は僕たちをここに集めて何がしたいのか。今の僕には理解できない」
「えー?未隅くんさっき言ったじゃん。動機をプレゼントするって。
雨崎さんといちゃついてて聞こえてなかったの?まあいいや。
この『カラ☆フラTV』を見ればすぐに理解できるよ。
ってことで、カラフラー!でーておーいでー!!!!」
モノクマがリモコンを押した瞬間。女性のシルエットが出てきた。
「アナタラ、美少女は好き?マスコットには飽きた?それならカラ☆フラTVを見るのだ。拒否は認めないのだッ!」
カラフラの声が鳴り響き…
液晶テレビには似合わないレトロな『カラ☆フラTV』のロゴが出たと思うと…
法廷風のセットと、白と黒のブレザーを着た、カラフルな髪の、ポニーテールにサイドテールにアホ毛の美少女が出てきた。
「超高校級のみんな〜!息と文化してる〜!?おはろんぱ〜!
動機発表バラエティ『カラ☆フラTV』の時間なのだ♪」
…え?これ…カラフラ本人なの?
「マスコットに飽きたアナタラの為にサプライズなのだ!超マスコット級のカラフラ・美少女フォームなのだ!」
超高校級のカラフラ?どういう意味なんだ?
というか何で美少女なんだ?何でも美少女にする萌えブーム?
「な、何をしているのでしょうか?カラフラは確か、花の姿をしていたはず…」
流石のイヴァンくんも戸惑っているようだ。
「うーん、そこの外科医師くんには日本の萌え文化は理解できないようなのだ。
それは置いといて早速動機発表なのだー!」
画面内の美少女カラフラはブレザーを脱ぎ出す。官能的に、胸部をアップにしながら…。
「な、何とやましいのですか!この番組では怒髪も天を貫きになられるだろう!」
「徹底的に媚びてますわ…ああ、吐き気がする…!」
蒲生くんと一ノ瀬さんの気持ちはわかる。というか、なんで動機発表で脱ぐのか。
だけどブレザーを脱ぎ終わった瞬間、美少女カラフラは白と黒の煙に包まれ…赤い色が眩しいミニスカサンタになった。
「くひひ、全部脱ぐと思ったー?残念でしたのだ!ちなみに今回の動機はなんと!初回特典で2つセットなのだ!」
「何がサンタクロースじゃ!そんなもん信じとらんわ!」
…織田信長のタイムスリップ説は信じるのに、サンタは信じてないんだ…。
って、動機が2つ?それって…
「1つは…季節外れのサンタクロースが、アナタラに希望をプレゼントするのだ♪
モノクマー!プレゼント袋持ってくるのだー!」
「はいはい…こういうのは妹とか息子とか娘とかの役目でしょ?ダルいなぁ…。まずは雨崎さんからねー」
モノクマが液晶テレビの裏から、嫌々プレゼントを持ってくる。そして、オレンジのリボンに包まれた黄色い箱を持ってきた。
「あ、あたし?」雨崎さんはモノクマの方向へ向かうとプレゼントを受け取った。
「必ず自分の部屋で開けるのだ!動機がおぞましいものですぐにコロシアイが始まらないようにね♪」
プレゼントは次々とわたしたちに配られていく。薄い封筒を受け取った者、巨大で重そうな箱を受け取った者…。
「次は鈴原さんね。どうぞ」
モノクマはやる気のない様子でわたしにピンク色の封筒を渡した。人面花カラフラのシールが貼られている。
◆
ようやく全員分のプレゼントが配られたようだ。
しかし、動機発表はまだ終わらない。
「第2の動機を発表するのだ!では早速クイズ!クイズアナタラの身長と体重は何㎏?」
「男女問わず人の体重を勝手に調べるなんて非常識だよー!」
雨崎さんは画面を睨みつける。
「私の全長は3㎝ほど増加しておりました。それが何か?」
答えたのはイヴァンくんだった。
「おっ!早速計った方がいるみたいなのだ!」
「ぴーん!」
モノクマの頭からなぜか◯の描かれたプラカードが飛び出す。
「モノクマさん!どうぞなのだ♪」
「…ボクなんかが答えていいのかな?」
いきなりクイズ番組になった。
「オマエラが黒幕に数年間の記憶を奪われちゃった…でいいのかな!?」
どこからかピンポンピンポンという正解音が聞こえた。
「まあ、わかってたんだけどね!」
「そう!詳しく言うとアナタラはなんと…わーたちに塞翁ヶ馬学園に入ってからの一切の記憶を奪われてしまったのだ!」
…えっ?
わたしたちが、モノクマとカラフラに記憶を奪われた…?
茶番としか思えないクイズ番組だが…『黒幕に記憶を奪われた』という、明らかに残酷な真実を告げていた。
◆
「…どういうことなの?」
「…記憶無くなってるのか…ってえええええええ!?」
皆が呆然とする。
「そういやオマエラさ、入学式の時、校門を潜ろうとした瞬間に不思議な目眩あったよね?あれからの記憶を消してるんだよね。
記憶操作ネタなんてそこらのアニメかゲームの話だって思うでしょ?
でも、これが現実なんだよ。フィクションでもなんでもないんだよ」
「ふざけんな!というか何年かってアバウトすぎるんじゃ!」
「うそでしょ…私たちの家は?家族は?」
「あ、アテクシが密かに作っていたあめだま星への帰還ロケットはどうなのですか!?」
「さあ、知らないなあ。そんなに答えを知りたいなら誰かを殺して学級裁判することだね」
「正解は『卒業』のあとでなのだ!」
カラフラは液晶テレビから消え、モノクマはどこかへと去っていった。
何年かの記憶を奪われた?どれくらい?まさかわたしたち、もう高校を卒業する年だったりする?
困惑する皆。そこに一つの声が響いた。
「みんな!落ち着こう!こういうときは深呼吸だ!」未隅くんだった。
「僕は親交を深めるために毎日の7時半と夜の7時には全員で集合する『食事会』を提案したい。
なぜ朝の食事会が7時半からかって?皆寝起きだったり着替えの時間があったりするだろう?」
「食事による交流によってお互いを監視する。コロシアイを防ぐには最適ではありますね」
「ははははは!皆を纏めるのもリーダーの役割だからね!」
いつのまにイヴァンくんと未隅くんがダブルリーダーになっている。そういえば夜の10時から7時までは『夜時間』だっけ…
この時間は、あまり出歩かない方がいいのかもしれない。
◆
皆それぞれ部屋に帰っていき、わたしも部屋のベッドに座っていた。
カラフラのシールが貼られたこと以外は何の変哲もない封筒。残酷な真実でも、開けるしかないのか。
シールをゆっくりと剥がし、封筒の中身を取り出す。
「うわあああああああっ!?」
思わず声が出てしまった。
封筒の中身は返り血のついた望遠鏡の写真。これは…明らかに自分が誕生日にプレゼントされたものだ。
思わず吐きそうになる…だけどこれはモノクマとカラフラの罠かもしれない。わたしたちを殺し合わせるための…。
…あれ?
よく見たら写真はもう1枚あるようだ。2枚目の写真を見ると…茶色い髪と黄色いワンピースが可愛い少女の写真だった。
しかも、カラフラそっくりで。なのに、赤褐色の髪で…。
…記憶にない女の子だ。誰かの動機と入れ間違えたのかどうかはわからない。
なぜ望遠鏡の写真とセットなのだろう。なぜ彼女の写真があるのだろう。
思考を巡らせていたその時。頭痛と誰かの声がした。
「…ちゃ…ん…」
「つ……ちゃ……」
「あなた…は…ほんと……は…!」
「ううっ!?」
一瞬、ストローが水に差し込まれるように何かを入れられた感覚がした。
あの望遠鏡は何?お父さんとお母さんは今何をしているの?奪われた数年間の記憶って?
思わず、出たい…という欲求が深まってしまう。でも、殺人だけはしてはいけないという意思で抗う。
…そういえば。
わたしには同じ天文学者のお父さんがいて、彼によく反発していた。それからか、天文台のレストランで働き始めた。
確か、レストランには人気メニューがあったはずだ。
働いていた人たちの年齢層は…。
それ以前に…
お父さんと…なぜ喧嘩していたんだろう…?
…あれ?
わたしのお父さんとお母さんの詳細な性格。
レストランの内装。そこで働いていた人たちのエピソード。
通っていた学校の友達との思い出。住んでいた街での会話。
わたしが前に住んでいた世界の『設定』は思い出せても…『物語』はほとんど思い出せない。
『お父さんに反発していた』こと自体は思い出せても、『原因や内容』がわからない。
夢には出る。でも、中々思い出せないのだ…
身体が固まる。
モノクマが記憶を奪っていったのか、それとも…誰でもない第三者?
…動機の入った封筒を机の中に入れた。
望遠鏡に少女。気になることはあるけど、今は…脱出口だけでも探さないと。
◆
蒲生くんは時計塔の前にいた。ベンチでいつも持ち歩く本を読んでる所が様になってる。
「鈴原嬢ですね。共に天の書でも読まれますか?」
どうしよう。今は蒲生くんと過ごしてみようかな?
蒲生くんの教えを聞くことにした。
蒲生くんと仲良くなった気がする。何かご利益がありそうだ…。
一緒に過ごしたお礼に『名画折り紙』をプレゼントすると、
「ああ、これもヒトが天へと捧げた奇跡か。ありがとう。今日の天への捧げ物としましょう。」
それなりに喜んでくれたようだ。
今の空は雨が降りそうな曇り空だ。わたしは蒲生くんに尋ねてみた。
「ねえ、傘は持ってる?雨が降りそうなんだけどさ」
「大雨の時以外は持ちませんね。雨というものは天がもたらすものですので少しくらい濡れても天の恵みを授かったと考えます」
「じゃあ外出先で大雨が降って、そのとき傘を持ってなかったら?」
「流石に濡れすぎるのは困るので、近くの建物に入って天の書を読んだりしていますね。」
「それにしても、天の書って?蒲生くんが腰に提げている本のこと?」
蒲生くんは笑顔で答える。
「そうですね。天の教えが書かれた書物のことです」
「そもそも天ってどういう存在なの?」
「簡単なこと。『超高校級の天文学者』である鈴原嬢ならわかるはずです」
蒲生くんは上を指差した。
「えっと…おてんとさまってことかな?」
「太陽だけではありませんね」蒲生くんはきっぱりと言う。
「じゃあ…お空全体が神様ってことなのかな?」
「その解釈が近いですね。天は全てを創られた全能の創造主であり観測者。いつも僕や貴女たちを見られています。
おっと、話が逸れましたね。天の書の教えに興味はありますか?」
宗教にはあまり興味はないけど、どういうのが書かれてるのかは気になるな…。
蒲生くんは腰のベルトから天の書を外し、ページを開く。
「天の書には天の功績や人がなすべき事が書かれております。例えばなすべき事。『植物を育てよ』『猫とは常に友であれ』『常に微笑みを絶やすべからず』といったものや…
『横断歩道の白い部分は必ず踏んで歩け』『生まれた日には3回回った後に砂糖水を飲め』…というものなどがお書きになられています」
「さ、砂糖水って!?」
わたしは思わず驚いてしまった。
「確かに変わった教えもあるでしょう。ですが、天の書には生きるに当たって大切なことが書かれているのです。
例えば…『弱き者は助けよ』などが代表的なものですね。
僕はそれを守るために、燃え盛る家の中に取り残された、一人の子供を救出したことがあります」
天の書。おかしな教えも書かれているけど、人に危害を与えるようなものは書いていない。
蒲生くんは、そんな天の書の教えを大切にしてるのか。だから、命を張って人を助けることもできる。
彼が強い人であることをわたしは知った…。
『神父らしく、天と呼ばれる存在を大切にしている。
彼の持つ天の書には善行の教えや変わった儀式の方法が書いてあるとか。』
◆
黒木さんはお土産屋を物色している。
「ここで自主映画でも作れればいいんだけど…監禁下で作られたスリラー映画とか話題になりそうでしょ?」
こんな黒木さんだけど、一緒に過ごそうかな?
という訳で、黒木さんと映画のネタ探しをした。黒木さんと仲良くなれたようだ…。
インスピレーションが湧くかなと思い、『ブリキの兵士』をプレゼントすると…
「今度の新作は特撮にでもしようかしらね。あなたがプレゼントしたこれ、セットに使えそうだし」
結構嬉しいみたいだ。良かった!
黒木さんは、お土産屋で買ったと思わしきペンとメモ帳をいつも持ち歩いている。
こんな状況下でもネタ探しは欠かせないんだな。
そういえば『灰色のフレデリカ』ってどんな映画なんだろう?観たことはないけど…
「黒木さん、『灰色のフレデリカ』の製作秘話とか教えてくれるかな?」
「…あら?私の映画の話を聞きたいのかしら?観たこともないのに?」
「そうだけど、観てからの方がいい?」
「ネタバレが怖くないのなら聞かせてあげるわ」
「別に怖くないよ。簡単なあらすじとか見どころとか、どこのカットがお気に入りとかそう言うのでいいよ。観たくなったら後で観るから」
「わかったわ。『灰色のフレデリカ』はラブコメホラー映画なの。ゾンビと人間が殺し合いをする世界のお話よ。
冴えない普通の青年が主人公で、ヒロインはゾンビ化しながらも正気を保ってしまったダンサーの女。
二人が出会って愛し合うけど、反ゾンビ組織にヒロインが狙われて…」
それから黒木さんは、『灰色のフレデリカ』の簡単なストーリーを教えてくれた。
B級映画のお約束を守りながら純愛を描き、完璧でない二人が愛し合う過程は丁寧。
そして、完全なハッピーエンドではないが切なく衝撃的なラスト…。
うん、結末ははぐらかされたが、なんだか観たくなってきた!
「…お色気要素もないこの映画がなぜ評価されたのか。それは脚本もあるけどカメラワーク、無名だったヒロイン役の演技。
私だけでなく様々なキャストやスタッフ、スポンサーによって『灰色のフレデリカ』は作られたの」
「…そういえば黒木さん、映画部には入っていたのかな?」
「そうね。『灰色のフレデリカ』は映画部員と演劇部員と制作したのよ。映画部員は私以外は男子しかいなかったから、
女性キャストは演劇部員の人を連れてきたわね。こうしてあの映画はその年唯一のレオナルド賞を受賞したの」
レオナルド賞?プロからアマチュアまで傑作と言われる一握りの映画だけが取れる、あの賞…?
「私は映画部と演劇部の人たちも『超高校級の女優』『超高校級の脚本家』とか言われてスカウトされても良かったと思うの」
黒木さんはなんだかんだで、自分だけでなく映画部や演劇部の部員のおかげで映画を作れたと思っているんだな。
…でも、塞翁ヶ馬学園に入学するってことは、コロシアイに巻き込まれるってことだよね?
そこはどうなんだろう?
わたしはそれから、黒木さんと好きな映画の話をした…。
『代表作『灰色のフレデリカ』は映画部員や演劇部員と撮ったラブコメホラー映画。
黒木は自分の力だけでなく様々な人たちの力で評価されたと思っている。』
皆と過ごしつつ脱出口を探したけど、どうしても見つからなかった。
夜の19時なのでレストランに向かうことにした。
◆
夕食はカラフラの作った海鮮丼だった。
「この海鮮丼、サーモンが天然モノですわね。脂が少ないですわ。個人的には脂が乗っていた方が好みでしてよ」
一ノ瀬さんが海鮮丼に乗るサーモンに文句を言っている。
旅館などで出される刺身の味を分けられるのは流石『超高校級の女将』と言ったとこか。箸運びも綺麗だし。
食事中。隣の席の絹川くんはなぜか席の近くに人形の入った鳥かごのようなものを置いている。
もしかして…モノクマとカラフラの動機だろうか?わたしは食べながら聞いた。
「あのさ、絹川くん。あそこにある鳥かご…何なのかな?」
「…ごめんなさい。動機なんだけど、これが何なのかを言うのはモノクマから口止めされているんだ」
絹川くんは元気のない表情で答える。
「そっか。聞いて悪かったね。海鮮丼、美味しい?」
「…わからない。天然モノのサーモンらしいけど…ボク、こういうの食べたことないから」
「海鮮丼、食べたことないの?」
「お刺身はあるよ。でも、食べてきたのは違うものだったから」
違うものって何だろう。
「僕がモノクマから渡されたのは何かのディスクだったけど…見なかったよ。割ってゴミ箱に入れたのさ!」
「僕のプレゼントは…聖母像の頭部の残骸でした。しかも、自分が育った蒲生教会のものです」
向こうのテーブルでは未隅くんと蒲生くんが談話している。未隅くんは一見何ともなさそうに見える顔だが、
蒲生くんは疲れ切った顔だ。教会が何者かに襲撃されたショックは大きいだろう。
「私は…誰かに荒らされた学校の実験室の写真だったよ…ほら。こんなにグチャグチャだと有害ガスが発生しちゃうよ…」
藍葉さんはカバンから写真を取り出す。それを、雨崎さんが慰めている。
「大丈夫だよ。きっとミー君とイヴァンくんが脱出方法を見つけてくれるよ」
食事後、別のテーブルのイヴァンくんが立ち上がり、わたしたちに告げた。
「今日、洋館に潜入する機会がありました」
…え?洋館に入った?あのトラップの仕組まれた場所に…?
思わず洋館のトラップのことを言いかけるが、口を塞ぐ。
「その洋館の2階への扉は固く閉ざされていました。2階への潜入方法は今の所ゼロです。
私はそこが黒幕の潜入場所ではないかと思考しております。危険なので洋館には皆さん近寄らないように。」
イヴァンくんはどうやらトラップのことは知らないみたいだ。良かったのか悪かったのか。
「それから。夜の10時から朝の7時までは、ホテルの外へは決して一人で外出しないようお願いします」
真剣な目つきで訓戒するイヴァンくん。その横には頭の後ろで手を組む檀くんがいた。
そうやって時間が流れていくうちに夜の9時になった。雨崎さんが提案した花火大会の時間だ。
1時間程度しかできないけれど、折角だし広場に行って楽しんでこよう。
◆
こうして花火大会が始まった。
メンバーは女子はわたし、主催の雨崎さん、バニラさん、黒木さん、二階堂さん、藍葉さん。
男子は絹川くん、未隅くん、灰寺くん、蒲生くんだ。
二階堂さんは後に雨崎さんに誘われて来たんだとか。
花火は手持ち花火と噴出花火しかなかったが、炎の光はこの監禁生活を照らしているように見えた。
花火から放たれる鮮やかな色と煙の香りは、わたしたち。
「あー!灰寺くん二本持ったら危ないよぉ!」
「えー?僕のお父さんいつもこうやって持ってるけど?」
「火傷したら水で冷やして、ワセリンを塗って、ラップを貼ればいいんだって…湿潤治療って言うの。
ワセリンもラップも全部カバンの中にあるから何かあったら言ってね。そもそも火傷自体したら大変だけど…」
「あれ、黒木さん何持って…って!?」
恐ろしいことに、黒木さんがタバコの箱を持っていた。
「黒木さん!流石にタバコは大人だけでなく子供にも危険だぞ!」
「それ、当たり前じゃないの…」
「タバコの副流煙で死んじゃうよ!?」
「タバコなんて危険なもの吸うわけないじゃない。私はまだ未成年よ?見てなさい。」
黒木さんは涼しい顔で、緑色の箱からタバコを一本取り出し…置いてあったロウソクで火を付ける。
すると灰色の煙…ではなくシュウシュウと音を立てながら金色の火花が出てきた。
「え?花火…?」
「お土産屋に置いてあったものを改造してみたの。ネットのドッキリ映像の真似よ。あとタバコの中身は洋館の多目的ホールに捨ててきたから。」
洋館みたいな危険な場所にまた行ったのか…。命知らずな。
「黒木殿…これ、誰かが見てるかもしれないのですぞ…監督人生がどうなってもいいのですか…?」
バニラさんは冷や汗をかいている。
「ドッキリもひとつのエンターテイメント。それに直接吸ったわけじゃないから大丈夫だと思うわ」
黒木さんは、このコロシアイをエンターテイメントとして見ているのか?
少し恐ろしくなった…。
「まあ、みんな聞きたいことがあるんやけど」灰寺くんが聞いてきた。
「みんな、塞翁ヶ馬学園にスカウトされる前の日常って、なんか覚えてるんか?」
日常。
それは、わたしたちが当たり前に過ごしていたもの。どんな人間にも存在するもの。
モノクマとカラフラによって奪われてしまった、わたしたちの日々…
「わたしは…お父さんとは毎日喧嘩ばかりで、レストランのバイトばっかしてたよ。
お父さん、仕事上手くいってなかったみたいでさ。みんなは?」
「僕は…信者の皆様の懺悔を聞いたり、暴力を受けていた女性の保護などを行なっていましたね」
「私?新作のアイデア練りで忙しかったのよ」
「アテクシはコスプレとお化粧の動画第二弾を作成してたのです!第一弾が50万PVを突破したので」
「毎日撮影とかロケとか友達とお買い物とかデートとか…」
「僕はアマゾンの奥地の探索の計画立ててたんや。あ、のが多くなった」
「毎日チンピラどもの落書き消すのに忙しかったなー…」
「僕も忙しかったね。練習と練習と練習とデートでね!」
「実験と新作の発明…だったかな。脳を活性化させる発明品とか、神経を活性化させる薬品を作ってたの」
「じゃあ藍葉殿!アテクシとその薬品をベッドで一緒に使」
「バニラさん、流石に自重しよう!」
皆、日常があった。
それぞれの人生。それぞれの生活。それぞれの時間。
その日常が破壊されたと思うと…心が苦しくなる。
だから、コロシアイなんてものは許してはいけないんだ。
ふと、気になることがあった。
「絹川くんはさ、スカウトされる前は何をしてたんだ?」
「…人形、作ってたよ。ボク、人形に囲まれて暮らしてるんだ。だから、人形を作ると友達が増えたみたいで嬉しいんだ。
でも、こうやって人間とお話しするのも…楽しいね」
人間とお話するのが楽しい…?
絹川くん、人間の友達がいないのかな、と思ってしまった。
「ねえ、線香花火が余ってるから皆みんなでやろうよ」
雨崎さんが線香花火をわたしたちに渡してきた。
この夜みたいな日々が、ずっと続きますように。
そう考えた。
夜の9時50分になり、皆で帰ることにした。
朝、湖林くんがこのコロシアイを巨大組織の仕業だと言っていた。
…抗っても無駄なんだろうか。いや、違う。わたしたちは平和な時間を過ごせたじゃないか。
わたしたちは、モノクマやカラフラには絶対負けない。元の日常に戻ってみせる。