カースドプリズン。その名前を知るヒーローは少ない。
かの全能存在ギャラクセウスでさえ、星の命すらも脅かす可能性を持った彼を拘束の力を持つ鎧で封じ込めることしかできなかった。
生まれながらにして暴君であり、絶対的な力を持った太古の
唯一対抗できると言われているのが、拘束される前のカースドプリズンをモデルにチューニングされたと言われる流星のヒーロー“ミーティアス”。
どちらも私にとっては先輩であり、関わることのできなかった存在だ。
何故なら、偉大なる正義と邪悪は既にこの世界にはいないはずなのだから。
「二度は聞かねえ、何者かは知らねえが死ね」
カースドプリズンが乗っていたトラックが軋み、衝撃音とともにへこんでいくのが分かる。膝を軽くを折ってタメを作っただけでこれだ、そのは威力は推して知ることだろう。
私は咄嗟に右に跳び無様でも転がるように路地裏へと入っていく。
立っていた場所のコンクリートがえぐれる。ただの蹴り、特殊な武器や異能ともいえるものではなく突出した身体能力故の結果だろう。
(本当に……化物じみてる)
誘導していた大通りでの戦闘は市民を巻き込む可能性がある。なるべくなら避けたいところだ。そんな彼女の心境を知ってか否か、背後から強烈な音とともに追ってくる気配がする。走りながら物を飛ばし、一通りが少なく広い場所を探していく。
最低限会話ができる環境を作らなければ今彼女を追っている“災害”はその足を止めないだろう。
(せっかく……せっかく会えたのに!)
彼女は一般市民に比べて体力はあるが、先輩たるヒーロー達に比べると貧弱であった。それは、彼女の力の源とその願い故にだがここでは割愛。
足を動かし前に進む、辺りに被害が出ないように最低限気を配る。
彼女レベルのヒーローならば、本来は五分もしないうちに災害(カースドプリズン)に殺されているだろう。しかしそうなっていないのは、単に追いかけてくる相手が手を抜いているからにほかならないだろう。
こうしている間にもビルが倒壊しているのが見える。焦る気持ちもあるが、今はこの状況を打破するために走るしかない。気がついたら木々に覆われた広い公園へとついていた。
「クソッタレの気配や格好で同種か流星みたいな奴かと思ったが……この程度で息を切らし膝に手を乗せる。どういうことだ?」
「どういう……ことって……?」
「女。その力、ギャラクセウスのものだろう。クソ流星以外に授けてるのはこの際どうでもいい。寄越せ」
カースドプリズンの着ている鎧はその名前のとおり“呪いの牢獄”だ。その傲慢さと破壊衝動から星を壊しかねないと思ったギャラクセウスによって着せられた囚人服であり、牢獄そのものだ。しかし、その牢獄を開けることが出来るのもまたギャラクセウスの力である。カースドプリズンはそれゆえにヒーローであるミーティアスを倒し自由を得ようとしている──私の知る彼の情報はここまでだ。
「いいえ、渡せません。」
「あん?可否を聞いてるんじゃない。これは決定事項だ!」
手首から肩にかけてまで付いていた梯子が力任せに延びてくる。
私はそれを<<瞬間分解>>でバラバラにする。
「──なるほどな、奴と違っててめえは技巧派ってことか」
「っ」
カースドプリズンの真に恐ろしいのはその能力の高さだ。なにせ本来なら牢獄として不自由を強いられるのに、その牢獄さえも武器に変え周りの物を取り込み己の力に変える。銃や斧、時に車やバイク、果ては戦闘機や戦車まで取り込むそうだ。きっと今はその梯子の形状から消防車の一部でも取り込んだのだろう。そして彼はこちらの一連の流れを見て理解した。
私の瞬間分解はそのものの構造を一つの鍵に見立て、解錠する。一見する触れただけでモノがバラバラになったように見えるかもしれないが、彼はそれを“技”だと言った。それはこちらのしていることが僅かではあれど理解できたからだろう。
(カースドプリズン……やっぱり力だけじゃなくて、頭もいい)
思わず口角が釣り上がる。会いたいと思っていた相手が自分の想像の二足も三足も上にいるのだ嬉しくないはずがない。
「この状況で笑うか。やっぱりクソッタレが気に入りそうな奴だなァ」
使えなくなった梯子の接合部分を肩から力尽くで剥がし投げ捨てる。
周囲には彼が取り込めそうな乗り物も武器もない。だけどそれだけで油断するには圧倒的にこちらの火力不足だ。
「改めて名乗ってやろう女。俺様がカースドプリズンだァ、てめえを蹂躙してやる。」
「ロックピッカー……あなたを解錠します。」
片方は防災斧を構え、片方は独特な構えをとり向かい合う。
そして事態は動き出す。