月衣を纏いしもの ネギま!×ナイトウィザード   作:上州剛馬

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自分の遅筆に悩む今日このごろ。


第2話 月匣

 

 

 

 

紅き月が昇る時、

世界は虚飾に満ちた現実を脱ぎ捨て、真実の姿を見せる。

開いた月門の向こうから彼らはやってくる。

世界を侵す者、エミュレイター。

世界を破壊するためも、彼らは世界に侵入する。

あまりにもろく、ギリギリに保たれた現実、そんな世界を守るのは、

人が遠く過去に置き捨ててきた力、

魔法の力。

それを使うのはウィザード、夜闇の魔法使い。

 

 

 

 

宙に浮いたサメ達の鮫肌を特殊な加工を施した投げ針で切り裂く。

傷口は針に仕込まれた毒によって変質し、魔物の身体を蝕み、その動きを弱らせる。

特殊な投擲術で即座に手元に戻した針を構え、敵の攻撃に備える。

 

「単純な思考のサメもどきか。」

 

匠は四方から勢いよく突進してくるダークシャーク達を危なげなく躱し、纏った幻で相手を翻弄する。

ダークシャーク。そう呼ばれる、見た目通りサメ型のエミュレイターだ。

空中を泳ぎ、獲物に向かって突撃してくる。

特殊な能力こそ無いが、高い移動力と低レベルのナイトウィザードなら一撃であの世行きという攻撃力を誇る冥魔である。

この魔物にとって人間などプラーナを貪るための餌でしかない。

 

だが、匠は黙って喰われる餌ではない。

このネギま世界で侵魔と戦うようになって、数年が過ぎ、何度も死にそうな目に遭いながらも戦い、生き残ってきた。

奴らを狩る。

そう、侵魔こそ匠の獲物なのだ。

 

「悪いが、今日中に帰りたいんだ。さっさと決めて、先へ進まさせてもらうぜ。」

 

あたりに立ち込める湯気に紛れるように気配を消し、両手に構えたヘルニードルを一斉にダークシャークの群れめがけて放つ。

新たな場所に傷を作り、その傷もどす黒く変質していく。

一体が泡を吹いて水面に落ちたのを皮切りに、次々にその巨体が力を失って落ちていく。

その攻撃そのものには耐えられたものも、仕込まれた毒が回って絶命したのだ。

死んだ魚そのままに水面にぷっかりと浮いた次の瞬間には、魔物はその身体を魔力の塵とかして砕けてしまう。

あとには赤いガラス塊のようなものが湯の中に残っていた。

 

このビー玉のようなものは〈魔石〉。侵魔が滅びる際にたびたび残す、物質化したプラーナだ。

うまく使えばナイトウィザード自身の消費したプラーナを回復することができるため、

高額で取引されることもある。

匠にとっては貴重な収入である。アンゼロットからの支援もただでは無い。

こうやって集めた魔石や侵魔の情報を対価にして色をつけて貰わねばナイトウィザード一人しかいない辺境世界などすぐに干上がってしまうのだから。

 

魔石を回収しながら、匠は自分の戦い方にやれやれとため息をついた。

毒をもり、相手の力を弱め、チクチクと耐久力を削っていく。

まったくもってヒーローとは呼べない華の無い戦い方。

まあ、サイレントウォーリアのクラス名の通り、もともと盗賊暗殺者系統の職業なので、攻撃の安定性はほとんどないのだ。

相手を型に嵌めてしまわねば、匠自身の命が危ない。

まだまだ、月匣のダイブは続く。

匠は気を引き締めて周囲の気配を探りつつ、奥を目指し歩き出そうとしたその時。

 

 

「「「きゃあああああああっ」」」

 

唐突に悲鳴が響いた。

女の声だ。

声からしてさほど遠くない場所、それも複数。

 

「イノセントが巻き込まれたか」

 

まずいなと、内心毒づきながら匠は全力で走る。

イノセントとはナイトウィザード以外の人間の総称である。

本来は第八世界ファー・ジ・アースの住人のことだが、侵魔に対抗する術を持たないこの世界の住人もイノセントと呼んで差し支えないだろう。

 

ナイトウィザードや侵魔は〈月衣(カグヤ)〉と呼ばれる特殊な個人結界を纏っている。

月衣の最大の特徴は常識の遮断である。

これは物理法則などを遮断し、あり得ないことを引き起こす。

成層圏から自由落下しても燃え尽きもしなければ、地面に激突しても死にはしない。

宇宙や深海、果てはマグマの中であっても生きて動き回る。

戦車に轢かれても痛いですます。

通常の物理法則に従う攻撃のダメージの大半を排除してしまう。

非常識の存在となることで、常識の制約を受けることがなくなってしまうのだ。

 

月衣を纏う者を倒せるのは月衣を纏う者だけ。

侵魔を倒せるのはナイトウィザードだけなのだ。

 

イノセントが侵魔に捕らわれたらどうなるか。

一切の抵抗は無意味だ。

侵魔にはいかなる攻撃も通らない。

その身を喰われ、プラーナを絞り尽くされてしまう。

そしてプラーナを吸収した侵魔は徐々に力をつけ、世界そのものを喰らうようになっていく。

そうなる前に、なんとしても侵魔を倒さなければならない。

この世界だだ一人のナイトウィザードとして。

 

匠はまるで障害など無いかのように水面や湯から突き出た岩などの上を、重力を無視する走りで飛び回り、悲鳴の元へ駆けた。

 

湯煙の中から現れたのは粘性の物体でできた不定形の魔物、一般的にスライムと呼ばれる種類の魔物だ。

こいつはその中でも強力なミミクリースライムと呼ばれる冥魔である。先ほどのダークシャークよりも高位の魔物で特殊の能力を有している。

それが身体を大きく引き延ばし、今にも襲いかかろうとしている。

 

スライムの手前には憐れな被害者なのだろう、五人の少女がいた。

背の高い金髪の少女と褐色の肌の少女が前に出て、後の三人をかばい立ち向かおうとしているようだ。

褐色の肌の少女が気合いの入った踏み込みで拳をたたき込んだが、ミミクリースライムは表面がへこんだだけで、すぐに元の形に戻ってしまっている。

なんらダメージを負った様子も無い。

当然である。

ミミクリースライムの身体は物理攻撃を無効化してしまうのだ。

どれだけ殴っても効果が無い。

 

「下がれ!さっさと逃げろ。」

 

匠は少女達の背中に怒鳴りつけ、少女達の前に出る。

少女達は突然現れた匠に驚き悲鳴を上げているが、構う暇はない。

いつの間にかその両手に構えたヘルニードルと特殊な貝殻〈爆貝(ボムシェル)〉を同時に投げつける。

〈蟹〉属性の魔法エネルギーが巻き上がり、ミミクリースライムの身体を焼きながら後方へ吹き飛ばす。

そしてその粘性の身体に、いつの間にか仕掛けられていたワイヤーが絡みつきミミクリースライムの身体の動きを阻害して、少量だが身体を削った。

だがそこは、こんなのでも高位の侵魔、高い耐久力を誇る魔物だ。戒めなど無いかのようにすぐに動き出す。

ちまちまと削っていくしかない。

 

だが、距離をあけた今がチャンスだ。

足手纏いには引いて貰おうと、ミミクリースライムからは視線を離さずに匠は後ろの少女達に怒鳴りつける。

 

「こいつは俺の獲物だ。素人はさっさと離れろ!」

 

わざと語気を荒くして、反論を封じようとしたのだ。

しかし、肝の据わっているというか現状がわかってないというか、背の高い少女は数歩下がっただけで匠の背をにらみつけた。

位置的に背後の三人を匠からかばうような位置取りだ。

 

「あ、あなたこそ何者ですか。こんなところで何をしていますの。」

 

少女は声をうわずらせていたが、匠にも余裕は無い。

ミミクリースライムの核を見定めて確実に耐久力を削っていかねばならない。

だが、頑強な防具を装備できない匠は、相手の攻撃を全て見切って避けきらねば命は無い。

一度でもまともに攻撃を受ければ即動けなくなってしまうだろう。

失敗も許されない作業は極限の集中力が必要なのだ。

 

「ちょっと、話を聞いていらっしゃいますの!」

 

少女の質問には答えず、匠は再びヘルニードルと爆貝によって吹き飛ばし、ワイヤートラップと併せて距離を稼ぎながらミミクリースライムの耐久力を削っていく。

合間にミミクリースライムの粘性の身体を使った攻撃を確実に避けて、自身の纏った幻を貼り付け、弱体化をも狙った。

 

徐々に少女達から距離を離し、安全を確保する。

何度もミミクリースライムを吹き飛ばして漸く魔石へと変えたころには、

淡々と作業をこなす匠へあきれた表情を向ける五人があった。

 

 

 

 

「お前等、怪我はないか。」

「哈ッ」

 

侵魔を倒し、漸く声を掛けた匠への返答は褐色の少女の跳び蹴りだった。

だが、攻撃をまともに喰らうのつもりなどない匠は危なげなくそれをさばいてしまう。

 

「いきなり何をする。」

「それ以上近付いたら、チカンとして成敗するアル。」

 

匠が文句を言おうとさらに近付こうとして、少女達に向き直ると、そこには少しマズイものが見えた。

五人が五人ともタオルや手で局部を隠しているだけで、そろって裸なのだ。

いや、褐色の少女ーーー古菲はそんな格好なのに跳び蹴りなんて放っている。

有り体に言って丸見えである。

 

「向こうをお向きなさい。」

 

背の高い金髪少女ーーー雪広あやかの言葉に匠は黙って回れ右をした。

 

「なんで、そんな格好でこんなとこに居んだよ。」

 

巻き込まれたであろうイノセントを助けに来てみれば、裸の少女の集団である。

これはなんてエロゲーだと、匠はため息がでた。

 

「それはこちらの台詞です。ここは本校女子中等部の学生寮。女子寮の、しかも大浴場に男性が入ってくるなど言語道断ですわ。」

 

そうだそうだとあやかの言葉に同意して、エッチなどとヤジを飛ばす少女達。

その台詞から匠は入浴中に巻き込まれたのかとあたりがついた。

彼女達はまだここが女子寮の中だと勘違いしてしまっている。

 

「あの化け物から私達を守って下さった事は感謝しております。ですが、あの化け物について説明を求めます。」

 

説明を求められて、匠は困っていた。

今までも巻き込まれたイノセントはいたが、大抵がプラーナを吸われていたり月匣の環境に耐えきれず意識を失っており、はっきりと意識のある被害者は初めてのことだった。

 

「まず、あなたのお名前から伺いますわ。私は女子中等部2-Aの学級委員長雪広あやかと申します」

 

そう言ってあやかは自己紹介は自分からと名を告げると、他の少女も次々に名乗り始める。

 

「古菲アル。」

「私、椎名桜子!助けてくれてありがとね!」

「私は明石裕奈。爆弾でバーンって、派手だったね!」

「・・・長谷川千雨。」

 

名乗られていくうちに、ヤバイと匠の頭の中は警鐘が鳴っていた。

全員がネギまのクラスの人間であった。

 

「俺は千石匠。男子中等部の2-Dの生徒だ。」

 

どこまで説明するべきか、そんな難題が匠の頭をぐるぐる回ってしまっていた。

すべてを説明など出来はしないので、ぼかすしかないのだが、匠にはどこまでぼかすことができるのか自信がなかった。

 

「千石さん、ですのね。では千石さん、あの化け物はなんですの?」

 

あやかは努めて冷静にこの初めて会った少年に尋ねた。

黒いゴーグルで顔を覆って隠しているが、あの化け物を相手に真剣に戦っていたことはその引き締められた口元だけでもわかったし、よくわからない道具を使っていたが化け物をあやか達から引き離そうとしていてことは見て取れた。

今もあやか達の名乗りに答えて名乗ってくれていることで、悪い人間ではないとあやかは判断していた。

 

「そうアル。私がいくら殴ってもビクともしなかったアル。それに手応えも変だッタ。」

 

古菲はうんうんとあのスライムの感触を思い出していた。

拳を当てたのに、力がまったく伝わらない。触っているのに動かない。

彼女の経験に無い、全く未知の感触だったのだ。

 

「あれはエミュレイターって呼ばれてるモンスターの一種だ。」

 

そう切り出し、匠は自分をそのモンスターの処理を行っているとだけ説明した。

魔石を取り出し、あれの核でこれを高額で引き取ってくれるところがあるのだと、まるでモンスターハンターみたいな説明をする。

イノセントが真実を知ると精神に異常をきたすことがファー・ジ・アースではあるらしかったので、間違っていないが真実でないという説明である。

まあ月匣の中での記憶はイノセントの場合、消えてしまうこともあるのだが。

はじめは信じられないといったあやか達だが、大金持ちのあやかも見たことの無い魔石という不思議な鉱石の存在でかろうじて嘘ではなさそうだという結論に落ち着いていた。

 

「それではそのエミュレイターがここに現れ、そしてそのことをあなたはどうやって知り得たのです?」

「そうそう、お風呂にこんなのが湧くなんて思ってもみなかったし。」

 

あやかの質問に裕奈が感想をかぶせてきた。

だが、彼女達は前提を間違えている。

 

「ここは女子寮の風呂場じゃない。月匣って呼ばれてるエミュレイターの巣だ。」

「「「「「えっ?」」」」」

 

これにあやか達は驚きが隠せないといった声をあげた。

 

「ちょっと待て!私らは普通に風呂に入っていたんだぞ。そしたらあのスライムが襲ってきたんだ。その月匣だかに移動なんてしてないぞ!」

 

たまらず千雨が、普段の物静かな雰囲気から想像もつかない勢いで捲したてた。

一番匠との距離を取っていたのでざばざばと湯を蹴飛ばして、匠に詰め寄ろうとするが、途中で裸なのを思い出したのかすぐさま湯の中に座り込んでしまった。

 

「本当のことだ、ここは月匣の中。第一、周りを見てみろ。湯煙のせいで判りづらいが寮の風呂がこんな広さのわけないだろ。夜空だって見えてるし。」

 

事実男子寮の風呂など詰めても湯船に2クラスの人数も入れないような広さで、天井も低かった。

 

「そうかな、同じくらいだと思うけど。」

「天井もガラス張りで高いし。」

「ターザンごっことか、クロール対決やるアル。」

「何クラスか同時に入ってもいいように広さは確保せれてますわ。」

 

匠はひどい格差を見た気がした。

学園長が施設費を他から絞って、自分の孫のために設備を優遇しているという話が事実なんだと改めておもった。

 

「それにあれだけ騒いでも誰一人入ってこないし。それにエミュレイターに襲われて、何で逃げて助けをとかしてないんだよ。」

 

それは匠にはちょっとした疑問だった。

男が近付いてきたのに、あやか達は岩陰に身体を隠すとか、服を匠に要求するなどせず、湯船から出ようとしていなかった。

 

「いえ、それは裸で飛び出す訳にも・・・」

 

あやか達はつぎつぎに、今思い付いたような言い訳で風呂から出ないことを言い繕っていた。

その時、匠はぴんっときた。

 

「もしかして、風呂に入っている時に『いい湯だな』とか言わなかった?」

 

それはこの月匣(フォートレス)の主(ルーラー)の正体に迫るキーワード。

 

「ええ、今日のお風呂は気持ちよかったので、そのような事は話しておりましたがそれが何か?」

 

ビンゴである。

同時にこの月匣に課せられたルールも匠には判った。

 

「いや、言ったならいいんだ。気にすんな。」

 

“温泉女王”の異名を持つ魔王クロウ=セイル。

かの魔王が作り出した魔王温泉。

浸かったものを取り込み成長するこの侵魔は一度取り込まれたら最後、魔王温泉が倒されるまで風呂に入り続けようとしてしまう。

要するにあやか達は月匣によって書き換えられた非常識のルールに縛られて、風呂に入り続けようしているのだ。

『いい湯だな』とは魔王温泉のキーワード。

奴につながった風呂で口にすればたちまち取り込まれてしまう。

 

「まあ、ここは月匣の中だ。お前等がどうやって入ってきたのかはこの際どうでもいいんだ。大事なのは脱出しなくちゃならないってこと。」

 

だから移動すると匠は強引でもあやか達に風呂から出て貰うことにした。

イノセントからは微々たるものとはいえ、プラーナを吸収されて敵が強くなってはたまらない。

 

「裸で歩き回るってのは、ちょっと勘弁してほしいかなぁ」

 

裕奈のそんな文句に同調する彼女達に、しかたないと匠は自分の制服を貸すことなった。

今は彼女達を連れ出さなくてはならないのが最優先である。

幸い、装備は呪練制服なので普段の制服は月衣の中にしまってある。

月衣は物理法則を排除する防壁あるだけでなく、一種の収納庫のとしての機能もある。また月匣の中では使えないが飛行能力ももつ。

 

だが制服は一組。彼女達は五人である。

明らかに衣類が足りない。結果は惨憺たるものだ。

スラックスを履いて胸はタイルを巻いたあやか。

胸と腰にタオルを巻いただけの古菲と桜子。

裸学ランの裕奈。

裸Yシャツの千雨。

 

前世持ちとはいえ、中学生には目の毒な光景である。

こんな状況以外の時にしてほしい。

匠の偽らざる気持ちだった。

 

こうして足手纏いを五人も連れた月匣攻略(フォートレスダイブ)は開始された。

 

人生という冒険は続く。

 

 




のっけから温泉回。
描きたいことがうまくまとまってないです。
練習作品なので、感想ご指摘歓迎です。
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