月衣を纏いしもの ネギま!×ナイトウィザード   作:上州剛馬

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待っていてくれている人がいるかはわかりませんが、お待たせしました。
おかしいんです、予定では7日は前に投稿していたはずなのに。



第3話 エミュレイター

 

 

月匣の攻略の難易度は、その月匣を構築した主(ルーラー)によって決まる。

工夫を凝らした罠を仕掛けるもの、ただ獲物を貪るだけのもの、無意味な装飾に凝るものなどなど様々にいる。

ルーラーの意思によって月匣は生まれ、ルーラーの意思に支配される。

逆に言えば、月匣はルーラーを映し、その影響をもろに受けてしまうのだ。

内部が温泉で構成されたこの月匣は、温泉に並々ならぬ執念がこもっているといってもいいのかもしれない。

この月匣のルーラーと思われるのは、魔王クロウ=セイルの作り出した侵魔である魔王温泉なのだから温泉そのものなのだが。

ちなみに、ある調べによると迷路だったら嫌な場所トップ3のひとつが温泉らしい(byパズル好きのミノタウロス林檎)。

 

匠は、出口に向かうと説明してあやか達五人を先導しながら、月匣を進むことになった。

詳しい説明をすることを匠は放棄していた。

あやか達から投げかけられる質問にはここは図書館島の地下のような迷宮であり、麻帆良市の地下には無数にあるのだと嘘をつき、詳しくは匠自身も知らないのだということにした。

道中には間欠泉による熱湯攻撃や地面が脆くなっている落とし穴など単純な天然のトラップから、人を飲み込む蟻地獄のような砂風呂や流水で溺れさせる流れる温水プールなど温泉施設に偽装したものまであり、皮肉で言えば趣向を凝らしたスーパー銭湯のようでもあった。

麻帆良学園には歴とした部活として図書館探検部なんて地下迷宮探索の部活があるので、あやか達には他にもあったのかと納得してしまった。

若干一名、「ありえない。」や「おかしいだろ。」とブツブツと突っ込みを繰り返しているが、匠に面と向かって文句を言うことはなく、おとなしく後についてきている。

まあ、聞かれたところで匠は詳しくは知らないとはぐらかすだけなのだが。

 

 

 

 

「いや~、結構スリルがあって楽しいね。」

 

次にどんなアトラクションがあるのだと言うように裕奈は、この月匣を楽しんでいるようだった。

もうモンスターに襲われていたことなど忘れて、今を楽しむ。

致命的な罠やモンスターを匠が取り除いているので、専門家がいるから安心だといった所か。

 

「裕奈さん、これはスリルがあるというレベルを超えてしまっていますわ。下手をすれば大怪我をしてしまいます。」

 

あやかは、そんな裕奈をたしなめようとしているが、当のあやか自身怪我で済むと思っているので危機感が薄れてしまっている。

 

「わかってるって、いいんちょ。」

 

そう言って裕奈も軽く返してしまっている。

 

「ねえねえ、匠くん!図書館島の地下もこんな感じなの?」

 

女子集団から数歩先を歩いている匠の背に桜子は声をかける。

桜子もすでにこの探索をアトラクションとして楽しんでおり、クラスメイトから聞いている噂の図書館島の冒険を擬似体験しているつもりになっている。

 

「さあ?俺は図書館探検部じゃないんで、図書館島の地下は潜ったことが無い。まあ、同じ麻帆良の地下だから似てるかもしれないが、図書館島のほうはエミュレイターが出たとは聞いたことがないから違うんじゃねえかな。」

 

チラリと後ろを確認だけして、すぐに前方へ向き直り匠は答えた。

内容は答えになっているか怪しいしろものだが。

下手に後ろを向いても危ないのだ。

何度もお湯に濡れて全員が水の滴るといった様になっている。

ナイトウィザードで月衣のある匠はすぐに平気になってしまうが、あやか達はすでに布地が肌に張り付いて裸よりエロい格好であった。

水物の定番の服が透けるハプニングというやつである。

 

「じゃあさ、集めてるモンスターの石って売れるんだよね!どのくらい儲かるの?」

 

金額に興味津々といった体である桜子に匠はため息がでそうだった。

ずぶ濡れとはいえ月匣の中が風呂場として快適ように気候が保たれているようで、寒さは感じない。

肌のお湯は熱を失っていないかのようであった。

風邪を引く心配はなさそうである。

 

「ピンキリだよ。買い取ってもらえないようなクズ石から何百万もするのもある。」

「「「何百万!?」」」

 

予想外の金額であったのか、聞いてきた桜子だけでなく裕奈や千雨まで驚愕の声を上げていた。

何百万といってもナイトウィザードの扱う通貨は円ではなくV.(ヴァルゴ)である。

価値はファー・ジ・アースで1円が1V.なのだが、交換できないので売れても匠が金持ちとはならない。

 

それに匠の使っている武器のひとつヘルニードルなど一つ4百万V.もするのだ。

上級の魔法アイテムである魔法の箒にいたっては、性能やカスタムに比例して天井知らずの値段になる。

消耗品のことも考えれば1つが何百万で売れても元が取れるか判らない。

 

「すごいじゃん。じゃあ、売れたら何かおごってよ。」

 

焼肉に行こう焼肉と裕奈はもうおごってもらう気になっている。

桜子もすごいすごいと囃し立て、千雨はあんな石ころひとつでパソコンがと何かの不平等を嘆いている。

 

「無事に帰れたらな。」

 

心の中で月匣の外に出て憶えていられたらと付け加えて、匠は軽く返答しながら歩みを進める。

ところどころに床にバッテンを付けるのを忘れない。

熟練の狩人のような知覚を持つ匠はトラップを見逃すことは無い。

今度のトラップは点々と配置された滑る床だった。

 

「バッテンの所は避けろよ。滑って怪我するから「ズテンッ」・・・。」

 

言っているそばから、古菲が滑る床に踏み込み見事に転んでしまった。

 

「大丈夫ですか古菲さん。お怪我はございませんか。」

 

すぐさま近くに居たあやかと桜子が引き起こすが、軽くダメージを負ってしまったようで、膝と手のひらを擦っている。

 

「イタタタ。すまないアルいいんちょ、桜子。」

 

ハハハッとぎこちなく笑う古菲。

明らかに本調子ではない。

 

「これを傷口に掛けとけ、傷薬だ。」

 

そう言って匠はHPヒールポーションと包帯をあやかに投げ渡し、治療を頼んだ。

 

古菲が不調なのはある意味当然であった。

武門の名家である古家の者としてずっと行ってきた鍛錬の成果である武術は、まだまだ未熟である自覚はあっても古菲にとって誇りとしてきたものだ。

うぬぼれるつもりはないが、古菲は自分が弱いとは思っていなかった。

だが、月匣の中で出会った侵魔に対して何の役にも立たなかったのだ。

どんなに気を込めた発勁も渾身の蹴りも、相手に触れはしても何のダメージも無くはじかれてしまう。

また、侵魔はプラーナを狩るものたちであるため、より大きなプラーナを持つナイトウィザードである匠を優先して狙った。

古菲は侵魔に無視でもされるように後回しにされたのだ。

侵魔の強さが普通の強さで無いことは古菲自身理解できていたが、何をどうすれば侵魔に攻撃を届かせることができるのかまったく想像できなかった。

これは古菲が今までに感じたことの無い感覚だった。

強い奴に会いに行くを地で行く古菲だが、強い武術家に会ったのとはまるで違う感覚。

強さが理解出来ない不気味さ。

武術家としての根底が否定されてしまった、そう古菲は感じてしまったのだ。

匠に言わせれば、武術家としてどころか存在自体が根本的に違うため認識が追いつかないだけなのだが、バカといわれても案外常識人の古菲には非常識過ぎて酷な話であろう。

 

「千石さん、傷薬ありがとうございます。それで出口はもうすぐとのことでしたが?」

 

手早く古菲にHPヒールポーションを塗って治療したあやかが匠に確認を取る。

 

「ああ、この先にいる奴が出口を塞いでる。そいつを倒せば外へ出られる。」

 

匠のナイトウィザードとしての感覚が、最深部にいる月匣を展開している侵魔を捉えていた。

前世の知識からそれが魔王温泉であるとも予想がついている。

匠とは相性が良いとは言えないが、戦えないことはないだろう。

 

 

月匣の最深部。

そこはこれまでの天然露天風呂風な景観とは異なり、大理石に囲まれた、古代ローマめいた大きな浴場があった。

浴室の広い湯船いっぱいにお湯が張られている。

 

「ここでストップ。部屋には入るなよ。」

 

浴室の入り口であやか達に警告し、匠が湯船へ近づいていくと、お湯がうごめき人型をとって唸りをあげた。

 

「オレ・・・・・・温泉。プラーナ・・・もっと。」

 

暗く、水の底から伝わってくるようなくぐもった声がささやかれる。

あまり上等な知能は備わって無いようだが、さずがに月匣を展開するだけあってビリビリとした殺意がある。

匠は静かに標的として狙いを定め、まわりの湯気に同化するようにゆらりと間合いを詰める。

両手には毒で濡れたヘルニードルをそれぞれ構え、必殺の一撃とまではいかないが、確実に相手の急所を抉る一撃を繰り出した。

ゆらゆらと幻であるかのように実体をつかませず相手の死角に入り込み、死に神のごとく魔王温泉の身体を削っていく。

 

「お前・・・プラーナ、たくさん。お前、殺す・・・・・・プラーナ、手に入る。」

 

魔王温泉もその液体の身体をくねらせて、湯を高圧で吐き出してくる。

熱湯があたりに飛び散り、場の湯気はいっそう濃くなっていく。

 

常人なら視界を失い、高温の湯気に肺やのどをやられ、体力を奪われもおかしくない状況だ。

だが、非常識の存在であるナイトウィザードはなんら問題なく侵魔を追い詰めていく。

自らの知覚が告げる相手の急所へ正確に、確実に。

針を爆弾をナイフを、時には張り巡らせたワイヤーをたたき込む。

 

「これで、終わりだぁ。」

 

匠から会心の一投が放たれ、込められたプラーナが炸裂する。

同時にあたりに配した火薬を爆破し、侵魔の防御の体勢を崩す。

液体の身体に大穴が空き、ゆっくりと全体が崩れていく。

 

「ウゴゴゴ・・・・・・オレ・・・崩れる・・・・・・・・・プラーナ・・・もっと・・・・・・。」

 

魔王温泉が形を無くし、ゆっくりと消滅していくのを見届ける。

空になった湯船の底には、大ぶりの魔石が一つぽつんと残っていた。

 

魔王温泉が完全に消滅すると、まわりからもゆっくりと魔力が抜け、形を失っていく。

月匣を維持するものがいなくなったため、異空間自体が消滅しているのだ。

これで、内部のものは現実世界へと戻される。

 

匠が手早く魔石を回収する間にゆっくりと周りの景色が崩れ、世界が変わっていく。

 

月匣が崩れきるのと同時に匠が踏み出すとそこは真っ暗な部屋の中に出ていた。

タイル張りの床に、壁にずらりと並んだシャワーのノズル。

運動系クラブのための部活棟のシャワールームだ。

どうやら、温泉魔王はここを基点にしていたようだが、温泉の名を持っているくせに本拠地が湯船もないシャワールームとは何とも間抜けな話である。

いや、だからこそ周辺の風呂場に触手を伸ばしたのかもしれない。

何ともいえない感想でため息をつきそうになったのを飲み込んだところで背後でドタドタッと人の倒れる音がする。

 

「お、重いですわ。」

「真っ暗だー!」

「・・・どこだ、ここ。」

 

そこにはあやか達が折り重なって倒れていた。

どうやら、現実世界に転移した衝撃で立っていられなかったようだ。

半裸の少女達があられもない格好で折り重なっている姿に、匠は自分が暗視持ちであることが役得なのか後の禍根となるのか判断がつかなかった。

卑猥な意味で鏡餅という言葉が思い浮かんだが、それは思考から追い出すことにする匠であった。

 

さっさとシャワールームのドアを出て匠は更衣室に入っていく。

更衣室にも明かりはついておらず、匠の知覚も無人であることを告げていた。

時計を確認すると既に午前零時を過ぎているので、こんな時間まで残っている生徒もいないようだ。

匠にとって幸いなことに男子更衣室であったので、今この瞬間に見回りの教師か来てもごまかすことは可能だろう。

 

「怪我はないか?」

 

一旦、廊下まで出て無人であることを確認してから更衣室の明かりをつけて、匠は奥のあやか達に声をかける。

同時に月衣に戦闘用の装備をしまい、運動用のジャージへと着替えてしまう。

 

「ええ、怪我はありませんわ。」

 

シャワールームからそろそろと明かりのついた更衣室へと移動し、ベンチで一息付くあやか達。

濡れて身体に張り付き透けたり体型が出てしまっているが、得体の知れない空間から解放された反動か無防備な姿を晒してしまっている。

 

「服とタオルを調達してくる。ここで待っていてくれ。」

 

ついっと顔を背けて、自分は紳士だと言い聞かせる匠であった。

 

「わかりました。では、お願い致します。」

 

あやかに了承を取って場を離れようとすると、裕奈によって注文がついた。

 

「それならさ、私部室に着替えあるから取ってきて。」

「そっか、ここ部室棟だもんね!じゃあ、私もっ!私もっ!」

 

裕奈に続いて桜子もこれ幸いと着替えの場所を教えてきた。

だが、匠は「却下。」とにべも無い。

 

「ええ~。何でよ。」

 

即座に断られて不満顔の裕奈だが、匠にしてみればたまったものではない。

 

「女子部の部室に侵入なんて出来るか!第一、部室の鍵はどうすんだよ。」

 

鍵がなければ入れないし、中の着替えを取れない。

正論である。

まあ、トラップの探知解除に精通している匠には部室棟のセキュリティなど無いも同然なのだが。

「それもそうか。」と納得した裕奈だが、時間をかければ何かしでかしそうな不安を匠はひしひしと感じていた。

すぐに戻ると告げて、さっさと更衣室を出てしまう。

普通に歩いて自分の所属するパルクール同好会の部室へ行くつもりだったが、時間を掛けられないと裏技を使うことにした。

 

ずるりと自らの影の中に入り込み、真っ暗な闇の中を道でもあるかのように踏み出す。

瞬時に部室の中に影から歩み出て実体化する。

影を使った転移技である。

空間にもよるが約30mという短距離しか移動出来ない上に、いろいろと制約のある技だが建物内を迅速に移動するには重宝する。

 

予備のチームジャージなどの入った段ボールをひっくり返し、五人分のジャージを引っ張り出す。

大きめのタオルは三枚しかなかったのだが、我慢して貰うことにする。

 

再度影を渡って更衣室前まで戻り、何食わぬ顔で中へ入る。

 

「取ってきたぞ。着替えてくれ。」

 

ベンチで待っていたあやかに荷物を渡して背を向けてしまう。

奥のシャワールームからはすでにシャワーを使う音がしているのは2-Aらしいバイタリティといえばいいのだろう。

 

「ありがとうございます、千石さん。」

 

律儀に礼を述べたあやかは古菲と千雨を伴って、すでにシャワールームに居る裕奈と桜子に合流する。

声の大きい裕奈と桜子の「ダサイよ。」だの「三枚しかないの。」といった文句も聞こえてくるが、匠は無視して待つことにした。

キャアキャアと普段は男子しかいないはずの男子更衣室に少女達の姦しい声が響いている。

 

そんな黄色い声をBGMに匠は今夜の冒険を振り返る。

月匣での戦いを見られてしまった以上、何らかの口止めをしなければならない。

バイタリティ溢れる少女達が言うこと聞いてくれるか、不安でたまらない匠であった。

 

人生という冒険は続く。

 

 




なんとか月匣から脱出まで書けました。
もっと早く投稿するつもりだったのですが、時間を(Minecraftに)盗まれた。
ネザー水晶で十二宮なんて作るんじゃなかった・・・。
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