雄英高校ヒーロー科。数多くのプロヒーローを輩出する養成学校で、オールマイトと呼ばれる人気No1ヒーローを始めとしたトップヒーロー達が卒業していることも人気の理由となっている。トップヒーローを目指すのならば西の士傑と並んで目標とされる学校。
なぜ急にこんな話をしたかと言うと、俺がこれから通うことになるかもしれない学校だからである。
俺の名は
なぜヒーローを志したかというと「ヴィランっぽいヒーローランキングに載り、自分を受け入れてもらいたい」からだ。「人を助けたい!」といった夢と比べれば不純と言われるだろうが、俺の夢なので誰に何を言われようが曲げるつもりは無い。
俺の幼少期は悲しいものだった。個性が発現した瞬間から、ヴィランのような見た目のせいで友達の一人もおらず、周りから恐れられて生きていた俺は、色々嫌になって小学校時代は引きこもりだったのだ。そんな俺がヒーローを目指した切っ掛けはテレビの番組だった。引きこもり時代の俺はその日、何をするわけでもなくテレビを点けたままボーっとしていた。その時にやっていたのが『ヴィランっぽいヒーロー特集!~注目の新人ギャングオルカは海のギャング!~』だったのだ!俺と同じ位怖い見た目をしたヒーロー達が、市民に応援されている姿は衝撃だった。この日、ヴィランのような見た目でもヒーローになれば友達や慕ってくれる部下が出来るのだと、生まれて初めて希望を持つことが出来た。
俺の夢はプロヒーローになった。
それからは勇気を振り絞り、中学校に通うようになった。しかし、俺が変わったからと言って周りが変わるわけではない。当然俺はクラスどころか学校全体で恐れられ、同じクラスになった奴はそれを知っただけで絶叫し、隣の席になった女子は立ったまま気絶した。体育で二人組を組まされた田中君は極度のストレスで髪が白髪になってしまったし、担任の先生もストレスで前髪が後退し続け、卒業間際には坊主になってしまった。
こんな状態でも俺が学校に通い続けられたのはひとえに目標があったからだ。田中君や先生の為にも絶対に合格しなくては!
俺は気合を入れ直すと試験会場に向かって歩き出した。
これは俺が『平和の抑止力(恐)』、『日本が核を持たない理由』、『最恐の生物』と呼ばれるまでの物語だ。
***
雄英高校ヒーロー科の説明会場は異様な空気に包まれていた。1200人以上の受験生が集まっているはずなのに誰も物音の一つも出さないのだ。この異常事態の原因はたった一人の受験生によるものだった。
もちろん我らが主人公。不屈 化物君が原因である。
彼が来る前の説明会場は、良くも悪くも賑やかだった。これから行われる実技試験に対して不安を口にする者や俺は出来ると自己暗示をする者がいる、適度な緊張感が広がる例年通りの光景が広がっていた。しかし、この光景が続くことはなかった。
初めに異変に気が付いたのは、入り口近くに座っている受験生達だった。何故か頻りに入り口を気にしだしたのだ。五感で感じる限りでは何も可笑しい所は無かったのだが、第六感とでも言うべき本能が少しでも入り口から離れろと言っているのだ。次第に恐怖は伝染していく。まるで波紋の様に広がっていく正体不明の恐怖は、遂に会場の端から端まで余すところなく伝わっていった。会場の受験生全てが扉に注目した瞬間、男は現れた。
扉がゆっくり開かれると近くの女性から『ヒィッ』と絞り出したかの様な小さな悲鳴が会場に鳴り響いた。
会場に入ってきた男の身長は2.5メートル近い。比喩なしに丸太の様に太い腕、まるでケツの様にはち切れんばかりに発達した胸筋と学生服の上からでも分かるほどに太い太ももと脹脛はロケットランチャーの直撃を喰らってもダメージの一つも受けないだろうと思わせる程に強靭であると共に、この巨躯から放たれる一撃の大きさはどれ程のものなのかと潜在的な恐怖を抱かせた。体色は燃える炎の様に赤い。個性社会の中では別段珍しい事ではないのだが、男の持つ雰囲気が返り血を連想させ、余計に恐怖を煽った。
会場がパニックにならなかったのは男の持つ雰囲気が雄弁に物語っていたのだ『騒げば殺す』と。皆息をすることも忘れ、男の一挙手一投足を見守っていた。男はゆっくりと歩みを進め、空いていた右端の席に座った。ここで男はなけなしの勇気を振り絞って、隣にいた受験生にギリギリ聞き取れる声で「…よろしく」と言ったのだが、男が隣に座った時点で既に受験生は白目を剥き、口から泡を吹いて気を失っていたので意味はなかった。
しかし、周りは違う。男が声を掛けただけで受験生の息の根が止まったと勘違いしてしまった。
会場は遂に極限状態となった。何時自分が死ぬかわからぬ状況に多くの受験生の心は既に折れていた。気の弱い受験生達から続々と気を失うことで現実からの逃避を始めた。プロヒーローにして雄英高校教師のプレゼントマイクが説明会場に到着したときに残ったのは本気でヒーローを目指す者や意志の強い者、極限まで俗物的なある種の信念を持った者の約40名だけになっていた。
こうして雄英高校ヒーロー科の実技試験は始まる前から終わってしまった。教職員たちによる話し合いであの場で気絶しなかった者達を合格としたのだ。理由は「あれ程の恐怖に屈さなかった子供達は強くなる」といった建前と、あれから意識を取り戻した受験生たちが悉くトラウマから受験を取りやめたいと辞退したためだった。残った人数で実技試験をしてしまえば雄英高校初の定員割れが起こることを危惧し、今回の『試験会場集団失神事件』自体が試験内容であったとすることで話を収めたのだった。
こうして何とか今回の事件を乗り越えた雄英高校ヒーロー科教師陣は歓喜の声を上げたが、彼らはまだ知らない。
この受難がただの序章であったことに。
主人公の見た目はアメコミのレッドハルクをイメージしていただければ近いかと思います。