死柄木に助けが来る少し前。
13号を先頭に不屈を除く1-A生徒達は避難を開始し、行きで使用したバスの近くまで移動していた。
「上鳴君。通信はまだ通じないんですか」
「駄目っす!さっきからずっとやってるんですけど」
上鳴は先程から右耳についた特製変換電子無線を弄って通信を試みているが、未だに通じていないようだ。生徒の中の誰かが「相澤先生大丈夫かな…」と不安げに呟いた。
「大丈夫だって!不屈と相澤先生の二人相手に勝てる奴がいるとは思えねぇよ」
「そうだ!僕達に出来ることは一刻も早く助けを呼び、自分達の安全を確保することだ!」
切島と飯田が皆を励ますように声を掛ける。避難は至って順調だった。
この時までは。
「見えてきましたよ!あと少しです!」
13号が声を上げたその時、突然バスが爆発した。炎上するバスに、目を見開き驚愕する生徒達。
『驚かせてしまったね』
底冷えするような声が、炎上するバスの中から聞こえた。その瞬間、誰も声を上げることすら叶わなかった。不屈に感じていたプレッシャーとはまた別種のものだったが、間違いなく最上級の気迫。それは此処にいた全ての人間に死を錯覚させる程のものだった。
『時間がないんだ…君達の相手は"脳無達"にお願いするよ』
炎の中から平然と現れた、頭部に漆黒の髑髏を模したマスクを付けた男の傍から、バシャバシャと音を立てながら黒色のヘドロが突然噴き出した。ヘドロの中から先程不屈と相澤先生が戦っていた、脳みそむき出しの大男と良く似た、脳無と呼ばれる存在が三体這い出てきた。クラスメイト達の顔が青ざめる。不屈の攻撃を耐えきった存在が三体も現れたのだ。自分達に勝てるわけがないと大半の生徒が絶望するのは仕方のない事だった。
『まだ調整も出来ていないから無差別に暴れるだけさ…存分に遊ぶと良いよ』
男はそう言って自分もまた、ヘドロの中へと沈んでいく。13号は去ろうとする男に自分の死を覚悟で叫んだ。少しでも情報を引き出したかったが為に。
「あ…貴方は何者ですか!」
『そうだなぁ…僕のことは"先生"とでも呼んで欲しいな』
先生の発言を聞いて生徒達は驚愕した、今日の訓練に行く会話でも同じ言葉を不屈から聞いたからだ。
『先生の方が凄い』と。
生徒達は最悪を想定した。もしも本当に不屈が"先生"と繋がっていたのならと考え、焦った生徒達は想定される中で最悪の情報を先生に渡してしまった。
「やっぱりあの化け物野郎はヴィランだったか!」、「おい相澤先生がやべぇって!」、「どうすんの!先生が死んじゃう!」、「うちらじゃ助けに行っても勝てない」、「オールマイトに早く助けを!!」、「オイラ達もう終わりだ!」
口々に不屈をヴィランである事を前提とした会話が繰り広げられた。
完全に沈む直前に先生はマスクの奥で邪悪に嗤った。
『…哀れだな次代の"継承者"は』
***
イレイザーヘッドを吹き飛ばした瞬間に、不屈は先生に殴りかかった。しかし、先生との壁になるように黒いヘドロが突然噴出したかと思えば脳無が顔を出したのだ。構うものかと殴った不屈の右腕に凄まじい衝撃が返ってきた。余りの威力に山岳ゾーンと呼ばれる岩場まで不屈は吹き飛ばされた。
『衝撃反転だよ。途轍もない威力だね』
先生は感心したように呟いた。
衝撃吸収と超回復を持った脳無を盾にした先生は、一方的に遠距離から衝撃波を放ち攻撃した。本来ならば避けて反撃できる攻撃だった。しかし、先生の狙う先は不屈では無く、気絶したイレイザーヘッドだった。相澤先生を狙った一撃を不屈は拳圧で相殺した。
『いつの時代のヒーローも弱点は同じだね。こうやって弱者に凶器を突きつければ君らは動けない』
繰り出される衝撃波を拳圧で相殺し殴りかかるが、不屈の攻撃は脳無が先生の盾になり防がれるばかりか、衝撃反転を使用されてダメージを増やすだけの結果に終わった。自動迎撃が付いた回復する怪力の盾である脳無と前方数百メートルを跡形も無く吹き飛ばす風の砲撃を連続で繰り出す先生。これだけでも絶望的な状況だったが、イレイザーヘッドを半ば人質にされたことで遂に打つ手が無くなった。
その後は一方的だった。イレイザーヘッドを殺す気で繰り出す先生の遠距離攻撃と脳無の近距離攻撃を不屈はその身を呈して守り続けた。幾ら頑丈な不屈であっても無傷なわけがなく、二十分後遂に膝をついた。
『よく耐えるね。イレイザーヘッドを守るために』
先生は拍手を送った。 不屈は燃えるように瞳を輝かせて答えた。
「…死んでも守る」
『姿形は全く似ていないが、全く変わらないな"君達"は』
先生は感慨深く呟く。何故君達なのかは不屈には理解できなかった。
『君は間違いなくヒーローだ。だけど周りはそうは思っていないようだね』
「…何のことだ?」と不屈は聞き返すと嫌らしく先生は嗤った。
『言葉のままの意味さ。君のクラスメイト達に先程会って来たんだがね、酷いものだったよ。君と僕が仲間でイレイザーヘッドを殺そうとしていると騒いでいたんだ』
不屈の瞳が初めて揺れた。「…噓だ」と独り言の様に呟いた。
『嘘じゃないさ!僕の個性で見せてあげよう』
空中にビジョンのようなものが浮かび上がり、生徒達が映し出された。ビジョンの中で生徒達は必死に叫んでいた「やっぱりあの化け物野郎はヴィランだったか!」、「おい相澤先生がやべぇって!」、「どうすんの!先生が死んじゃう!」、「うちらじゃ助けに行っても勝てない」、「オールマイトに早く助けを!!」、「オイラ達もう終わりだ!」と。先生は肩をすくめて不屈に問いかけた。
『君が命を賭けて守る価値がこの世界にはあるかい?君は今まで人々に恐れられ、疎まれていた事に本当は気付いていたんだろう?君はヒーローになっても"化け物"だ。このまま君がヒーローの道を突き進んでも待ってるのは排斥だよ』
先生の言葉に不屈は顔を伏せた。
(もう少しだね。君を僕の配下にしよう。君の理解者になろう。部下になった君を見た
心の中で先生はほくそ笑む。
『僕ならk「分かっていた」何がだい?』
不屈が先生の会話を遮った。不屈が初めて見せる激情だった。
「俺が恐れられていることも。化け物だと忌み嫌われていることも全部、全部…本当は分かっていた!」
『それn「言った筈だ。死んでも守ると!!」』
不屈は力の限り拳を握り、先生に言い放った。
「…俺は人が好きだ。誰かの笑顔を見ただけで幸せな気持ちになれる。その笑顔を守れるのなら俺はヒーローであり続ける!たとえ人々に"化け物"と恐れられ、最後に待っているのが排斥だろうと悪に屈するつもりは無い!」
この時、不屈の初めて見せた激情が彼自身も知らなかった
心優しく穏やかな不屈には今まで発現する機会がなかった。
『高ぶった感情を熱エネルギーに変える力』
不屈を中心に炎の柱が発生し、天井を突き破り雲を突き抜けて延びていく。その火柱は不屈の曲がらない意思を表すかのように真っ直ぐに伸びていった。
「お前を倒す!!」
誰にも理解されない
お気に入り登録ありがとうございます。
コメントいつもありがとうございます。本当に励みになっています。
誤字報告いつもありがとうございます。