あれからUSJに警察も到着し、ヴィランの身柄確保と周辺の安全確認も終了した。不屈が倒した脳無含めた4体は特に厳重に拘束して連行されたが、一切の抵抗は見せなかった。変わってチンピラと思われる100人近くいたヴィランはと言えば「化け物だ…化け物同士の殺し合い…」、「刑事さん!早く俺を刑務所に入れてくれ!奴が!奴が来る!」と恐慌状態に陥っている者が殆どだった。
「17…18…19右腕を粉砕骨折した彼を除いて……ほぼ全員無事か」
刑事である”
「とりあえず生徒達は教室に一度戻ってもらおうか。直ぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」
塚内が生徒達を教室に戻らせようとした時だった。生徒達の疑問が爆発したのは。
「刑事さん相澤先生は…」蛙吹が心配そうに塚内に聞いた。
「…不屈は相澤先生を連れてどこへ」障子は不屈が相澤を背負って走り去った姿を思い浮かべて呟いた。
「そうだよ!オイラ達聞いたんだ!不屈がヴィランと繋がってるって!」峰田が『先生』と呼ばれたヴィランへの恐怖を思い出したのか、目に涙を浮かべて叫んだ。
次々に上がってくる生徒達の質問に塚内は「参ったな」と頭を掻いた。警察も今回の事態をまだ完全に把握しきれていなかったからだ。困っていた塚内の助けに入ったのは根津校長だった。
「相澤君は学校の保健室で治療中だよ!幸い命に別状は無いようだから安心してくれて大丈夫さ!」
相澤の無事を知って生徒達の張りつめていた空気が幾分和らいだ。しかし、疑問は残る。相澤先生を運んでいたのは間違いなく不屈だった。それなら相澤を助けたのは必然的に不屈になるだろう。不屈がヴィランの仲間ではないかと疑い、相澤に危害を加えていると考えていた生徒達の中で困惑が広がる。ざわつく生徒達に、根津校長は笑顔から真剣な表情を作ると話を続けた。
「本当に恐ろしい巨悪との遭遇…脳無と呼ばれる理性無き怪物との戦闘。君達は良く耐え抜いた!誰一人欠ける事なく、今回の事件が解決できたのは奇跡に近いと思っているよ!……でも皆が知りたいのは、不屈君についてだよね?」
誰かが「はい」と答え、他の生徒達も頷いた。根津校長は事の真相を簡潔に説明した。
「……彼は命を賭して相澤君を守ったんだ。あの先生と呼ばれるヴィランを相手にね」
生徒達は絶句する。あの自分達が反抗する事すら考えられなかった”先生”を相手に不屈が戦ったこと。そして何より相澤を守ったと言う事実に。
生徒達は罪悪感に苛まれた。自分達が彼をヴィランと疑っていた時に、不屈は相澤を守るためにあの強大な先生に一人立ち向かっていたのだ。顔を伏せる生徒達に、根津校長はすかさずフォローを入れる。
「もちろん君達に悪意が無かったことは、僕も良く分かっているよ。今回は悪い”偶然”が重なってしまっただけだと思っているのさ!みんな優しい子達だからこそ、相澤君を心配して彼を疑ってしまったんだ」
一部の女子生徒は嗚咽を抑え、涙を手で拭っている。
「君達に考えて欲しいのはこれからについてさ!人間は反省して改める事が出来る生き物だからね。確かに近寄りがたい雰囲気や圧倒的な力に委縮してしまうのは分かるよ。でも今回の件で彼が、君達と同じくヒーローを志す生徒であることが分かったと思う。どうか彼を…不屈君を信じてあげて欲しい」
根津校長は笑顔を最後に浮かべて話を締めくくった。生徒達の大半は「はい!」と大きな声で返事をしたが、轟や爆豪、峰田などの一部の生徒は答えなかった。根津校長には答えなかった生徒達が、どのような心境であるかを推し量ることが出来なかった。
(本当は僕自身も彼を危険だと思っていた。だけどその事を伝えるつもりは無いのさ。これ以上彼がヴィランに傾くような要素は極力排除する。生徒達の心理を誘導してでも、彼にはヒーローで居続けてもらう!)
根津校長は人ではないからこそ俯瞰的に物事を捉えていた。今の平和な社会を維持できるのなら、生徒達を利用して不屈がヒーローであり続けるための
(これが僕なりの平和を守る方法なのさ!)
根津校長は不屈にヒーローとしての道を歩ませる。オール・フォー・ワンと言う圧倒的な脅威と対抗するために。
***
緑谷は現在、学校近くの病院に運ばれていた。本来ならばリカバリーガールのいる学校の保健室に運ばれる予定だったのだが、相澤の治療が一段落するまではリカバリーガールが掛かりっきりになってしまうため、病院に一時的に運ばれることになったのだ。
大方の治療が終わった緑谷は、オールマイトからUSJ事件の真相を聞かされていた。
不屈が相澤先生を守ってオール・フォー・ワンと戦った事やオール・フォー・ワンとオールマイトの因縁、オールマイトから継承された個性の成り立ちを含めて、自分の知り得る全てをオールマイトは緑谷に話した。
「本当の継承者である緑谷少年の事が、オール・フォー・ワンに露見しなかったのは不幸中の幸いだったよ。君が狙われる確率が低くなった。しかし、不屈少年にはこれから過酷な運命が待っている。彼にも私やオール・フォー・ワンの事を話すつもりだ。無論、オール・フォー・ワンとの完全決着は私が付けるつもりだけどね!」
オールマイトは努めて明るい口調で語ったが、オール・フォー・ワンの部分を話す時には口調が強張っていた。緑谷は一度に重大すぎる情報を大量に与えられ、頭が追い付いていなかった。それでも一つだけ分かったことがあった。
(オール・フォー・ワンとの戦いに僕を参加させるつもりは無いんですね。オールマイト…)
オールマイトに授けられた
「緑谷少年。私が必ずオール・フォー・ワンを倒す!絶対に危害が及ぶような事は無いように努力する!だから安心して欲しい!」
オールマイトは緑谷が大切だからこそ、危険から遠ざける。
「あ…ありがとうございます!僕もOFAを早く使いこなせるように頑張ります!絶対に勝ってください!」
緑谷は自分の無力さを痛感したからこそ、オールマイトの邪魔になりたくは無いと引き下がった。しかし、緑谷の心には大きな影が差す事になった。
(僕も強くなりさえすればオールマイトの力になれる。力さえあれば……)
***
先生はベッドの上で目を覚ました。オールマイトに宣戦布告をした直後に気絶してから十二時間後の事だった。不屈による一撃はそれ程強力だったのだ。暫く自分が活動することが難しい程のダメージを負ってしまった。
先生の横から足音が聞こえた。振り向くと其処には、自分の良く知る人物がいた。
「目が覚めたか先生…全く無茶をする。あの子どもには、そこまでボロボロになってまで助ける価値があるとは思えんのだが…オールマイト用にワシと先生で共作した脳無もやられた。此方の犠牲は大きい……」
口髭と丸メガネが特徴的な老人は、先生に苦言を呈する。
「弔は今回の事件で大きな目標を得た。これから大きく成長する。それに悪い事ばかりじゃないさ……"ドクター"君にも"お土産"があるんだ」
弔の成長を喜び、先生は胸ポケットから小瓶を取り出し、ドクターに渡した。小瓶の中には少量の血液が入っていた。ドクターは首を傾げて先生にこれは何かと尋ねた。先生はとても楽し気に答えた。
「これはね……"化け物"の血だよ」
ドクターは興味深げに見つめると、今日初めての笑顔を浮かべた。
「それは研究のし甲斐がありそうだ……」
USJ事件は始まりに過ぎなかった。これから悪と正義の戦争は激化していく。
感想本当にありがとうございます。とても励みになっています。
誤字報告いつもありがとうございます。名前を出して良いのか分からないのですが、本当に感謝しております。