三週間の特訓を経て、俺はなんちゃってであるが必殺技を習得した。今からオールマイトにお披露目する時が楽しみだ。特訓に夢中になっていたせいか、入学式まではあっという間だった。
人間馬鹿なもので、もしかすると俺にも入学式早々に友達が出来るんじゃないかと淡い希望を抱いている自分がいた。僅かな期待に胸を膨らませて1-Aの教室に入ったわけだが、やはり雄英はレベルが違った。仲良し好良しがしたくてここに来たわけではないとばかりに、皆私語の一切もせずに席に座っていたのだ。
俺も頑張らねばと気合を入れていると担任の先生が入ってきた。相澤 消太と言う名前で、おそらくヒーローなのだろうが知識不足か俺には誰だか分らなかった。しかし、とても良い先生なのは間違いないだろう。
相澤先生は自己紹介もそこそこに『困難な入試を乗り越えたお前達には期待している。俺はお前達ならば乗り越えられると信じている。Plus Ultra(プルス ウルトラ)更に向こうへ!我が校の校訓だ。俺も副担任のオールマイトも命に代えてでもお前たちを守る』と俺達を激励してくれたのだ。クラスメイト達の中には『先生…』と涙を流しながら感激している者もいた。こんな生徒思いの先生を担任に持てて俺は幸せ者だ。
それから俺達は入学式やガイダンス等の行事には参加せず、個性を把握するためのテストを行うと説明を受けた。ヒーローを目指す者に無駄な時間を過ごす時間はないと言う事だろう。
俺達は更衣室で体操着に着替えると直ぐに指定された校庭に向かった。
皆が集まると相澤先生は、俺に見本としてボール投げをするように提案してくれた。きっと相澤先生は見るからにパワー系な俺に期待してくれたから指名してくれたのだろう。相澤先生の期待に応えるためにも全力を出さなくてはならないだろう!
ボールを投げるために踏みしめた地面は半径5メートル程陥没した。背筋と腕に力を込めると、体操着は筋肉の膨張に耐えきれず破けたが、そんなことを気にしている場合ではない!俺は相澤先生の期待に応えなきゃいけないのだ!大きく振りかぶり『WOOOOOOOOOOOOOOOO!!』と天に届かんばかりの雄叫びと共に、有らん限りの力を込めてボールを投げた。
しかし、俺は相澤先生の期待に応えることが出来なかった。途中までは上手くいっていたのだ余りの球威にボールが耐えられなかったのだろう。周囲に衝撃波を発生させ炎の軌跡を描き一直線に飛んで行ったボールは、雲の中心に穴を開けた時点で耐えきれずに消滅してしまったのだ。
皆の見本として選ばれた俺が記録なしである。なんと情けない事だろうか。
自分の情けなさに泣くのを必死に堪えて歯を食いしばり、助けを求めるように相澤先生を見ながら『やり直しますか?』と尋ねたが、相澤先生は『…ボールの耐久性に問題があった。記録は無限と言う事にする。次からの試験では周りに被害が出ないようにしてくれればそれでいい』とフォローをしてくれた。
こんなダメダメな生徒にも優しく、次頑張ればいいと言ってくれる相澤先生は聖人なのでは?と本気で考えていると相澤先生は咳払いを一つして、真剣な表情で『…今回のテストで最下位だったものは、総合一位と放課後に特別訓練をしてもらう』と宣言した。
なるほど。ゲーム性を持たせると共に、最下位の底上げをするために一位にアドバイスをさせると言う事だろう。なんと合理的で効率的な判断なんだろうかと感心していた俺に電流が走る。一位になれば最下位にアドバイスをする権利、引いては仲良くなるチャンスが手に入ると言う事ではないか!
『先程まで自分の情けなさに泣きかけていたのにアホ!』と責めたければ責めれば良い!俺には友達を作るチャンスの方が何千倍も価値があるのだ。切り替えていく!(キリッ)
ボール投げ以外の残り50メートル走、握力、持久走、立ち幅跳び、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈の7種目も頑張って総合一位を取らなくては!
俺は周囲に衝撃波が起こったりしないように注意しつつ本気で挑んだ。その結果は、8種目中6種目で最上位と思われる測定不能や無限を獲得した。
しかし、皆も凄かった。鬼気迫るという表現が適切だろう。個性のデメリットで嘔吐する女子、指が紫色にズタボロになった男子や掌の皮が弾け飛んだ男子など、それ以外の皆も個性の使い過ぎで死屍累々と言った様子だ。テストに本気すぎると思わざるを得ないが、雄英がトップヒーローを輩出し続ける理由は、こう言った何事にも真剣に取り組む姿勢があるからだと感動した。
倒れているクラスメイト達を気にせず、相澤先生は淡々と結果を発表した。『…んじゃ結果を発表する。総合一位は不屈、それで最下位は峰田だが…』
最下位の結果を聞いたブドウ頭の峰田君は、余りの悔しさからか号泣してしまった。本気で挑んだ結果が最下位は辛いだろう。皆も優しさからか誰も峰田君を見ないふりをしている。それどころか『すまない』、『ごめん。ごめんねぇ』と涙を流しながら謝るクラスメイトまでいるのだ。
勝負とは言え彼らはヒーローを目指しているのだ。人の痛みや苦しみが分かる彼らは、自分が勝ってしまったことに罪悪感を覚えているのだろう。なんと仲間思いなクラスメイト達だろうか!
まるでお通夜のように沈んだ空気を断ち切ったのは相澤先生だった。
『最後まで聞けお前等、因みに一位と最下位が訓練は嘘な。お前達の全力を出させるための合理的虚偽』
まさかの発言に皆が呆然とし、3秒ほどの間を空けて絶叫が校庭に響き渡った。
『『『『『『はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!???』』』』』』
相澤先生は『初めに言ったろ俺はお前達に期待していると。そしてお前達は限界を超えて好成績を叩き出した。訓練が必要な奴はいなかった。最下位の峰田を含めてな。怪我した奴はリカバリーガールの所に行け。今日は疲れたろうゆっくり休めよ。不屈は陥没させた地面元に戻してくれ』と告げると帰ってしまった。
確かに訓練が必要ないのにさせるのは罰ゲームになってしまうか、峰田君と訓練を通して仲良くなれなかったのは残念だが、相澤先生はクラス皆を認めてくれたと思うと嬉しくなった。クラスの皆も認めてもらえた事が嬉しかったのか峰田君を胴上げしている。
あぁ、こんなに素敵な先生やクラスメイト達がいる雄英に来て良かった。
俺は暖かな気持ちを胸に校庭の整地に向かう、今日はいい夢が見れそうだ。