悪夢の様な実技試験を乗り越え、雄英高校ヒーロー科に合格を果たした1-A組の生徒達を待っていたのは悪夢の続きだった。まさか悪夢の
試験の焼き増しの様に誰も言葉を発せず、席に着いて顔を伏せていた。例外は悪夢を知らない、特待生で入学してきた二人だけだった。
左右で紅白に分かれた髪と左目にある火傷が特徴的な
因みにこのカオスな状況を作り出した原因はこの時、(皆真面目だなー)と考えていたことは本人以外知る由もない。
入学早々に『もう帰りたい…』と一人の例外を除いて誰もが思っていた。少し遅れて相澤が教室へと入ってきた瞬間に、生徒達は一斉に顔を上げた。誰も言葉は発さなかったが、目で『この状況は何ですか、説明してください!』と必死に訴えていた。
相澤はある意味予想通りの状況にため息を吐き、若干言葉を濁しながら説明を始めた。
『困難な入試を乗り越えたお前達には期待している。俺はお前達ならば(不屈への恐怖も)乗り越えられると信じている。
生徒達は相澤の言葉の真意を汲み取り、No.1ヒーローのオールマイトが守ってくれる事実に安堵し、命に代えても守ると言う言葉に感激していた。特に情に厚い男である
その後、落ち着いた生徒達に相澤は、入学式やガイダンスを行わずに個性把握テストを実施する旨を伝えたが、インパクトが強すぎる出来事があったせいか、生徒達は特段気にせず素直に受け入れていた。
更衣室で体操着に着替え始めたのだが、誰もが不屈の肉体に目を奪われていた。制服の上からでも筋肉の塊であることは分かっていたのだが、脱ぐと予想を数段超えた見た目をしていた。筋肉には自信のあった
着替えも終わり、指定された校庭に向かった一同を待っていたのは絶望だった。相澤が実力を推し量るためにもと、ボール投げの見本に不屈を指名したのだ。
(俺とオールマイトの二人で不屈を抑えられるのか。今回の個性把握テストで見極める)
この時、我らが不屈君は先生の期待に応えるぞ!とやる気を出していたわけだが、完全に逆効果だった。もしもここで不屈が数km程度の記録を出していれば、彼に対する警戒度は下がっていたことだろう。しかし、現実は違った。
全力で挑んだ不屈のボール投げは兵器に等しかった。踏み込みは文字通り大地を割り、筋肉の膨張で上半身の服は弾け飛び、ボールを投げた次の瞬間には、辺りがミサイルでも着弾したかの様な爆風に包まれたのだ。誰も立っている事さえ出来ず、目を開けることも叶わなかった。体重の軽い
圧倒的だった。実力差をまざまざと見せつけられた。この時、大半の生徒達の心は折れてしまった。勝てるわけが無いと。もしもボールではなく、自分の頭部であったらと想像した一部の生徒は、顔面を蒼白にしていた。
冷静に状況を把握することに努めていた相澤は、不屈の実力をオールマイトと"同等"であると決定付けた。仮に不屈がヴィランになったと想定し、被害を予想したが、最低でも日本の人口が三分の二に減ることは確実だろうと考えた。相澤はこの時、これから長い付き合いになる胃痛との邂逅を果たした。
正直に言えば最早テストなどをやっている場合ではないと、痛む胃を手で抑えながら相澤は考えていたが、半ば放心状態の生徒達をこのままにしておける訳もなく、どうにかしなければと思案していた。
何か打開策はないかと周囲を見渡していると不屈が目に付いた。相澤は悪魔的なことを閃いて"しまった"。非常に合理的であり、間違いなくこの状況を打破出来るが、人間としての良心が酷く傷む内容だった。
(しかし、このままじゃこいつ等は
苦悩の末、相澤は自身が悪魔になることを選んだ。
『…今回のテストで最下位だったものは、総合一位と放課後に特別訓練をしてもらう』
相澤の言葉の意味に生徒達は直ぐに気付いた。もし自分が最下位になった場合、相手の総合一位は誰になる?間違いなく不屈だ。不屈と二人で訓練、まず生きては帰れない。生徒達の心は一人の例外を除き、一つになった。
((((((絶対に負けられないっ!!!))))))
その後は、皆が死に物狂いでテストに挑んだ。個性のデメリットも省みず、限界を超え自己ベストを出し続ける生徒達だったが、不屈は軽々とその記録を超えた結果を出していった。それが更なる絶望を生徒達に与えた。
その中でも2種目目に行われた持久走は特に酷いものであった。ゲームに例えると無敵の
遂に死者(擬死)まで出始めた状況に、生徒達は更に捨て身で個性を使用してテストに望んだ。
触れたものを無重力にできる個性を持つ
生徒達は命に比べればこの程度安いものと言った具合に必死だった。
相澤は自分の発言のせいで傷付いていく生徒達を見て、更に良心を痛めていた。何度か止めようとしたが、全く聞く耳を持たず『まだ…動けます!』と鬼気迫る表情で言われてしまうと何も言えなかった。この後、嘘だと言わなければいけない事実が更に相澤の気持ちを重くさせた。
全てのテストが終了した時に、立っていたのは相澤と不屈だけだった。全てを出し切り、満身創痍と言った状態で倒れ込んでしまっている生徒達にせめて座るように促し、結果発表を相澤は始めた。結果は知っての通り一位が不屈、最下位が峰田だった。
最下位の発表を聞いた瞬間に、人目も憚ることなく号泣する峰田。他の生徒達も自分が助かる為に峰田を犠牲にした事実を噛み締めて泣き出したのだ。『すまない…峰田君!』、『ごめん…ごめんねぇ』と謝罪と嗚咽が混じる状況に、相澤は眩暈を覚えた。
その後、最下位の訓練は嘘だと告げた時の生徒達の絶叫は、入学式を行なっていた体育館にまで響き渡った。峰田に至っては最早人語を話せていなかった。生徒達は誰も犠牲者が出なかった事に喜び、峰田を胴上げした。
こうして波乱に満ちた学校生活初日は終わった。彼等を待ち受ける受難(不屈との学校生活)は始まったばかりだ。
***
放課後となった学校の校長室に、根津校長と相澤の二人は集まっていた。いつも笑顔を絶やさない根津校長ではあったが、今に限り表情は真剣そのものだ。
「もう一度確認するけど、相澤君の見立てでは彼にはオールマイトに並ぶ実力があるって事だね?俄かには信じられない話だけど…」
「信じられない気持ちは分かりますが間違いなく事実です。不屈がヴィランとなった場合、この日本は機能を停止し、超常黎明期の様な混沌の時代が訪れます」
相澤は確信をもって答えた。
「それでどうするつもりなのかな?」
「どうもするつもりもありません。不屈は
根津はいつも通りの相澤の言葉に、安心し笑顔を浮かべた。万に一つもないと分かっていたが相澤がもし、彼の排除を考えているようならば教師を辞めさせなければいけないと考えていたからだ。
「その通り!彼を悪に導くのも正義に導くのも我々の努力次第なのさ!君には負担が掛かることになるけど、オールマイトと協力して頑張って欲しいのさ!僕も彼への対策は考えるからさ」
「はぁ、分かりました」
相澤はストレスで胃を痛めながらも彼を導いていく。節穴で能天気な不屈君ではあるが一つだけ真実を見抜いていた。相澤が生徒思いの良い先生であることは本当だった。