私にとって岸沼くんの印象はなんちゃって不良だった。
金髪に髪を染めて制服を着崩し、見た目はちゃらいのに毎日学校にきて、真面目に授業を受け成績は優秀、生活態度も悪くはない。
体育の授業だけ露骨に手を抜いてへらへら笑っているのが妙に目に付いていらっとしたのが印象的だった。
なぜ見た目だけああしているのか理由は分からないので、持田君に聞いてみても曖昧に笑って教えてくれなかった。
篠原さんがいうには1年生の時の春あたりは荒れていたらしいが、ある時急に大人しくなったらしい。
ユイさんやこともさん、篠原さん等、持田君、岸沼くんを時々教室まで迎えにいく3年の先輩以外仲がよさそうに見えるのは女の子ばかりの為、見た目と相俟ってあんまりいい印象を持っていなかった。
近くの教室に逃げ込み、意識が朦朧としている鈴本さんに抱きついて震えながら、外から響いてくる、争っている音を聞いている今だから分かる。
おまじないのせいで皆をこんなところに連れてきてしまった私を励まし、少し奇行はありつつもおちゃらけた感じに私の手を引っ張ってくれて、子供の霊に襲われてそうになっても彼が霊を倒して助けてくれる。まるでヒーローのような彼が居たからこそ私は恐怖を感じつつも鈴本さんを助けられたのだといまさらながら思った。
ここに逃げ込む前に逃げろと叫ぶ彼の姿を初めて見た。
学校にいる時の彼は見た目に反して、不機嫌になることは私が知る限りではなかったと思う。ちょっとあれな体育教師に嫌味を言われてもへらへら笑っててムキになった教師がきつい課題もそつなくこなしていた。
本当なら鈴本さんに抱きついて震えている場合ではないだろう
彼のためになにか出来ることもあるはずなのに、私の体は震えていることしか出来ない。震えていれば、待たせたなと彼が迎えに来てくれることを期待してしまっている。
「きゃ......もういやぁ」
かなり大きな地震が私たちのいる教室を大きく揺らす。
取り敢えず鈴本さんを引きずりながら棚とか倒れる恐れのあるところから遠ざかり揺れが収まるのを待った。
揺れが収まって、鈴本さんに怪我がないのを確認したあと、気づけば外から聞こえてくる音が聞こえなくなっていることに気付いた。
音がしなくなったとしたらしばらくしたから彼が来てくれる!
私は少し身嗜みを整えて彼が迎えにくるのを待つことにした。
「篠崎さん、篠崎さん!」
篠崎さんを揺らすが、彼が来ないの、迎えに来てくれるって言ったのにと膝を抱えたままぶつぶつ呟いたまま動こうとしない。
彼女と岸沼くんに感情的になった子供達の霊から助けられたのは覚えている。
助けてくれた岸沼くんは確かに凄かったけどもうちょっと穏便に出来なかったのかなとは少し思う。子供達も被害者なのだ。なんとかして解放してあげたいとも思う。
「篠崎さん、岸沼くんはどこに行ったの?」
問いかけるが彼女から返事はない。
助けられたあとの記憶が定かではないけど、岸沼くんが怒鳴ってる声は聞こえた気がする。何かがあって彼とはぐれてしまったのかもしれない。
篠崎さんはこんな状態だし、私が探しに行ったほうがいいのかな
篠崎さんに岸沼くんを探しにいくと伝えて、彼女から5メートルほど離れたとき私の周りの空気が変わる。体に纏わり付くような不快な感じを感じるようになった。少し不快だが気にするようなことでもないが、彼女に近づくとその感じは薄れる。なんでこんなに空気が変わるのか疑問に思ったが、今の彼女に聞いても答えは返ってこないと思う。
何にせよ、早く岸沼くんを探して篠崎さんを安心させてあげなきゃ!
こんなところに来て1人だと泣きべそかきながら皆を探し回っていたけど、誰かと一緒だとこんなにも強くなれるのだと自分でも驚いてる。
教室を出ると廊下の間取りからして保健室とはそう離れていないと判断し、取り敢えず保健室から探そうと足を進める。
それにしても篠崎さんの態度からして私がはぐれている間に岸沼くんと篠崎さんは随分と仲が良くなったらしい。誰かと付き合ってる話は聞かないけど、岸沼くんはユイちゃんと隠れて付き合ってるのかと思ってたけど、違ったのかな?まぁ当人の問題だし私には関係ないか。
「ひぃ......」
保健室へもう少しで着くというところで壁一面に血が飛び散っているのを見てしまった。篠崎さんと合流して浮かれていたけどここはこういうところだったと改めて認識する。
どうしよう、怖いし篠崎さんのところに戻ろうかなと思ったとき、血塗れの壁の近くに見覚えのある学ランが落ちているのが見えた。
遠目にみるだけでもその制服は血に染まっていて、黒い制服がさらにドス黒くなっている。
誰のだろう、私の通っている高校の男子制服の上着には誰のものか分かるような内側に刺繍で名前が入れてあるので誰のものか分かるが触るのも、確かめるのも勇気がでない
これで繁にぃや他のみんなの名前があった時どうしたらいいのか分からない。
私は呆然とその学ランを眺めることしか出来なかった。
「おっと、これは......君、大丈夫かい?」
気付くと目の前に体格の良い同い年ぐらいの男子高校生が私の顔を覗き込んでいた。
「う、うん、そこにある学ラン、私の学校の物なの......内側を見れば誰のものか分かるけど見る勇気がなくて」
私がそう答えると、彼はそうかとだけいい、学ランを足でひっくり返して広げる
「岸沼と書いてあるが、知り合いかい?」
岸沼くんが、そんな......篠崎さんにどう伝えたらいいか分からないので呆然としていると
「ここに居てもよくないから、安全なところに行こう、誰か他に一緒にいるかい?」
「う、うん、その先の教室に篠崎さんが」
「そうか、取り敢えず合流しよう、俺の名前は刻命、よろしく、他の皆とはぐれてしまってね心細かったんだよ」
「鈴本です。宜しくお願いします。」
今の状態の篠崎さんに教えるか黙っているか考えつつ、私は刻命くんと教室へ向かった。