「…ハァーッ……ハァーッ……」
「篠崎、大丈夫だ。ゆっくり息を吸うんだ。そう、そうだ。えらいぞ」
過呼吸を繰り返している。篠崎の手を握りながら、ゆっくり呼吸をするように指示する。
篠崎が始めた幸せのサチコさんのおまじないが終わり、結衣先生の号令で皆が帰る支度をしようとした際に地震とものすごい寒気に襲われた。咄嗟に自分の机からバイト用のカバンを背負い、皆を教室の外に出そうとした瞬間、教室の床が割れ、3階なのに割れたそこは底がないかのように暗く何も見えなかった。割れた穴は徐々に広がり、皆を飲み込もうとしていた。広がる速度からとっさに結衣先生を廊下に蹴りだし。穴に落ちそうな篠崎の手を取り引き上げようとした際、眩い光があたりを覆ったと思ったらこの場所にいた。
幸せのサチコさんの際、篠崎がヒトガタを取り出し、みんなで千切るといって嫌な予感がした時に皆に嫌われてもいい覚悟で止めればよかったと今更ながらに思う。人を模したヒトガタを千切るとか縁結びの儀式としては物騒すぎて、違和感を感じたが知識のない誰かが創作したおまじないだと思えば腑に落ちたし、怪異等が儀式でよってきたとしても、こっくりさんとかを行った際に時々よってくる低級の動物霊かなんかなら他のクラスメイトに気付かれず処理出来る為、皆が鈴本を送り出したい気持ちは分かる為様子見したのが間違いだった。
教室にあいた穴の広がりが思ったより早く、とっさに一番扉の近くに立っていた結衣先生を廊下に蹴りだしてしまったが無事に逃げられただろうか、廊下からユイが走ってくる気配がしたのでうまくやってくれてると願うしかない。もうちょい咄嗟に動くことができたらあともう一人か二人ほど事前に救出できたかもしれないのが悔やまれる。せめて由香ちゃんだけでも先に出すべきだったと思う。
とりあえず後悔や反省するのはあとだ。早い所篠崎を落ち着かせて、他の皆の安全を確保しなければならない。
少しずつだが、篠崎の呼吸が落ち着いてきているので、そのままゆっくり呼吸するよう指示し、周囲を見回す。ボロボロの教室で机と椅子が妙に小さく、教室の床は脆い所を踏むとそのまま踏み抜いてしまいそうなほどボロボロだ。
窓からの風景は延々と続く森が見え、激しい雨が降っている。
こんな森は高校周辺にはない為、異界と判断。
もう羽生蛇村みたいなことは一生で一回と思っていたが、また異界とかついていない。
ここに来る前、ユイが近づいてきているのが分かったので、もう連絡は行っていると思うが念のため、店長へ電話をかける。このような場所では絶対繋がらないが、こともが改造したスマホなら改造したスマホ同士なら仕組みはわからないけど連絡はできる。店長へ何度か電話をするが繋がらない、コール音はするので単純に電話に気付いていないみたいだ。この状況で電話すると電池の消耗が激しいので店長へメールをした。
落ち着いてきた篠崎が不安にならないように目の前でカバンに入っている装備を確認する。水と携帯食料2日分、ムカデ神社で清めた塩、結界札、札が取れないように加工してある特殊警棒、ロープ、スマホの替えのバッテリーとポータブル充電器が入ってる。それらをカバンから出して、数に差はないか確認する。水と食料がちゃんとあるのは助かる。羽生蛇村は始まりから解決までいっさい飲まず食わずだったので大分つらかった。今回もどれだけ時間がかかるか分からないが、鍛えている自分はともかく、篠崎やほかの皆はそうもいかないだろう、現地調達?この状況じゃあまりおすすめできない。
まともな物が手に入るか分からないし、羽生蛇村のときは現地の赤い水が少し入っただけで異界との強い繋がりができ、現世に帰れなくなる仕様だった。自分やユイ、店長と晴海ちゃんは大丈夫だったが、須田先輩や他の人達はユイがいなかったら一生異界にいることになっていた。
とりあえず、他の皆を探しつつ、休める場所を探して拠点を作ろうと思う。
特殊警棒を服にしまい、カバンから出していたものを全て戻して背負う。
「落ち着いたか?」
「うん……」
頷いた篠崎に手を差し出す。少し迷ったあと手を握ってきたのでそのまま手を引っ張り起こしてやる。
「このままじっとしているわけにもいかないからな、他の皆を探そう」
教室から篠崎と一緒に出ようとした瞬間、悲鳴が聞こえた。
「この声は篠原か……探しに行こう、大丈夫か?篠崎」
「う、うん」
俺は篠崎の手をとり、悲鳴が聞こえた方向へ足を踏み出した。
飛ばされて不安な時に看病してくれ、準備を整え、方針も示してくれる。
普段とチャランポランな雰囲気はまったくない、岸沼さんに困惑している委員長