そして神は人と成る ─GOD EATER 2─   作:嵐牛

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第10話

「それでは………」

 

「そうだな。気付かれずにやんのは無理だ」

 

アラガミの跋扈する盤面を見渡しながら、リョウは静かに戦略を練っていく。

 

「正面突破しかねえな。

シエルが撃つのと同時に突撃。

万一他のを呼ばれたら面倒だ、まずはザイゴート共を潰していく。

ガルムは1体づつフクロにすんぞ。

スタングレネード、すぐ出せるようにしとけ」

 

「「「了解」」」

 

三十秒後に突撃だ、と最後に伝達して、リョウはにやりと笑いながら一人返事をしなかった男を振り向いた。

 

「ジン、今回もお前バッチリ頑張ってもらうかんな。いいとこ見せろよ」

 

「ジンくん!同じハンマー同士、負けないよー!」

 

「まぁ、それなりにな」

 

刃を備えた白いブーストハンマーを肩に担ぎ、普段と変わらない様子で答えるジン。

臆した気配も昂る気配も感じさせないその立ち姿はどんな心境の表れなのか。

お手並み拝見だな、というギルの言葉にも気のない返事を返す。

 

(さて、どんなもんかな……)

 

ギルは探るような視線をジンに向ける。

ジンの初陣を終え、ジンがマイルームに引っ込んだ後のリョウの話。

どうも何かを腹に呑んでいる───、と聞いていた。

元より《ブラッド》も色々と抱え込んでいた者の集まりだ、何かしらの裏があるらしい事を訝りはしない。

そしてその「裏」の根拠である実力……リョウをして「少なくともセンスは俺より上」と言わしめたその強さを見てみたいというのは、その戦いの場にいなかった三人に共通した思いだった。

そんな期待を我関せずとばかりに大あくび等をかますジンだが、そんな呑気な時間はリョウが静かに口を開いた瞬間に終わりを迎えた。

 

 

 

────十秒前。

 

 

言葉は消えた。

神機が立てる金属音でバチンとスイッチを切り替えるかのように、神を喰らう者達が静かに己の意識を研ぎ澄ましていく。

十秒後などと悠長な話ではなく、その〇.一秒後には、即座に行動に移れるように。

 

そして。

 

 

「────出るぜ!!」

 

 

弾け飛んだ。

破裂するような勢いで踏み込んだシエル以外の四人が、全速力で敵陣へと斬り込んでいく。

その気配に気付いたザイゴートの一匹がこちらを向き、警鐘の鳴き声を上げようとした。

 

「ギャ」

 

刹那、四人を追い越した狙撃弾がそのザイゴートを撃ち墜とした。

シエルの後方支援だ。

間髪入れずに次々と浮遊する卵を射抜いていくその技量に、ジンは僅かに瞠目した。

突撃を始めておよそ五秒───哨戒していたザイゴートの群れの大半が撃破されたのだから。

 

そしていよいよ本丸が動く。

彼らを見て事態を察知したガルム4体が、高々と臨戦の咆哮を上げた。

 

「「「「アォオオオオオオオォォォォォォッ!!」」」」

 

空気を鳴らすような音響が四人の鼓膜を震わせる。

───1体ずつ集中攻撃。

メンバーが作戦を頭の中で反芻していた時、ギルが皆の中から一歩抜き出た。

展開されているスピアの矛先は、既にチャージが完了している証だった。

 

「行くか? ギル」

 

「ああ、新入りもいるしな。───支援ついでに先駆けだ」

 

低く身を沈め得物を突き出す。

さながら自分自身を槍と化し、標的を刺し貫くように。

瞬きする間に、彼はもう前に(はし)っていた。

真紅の閃光が流星と化す。

《バンガードグライド》───そう名付けられたブラッドアーツが、一直線にガルムに突貫していく。

 

「響け──────!!」

 

脅威を察したガルムが、前脚の巨大なガントレットでその矛先を咄嗟にガードした。

しかしギルのスピアは止まらない。

メギ、と鈍い音を立てて、岩のように頑強なガントレットを割り裂こうと食い込んでいく。

ジンは驚愕していた。

ただしそれはギルのスピアの威力にではない。

彼から発せられたチカラ(?)を浴びた自分の身体が、雄叫びを上げるように活性化している事にだ。

 

「凄えだろ?これがギルの『鼓吹』だ」

 

そうだ。

『血の力(だったか?)』とかいう話を、そういえば聞いていた。

つまり、これがそうなのか───

 

フッ、とギルの頭上に巨大な影が舞う。

強靭な脚で宙を舞った別のガルムが、その前脚を鉄槌のように降り下ろしていた。

 

「うおっ!?」

 

ギルは慌ててガントレットに食い込んだスピアを引き抜き、後方宙返り(バックフリップ)でそこから飛び退く。

魔狼の前脚が一瞬前までギルがいた地面を叩き潰したが、しかしそれで終わりではない。

また別の二匹のガルムが彼の着地地点に回り込んでいた。

まだギルの足が地に着く前に。

鎧を纏った豪腕のパンチ二匹分が、まだ空中にいるギルをぶん殴る。

 

バギャッッッ!!!と。

重量級の二振りを受けたギルの長身が、凄まじい勢いで後ろに吹っ飛ばされた。

 

「ギル───────!!」

 

絶叫したリョウが咄嗟に動く。

デコボコの瓦礫に激突しようとするギルの進路に回り込み、彼を強引に受け止めた。

 

「おい大丈夫か!? 意識は!?」

 

「ぐ……安心しろ、ガードは間に合ってる」

 

展開したシールドを閉じつつ、ギルは自分を吹き飛ばした2匹を睨み付ける。

すると自分のすぐ近くから靴底がアスファルトを擦る音が聞こえた。

そこにいたのは、後方に留まり砲撃支援を担当していたはずのシエルだった。

 

「シエル。どうした?」

 

「……追い立てられてしまいました。急所をガントレットでガードしながらの小刻みなステップ、明らかにスナイパーというものを理解しています」

 

硬い声で答えるシエル。

今まさに3匹がギルを仕留めんとしていた時、フリーのもう1匹はシエルを狙っていたらしい。そしてその1匹もどうやら異質な個体らしい。

高いチームワークを見せた4匹のガルムは、いつの間にか四方から自分たちを囲む陣形を組んでいた。

ただ力に任せて襲ってくるのではない、この動き。

リョウの背筋に嫌な予感が走った。

 

「ナナ」

 

「うん」

 

意図を察したナナが、ポーチから取り出したスタングレネードを四匹の目の前に放り投げる。

それは信じられないと同時に、ある程度予想していた光景でもあった。

 

強烈なフラッシュは何の効果も無かった。

放られたグレネードを確認した瞬間───ガルムらは一様に目を瞑り、前脚で己の目を覆ったからだ。

敵の用いた物を把握し、それが何であるかを知っていなければ不可能な芸当。

 

「討伐隊が壊走する訳だ………こいつら完全に学習してやがる」

 

忌々しそうなリョウの舌打ち。

多分奴らは、ゴッドイーターの襲撃から幾度も逃げ延びた者の集まりだ。

何度も戦いを繰り返す内に奴らはゴッドイーターの動きと戦術を学んでいき、そして同じ者同士で群れを作る事で今日の軍隊と相成ったのだろう。

ゴッドイーターにとって真に恐ろしいのは、強大な力を持った一体ではない。

高い知能とチームワークを持つ群体だ。

 

「こりゃいつも通りたぁいかねえな……」

 

「そうですね。しかし」

 

機構が駆動し、シエルの神機が近接形態(ショートブレード)に切り替わる。

 

「私達が呼吸を合わせれば、きっと恐れるに足りません」

 

「シエルの言う通りだ。見せてやろうぜ、隊長───チームワークにはチームワークだ」

 

「そーそー!やっちゃお、隊長!」

 

思わず苦笑いが出た。

一筋縄ではいかないこの状況。

苦しい戦いになるはずなのに、どうとでもなると思わせられる────彼らの何と頼もしいことか。

そしてリョウの瞳に力が灯る。

神機を握る両手に力が宿っていく。

 

「そうだな」

 

そうだ。

何を弱気になることもない。

この程度の脅威などに、自分達は負けやしない。

 

「じゃ、いっちょ見せてやっか。

あいつらに、俺達(人間)の強さって奴を

 

 

 

「要はあれを4つばかり殺せばいいんだろう?」

 

 

 

ザッ、と前に出る足音が一つ。

リョウの言葉を遮ったのは、刃のハンマーを肩に担いだ旺神ジンだった。

 

「………おい、ジン?」

 

「正面突破するならとっととやればいい。

やる事が決まってるなら即座にすればいい。

立ち止まって喋る理由がわからない」

 

その時、ガルム達が動いた。

不用意に前に出たジンを標的にしたのだ。

統率された魔狼の群れが、ジンの周囲の空間を埋めるように襲いかかる。

 

「おいジン危ねえ、来るぞ────!」

 

バスターを構えて迎撃しようとするリョウ。

しかしそれは全くの杞憂に終わった。

ガルムの攻撃が炸裂した場所、そこには既にジンはいなかったからだ。

 

視界を覆う大質量の隙間をするりと抜けて。

それこそまるで───ただ人とすれ違うように。

 

「ガルルッ………!?」

 

後方に抜けたジンを唸り声を鳴らして振り向くガルム。

そのジンは軽く首を反らして、よく晴れた午前中の空を見上げていた。

 

「今日は空が青いな」

 

じり、と彼の姿勢が変わる。

腰を落として足を曲げ、背中を丸めた前傾姿勢は、飛びかかる寸前の獣にも見えた。

異類の双眸が標的を映す。

薄く息の漏れる口から低く這うように吐き出されたのは、ただただ一方的な宣告だった。

 

 

「─────死ぬには良い日だ」

 

 

身体を反らして天を仰いだジンの口が、がぱっと顔面ごと開くような勢いで開く。

 

──────吼えた。

 

「ぅぉぉォォオオオオオおおオオオぉオオオオオオオオおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオオオオオオオおおおオオオオオオオオオオオォォォオオオオオオおオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」

 

ビリビリと鳴る音のショックに、リョウ達が思わず耳を塞ぐ。

なんと馬鹿デカい声か───新たなアラガミが作戦エリアに侵入したと言われたら信じてしまいそうだ。

地獄の底から叩き出すような遠吠えに、ガルム達でさえやや怯んでいるようだった。

ガコン!とジンのハンマーが展開される。

開いた機構から出現したブースターから噴き出す炎は、まるで彼のボルテージの投影。

低く身を沈めた彼が神機を腰だめに構えた。

そして。

 

前へ跳ぶ。いや、飛ぶ。

自身の身体能力+ハンマーの加速により一瞬で最高速度に達したジンが、一息でガルムに肉薄する。

 

「「「「ッッッッ!!??」」」」

 

振り上げたハンマーが全力で地面を叩く。

機構を起動したブーストハンマーの強力な一発を、彼は出鼻からブッ放したのだ。

しかし敵の反応速度もさるもの、ガルム達はギリギリのところで散らばってそれを回避していた。

そして全力の一撃というものは、回避された時の隙が大きい。

硬直したジンを狙って、再び4匹が襲いかかる。

が。

 

「あ゛あ゛ッ!!」

 

短い咆哮。

筋力にモノを言わせて衝撃による硬直から強引に脱け出したジンが、ブースターの噴射を消さないまま動いた。

横薙ぎに振るった鉄槌で目の前のガルムの前足を弾き飛ばし、作り出した安全地帯からムリヤリ包囲網を突破する。

ジンはハンマーの起動を停止させなかった。

推力で暴れそうになる神機を五体全てで制御し、再びガルムに牙を向く。

 

「「「「「オォォォオオオオオオオッッ!!!」」」」」

 

4匹と1人の咆哮が重なる。

真っ黒な眼に金色の瞳。

異類の眼光が火花を散らし───真っ白な獣が今、戦場を駆け抜ける。

 

 

 

「………すっ……ごい………」

 

目の前のジンの戦いぶりを見ていたナナが呆然と口を開ける。

高度な連携攻撃を繰り出すガルム達を相手にただ一人力業でカチ合っている彼に、同じハンマー使いとして驚嘆すべきものを見たらしい。

 

「ハンマーって重たいから、あんまりあちこち動けないのに、それをジンくん………」

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