そして神は人と成る ─GOD EATER 2─   作:嵐牛

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第11話

 走る。走る。疾る。

 鉄槌から炎を吐き出し続けるジンが、制服の白とブースターの尾を引きながら雄叫びを上げる。

 闘争心に顔貌を歪めて、猛烈な速度で戦場を縦横無尽に駆け巡るその様はまさに餓狼のようだった。

 土色と白が絡み合うように入り乱れ、最早手をつけられる隙間がない。合計して自分の数百倍の質量差の暴威の渦中を、彼は目まぐるしく泳いでいた。

 

 「っああクソ、不用意に突っ走りやがって!」

 

 「ブースト中のハンマーで戦うのってすっごく疲れるんだよ!? 早く助けないと動けなくなっちゃう!」

 

 「とにかく引き剥がすぞ! いくら何でも分が悪りぃ!」

 

 注意(ヘイト)を引くには近接形態ではなく銃形態の方が効果的なのだが、とにかくジンとガルムが動き回るせいで狙いが付けにくく、誤射する可能性も無視できない。

 ならば直接的な接触で強引に注意を分散させようと慌てて4人は駆け出した。

 最も手近な所にいたガルムの後ろ足に、まずはシエルのショートブレードが素早く傷を付けた。

 

「グルッ」

 

 背後からの攻撃で改めて他の敵を認識したガルムがシエルを睨む。

 他にもギルのスピアやナナのハンマー、リョウのバスターブレードがガルム達に激突。

 手数でダメージを稼ぐタイプのシエルとギルはその一発で注意を引くことは出来なかったが、一撃が重いナナとリョウは目論見通りに速やかに狙いを自分に向けさせることに成功した。

 

 「やった、こっちきた!」

 

 「2人ともその2匹引き付けといてくれ! おいジン、一端下がってスタミナを回復……っておいっっ!?」

 

 リョウが飛ばそうとした指示が寸断された。

 ジンを休ませる為に全員でガルム達を引き付けようとしたのに、その本人が息もつかずに釣り出したガルムに襲いかかったからだ。

 跳躍したジンはまずリョウが引き付けたガルムの背中を思い切りブン殴り、次いで注意が逸れてこれ幸いとばかりにナナが引き付けた方に跳び移り───そしてあろう事か、その背中に跨がった。

 

 「しぃィイイッ!!」

 

 アラガミに表情というものがあるのなら、さぞかしギョッとした顔が見られた事だろう。

 背中に張り付いた敵を振り落とそうと全力で身体を暴れさせるガルムだが、ジンは落ちる気配がない。かつて行われていたという暴牛を乗りこなすスポーツ、ロデオの騎手のように不動のまま、彼は跨がっている背中に火を噴くハンマーを振り下ろし続けている。

 当然、釣り出しはご破算。

 ジンを乗せたまま暴れながら別エリアに移動していくガルムを追って、残りの3匹も走り去ろうとする。

 

「全員ブッ放せ! ジンを回収しろ!」

 

 状況を止めようにも、スタングレネードが効かないのがとにかく痛い。

 リョウとシエルは持てる中で最も高威力のバレットを、ギルとナナはその隙間を縫って近接攻撃を叩き込む。

 それらを余す所なく食らった3匹の内、1匹はリョウ達に標的を変更。

 

 しかし残りの2匹は、尚もジンを狙った。

 

 「これでまだこっち来ないの!?」

 

 「それ程ジンさんを脅威と見なしているんでしょうか……!?」

 

 驚愕に目を見開くメンバーに向け、ガルムが突撃してくる───が、問題ない。

 連携能力の高さと道具に対する知識は非常に厄介だが、1匹になってしまえばそれはただ凡庸な1匹と大差なく、そうなればもう大した敵ではない。

 シエルの横をすり抜けたリョウが、既に準備していた溜め斬り(チャージクラッシュ)をガルムに叩き込んだ。

コアごと身体を両断され、魔狼は断末魔を上げる間もなく死体へと変わる。

 ───まず1匹。

 ひとまず脅威を減らしたリョウは直ぐ様ジンの様子を確認し、そして一瞬、呼吸が止まった。

 

 散々無茶な挙動をしたせいだろう。

 動き回っていたジンが、とうとうスタミナ切れでその場で動きを止めてしまったところだった。

 

 3匹が両腕のガントレットを展開。発熱器官から火の粉を散らし、全身に炎を纏う。

 この一瞬後には、あの燃え盛る大質量は全力の攻撃性をもってジンに襲いかかるだろう。

 具体的な指示を飛ばす暇はない。

 包囲されたジンの元へ全速力で走りつつ、リョウはただ仲間の名前のみを叫ぶ

 

 「ナナ────!!!」

 

 実際のところ、言うまでもなかっただろう。

 リョウが叫ぶのと同時に、ナナは己の《血の力》を行使していた。

 その力は《誘引》。全てのアラガミの注意を引き付け、自らを囮とする力。

 仲間が持っているものと比べても最もリスクのある力を、窮地に陥った仲間を救うべく使うという決断。

 

 それがただのいらない気遣いであったと判明するのは、その十数秒後のことだった。

 

 

 

 背中に乗って殴り続けてきた標的がガントレットを開いた。そこから放たれる熱量に危険を感じ、ジンはガルムの背中から飛び降りる。

 残りの3匹もこっちに向かっているようなので、適当に膝をついて疲れたフリをしておく。チャンスとみれぱ襲ってくるだろう、厄介な相手を排除するために大技で一撃で仕留めようとするはずだ。

 すると爆音がしたのでそちらを横目で確認してみると、4人が残りの3匹を全力で攻撃しているところだった。1匹が仕留められ、残りの2匹がこちらへと走ってくる。

 

 ………1匹分、稼ぎが減ってしまった。

 

 ジンが露骨に顔を(しか)めていると、こちらに向かってくる2匹のガントレットが展開するのが見えた。四肢に力を込め、今にも飛びかからんとしている。

 どうやら自分を集中攻撃して倒そうという腹らしい───期せずして自分から向かう手間が省けたと内心で小さく喜んだ瞬間だった。

 

 

 「ナナ────!!!」

 

 

 何か、『波』のようなものが放たれた。

 

 「「「 っっっ!? 」」」

 

 強引に注意を引かされ、そちらへ誘われるような感覚に、跳躍したガルムの足元が狂った。高空から押し潰そうとしていたようだが、軌道から考えてあれは動かなくても当たらない。

 思考まで引き寄せられるような感覚を精神で振り払い、ジンは己の動きたいように動く。

 

 残り3匹の殲滅だ。

 

 ジンはその場から飛び退き、神機を捕食形態(プレデターフォーム)に移行する。

 直後、一瞬前までジンがいた場所に背中に傷を負ったガルムが落ちてきた。迫る2匹を陽動に仕留めるつもりだったか時間差攻撃を狙ったのか、いずれにせよ素晴らしいタイミングだが、彼はガルムのその行動を感覚で察知していた。

 着地した瞬間の無防備なタイミングで、ジンは神機の(あぎと)でガルムの後ろ足を噛み千切る。

 

 捕食完了。バースト状態へ移行。

 ジンの身体が、眩い光を放つ。

 

 脚をもがれてダウンしたガルムに《ブーストインパクト》。備えられた刃に乗せられた莫大なエネルギーに、魔狼の上半身と下半身は無事泣き別れとなった。

 そして千切れた上半身をさらに捕食形態(プレデターフォーム)(あぎと)で咥え、のしかかって攻撃したかったはずが見当外れの地点に着地してしまった2匹の内の1匹に向けて全力で振り抜いた。

 フルスイング。

 ハンマー投げのようにブン投げられた死体(ガルム)の上半身が、まともに胴体にブチ当たった。

 

「ギャンッッ!?」

 

 着地の瞬間を狙われたガルムが己の半分もの質量を持つ物体をぶつけられ転倒。

 のしかかってくる死体をどかそうともがいているところにまたも《ブーストインパクト》、身体とコアを同時に爆砕され生命活動を止める。

 

 ───あっという間に、あと1匹。

 

 それを確認した瞬間にガルムが逃走を始めたのは、これまで逃げては学びを繰り返してきた経験による判断だったのかもしれない。

 こんな状況になってしまっては、逃走という判断はなるほど正解だ。

 

 不可能である、という点を除けば、だが。

 

 「逃げるなよ」

 

 それよりも早く、ジンはガルムの逃走経路に先回りしていた。

 アラガミに精神があったとして、果たしてその時のガルムの胸中は如何ばかりか。もう数秒もない猶予の中でガルムが選んだ選択は、『飛び越える』だった。

 己より遥かに体躯のサイズで劣るこの障害の頭上を、全力で跳んで逃げ延びる。

 経験を材料に(けだもの)の合理性で導き出した最適解を実行するべく、ガルムは四肢に力を込める。

 

 それが、魔狼の知覚した最後の自我だった。

 

 

 ガルムが跳ぶよりもさらに早くジンは踏み込んだ。

 ハンマーの機構が展開し、甲高い音を上げてジェット噴射が推力を吐き出す。

 まさに跳躍せんとしたガルムの顔面に、ジンは全力でハンマーを振り抜いた。

 己の腕力と敵の突進力。

 2つが合わさり発生した莫大な破壊力が、ガルムの全身を蹂躙する。

 

 

 「うおおぉォオォォアアあアッッッ!!!」

 

 

 ズッッドォォォオオオオオオン!!!と。

 肉を叩き潰すどころではない、花火でも打ち上げたような轟音が『愚者の空母』を揺るがした。

 バキバキメキメキと壊滅的な音を上げたのはガルムか、それとも神機のジョイントか。

 頭から首、上半身と順番にひしゃげていったガルムの身体が、振り抜かれたハンマーに負けて空に弧を描くように打ち返された。

 

 

 

 ────そして任務は全うされた。

 呆然と口を開けるリョウ達の前にドズンと落っこちてきたのは、逆に笑えるくらいに惨たらしい魔狼の死体。

 身体を千切られ潰されたガルム達の傷から飛散していくオラクル細胞が、ジンのあちこちを黒く染めている。

『返り血』を浴びてリョウ達の元に戻ってきた彼は、結局本格的に参戦する機会を逸した4人を見て言う。

 

「終わったぞ」

 

「……まさかここまで力でゴリ押すたぁ思わなかった。何のために全員でミッションに来たんだよコレ」

 

「バッチリ頑張れと言ったのはお前だろう」

 

「いやもうちょっと俺らを頼れ。棒立ちだわ」

 

連携の仕方を探るのと、カバーの方法。

2つの目標が2つともまさかの未達成に終わり言葉が上手く出てこないリョウ。

無茶な使い方でガタガタになったハンマーをくるりと回して肩に担いだ彼が、死骸の丘からしたり顔で四人に言う。

 

「さて、標的は俺がほとんど殺したんだ。

倒した分の報酬はキッチリ出るんだろう?」

 

 

カノンが語っていた『ウオーでゴーでどっかーん』。

彼女の擬音まみれの頭の悪いこの説明は以外にも的を射ていたらしい事を、この時リョウは知ったという。

 

作戦もチームワークも全て無視。

それでも敵を圧倒してしまう、圧倒的な個の力。

自分達(ブラッド)の在り方とは完全に真逆───

そんな異質を、全員が明確に感じていた。

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