第12話
神楽リョウ (19)
2074年フェンリル極致化技術開発局入隊。
出生:10月3日 身長:177cm
特殊部隊《ブラッド》所属。
『赤い雨』問題解決・キュウビの討伐作戦における貢献から極東支部において多大な信頼を得ている。
その人柄や精神的な強さは他の神機使いの支えになっており、上層部からの信頼も厚い。
心を通わせた者に血の力・ブラッドアーツ・およびブラッドバレットを発現させる血の力《喚起》の能力の持ち主。
またその力によって全ての兵装でブラッドアーツ・ブラッドバレットを使用できる唯一の人物でもあり、中でもバスターブレードの《C.C.ディザスター》は特に比類なき威力を誇っている。
ただし燃費が悪いのかただの快眠家なのか、寝心地のいい場所を探してはうたた寝をしている。
なお、外部にひっそりとファンクラブらしきものが形成されている模様。
「………お前な。確かにここのターミナルの使い方をレクチャーしたのは俺だし、いじってみろっつったのも俺だけどよ。
本人の前で本人の情報を見るなよ」
なんか恥ずいだろ、と訴えるリョウを華麗にスルーしてノルンの人物欄に目を通したジンが首を傾げる。
「
「編集の材料が個人個人から提供された情報だかんな。公の記録からゴシップまで載せられんだよ。あとそいつは気にしたら負けだ」
こいつは? 今欧州にいるんだと。
そんなやりとりを交わしていると、背後からよう、と声をかけられた。
「リンドウさん。………真っ昼間から酒すか……」
「んー何だ何だぁ、かてえ事言うなよ」
籠手を嵌めた右手に酒瓶、左手にグラスを持った三十路寸前のおっさんが絡んできた。
向こうのテーブルを見ると既に一本開けている。
「ホラ、新入りさんが来たってのに俺だけ挨拶がまだ出来てないだろ?親睦を深めるためにも、どうだ?1杯。2杯3杯」
「増えてんじゃないすか。てか呑むにしたって時間帯が……」
「いただこうか」
「オイ昼酒」
そう言ってジンは琥珀色の液体が入った容器に手を伸ばす。
リンドウに差し出されたグラス───ではなく、まだなみなみと酒の残っている、酒瓶の方へと。
ちょ、と止める間も無くジンは顔を上に向け、頭上で酒瓶を引っくり返した。ドボンドボンと流れ出るアルコールの滝をジンはストレートに胃袋にぶちこんでいく。
なんと豪快な呑みっぷりか───見ているリョウだけでなく、勧めたリンドウでさえ若干ヒいていた。
時間にしておよそ20秒か。ゲフ、と見事一息に呑みきったジンが、口の端から垂れた液体を袖で拭う。
「………酒の味はよくわからないが、なかなか強いな。冬に見つけたら助かるタイプだ………」
熱された腹を擦り独特な感想を漏らす彼。
空になった瓶を返却とばかりにリンドウに押し付け、唇に付いた酒を舌で舐め取る。
「つまむモンが欲しくなった。食堂の子に何か作ってもらおう」
酒の匂いを足跡のように残しつつ、ジンはそのままエレベーターに向かって歩いていく。
そこそこ高い奴だったんだぞ、とヘコむ中年の肩越しにリョウは思う。
………まさかアイツ、これから任務の反省会があんの忘れてる?
「あー………忘れてた」
「お前な……」
微妙に赤らんだ顔で何かの揚げ物をサクサク囓っているジンに何か言おうとして、リョウは少し本気で頭を抱える。これからの事がやや不安になったのだ───こいつの物忘れは、どこかで矯正しておかないといつか大変な事態を招くんじゃないか?
「あー。ジンくん私にもちょっとちょーだーい」
「……まぁアレ貰ったからいいか」
「つー訳で始めます。新メンバー加入、今日の任務反省かーい」
いえーい、とナナの合いの手。パチパチシャクシャクと拍手と咀嚼の音がミックスされて耳に届く。
「今回は内容が内容なので大して長くはなりませんがー、1つ2つほど言うことがありまーす。……つまみを食う手を止めろ、お前だよジン」
リョウに名指しされてようやく手を止めるジン。
まだ手を伸ばそうとするナナから皿を遠ざけつつ、俺がどうした、と反応を返す。
「まず1つ目。今回はお前がMVPだ。まさかあそこまでやるとは全員思ってなかったから、正直めちゃくちゃ頼もしい」
「そうかい」
「2つ目。作戦無視していきなり突っ込むのはよせ」
?とジンが片眉を上げる。
「そりゃ作戦が途中で失敗する事なんてザラだし、そん時に必要になってくんのはやっぱ個々の力だけどな。
まず皆が一番安全に、確実に任務を成功させる為に考えられてんのが作戦ってやつなんだ。
お前は確かに強いけど、ああいう事を続けるんなら………早晩死ぬぞ」
「………まぁ、まだ死ぬ訳にもいかないか」
了解したのか大して聞いていなかったのかひどく曖昧な返事だった。
表情そのものはいたって真面目、ただ微妙に酔っているようなのでリョウが判断に迷っていると、すい、とジンがソファから立ち上がった。
「ジン?」
「何か任務に行ってくる。新しい環境に来てるんだ、とにかく先立つものが欲しい」
「………ほろ酔い状態で受注できる任務があればいいな?」
ひらひらと手を振ってラウンジから去っていく白髪。
とはいえそれ以外に言う事もなかったし、そもそも彼に注意を促す為に反省会を開いたようなものだったので彼が席を立つことに何の問題もないのだが───
「………良く言えばマイペース、だな」
自己中心的。
行動が色々と自分本位である、とギルは暗に口にした。そんな事はない、と反論する者はいない。全員が彼と同じことを思っているからだ。
しかし。
「彼の生い立ちに何らかの要因があるのでしょうか」
「うーん、まだわかんない事ばっかりだねー」
「まずどこから知っていくか、だな」
彼らの特異な点は、仮に身内だからという前提が無かったとしても───『だからそいつとは関わらないようにしよう』という結論にならない事だ。
彼らは仲間を失う痛みを知っている。
だから、仲間との絆の大切さを何よりも知っている。
取っ付きづらい程度でへこたれていては───今のブラッドは存在しないのだ。
「うっし」
パチン、とリョウが手を叩く。
「人数いたらあいつスルッと抜けちまいそうだから、それぞれであいつに近付いてみよう。2人だけでいりゃ見えてくるもんがあるかもしれねえ」
「「 了解(しました) 」」
「はーい」
「っ………?」
「どうされましたか?」
「いや、寒気が………」
◇◇◇
誰が最初に旺神ジンを探りにいくか。
それを話し合ったりはしていないが、トップバッターはシエルだった。
冷静沈着で物事を論理的に思考する。
一時期は行き過ぎて自分の感情すら客観的に説明しようとしていた故にリョウから「もうちょっと柔かくなれ」と言われていたのだが───今回はそのプラスの側面を発揮してもらおうという流れである。
人物を多角的に観察・分析し、その結果の要訣を簡潔にまとめて伝える、いわばプロファイリング。
なるほど彼女には適任と言える。
言えるのだが。
「………銀髪さん。さっきから俺の顔に何か付いてる?」
「いえ、お気になさらず」
………いかんせん不器用だった。
どうも「情報収集はひっそりと」という知識と「仲間に隠し事はしない」という思いが競合を起こしてこうなっているらしい───気にされないのは限りなく不可能に近い行動だが、ジンは特に気にしている風もない。
慣れたものとばかりにスルーしている。
『あぁ!? テメェなに世界が終わったみてぇなツラしてんだ! たかだか仲間が全員敵方に寝返っただけだろうがコラ!!』
『フーゴ!? 何でここに………お前あの後、あのオンナの為にレースを降りたんじゃないのかよ!?』
『「調子に乗るな」だと!捨て犬の気分さクソが!!
いいか、俺はんなヘタレ野郎に負かされた覚えなんざねえんだよ!
ああ時間は少ない!しかしゼロじゃあ断じてない!
さぁイクぜride onだとっととそのクソッタレのfuckin dickをエレクトさせろbaby!!』
「うぉぉおおおカッケェーーーーー!!」
テレビに囓りついている藤木コウタが吠える。
話を聞くに『バガラリー』というアニメの新シリーズが始まったとか───特に主人公のライバル枠として登場したこの
うるせーお前の部屋で見ろ、というクレームも聞こえるが、まだ放送され始めたばかりなのでデータにないのだと彼は言う。
そして意外なのが、ジンも割と興味ありげに目の前のアニメーションを眺めていたことだ。
「え? お前もバガラリー好きなの!?」
「いや、単に珍しいんだ。今までテレビからは縁遠い生活だったからな。内容の方は今までの話を知らんから好きとも何とも言えん」
「じゃあ教えてやるよ!
この話は文明が崩壊した世界が舞台で、主人公のイサムが『乗ると何でも一つ願いが叶う』方舟を追うレースに参加する所から始まるんだ!
主役のイサムも、ジョニーとかガガーリンとかも生き様がスゲーカッコよくてさ!
あ、というか俺ノルンに今までの全部録画してあるからデータ貸してやr」
「ようし黙れ」
ここぞとばかりに猛プッシュしだしたコウタの顎をぱこーんと下から叩いて強制的に閉じさせる。舌を噛んだらしく悶絶するコウタを横目に、こうでもしなきゃこの手合いは黙らないんだよな、とジンが呟いたのを見て、シエルの頭にピコンと電球が浮かんだ。
自分はリョウのおかげで自分を変える事が出来た。
ならば彼の交遊関係の話をすれば、おのずと旺神ジンという人が見えてくるのではないか?
「ジンさん」
「何だ?」
「ジンさんにお友達はいらっしゃいますか?」
「ケンカ売ってんのか」
というか逆に俺の自己紹介聞いてトモダチがいると思うのか、と至極もっともな指摘を受け、今自分が凄まじく失礼な質問をした事を自覚して小さくなるシエル。これについてはきちんと反省するとして───困った事になった、と彼女は思う。
『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』という極東の言葉のように、まずは情報を集めてから切り崩していこうという作戦は不可能。ただ旺神ジンというブラックボックスのみがそこに残るという現状が明らかになった。
神楽リョウならばここから会話を続けて、少しずつでも彼に自分の事を話してもらうのだろうが………
(隊長、なかなか君のようにはいきませんね……)
心の中でシエルが小さく嘆息する。
彼ならそうするだろうしそれが出来るのだろうが、自分がそこまで器用でないのはわかっていた。
もっと早く友達に───リョウに出会えていたらこんな事もなかったのかもしれない、と少し思う。
幼い頃から書物で得た知識に凝り固まり、人との接し方は格闘術しか教わらず、そして今に至っても頭を悩ませるのはコミュニケーション能力で…………
「……………………」
「おいどうしたシエル。素材収集マラソンが10周目突破したみてえな顔してんぞ………」
噂をすればなんとやらで、心配そうな顔をしたリョウが後ろからシエルの肩を叩く。内心で精神がどんどん底に沈み始めていた彼女だが、最も信頼する人物の登場に幾分か持ち返したらしい。
「いえ、大丈夫です。問題ありません」
「俺には友達がいないって言ったら何かヘコんだ。同情されてるんだろうか、俺」
「い、いいえ!そんなつもりは全く!!」
慌てて否定するシエルに、わかってる、とどうでもよさそうに返すジン。なんというか、こちらに関心があるのか無いのかわからない。
そこでふとシエルは、ジンが加入してきた事で忘れていた用件を思い出した。
「あの、隊長。少し前にまた新しいバレットが完成したので、よろしければまた任務での実戦テストにお付き合いして貰えませんか?」
「あー……悪い。今ちょっとアリサさんのサテライト候補地の警備手伝っててな、少しの間手一杯なんだ。
また今度でよけりゃ喜んで行かせてもらうぜ」
「そうですか………わかりました。それでは、またよろしくお願いしますね」
んじゃ、とラウンジを去っていくリョウの背中をしばらく見つめて視線を戻すと、ジンがこちらを見ているのに気付いた。
初めてこちらに興味を抱いているらしい。
こちらを観察するように金色の瞳に自分を映すジンが、平然とした口調で爆弾を投下した。
「あんた、刺青さんが当分他の女と一緒にいるってわかった途端露骨にムッとしたな」
「っっっっ!?!? な、なぜ、い、いえ。そんな、そんな事はありません絶対に!!」