そして神は人と成る ─GOD EATER 2─   作:嵐牛

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第16話

 なおヘリの中であった事件に関しては、ナナは誰にも話していない。

 しかしそれを見ていたパイロットからジンの食癖がアナグラ中に広まってしまった。

 これを期に、旺神ジンの異常性はだんだんと周囲に認識されるようになる。

 

 『あの野郎、金になりそうなレア物を根こそぎかっ拐っていきやがる』

 

 『獲物も全部一人占めするしよ』

 

 『しかも立てた作戦は完全に無視する。一体なんなの? あいつ』

 

 少しずつ、少しずつジンを取り巻く感情は悪い方向へと向かっていく。

 彼に向かう悪感情が彼の存在する纏まりにも伝播していくのに、そう長い時間はいらなかった。

 

 

 『ブラッドも、あいつを何とかしろよ………』

 

 

 滑らかに回転していた歯車が、異物を噛んで軋みを上げる。

 不和を産み続けるそれを抱え込んだ彼ら四人は、それでもそれを受け入れるのか。それとも、取り除いてしまうのか。

 それが明らかになるのは、もう少し後の事。

 しかし現段階で、周囲がそのどちらを望んでいるのかは───最早考えるまでもない事だった。

 

 

 

 

 ラボラトリにいたペイラー・榊の元に、映像ファイルが添付された一通のメールが届いた。

 それを見た博士の糸目が輝く。

 そのメールは、ナナとジンと入れ違いに派遣された調査隊からの報告だったからだ。

 調査とは自分達の未来を拓く行為だ。

 新たに回収できる資源(リソース)はあるか。サテライトの建設予定地候補となるような土地はないか。あるいはアラガミの巣窟になっているような危険地帯は存在するのか。

 それらの情報は、全てが次の行動に活かせるのだ。

 

 「さて、何が見つかったものやら」

 

 博士は端末を操作してメールの文面を開く。

 その内容に目を通し………いや、正確には添付されていた映像を目にして。

 絶句した。

 

 その写真の背景は蒼氷の峡谷。

 被写体はサリエル堕天とデミウルゴス。

 つまりこれは、2人が討伐対象を殲滅した直後の写真ということになる。

 写真の中の2体は既に身体が崩れかかっていて、内部構造が露出していた。

 

 そこから何かが、ぐったりとこぼれるように飛び出している。

 

 ───()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「………何だ、これは………?」

 

 かつて姿を見せた人形のアラガミ。

 サカキ博士をして『彼女』の存在の方がまだ理屈が通るとすら思える程に、この映像は信じがたいものだった。

 ──なおこの映像を収めた直後に2体は消滅。

 オラクル細胞のサンプルは、ないらしい。

 

 

◇◇◇

 

 

 今日もいつもと変わらない朝だ。

 ぞろぞろとラウンジに集結してきたゴッドイーター達が寝惚けた身体を朝食で始動させながら、各々これからの計画を立てている。

 窓辺で紅茶を飲む者、受注する任務に向けて作戦を確認している者、トーストを口にくわえたまま寝落ちしているブラッド隊長……皆今日1日を生き延びる為に英気を養い、そして頭を回している。

 そんな中に明らかな異物が入り込んだ。

 エレベーターの中から現れた男を確認した瞬間、周囲の声のトーンが下がる。

 注意。警戒。お世辞にも歓迎とは呼べない空気も気に止めず、その男はラウンジ中央の食卓に座った。肉と野菜がたっぷり挟まった凄まじいサイズと量のサンドイッチをモギュモギュと頬張っている。

 空気の流れに敏感な神楽リョウがそこで目を覚ました。

 周りの視線と空気で大体の事情を察したのか、リョウは努めて普通に男に声をかけた。

 まるで、俺は何とも思ってないぞと言外に伝えようとするかのように。

 

 「………よう。昨日は眠れたかよ、ジン」

 

 旨そうに口の中の物を咀嚼するジンが首を横に振る。相変わらず眠りが浅いらしい。

 彼が極東支部に配属されて数週間。

 少しずつ積み重ねられてきた不和は、明確な形を産み出しつつあった。

 

 

 

 「やあ君達。朝食時に悪いけれど、少しいいかな」

 

 ペイラー・榊に呼び掛けられ、ブラッドの面々が後ろを振り向く。ジンはサンドイッチの最後の一切れを口に放り込んだ。

 

 「実は君達に折り入って頼みたい事があってね。朝食が終わったら、支部長室に集まって貰いたいんだ」

 

 「どうかしたんすか?」

 

 「その説明は集まってからさせてもらうよ。ちょっとややこしい話になってしまっているからね」

 

 ……ややこしい話。

 いつだって飄々と笑っているこの博士の真剣な顔。どうやらただ事ではない雰囲気なのを全員が理解する。

 他にも二、三言葉を交わして、博士は支部長室へと帰っていった。

 

 「……久々に面倒事の臭いがするな」

 

 「直接呼びに来るくらいだからな。何を頼まれるのやら…」

 

 「ま、俺の事だろう。そろそろ何か処分が下る頃だろうとは思ってた」

 

 ぺろりと親指のパン屑を舐め取りながらジンが言う。

 

 「あの糸目博士も大変だな。まだ若いのに組織のトップで、人事までやってるんだから」

 

 「……違うだろ。その要件なら俺とお前だけで足りる」

 

 「それもそうか」

 

 「あと聞いて驚け。あの人、あれで50歳だ」

 

 「!!!???」

 

 

 

 「やあ、来てくれたようだね」

 

 いつも通りに柔和な笑みを浮かべた博士が、支部長室に集まったブラッドメンバーを出迎えた。

 その隣はソーマが固めており、一見で物々しい雰囲気を感じさせる。

 皆が真面目な面持ちで立っている中、ただジン一人が「50……」と呟きながら博士の顔をまじまじと見詰めている。

 確かに驚くべき事実だし全員がそう思っているが、彼の場合は『初対面の人に安直なアダ名を付ける』という癖も相まって『人を見た目のみで判断する』と周囲に受け取られていた。

 

 「さて、今回君達に、ある事についての調査を手伝ってほしいんだ」

 

 「ある事?」

 

 「こいつだ」

 

 ソーマが手に持っていた端末を操作し、ある映像をブラッドに見せる。

 それは調査隊から送られてきた、明らかに人間の身体らしきものが露出している、サリエル堕天とデミウルゴスの死骸だった。

 

 「………、」

 

 「あっ、これって……!?」

 

 「ナナ君は何か覚えがあるようだね。今回問題になっているのは、まさにこれなんだ」

 

 神妙な顔で博士は語る。

 

 「調査隊からの報告によると、この人間と思しきものは崩れた死体の中から出現したらしい。当然、捕食した人間が中からこぼれたという訳はない。……オラクル細胞が『食べ残し』を出す訳がないからね」

 

 「では、アラガミ化した神機使いという可能性は……」

 

 「その説が濃厚ではあった。報告と映像からすると、この『人間』はアラガミの細胞と融合しているようだったらしいからね。……だが、それだと中途半端に人の部分が残っている事に説明がつかない。明らかに不自然だ」

 

 「つまり……?」

 

 

 

 「この人間とアラガミの融合体は───人為的な施術によって産み出された可能性があるんだよ」

 

 

 

 全員が沈黙する。

 人間とアラガミの融合。見方を変えれば、それは彼らゴッドイーター全員に共通する項目だろう。

 しかしこれは?

 誰が? 何のために?

 予想だにしていなかった方向からの衝撃に沈黙するメンバーに、前説を終えたサカキ博士が本題を切り出した。

 

 「君達にお願いしたい事は、まだ他に存在するかもしれない『融合体』のオラクルのサンプルを収集する事なんだ。もちろん任務のついででも構わない」

 

 「……それ、いくらなんでも藁山の中の針じゃないすか? 外見に目立った特徴でもなけりゃ、区別が付きませんよ」

 

 「それについて、我々は1つの推測をしている」

 

 「推測を?」

 

 「最近頻発している、特異進化したアラガミの出現との関連性だ」

 

 「………」

 

 「知っての通りオラクル細胞は食べた物の形質を取り込むパターンがままある。

 異常に凶暴化したヴァジュラや異常に足の速いクアドリガ、別種にも関わらず知性の高いコンビネーション。これは単なる進化ではなく、何者かに与えられた『餌』による結果なのではないか、と考えた訳だよ。

 ……もちろん、推測の域を出ないんだけどね」

 

 その時、ジンがふと後ろのドアを見た。

 ややもしない内に足音が近付き、ノックの後にアリサが入ってきた。

 

 「近隣の支部への問い合わせの返答が届きました。この数ヶ月において、アラガミ化した神機使いは存在しないとの事です」

 

 「………やれやれ。これで我々の経験が活かせる可能性が一つ潰れてしまった訳だ」

 

 す、とサカキ博士はデスクの上で手を組んだ。

 

 「この情報は他のメンバーにも伝えてある。今後任務という形で調査を依頼することになるけれど、相手はどんな力を持っているかわからない者ばかりだ。

心して戦ってくれ」

 

 「 「 「 了解 」 」 」

 

 とその時、デスクの通信機に内線の着信があった。

 手に取って応答した博士は電話の相手と2、3言葉を交わし、そして通話を切る。

 どうやら目の前にいるブラッドへの通達らしい。

 

 「ヒバリ君からの連絡だ。『感応種』が出現したらしい。ちょうど皆集まっていることだし、行ってくれるかい」

 

 「! 了解」

 

 聞き慣れない単語にジンが首を捻った。

 

 「感応……種?」

 

 「さっきの話とは別だけど、うざってえ特殊能力を持ったアラガミの事だ。妙な偏食場パルスを発してやがるから」

 

 「報酬はどうなんだ?」

 

 「……最後まで聞いてくれ。妙な偏食場パルスを発してやがるから、普通の神機使いじゃ戦えねえんだよ。

 『血の力』かブラッドアーツ……それかブラッドバレットに目覚めりゃ問題は無えけど、お前はまだ戦えねえ。神機が動かなくなっちまう」

 

 利益の匂いを感じたジンが切り込むが、リョウの返答にがくりと肩を落とす。欲の皮の突っ張った男である。

 

 「気ぃ落とすなよ。あぁほら、普段任務に出ずっぱりらしいじゃねえか? 今日は留守番しとけ」

 

 「じゃあ、俺は別口の任務に行くとしよう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ドサリと音がした。

 そちらを見ると、書類を取り落としたアリサが何やら蹲ってプルプル震えている。

 

 「………ん? どうした?」

 

 「……触れてやるな」

 

 フォロー(?)に入ったソーマの声は、どこか笑いを堪えているようだった。

 

 

 「かっ、感応種!」

 

 館内に流れたアナウンスに、台場カノンが反応した。

 今は皆が忙しい時だ。

 ここ最近のアラガミの特異進化の謎を解き明かす為にも、自分も率先して出撃せねばならない。

 たった今ブラッドのメンバーに出撃命令が出たとは知らない彼女は、小走りでブラッド区画のジンの部屋に向かう。

 彼に同行を願おうとしているのだ。

 

 (感応種は『血の力』やブラッドバレットがないと戦えませんけど……教官先生のご指導なら、ジンさんももう『血の力』に目覚めてますよね!)

 

 それに何より、前回の名誉を挽回し、『誤爆野郎』の汚名を返上したいのである。

 自分もあれからちゃんと反省し訓練も頑張ってきたのだから、今回は大丈夫なはずだ。

 きっといける気がする。

 いや、いける。

 彼の部屋の前に辿り着いたカノンがドアをノックしようとした時、ドアの向こうから彼の声が聞こえた。

 会話をしているようだがしかし、その相手の声が聞こえない。どうやら誰かと連絡を取り合っているようだ。

 

 『───事を起こすなら──………。何の為───「そいつら」が……──? 俺は別に──計画が……────。………ああそう、……問題無──?』

 

 

 「(……………、?)」

 

 言っている内容はよく理解できないが、とにかく邪魔しては悪い。

 ジンの同行を諦めた彼女は、最悪単身での出撃を覚悟して他のメンバーを当たりに行った。

 しかし彼女は結局、単身で小型アラガミの群れの討伐というしょっぱい任務にアサインされる事となる。

 

 

◇◇◇

 

 

 「………まさか特に何の任務も発生してないとは」

 

 「まーまー、今日は比較的平和な方なんだから喜ぼうぜ。それにやる事が無くなった訳でもないしさ」

 

 結局ジンはアラガミの討伐に向かう事は出来ず、任務帰りのコウタと一緒に外部居住区の対アラガミ装甲壁の点検を行っていた。

 もちろん万が一の為に神機は携行している。

 しかし比較的平和とは言っても現在アナグラの主要戦力が出払っている事を思うと、やはり激戦である事に変わりはないのだろう。

 あくまでも今は束の間の空白なのだ。

 

 「この壁をこうして見てると、改めて俺達が守ってる物の重さがわかるよな。こんなにでっかくて分厚い壁も、俺達が戦わなかったら遠からず破られるんだから」

 

 「そういうものか。俺は特に何の感情も沸かないけど、維持費がどれだけ費やされてるのかは気になるな」

 

 「その辺はサカキ博士とかに聞いた方が早いぜ。あ、あとどうだった? 面白いだろバガラリー」

 

 「勧められるまま見てみたが、どうもダメだな。次の話になると前の話をスッパリ忘れてる」

 

 「嘘だろおい……」

 

 致命的なまでの脳味噌の引き出しの少なさに愕然とするコウタ。

 しかし彼も新米の頃は講義中に毎回睡魔の誘惑に負けていたため、ジンについてどうこう言えるのかどうかは微妙なラインではある。

 「シャザムだったか?」「イサム!」と益体もない会話をしていると、ジンの耳がこちらに近付いてくる音を捉えた。

 

 「……何か足音が近付いてるな」

 

 「へ? 何も聞こえないけど………」

 

 するとややもしない内に、パタパタとこちらに駆け寄ってくる軽い足音が聞こえてきた。

 思わずそちらを見た二人だが、その人物を見て明確に表情を変えたのはコウタだった。

 

 「お兄ちゃーん!」

 

 「えっ、の、ノゾミ!? 何でこんな所に!?」

 

 「えへへ、友達と遊んでたの」

 

 どうやら知り合いだったようで、コウタは一応任務中だというのに頬を緩ませてその少女と遊び始めた。

 脇の下に手を入れてぐるぐると回り始めた所でやっとジンの視線に気付いたらしく、こほんと咳払いをしてノゾミに仕事中である事を告げた。

 残念そうに去っていく彼女に手を振り、コウタは少し恥ずかしそうに頭を掻く。

 

 「随分仲が良いんだな」

 

 「まあな、あれ俺の妹だからさ……。それにしても、よくノゾミがこっちに来るってわかったな」

 

 「目と耳と鼻は人より利くんだ。……見た感じは年頃だったな。一番『受ける』時期だ」

 

 「おいそんな事言うなよ! 半端な男は俺が許さないからな!」

 

 クワッ!と叫んだコウタだが、やがてその顔が寂しそうな色を帯び始めた。

 

 「……でも、ノゾミもいつかは一人立ちしちゃうんだよな……。その時はノゾミの幸せを、俺が一番喜ばなきゃだよな……」

 

 「その不安は向こう10年は杞憂に終わると思うが……、そうか。あの娘はあんたが育ててるのか?」

 

 「うーん、それは母さんがやってくれてるよ。俺はここで稼いでるんだ。家族を支える大黒柱ってヤツ!」

 

 「ああ、そういう事か。納得した。肉親のゴッドイーターの稼ぎがあれば────

 

 

 ────売春(ウリ)やらなくても食えるのか」

 

 

 「………は?」

 

 その言葉にコウタが凍り付く。

 

 「え……いや、売春って、え?」

 

 「それにここは治安も良さそうだしな。俺のいた所じゃ、1000fcも出せば()()()のが買えたんだよ」

 

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