そして神は人と成る ─GOD EATER 2─   作:嵐牛

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第21話

 とは言っても、今回の仕事は敵の撃破だけではない。サンプルとなるオラクルの採集だってあるのだ。

 集める前に飛散してしまったら元も子もない……大きめのボトルを手に、五人はわたわたとハンニバル(?)の残滓を集めにかかる。

 ギルが手近にあった小さな()()()()()を土ごとボトルで掬って次に移ろうとした時、妙なことに気付いた。

 さっき掬ったはずの細胞だまりが、また湧いていたのだ。

 試しにもう一度掬ってみると、今度は地面から灰色の液体が滲み出てくるのがはっきりとわかった。

 そして思い当たる、最悪の可能性。

 

 「皆気を付けろ! もしかしたらこのハンニバル、まだ生きてるかも知れねえ!」

 

 その言葉に、他のメンバーも即座に身構えた。

 ギルから簡単にその根拠を聞き、シエルが《直覚》で答え合わせをする。

 その地面の下に、とても微弱なオラクル反応があるらしい………それこそオペレーターの計器には反応しないほどに、『死ぬ寸前』のような反応が。

 しかし生きていることに変わりはない、さてどうするか……

 

 「もう1回ナナに掘り起こしてもらうか?」

 

 「うーん、そしたら《誘引》で回りのアラガミを呼んじゃうかもしれないんだよね……さっきも一発やってセーフだったけど、2回目は不安だよー」

 

 「そうだな……じゃあ、ジン。頼めるか?」

 

 「…………、ああ。わかったよ」

 

 返答までにやや間があったが、その理由を考える間もなくジンがハンマーで地面の掘削を開始する。

 抉るような力業により、ものの10数秒で細胞だまりの源泉にぶち当たった。

 

 「………………!?」

 

 それは見た感じ、金色の木の枝で編まれた繭だった。

 その隙間から灰色の液体が少しずつ漏れ出している……地面に滲み出していたのはこれだろう。

 その繭は何を守っているのか?

 死滅しつつあるオラクル細胞を黒い霧として噴出しているそれの寿命は、直に尽きてしまうことが容易に理解できた。

 

 「………え、これ何なの? コアは壊したよね?」

 

 「これもあのハンニバルの一部なんじゃないか?ただ、何でこんな訳のわからないものがあるのか……」

 

 「……待て」

 

 ハッ、とリョウが目を見開いた。

 

 

 「サカキ博士によると、アラガミの中から人間の身体が出てきたって話じゃなかったか?」

 

 

 全員の呼吸が止まった。

 一瞬の逡巡を見せたジンだが、すぐさま彼は両手を伸ばして繭を作る『枝』を掴み、全力の筋力を注ぎ込む。

 メキメキと軋むような音を立てて繭に亀裂が入っていき───そしてとうとう、グバッ!!と豪快に繭が左右に割り裂かれ、枝の繭が擁していた『中身』が明らかになった。

 

 

 それは人間だった。

 身体を繭と半ば同化させられ、力なく項垂れている少女が、割り裂いた繭の中にいた。

 

 

 「──────…………」

 

 認識できたのは、そこまで。

 それ以上の思考がまったく機能しなかった。

 なぜこんなものが? どうして? 何の役割で?

 ブラッドの面々が完全にフリーズしている中、信じがたい事に───繭の少女が、緩慢な動作で首を挙げた。

 虚ろな瞳がジンを見つめる。

 少女の蒼白な唇が、か細い声で振り絞るように震えた。

 

 「───た────助……け………───」

 

 その言葉に、リョウにシエル、ナナにギルのフリーズしていた思考が瞬時に解凍された。

 頭に浮かんだ疑問はとりあえず後だ。

 異常な状況にある人が『助けて』と言った。

 それはすなわち、自分達が力を尽くす時に他ならない。

 

 「回収班を呼んでくれ! 俺達じゃ何の手も打てない!」

 

 「研究班にも連絡を! 延命の処置の方法がわからない以上、まずデータを取るしか方法がありません!」

 

 「え、えーと、回復錠とか意味無いかな? まず体力の方を何とかしないと……!?」

 

 「ジン! その人を繭ごと穴の上に持って上がってくれ! お前の力ならいけるだろ、とにかくそこから出そう!!」

 

 ギルが掘り返した穴の中にいるジンに向けて叫ぶ。

 言われるままにジンは繭を両手で抱えようと、掴みやすい手頃な枝を掴んだ。

 その時、繭の少女の背中がピシパシと鳴った。

 背中の繭との接続が切れた少女が、ジンの身体にもたれ掛かってくる。

 ───果たしてそれは、彼女自身の意思による行動だったのだろうか。

 背中の接続を自ら断ち切った少女が、口を大きく開けてジンの肩に食らい付いたのだ。

 

 「ジン、どうした!?」

 

 「っ、いや、噛まれ………っっっ!?」

 

 

 ド グ ン 、と。

 少女に噛まれた部分から、猛烈な波のような疼きが侵食してきた。

 

 「かっ」

 

 痛みではない。

 もっと強烈に彼方へと自分の全てを押し流していくような、衝動。

 あるいは、圧倒的な同調圧力とでも言うべき何か。

 

 「、あ、がっ……ゔ……ヴゥゥ……ッッ!」

 

 そして。

 少女の口から雪崩れ込んでくる、得体の知れない『力』の波が────強引にジンを動かした。

 

 「うおぉオオ゙ォォォォ゙ォォオオ゙オオオ゙オ゙オ!オオオオオオ゙オオオオ゙ォォォ゙オオぉぉおお゙お゙お゙お゙おおォオォおお゙おおオオオ゙オ゙オ゙ッッッ!!!???」

 

 爆音の咆哮。

 明らかに声帯の限界を振り切った大音声に、リョウ達が思わず耳を押さえて踞る。

 ビリビリと空間を鳴らしてぶちまけられた音響が収まると、発生源のジンはガクリとその場に膝をついた。

 

 「~~~~~~っは、ハッ、ハァッ……!!」

 

 「……ジンくん? ねえちょっと、どうしたの!?」

 

 「……に………ろ」

 

 「え?」

 

 「お前ら、早く逃げ」

 

 「待ってください!!」

 

 ジンの言葉を遮るようにシエルが叫んだ。

 いつも冷静沈着な彼女からは想像できないほどに切迫した様子に、他のメンバーは肝を締め上げられるような緊張感に襲われた。

 それは単に彼女の焦燥のみによるものではない。

 感じるからだ。

 オペレーターにより全員に共有されている彼女の《直覚》から伝わってくる────自分達を取り囲む脅威と危機を。

 

 「『多数のオラクル反応を確認! 作戦エリアに無数のアラガミが接近しています!!』」

 

 

 シエルとオペレーターの声が被ると同時。

 全方位から轟いたアラガミ達の咆哮が、再び大気を鳴動させた。

 

 

 「っウソだろ、近すぎる……! 何に集まってきてやがるんだこいつら!!」

 

 「冗談じゃねーぞ、ナナの《誘引》が暴走した時より範囲が広いじゃねーか!!」

 

 「こっ、これどーするの!? 撤退できる!?」

 

 「既に応援は呼んでいます! ただここを凌ぎきらない事には何も……!!」

 

 ここでジンもヨロヨロと立ち上がった。

 穴から這い出てハンマーを担ぎ、既に遠目に見えている軍団の影を睨む。

 

 「……ああ、くそ。面倒な事になった」

 

 「ジン、何があったかわかんねえけどお前フラついてんじゃねえか。少し後ろに下がってろよ」

 

 「下がる? 後ろに?」

 

 全方位から足音の轟音が迫る中、はっ、とジンが息を吐くように笑う。

 

 「………じゃあ、その後ろというのはどっちだ!」

 

 叫びと共に、ジンが後ろにハンマーを振り回す。

 いの一番に殴りかかってきたコンゴウの顔面が、彼のハンマーに備え付けられた鈍角の刃に叩き割られた。

 緊迫したオペレーターから伝達される、接近中のアラガミのカウントは未だ増え続けている。

 現在の戦況。

 特殊部隊《ブラッド》5人 対 アラガミ軍団60体。

 

 

 一太刀でサリエルを3匹纏めて叩き斬り、返す刀でボルグ・カムランの口内に刃を入れて輪切りにする。

 上空から躍りかかってきたグボロ・グボロを力任せにホームラン。

 長大な槍が周囲の小型アラガミをいっぺんに薙ぎ払い、ショートブレードが最小の手数でコアを抉り出す。

 倒して倒して倒して倒して────敵の数は、未だ減らない。

 

 「あーもー、キリが無いよー!」

 

 「もう第一部隊と第四部隊が向かってくれてる、それまで堪えろ!!」

 

 「カノンに纏めて吹っ飛ばして貰えば楽かもな! ………ジン! そろそろいいぞ戻ってこい!」

 

 「あああああああああああああ!!!」

 

 笑えるほど凄まじい数のアラガミに追いかけ回されているジンにギルが合図する。

 それを受けて彼は進路を急変更、手招きしている神楽リョウに向けてさらに全力で走り出した。

 

 「……いいんだな! このまま突っ込んで!」

 

 「おー、来い来い」

 

 ニヤリとリョウが笑うと同時、彼もまた神機を構えて前方に突撃、マックススピードでジンとすれ違う。

 その途端、彼の身体が眩いばかりの光を放った。

 シエル、ナナ、ギルからの受け渡し弾だ。

 ───バーストレベル3。

 限界までチャージされたエネルギーが、バスターブレードから炎のように吹き荒れる。

 

 吐き出される無尽蔵のオラクルが、彼の力を顕すに足るようにその姿を作っていく。

 山すら斬るかというサイズのそれは、死神の鎌か、悪魔の翼か。

 反逆の刃が纏った色は、鮮やかな迄に鮮烈な紅。

 

 《C.C.ディザスター》。

 神楽リョウがその名前を内外に轟かせる大きな理由となったそのブラッドアーツが、総てを二つに断ち斬った。

 

 雷鳴のような破壊音。

 アラガミも地形も差別なし、まさに天災(ディザスター)の名に相応しい大破壊をやってのけたリョウに、ジンは若干引きながら言う。

 

 「とにかく敵を引き付けろと言うから、何をやるのかと思えば……いよいよ厄介払いされるのかと肝を冷やしたぞ」

 

 「ロクでもねえ事言うんじゃねえよ。なんかお前がいるとアラガミが寄ってくるって聞いたから頼んでみたんだ」

 

 「………。……それならネコミミさんの何だっけ、アレでもよかったんじゃないか?」

 

 「ナナのは範囲がデカすぎる。いらんモンまで呼んじまうんだよ」

 

 とはいえ、今の一太刀で群れの3割近くがいっぺんに消し飛んだ。

 後に残った奴らはリョウの力に完全に尻込みしている───それでもまだ10数体残っているが、この分ならうまく威圧すれば戦うこと無しに壊走させることも出来るだろう。

 状況打開の光明に心の中でガッツポーズをする一同。

 そしてその光明は、咆哮と共に現れたいくつもの敵影に速攻で閉ざされた。

 

 「もーーーーーーーーー!!」

 

 「くっそ、キリねえぞ! 隊長、一旦散開するか!?」

 

 「こう開けた場所で囲まれたら隠れる場所がねえ、ここで連携を取りつつ応戦したほうがいい! シエルとギルは壁の薄いとこから食い破れ! 俺はナナとデカい奴を潰していく!

 ジンは体力を回復してからそれぞれのフォローに入ってくれ!

 ───走り回んのは得意だろ?」

 

 ニヤリと笑ってリョウが言う。

 体力を回復してからという文言こそ入っているものの、この男は中々に人使いが荒い、とジンは内心で確信する。

 もっとも休んでいる余裕など無いので従うことに異議は無いが、地味に自分のウェイトが重いような気がしなくもない。

いや。あるいは、それも信頼の表れなのか───

 

 「─────────?」

 

 了解、と言おうとしたジンの動きが止まる。

 す、と彼は構えを解くと、顔を上に向けてキョロキョロと周囲を見回した。

 

 「……おい、どうした?」

 

 リョウの怪訝そうな呼び掛けも聞こえていない。

 耳を動かして鼻を鳴らし、ここにはない何かの存在を疑っている。

 そして彼の目線は遠くの一点を見つめて止まり、その瞳が何かを凝視するように(すが)め───

 

 「──────ッッ!!!」

 

 「!? ジン!?」

 

 リョウの指示を全て無視して、彼は全力で走り出した。

 逃走とも違う意図の読めない突然の行動に戸惑う4人だが、既に遠くに走り去っている呼び止めている暇がない。

 やむ無くブラッド隊は仲間を1人欠いた状態でアラガミの群と戦うこととなった。

 

 現段階で発生している、もう1つの非常事態。

 それに気付いたのは、まだ旺神ジンだけだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 「………かなり波長が不安定だね。現地からハンニバルって確認が取れなきゃ信じられないデータだよ。いったいどんな姿してるんだろ……」

 

 ベースキャンプにいる楠リッカは、自分の役割として計器とにらめっこしていた。

 

 「ここまで数値がメチャクチャだと、もうアラガミとしての体を為してるかすら怪しくなってくる………人間で言えば脳波が狂いまくってるのと同じ。形態の維持どころか、そもそも生命活動すら不可能なはず。

 そこをゴリ押すなんて気合いや根性とかの問題じゃない」

 

 記録を取りながらリッカは呟き続ける。

 頭の中だけで思うのではない。独り言として外側にアウトプットすることで意識に形を与え、よりハッキリと思考の筋道を構築していく。

 

 「そう、何か。何かがあるはず。不安定なものを不安定なりに、強引にでも稼働させ続けるエンジン……いや、エンジンを支えている、『ペースメーカーのような何か』が。けどもちろん機械な訳がないし……」

 

 す、と彼女の目が静かに細くなる。

 

 

 「………暴れるコアに方向性を与える思考能力………『意思』を備えた、『何か』………」

 

 

 その時、フッ、とテント全体の光量が減った。

 太陽に雲がかかったかなと意識の隅で考えたリッカだが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

 直後。

 ズンッッッッ!!!!と、激甚な地響きがリッカを襲った。

 

 尻餅をついて転んだ彼女が、何が起きたと慌ててテントの外に出る。

 まず最初に感じたのは、光量の落ちた周囲の景色。

 大きくうねる息遣い。低く轟く唸り声。

 それが聞こえる方向に、リッカは反射的にそちらを向いて────そして、思考が停止した。

 調査の結果『アラガミの侵入経路には無い』とされた、小さな岩場の谷間に拵えたベースキャンプ。

 それを跨ぐように、幾つもの眼がリッカを見ていた。

 

 巨躯。泰山。

 通常のサイズよりも倍近く巨大なウロヴォロスが、小さな溝を覗くように岩場の谷間に鎮座していた。

 

 ────なぜ?どこから?

 そんな当たり前の疑問すら浮かばない程に凍り付いた彼女の思考は、バラリと解け始めた霊木のように太い混沌の腕を見てようやく本来の役割を思い出す。

 

 全力で後ろに走り出すと同時、何本もの触手が地面から飛び出してきた。

 一瞬先までリッカがいた空間が恐ろしい力で貫かれていく。

 

 (なんでウロヴォロスがここに!? 連絡も何もなかったし、そもそもセンサーに反応もなかったのに!!)

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