そして神は人と成る ─GOD EATER 2─   作:嵐牛

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第23話

◇◇◇

 

 

 今回の報告と会議は、小康状態とはいえ病み上がりのジンを考慮して病室で行われる運びとなった。

 任務の内容とアクシデント、並びにイレギュラー報告を聞いたペイラー・榊の顔が険しくなる。

 

 「………さて、どこから整理すればいいものやら………。

 まずはハンニバルの中から出てきた『女性』だけれど、『女性』が君達に助けを求めたとなると……これはいよいよ一連のアラガミの異常進化が人為的なものと確定してしまったね」

 

 「リッカの話によれば、あの『人』は意図的にバグを引き起こしたオラクル細胞を制御する為の核のようなものじゃないか、って話らしい。

 ただ、戻った時には飛散しちまっててサンプルは取れなかったけどな……」

 

 「もしかして、あのウロヴォロスもおなじ『融合体』、だったりしたのかなー……?」

 

 「断定は出来ないが可能性は高いだろうね。偽装フェロモン等で安全を確保しているベースキャンプの場所を特定し、そこに襲撃をかけるという知能的な行動すら見せたのだから。

 しかしそのウロヴォロスは、報告によれば通常の2倍程の体躯を誇っていたという事だけど……」

 

 サカキ博士が目線をベッドの上に移した。

 

 「さらにそれを、ジン君が一撃で粉砕してしまった、と………」

 

 「………あ、俺の話か?」

 

 ベッドの上で胡座をかいているジンが、博士のフリに数秒遅れて反応した。

 そのきょとんとした表情から察するに、今までの話がさっぱり理解できていない様である。

 

 「私達はリッカさんから聞いただけなので詳細は不明ですが、これはジンさんも『血の力』に目覚めた……ということでいいのでしょうか?」

 

 「うーん、でもジュリウスや隊長の時みたいに、力があふれてくるカンジはしなかったよねー」

 

 「………というかジン、お前大丈夫なのか? 全身の骨がバキバキになってるって話だったはずだろ? 既に包帯も解かれてるみたいだけどよ……」

 

 んー、とジンが全身を捻るように身体を伸ばす。少なくとも骨がどうこうという影響は見てとれない。

 運ばれてきた彼を看た医師に『ゴッドイーターの身だとしても今後真っ直ぐには立てまい』と言わしめるほどに粉砕された彼の身体だが、寝て起きたらもう健康体であったらしい………ここまでの自然回復力を見たのは前支部長の息子以来だと大いに驚かせたそうだ。

 ちなみに元より軽傷のリッカは既に病室を出て仕事に復帰している。

 

 「あの一撃が何なのかは俺にもわからないが、その時の感覚はハッキリと覚えている。何と言えばいいのかな……極限の空腹時に口に放り込んだピョンピョン跳ねるやつの味を今でも脳内で再現できるような」

 

 「笑えねー例えを出すな。……ってーとどうだ。それ、もう1回やってみろって言われたらやれるか?」

 

 「やろうと思えば出来ると思う」

 

 「本当かい!?」

 

 それに反応したのはリョウではなくサカキ博士だった。

 ずいっ、と目と鼻の先まで顔を近付けられたジンが仰け反って呻く。

 

 「それは実に興味深いね。よかったら是非私にも見せてくれないか?」

 

 「あー、それなら皆と話してたトコっすよ。ジンももう退院できるそうなんで、病み上がりの馴らしも兼ねて郊外で見せて貰おうって。博士も来ますか、じゃあ」

 

 「是非とも! それじゃあ私は、それまでに少し残った仕事を終わらせておくよ」

 

 

 病室を出たサカキ博士は、支部長室の中でソーマ・シックザールと向かい合っていた。

 机の上は書類の(たぐ)いもなく綺麗なもので、そして向き合っている二人の表情は険しい。

 静寂の中会話の口火を切ったのはソーマの方だった。

 

 「……おっさん。アンタあいつらに、肝心な事言ってねえだろ」

 

 「やれやれ、聞かれていたかい」

 

 「何で言わなかった? これは俺達だけで片付く話でもないだろ」

 

 そして、彼は。

 

 

 「例の『女』と旺神ジンの間に起こった現象。………ありゃ間違いなく《感応現象》と同種のモンだ」

 

 

 ……《感応現象》。

 ゴッドイーター同士で発生する共鳴とも呼べるこの現象は今でこそ見慣れたものとなっているが、それによって得られる結果は大きい。

 共鳴した双方の過去なども含む『記憶の共有』に始まるこの現象は、あるゴッドイーターのトラウマを克服させたセラピーとして、あるいはアラガミ化したゴッドイーターを救い出したアンカーとして多大な成果を挙げている。

 

 そこで問題なのは、この現象は『同じ性質を持つ者同士でのみ発生する』という点だ。

 

 当初『新型』同士で発見されたその現象。

 あのハンニバルの中から出てきた女性に噛み付かれたジンから発生し、そして検出された感応波のパターンは───明らかに《感応現象》と同じモノだったのだ。

 

 あの核の女性と旺神ジンが共鳴した。

 それはつまり───

 

 「………確かに、結論を出す為の根拠はそれなりに揃っている。だがしかし、肝心の大元……黒幕の姿を、私達は尻尾の一つも掴めていない」

 

 「つまり?」

 

 「確実にこちらを追い詰めてくる黒幕に対して、私達は団結を求められているんだ。

 彼らに話さなかったのはこういう理由だよ。

 敵の明確なビジョンを掴めていない現状、彼らの間にいたずらに不信感を芽生えさせる訳にはいかない。

 だから今はまだ、私達の間で警戒するのみに留めておきたいんだ」

 

 ソーマは博士の言葉を咀嚼して飲み込み、静かに応えた。

 

 「……わかった。あんたの判断を信じよう」

 

 ソーマは踵を返して支部長室のドアを開ける。

 部屋から退出する直前、彼は一言だけサカキ博士に言った。

 

 「急ぐぞ」

 

 パタン、と扉が閉まった。

 1人になった室内で、博士は手を組んだまま考える。

 ───アラガミの異常発達は、間違いなく人為的なもの。

 重大な事実だが、それだけしかわかっていない。

 誰が、誰と、どうやって、何の目的で。

 『追い詰めてくる』なんて表現はしたものの、そもそもにおいて被害らしい被害は強くなったアラガミに苦戦しているだけ………『仮想敵』としてのビジョンも見えない。

 対策のしようがないのだ。

 

 (今のところは、直接ここに関わっている訳ではないようだけれど)

 

 こういうキナ臭い流れは絶対ここに来るんだよね、と。

 ───しかし、糸口が無い訳ではないのだ。

 しかもそれは探すまでもなく、目の前にぶら下げられている。

 『それ』に手を出していいものなのか、あるいはあからさまな罠なのか。

 手を出す口実ならある。

 だが、手を出した結果を黒幕に繋げる手段は、どうあっても人道に反してしまう訳で───

 

 「私としても本当に嫌なんだ────今はただ、『君』が味方であることを祈っているよ」

 

 そう呟いて博士は椅子から腰を上げ、ブラッドメンバーの待つラウンジへと向かう。

 期待のこもった眼差しを一身に受けて、しかしそこにいる旺神ジンは普段と変わらない様子であった。

 

 

 

 サテライトの外壁近く、周囲に何もない平地。

 その中央に立つジンを、ブラッドメンバーとサカキ博士が遠巻きに見詰めている。

 ジンは手に持ったブーストハンマーの感触を確かめ、あの瞬間の感覚を反芻する。

 ────いける。

 固唾を飲んで彼を見るメンバーに、ジンが片手を挙げて合図した。

 やるぞ、という意味だろう。

 

 ジンの身体から、赤黒いオーラが吹き荒れる。

 

 「おおっ………!?」

 

 自分達のものとは違う静脈血のような異様に、リョウ達は思わず息を呑む。

 そしてジンはそのままハンマーを振りかぶった。

 それに応えるように眩く輝く、黄金の光。

 三日月の軌道を描くように、身体全体を使ってそれを全力で地面に向けて降り下ろす。

 

 激甚な震動と衝撃が、周囲一帯を舐め尽くした。

 

 「 「 「 ───────っっっ!?!? 」 」 」

 

 吹き荒ぶ土煙に全員が目を覆った。

 

 「うーわ、すっげえなコレおい!」

 

 「隊長のよりヤバイんじゃねえか!?」

 

 「しかしこれはっ、強すぎです……っ」

 

 「うーっ、私の力持ち自慢がーっ!」

 

 思い思いの感想を叫ぶ中やがて爆風は収まり、土煙はゆっくりと風で払われていった。

 跡に残っていたのは、隕石でも着弾したのかとでもいうような巨大なクレーターだった。

 リョウ達は慌ててその中心にいるジンに駆け寄る。

 それを見たジンは、自分を『見下ろしている』彼らの方を向いて少し自慢げに言った。

 

 「………ざっとこんなものらしいが、どうだ。中々どうしてスカッと決まったもんじゃないか?」

 

 「あー、最高に決まってたよ。………ぶっ倒れて地面と同化してなきゃな………」

 

 

 

 

 「よお、そろそろ立てるか?」

 

 「何とかな………」

 

 地面に転がっていたジンがよいしょ、と立ち上がった。

 しかし体重を支える足はどこかフラフラと頼りなく、息もまるで長距離走の直後のように乱れている。

 明らかに自分の一撃に体力をゴッソリ持ってかれていた。

 

 「ふむ、今の君の技は間違いなくブラッドアーツだね。……しかし今の君の疲労は、さっきの一撃によるものなのかい?」

 

 「ああ、俺の意思に関係無く全部の力を引っ張り出されたよ。どうも一発撃ったらしばらく動けなくなるらしいな」

 

 「今後使用する際には、予めスタミナ増強剤を口に含んでおくと良いかも知れませんね」

 

 「……しかし妙だな」

 

 顎に手を当ててリョウが首を傾げる。

 

 「ブラッドアーツってのは『血の力』と同時に目覚める代物のハズだろ? けどやっぱジンから『血の力』みたいな感覚は感じなかったぞ……?」

 

 「……ジン君。君がリッカ君を助けた時、どんな思いでその一撃を繰り出したのかな?」

 

 ……リッカ?

 ……ああほら、頭にゴーグルを着けてる彼女だよ。

 ジンはサカキ博士のその質問の意図がよくわからなかったようだが、とりあえずその瞬間を思い返してありのままを答えた。

 

 「そうだな……とにかく無我夢中だった。体力ももう残ってなくて、相手も異様にデカかったし……とにかく一撃で終わらせないと終わりだ、とそう思った………と思う」

 

 なるほど、とそれを聞いたサカキ博士はしばし黙考する。

 

 「君達ブラッドのP66偏食因子はまだ研究の余地があり、完全な解明には至っていない。私の仮説を言うなら……」

 

 「?」

 

 

 「『血の力』とは『意思』の力だ。他のメンバーとは違う色のブラッドアーツ………もしかするとこれはまだ不活性状態にあるジン君の偏食因子が、それでも主の意思に応えた結果なのかもしれないねえ」

 

 『意思の力』、と研究者にしては概念的で曖昧な言葉を使った辺り、やはり仮説の域を出ない考察なのだろう。

 しかしその仮説に異を唱える者は一人もいない。

 なぜならここにいるブラッドのメンバーは全員、同じように己の意思で自分の殻を破ってきた者達だからだ。

 

 「……お前のブラッドアーツにも名前が要るなぁ」

 

 「名前。……要るのか?」

 

 「これからずーっといっしょに戦う力だもんね! こういうのは気分気分!」

 

 「そーだぜ。案がなきゃ俺らで決めちまうぞー?」

 

 「ああ、まぁ……好きにしてくれ」

 

 ジン本人を差し置いてなんか井戸端会議が始まった。

 ああでもないこうでもないと思いの外ノリノリで意見が募られていくのを輪の外から眺めているジンはサカキ博士に向けて首を傾げるが、博士は軽く笑うだけ。

 なぜ自分の事でも無いことを、こうして自分の事のように喜び楽しめるのか……ジンが未だに理解できていない心情の一つである。

 

 「おっし。ジン、決まったぞ」

 

 「そ、そうか」

 

 決め手はやはり、神楽リョウの鶴の一声らしかった。

 

 「刮目して聞け。今日からお前のそのブラッドアーツの名前は────

 

 

 ────《神殺(かみごろし)》、だ」

 

 

 ………神を殺す、と。

 己の役割をそのまま表したような余りにも捻りのない無骨な響きを頭の中で反芻し、ジンは手の中のハンマーの柄を握り直す。

 

 「後は俺が覚えていられるかだな……」

 

 「覚えてくれよ! コレ逐一確認されんのヤだぞ俺!」

 

 

 その後実戦での検証として『軽めの』任務に出向き、ジンが《神殺》でボルグ・カムランをバッキバキにひしゃげさせたところでこの日の仕事は終了。

 破壊力に限ればリョウの《C.C.ディザスター》を超えるとのお墨付きを貰ったが、「当たれば終わるがピーキー過ぎて云々」「短期決戦でこそ真価が発揮されて云々」「外した際のフォローを云々」とぶっ倒れている自分を囲んでの会議はジンにとってある種異様な体験となった。

 そしてようやく帰投のヘリから降り、アナグラに戻ろうとするところである。

 

 「………疲れた……」

 

 「まあ1日に2回もスタミナが空っぽになればな」

 

 「もう今日は部屋で寝る。シャワーなんて後回しだ」

 

 「んだと? 俺の方が寝るの早いに決まってんだろ」

 

 「君は対抗意識を燃やす場所がおかしいと思うのは私の気のせいでしょうか………」

 

 妙なところで張り合いだしたリョウに、珍しくシエルの突っ込みが入る。

 優しさと責任感が原動力で、他者が伸びれば手放しで喜ぶ。秀でる故に闘争心の希薄なリョウはどうも張り合うツボが人とズレているようだった。

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