そして神は人と成る ─GOD EATER 2─   作:嵐牛

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第28話

 身体を起こそうとして力が入らず失敗した。

 四方八方から見下ろされながら、這いつくばった諜者(イヌ)が鳴く。

 

 「説明も何も全部話の通りだ。俺達は謂わばそれぞれの感応種の能力を持った『人型アラガミ』だ。

 それぞれどんな能力を持ってんのかはあんたらならわかるだろ。

 俺のオラクル反応を目標として、そこに向けアラガミの軍勢を率いてこの支部を力と物量で叩き潰すのが計画の内容だ」

 

 「それでお前は」

 

 「時間がねえ手短に言う。今すぐ逃げろ。真正面からカチ合ってどうこうできる量じゃない。

 俺達はもう準備を終えてる。輸送車や輸送機全部突っ込めば少なくともここにいる奴等だけならいけるだろ。この建物は失陥しても最低限『極東支部』は終わらない」

 

 「? ……おい」

 

 リョウの質問も無視して、絶え絶えな息を全て絞り出す勢いでジンが捲し立てる。

 残された時の短さを証明するような様はその言葉が真実であることの証左だった。

 しかし何故それを言うのか?

 訝しむようにサカキが問う。

 

 「なぜそれを私達に教えるんだい? そちらの手段と対処法をつまびらかにした所で、君たちに利するものなど無いはずだ」

 

 「………さあな。………何でだろうな」

 

 自嘲的に笑うジン。

 その言葉の真意を問い質すべく前に出ようとしたリョウを、シエルが全力で後ろに引き戻した。

 他の者は《直覚》を持つ彼女に数秒遅れて視覚と聴覚で認識した。

 

 何かが泡立つような音と共に、伏したジンの背中や襟足が赤く光り始める。

 ザワザワと不自然に揺らぐ髪は明らかな異常を伝えていた。

 必死で何かに抗おうと歯を喰い縛っていたジンはやがて糸が切れたように脱力し、床に額を打ち付けた。

 それに反比例して増大していく、ジンのオラクル反応。

 

 

 「俺は────結局───────」

 

 

 ぶるり、と。

 ジンの身体が大きく震えた。

 

 

 血の色をした爆発。

 炎のように輝く触手が、ジンの背中から天を衝くように噴き出した

 同時に発生したもはや物理的な圧力すら伴う密度の偏食場パルスが空気を震わせる音は、狼の遠吠えのようにも聴こえたという。

 ────感応種の力を持つ彼らの外見は、基となったアラガミの特徴を多く備えていた。

 それは彼も例外ではないようで。

 夜に浮かぶ満月のような瞳。

 雪のように白い髪。

 紅い触手だけを見ずとも、符合する点は多々あった。

 

 「……よくよく縁のある奴だよ、ったく」

 

 ラガシュ。あるいは旺神ジン。

 赤蝕狼(マルドゥーク)の特徴と権能を宿した男は、その身の全てを振り絞るように破局を導く咆哮を轟かせていた。

 血で結ばれたついさっきまでの仲間たちに、かつて巻き起こった悲劇を想起させながら。

 

 

◇◇◇

 

 

 「状況を整理しよう」

 

 ジンが研究室に担ぎ込まれた後、ラウンジに全てのゴッドイーターを集めて緊急の会議が開かれた。

 

 「今まで融合体アラガミを俺たちにけしかけていたのは《クサナギ》という組織だった。

 奴らは人間とアラガミを融合させた戦士を作り、その力をもって自分たちの方法で世界を救済することを標榜してる。

 その足掛かりとなるのがここ極東支部の壊滅で、その鍵となっているのがアイツだったって訳だ」

 

 「か、壊滅ったってどうやって? さっきテレビに映ってた、あの尻尾だの羽だの生やした連中が殴り込んでくるのか?」

 

 「当然それも警戒するべきですが、本命は恐らく彼らの直接介入ではないと思います」

 

 リョウから引き継ぐ形でシエルが答える。

 

 「マルドゥークは周囲のアラガミを呼び寄せます。彼の言葉から考えるなら、彼の発する偏食場パルスでアラガミ達の大軍を呼び寄せる物量作戦ではないでしょうか」

 

 「けどさ、物量作戦を展開できる程の数って集まるの? 元々のマルドゥークの能力から考えると、1人分だけじゃそこまでの効果範囲は無さそうだけど」

 

 「それを今サカキ博士とソーマさんが調べてくれてる。もうそろそろ結果が出るはず───」

 

 その時、再びラウンジのドアが開いた。

 深刻な顔で戻ってきたサカキとソーマに全員の不安が膨れ上がる。

 リョウも2人に場所を譲り結果を聞く側に回り、そしてサカキが口火を切った。

 

 「結果が出た。………偏食場パルスの強度から推定した範囲から言って、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかもマルドゥークに限らず、感応種にはアラガミを率いる特性がある。言ってみれば彼ら『子供達』はその集まりだ。効果範囲内に予めアラガミを大量に誘導して留めておく位はやるだろう。

 『融合体』アラガミもそうやってけしかけられた訳だ。

 実際、逃げた方がいいレベルの軍勢がこちらに向かっているだろうね」

 

 重苦しい沈黙が流れる。

 相手が堂々と宣言してきた以上甘いことは考えていなかったが、実際に言葉にされると重みが違う。

 しかし今は嘆いている場合ではない。話を進めるべくアリサが問いを発した。

 

 「彼の能力が実際のマルドゥークを大きく上回るという事は、他の『子供達』の能力も同じように元のアラガミから大幅に強化されていると見ていいんでしょうか?」

 

 「……いや、恐らくそれはない。楽観視は出来ないが(おおむ)ね元となった感応種と同等だと考えられる。アイツの能力が規格外なのは、特殊な調整が施されているからだ」

 

 「そ、そうなんですか?」

 

 「それについて今から説明するが……これの説明は、必然的にアイツの話にもなる」

 

 最悪のパターンを予想外に否定され逆に戸惑ったアリサにソーマが補足する。

 しかしその表情は険しい。

 決していい意味ではないのだろう………彼の言う『調整』とは。

 そしてソーマは語り始めた。

 

 「まず俺達ゴッドイーターは、偏食因子を定期的に投与することでオラクル細胞の活動の『均衡』を保ってる。それを怠ったり、腕輪が壊れたりして活動の均衡が崩れると発生するのがアラガミ化だ。

 人造とはいえアラガミになって偏食因子を自分で生成できる『あいつら』には起こり得ない現象だがな」

 

 「それがどうあいつと繋がるんです?」

 

 

 「───アイツはわざとその安定性を崩すことで、その能力を尖鋭化されてる」

 

 

 忌々しげに歪む口許。

 

 「普通じゃ有り得ないほど活性化されたオラクル細胞。崩された均衡がもたらす結果はさっき言った通りだ。

 莫大な出力と引き換えに、既にオラクル細胞の侵食は脳にまで及んでた。

 あの分じゃここに来た頃には既に取り返しのつかない領域まで侵食されてただろうな。

 脳ミソが蝕まれていた以上、日常生活にも支障をきたしていたはずだ。

 何か心当たりはないか?

 そう、例えば────

 

 

 

 

 

 

────物忘れが異様に激しい、とかな」

 

 

 

 ゾクッッッッ!!!と。

 脊髄に液体窒素を流し込まれたような感覚に一瞬、全員の呼吸が止まった。

 既に最終段階だったオラクル細胞の侵食。

 ならば彼は壊れてしまった蛇口のように、常に能力を漏らしてしまっていたのではないか?

 アラガミを引き寄せる体質もそれに依るものならば、最早彼にも制御がきかない代物だった事は明白だ。

 

 「じゃあ、何だ」

 

 震える声でリョウが絞り出す。

 

 「あいつは……使い捨ての時限爆弾だったと。あいつらの目的の為の足掛かりになるために、未来を根刮(ねこそ)ぎ対価にさせられた、って事ですか」

 

 「……それはこの末路が彼の意思に反しているとみた場合だね。彼は最後まで真実を明かさなかった。自分の意思で命を擲ち、目的を完遂したと考えるべきだ」

 

 「何だよ……! せっかく仲間だって思えたのによぉ、結局裏切られんのかよ!」

 

 「こうなるなら最初から受け入れなきゃよかった……!」

 

 ゴッドイーター達の失望と憤怒の声にリョウは拳を握り締める。

 我が身を斬られるような痛みに耐えていた彼だが、続く誰かの言葉で急転して決壊した。

 

 「そうだ、今あいつがアラガミ共を呼んでんだろ!? だったら今動けなくなってるアイツを、その、……殺しちまえば、っ! ! ?」

 

 ゴッドイーターの言葉が強引に寸断された。

 リョウがそいつの胸ぐらを掴んで思い切り引き寄せたのだ。

 普段のリョウからは想像もつかない、人でも殺したかのような刃の如き眼光。それを至近距離から突き刺されたそのゴッドイーターの喉から、ひ、と掠れた音が漏れる。

 

 「マルドゥーク本体を討伐しても、マルドゥークが発した偏食場パルスは暫くの間その場に残り続ける。彼の出力から考えるに、例えその手段を取ったとしても敵勢力の集結は阻止できないだろう。

 だから現状で最良なのは、防衛しつつ彼を解析し、その偏食場パルスを停止させる手段を講じる事だ」

 

 サカキの冷静な反論と対案は、そのゴッドイーターというよりはリョウを落ち着かせるためのものにも聞こえた。

 最悪の手段を取らない論理的な理由を聞いて冷静に返ったリョウは、悪い、と小さく謝ってその手を離す。

 

 「……今回の作戦は、さっき言ってた通りにアイツの解析が成功するまでの敵勢力の足止めって事でいいんですか」

 

 「いや、敵勢力の撃退だ。というより、その位全力でいかなければ足止めも出来ないというのが正確だけどね。

 解析が成功し偏食場パルスを無効化させても、アラガミ達が立ち去ってくれる訳ではない。

 その後もアラガミとの戦闘は長く続くことになるし、ビーコンが無効化されたとわかれば───最終的には、あの『子供達』が直接襲ってくるだろう。

 ───要人だけ乗せて今すぐヘリで逃げろ。

 彼の言葉は、皮肉にも最適解だ」

 

 彼と任務に言った者ならば実感できる。

 あの悪辣なまでの怪力と運動能力から産み出される群を抜いた戦闘力。

 あの『子供達』それぞれが彼と同等の戦闘力を地で備え、───さらに時限爆弾の彼とは違い、感応種の能力を恐らくは自在に操ってくる。

 

 しかしそれでも彼等は逃げることが出来ない。

 彼等の敵前逃亡は義務の放棄、大勢の命を見捨てることと同義であり、ひいては人類の敗北に繋がるからだ。

 

 「今回の任務は、敵勢力の撃退を目標とする。

 無理矢理な希望的観測だが、完全に殲滅させずとも相手に目標の完遂は不可能と判断させれば私たちの勝利だ。……しっかりと準備を整えておいてくれ」

 

 「了解!!!」

 

 「……了解」

 

 了承の返事に力のない声が混ざる。

 過去最大に敗色、即ち死を感じる戦いを前に全員が奮い立てる訳もない。中には悲壮な覚悟を決める者も少なくはなかった。

 幾ばくもない後の戦争に備えるため全員が動き出そうとした時、ソーマがそれに待ったをかけた。

 

 「待て。準備を始めるその前に、お前ら……特にブラッド隊には、かなり辛い話になるが話しとかなきゃならない話がある」

 

 「辛い話……?」

 

 「アイツの過去についてだ。……リョウ。お前はアイツからその話を聞いたんだったな。どんな内容だった」

 

 なぜここで彼の過去が出てくるのか。

 話の見えない問いかけだったがここで無関係な話題が出るはずもない。

 少しの戸惑いの後、リョウはあの話を可能な限り簡略して伝えた。

 

 「法令違反の孤児院の出身で、外見のせいでひどい虐待を受けながら育ったっつってました。そんでその後ここに配属されたと。

 今までの問題行動はその経験の負の産物っすね」

 

 「そうか……」

 

 ソーマは少しだけ瞑目した。

 

 「アイツからは俺と同じ臭いを感じてな。気になってデータからアイツの来歴を調べた。

 お前の話の通り、確かにサテライトの孤児院の出身と記載されていた。

 

 ……だが、もう少し深く調べたら不自然な点がいくつも出てきた。

 

 出身したサテライトの戸籍を調べても、そこにアイツの名前はなかった。

 過去の孤児院の情報まで漁っても、そこにいた児童のリストにアイツの名前はどこにも存在していない。

 顔写真の画像を添付して情報の開示を求めても掠りもしねえ。子供の頃からあれだけ目立つ外見なら、まず見落とす可能性はないはずなんだがな」

 

 震えが走った。

 だってその話は、その過去は、自分達が彼を再び信頼するに至った重要なきっかけで。

 信頼と失望に揺れる彼等の心にとってそれは、無慈悲なまでに冷たい事実だった。

 

 

 

 「アイツの話には真実なんざ含まれちゃいねえ。

その過去もその名前も───存在を証明するための全てが、用意されていた方便だ」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして『戦争』は始まった。

 

 衰退の証だ、動乱の元凶だと互いに激突する革命主義と保守主義の争いは、窮地に立たされた人類史においても止むことはないようだった。

 《クサナギ》と極東支部、どちらが勝ってどちらが負けても生まれる悲劇は星の数にも上るだろう。

 

 

 滅亡の危機。目に見える共通の敵。

 絵に描いたようなピースを揃えてもなお、人はまだ手を繋げない。

 

 

 ミッション名《現人神(あらひとがみ)》。

 

 

 守護と救済を標榜する者同士が剣を取って争う愚かさを、居もしない神はどう皮肉るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────NORN──────

 

 

旺神ジン(?):3

 

出生:?

 

 

記載されている情報の根拠が不充分となったので、記述内容をクリアします。

 

 

神機:ブーストハンマー・ブラスト(第三世代)

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