◇◇◇
『はっ………はぁ、はぁ……っん……』
───これで何度目の絶頂だろう。
思い出したように浮上するそんな疑問が、快感の海に浸されて崩れた。
月明かりの射し込む夜の和室で、少女は一糸纏わぬ肢体を恍惚の余韻に震わせる。
色付くほどに火照った絹のような柔肌に、汗に濡れた髪が艶かしく絡み付く。
様々な液体が染み込み濡れ鼠になった敷き布団に弛緩した身体を横たえ、熱っぽい息を吐く自分自身のその
しかし品位を保とうなんて上品さは、彼女に覆い被さる獣にとうに食い破られている。
微かに震える甘い吐息を掻き消すのは、理性の皮を脱ぎ捨てた男の吐息。
幾度果てど果てさせど、まだ足りぬとばかりに獣は再び牙を剥く。
少女と彼の混合物で粘っこく光る少女の内腿、その中心に男がいまだ昂りの治まらぬ分身をあてがった瞬間、グッタリと茹で上がっていた少女がか細く鳴いた。
『じ、じんろ……まって、も、もう、私……っ』
『足りない』
『あんっっ!!』
必死で紡ごうとした懇願が矯声に変わる。
男が少年の拒絶に横槍を入れるように、分身の先端で少女の股間の過敏になっている蕾を擦り上げたのだ。
駆け抜けた甘い電流に大きく身体を跳ねさせた少女に気を良くしてか、男はそのまま固く張り詰めた少女の蕾の感触を味わうようににちゅにちゅと己の先端で捏ね回す。
『今まで俺にアピールしてきた
『で、でもっ、あっ、でもこれで、七回目じゃっ、ないですかぁっ。
スタミナが、はぁっ、ないって、弱点、あっあっ、どこに、ひぅっ、いったんですかぁ……』
『
『そんなぁっ……これ以上されたらっ、わたし……ぁ、あっ、あっ!』
私で気持ちよくなってくださいね、なんて微笑んでみせた余裕はもうない。
弱々しく抵抗しようとする両手を男は片手で封じ込め、男は身体を傾け槍の穂先を少女に埋める。
延々と続く抽挿にトロトロにほぐされた肉の入り口は、何の抵抗もなく分身の頭を受け入れた。
涙を貯めた瞳も精一杯の懇願も、全ては食欲を煽る香辛料に過ぎなかった。
熱く
『足りねえってんだよ。お前への感謝も、愛も、アピールされる度に抱いてきた衝動も………何年分ものあれこれが、たった七回で収まる訳ねえだろうが』
『っ~~~~~…………』
耳から
抵抗は力で封じられ僅かばかりの心の拒絶も抉じ開けられ、全てを支配された自分を少女ははっきりと自覚した。
『………わかりましたよ……っ。どうせ今さらです……好きなだけ、満足するまで……私を食べ尽くせばいいじゃないですか……っ!』
その口調が精一杯の最後の抵抗。
「受け入れろ」という言外の命令に従うように、少女の身体は男の腰に脚を絡める。
それを合図に再び始まった獣のような抽挿に、少女は一際大きな悦びを声に発した。
男もまた何より愛しい少女を抱き締め、放すまいと締まり吸い付きまとわりつく肉の蜜壷を無我夢中で貪り尽くす。
少女が食い尽くされるまで、獣の腹が満ちるまで、この交わりは終わらない。
古来の物語でも、可憐な少女は狼の腹に余さず収まるものであると決まっているのだから────
「………何だよこれは」
「おっアタリだな。誰かが隠してやがったのかな?」
地面に重ねた本の中から適当に抜き取って目を通していたジンが、手に持っていたそれを放り捨てる。
《黎明の亡都》。
それが今二人が立っている場所の呼び名だ。
広大な庭園を中心に、植物園や図書館跡地が立ち並ぶ廃墟。
隣接する水辺には横倒しとなった建造物が埋没しており、かつてのアラガミの襲撃の甚大さが窺い知れる場所だった。
しかし崩壊してもなお美しさを孕むその情景は、万人に在りし日の姿を想起させるだろう。
因みにここは襲撃の際、各施設が一斉に放棄されているため、図書館にある書籍の大部分が当時のまま残されている。
アラガミの出現による多大な犠牲者と共に多くの知識・技術が失逸してしまったこの現代において、ここは文学的に大きな価値を持っている場所となるのだが………まぁ、誰の仕業かはわからないがこういう掘り出し物もあったりするらしい。
標的がここを通過するまでまだ少し時間があるから本でも読んで時間を潰そう、という提案に乗ったはいいが小説とか正直わからん、と他のと比べて比較的薄い本を手に取ったらこうなった。
「面白そうなのがあったら持って帰るか」
「いいのか?」
「図書館だからな。また返しに来りゃいいさ」
そんなもんか、とジンは重なった本から目を離し、ふと大きく開けた彼方の景色を見る。
青く澄みきった空を映す湖は日の光を浴びて煌めき、緩やかに吹く風が草花を揺らす。
ここが戦場でなければ、アラガミがいなければまるで楽園のような光景だった。
平穏や平和という言葉の意味を視覚的に表すとしたら、きっとこんな感じになるのだろう。
思い返せば、自分には生まれて初めて見るような穏やかな陽気だった。
(ここで食べる飯はさぞかし美味いだろうな……)
「……あと今放り捨てたやつ、読まねえならくれ」
「持って帰るのかよ」
そんな時、耳元の通信機から僅かなノイズの後にオペレーターの音声が流れてきた。
平和というものは、いつだって災いに崩される。
『目標アラガミ、作戦エリア内に侵入。侵入地点、送ります』
!?とリョウが周囲を見回す。
送信された位置データに示されたマーカーが示しているのは間違いなくここ。
靴越しの足の裏に伝わる振動も確かに敵が近い事を示している。
しかし───肝心の標的の姿がどこにも見えないのだ。
「オイ、本当にここなのか? 影も形も無えぞ!」
『!? はい、直前の点検では機材に不調は確認されませんでした! 情報は正確なはずです!』
「何だ、じゃあどういう───」
ジンがその場から飛び退くと同時、リョウの脳裏に閃光が走る。
敵は確かにここにいる。
しかし前後左右、そして上。どこを見回しても敵の姿はない。
ならば残された唯一の可能性は───
「下か!!」
次の瞬間。
バグン!!と、漆黒の巨大な
地中から出現して空振った二つの異形の頭───神機の《
地面を割るくぐもった轟音を鳴らしながら、二つの頭部を支えにその巨体が姿を現した。
蠍を思わせるシルエットに、鈍く輝く黒貴の鎧。
大地を喰らった
身体と繋がっているそれは首ではなく腕。
そのアラガミの両腕は、禍々しい口そのものだった。
「ジン。わかってるたぁ思うが気ぃ抜くなよ」
「………、」
目線と注意は敵に向けたままのリョウの忠告に、言われずとも、とジンは心の中で返事をする。
長い尾の先端に生えた巨大な剣に、ネオンのような毒々しい閃光色の頭髪。
鬼の如ぎ形相から地を這うような唸り声を上げ、禍々しい四本の足で地を鳴らす姿はまさに荒ぶる神。
見上げる程の巨体がさらに巨大に感じるプレッシャーに、ジンはハンマーを改めて握り直す。
「あいつらはああ言ってたが、ありゃ『戦わず逃げろ』って教わる類いの輩だかんな」
ガシャン、と神機を構える二人。
自らを喰らう武器の使い手を見てもなお、
なぜなら
胸の鎧が開き、ズラリと歯が並んだ大きな口が現れる。
第一種接触禁忌種、『神機使い殺し』スサノオ。
過去幾多の希望を喰らったとも知れないその口から───耳をつんざく絶叫が迸った。
「ギュラララララララララララララ!!!!」
ビリビリと周囲を震わせる音響に思わず顔をしかめるリョウだが、次の判断は迅速だった。
「行くぞ!」
号令を一発、ジンに突撃の指示を出す。
こちらに数の利があるなら展開して挟撃するのが作戦の定石なのだが、まだ実戦経験が少ないだろうジンを考慮しての事だ。
スサノオは後ろに回っていれば安心できるような相手ではない……どうやってもカバーできない位置に置くよりは自分が側で守りつつ戦い方を教えた方がいい、という事前の打ち合わせ通り。
それを受けたジンの行動もまた早く、即座にリョウの斜め後ろ───バスターブレードの間合いには入らないよう追従して駆け出していた。
(躊躇しなかったな。ウダウダ言っちゃいたが、度胸は充分か?)
そしてその様子を見ていたスサノオは、獲物が分散しなかった事をやや意外に思いながらも即座に迎撃に移る。
捕食者の行動はいつだって合理的だ。
───獲物が固まっているのなら、まとめて潰した方が早い。
スサノオの大剣が、眩い光を放つ。
「足を止めんな! 一気に懐に」
「え、あっ」
潜り込んで躱す、と続けようとした瞬間、そんな声が割と遠くから聞こえた。
ギョッとして目線を声のした方に向けてみると、やや遠くで「やべ、」とでも言いたそうな顔をしているジンと目があった。どうやら横に跳んでいたらしい。
恐らくは攻撃の気配をリョウよりも機敏に感じ取っていたのだろう、彼の命令より早くジンは進路を曲げてスサノオの攻撃を回避しようとしたようだ。
───だが、その洞察力が完全に裏目に出た。
身を低くして接近し射線から外れたリョウの頭上を通り過ぎるように光の珠が
キュドドドドドド!!!と広範囲に着弾した高密度のオラクルが、さらに広範囲の大爆発を引き起こした。
旺神ジンがいた場所も、容赦なく巻き込んで。
「んの野郎っ!!」
爆裂する珠の下を潜ったリョウのバスターブレードによる全力の斬り込みを、スサノオは手隙な方の『神機』でガード……したはずだった。
が、グヂリと己の『神機』が嫌な音を立てたのを聴いて、驚いたように食い込もうとしてくるバスターブレードを振り払い、後ろに跳んで距離を取った。
「テメェこのバカ!! 教える事があるからキッチリ着いてこいっつったろ!!」
「ああ悪かったよ、あんたの命令が妥当だった!!」
ひとまず状況を仕切り直したリョウの厳しい叱責に、土煙の向こうから返事が来た。
一瞬
着弾の直前、ジンが己のやらかしを自覚したと同時にまた全力で後退し、辛くも範囲外に逃げ切っているのが見えていたからだ。
その時、矮小な獲物に退かされたことに苛立つようにスサノオが突進を仕掛けてきた。
圧倒的な質量差による、人の身では抗い難い純粋な暴力。四本足で迫る巨体をリョウが迎え撃とうとしたその時、
唐突にスサノオの姿が消えた。
(上────、!!)
経験則で瞬時に頭上を仰ぎ見たリョウの直感通りに、スサノオは彼の頭上を跳躍していた。
しかしその軌道は大質量による
リョウは理解した。今のは突進ではない。
邪魔な壁を飛び越えて、獲物に飛びつくための助走だったのだ。
「ジン、無理しねえで逃げろ! そっち行ったぞ!!」
獲物の群れが分断された。
ならば狩り易そうな方から狙う。
自分の攻撃に立ち向かうのではなく、臆して逃げたジンを仕留める───それがスサノオの弾き出した最適解。
そして言葉にすればそんな感じになるだろうスサノオのそんな考えを、ジンは理解できていた。
───あわよくば楽できるかと思ったが、やっぱりそうはいかないか。
やれやれと呟いてハンマーを構える。
腕も脚も尾も、全てに己を殺しうる力を持った荒ぶる神。その接近を前にしても焦燥を覚える事はないが、狸の皮は流石にもう被っていられない。
「……そんなに俺と遊びたいか」
バチン、とブレーカーを上げるように、身体のスイッチが闘争に切り替わっていく。
騒ぎ出す血に呼応して、毛髪が獣のように逆立つ。
その表情は愉悦。捕食者の浮かべる
闇夜に浮かぶ満月の瞳が、獰猛に尖った。
「代償は高いぞ、虫野郎」