そして神は人と成る ─GOD EATER 2─   作:嵐牛

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第6話

粘質な音を立てて巨大化したスサノオの『神機』がジンに迫る。

地を喰らうサイズの顎門を、しかし彼はひょいと軽い動作で横に躱した。

掠めるような至近距離を通過した死に、ジンの表情はピクリとも動かない。続くもう片方の『神機』も、ジンは小さく飛び退いて躱す。

スサノオは苛立ったように尾の大剣を振るった。

見上げる背丈のスサノオの更に頭上から降り注ぐ、流星群のような刺突の嵐。

人の身体どころか受け方を誤れば神機も一撃で損壊させられるだろう破壊の驟雨、それすらも彼はするすると淀みなく潜り抜けていき────それどころか、前に出た。

 

「!!?」

 

懐に潜り込まれてスサノオは一瞬、自分よりずっと小さいジンの姿を見失った。

無防備な四本脚の足元で、ジンは思い切り身体を捻ってハンマーを振りかぶる。

絞り上げる全身に力を込め、溜め込んだ一振りに集約。

そして────

 

「フンッッ!!」

 

「おっっっるぁあ!!!」

 

ズドンッッッ!!! と豪快な音が二つ重なった。

ジンがスサノオの前脚の一本をぶん殴ると同時に、追い付いてきたリョウがスサノオの背後から後ろ足にバスターブレードを振り抜いた音だ。

 

「ギュル……ッ!?」

 

巨重を支える脚はこの程度では砕けない。しかし四本足とはいえ一気に二本を薙ぎ払われたら当然バランスは大きく崩れる。

重心を支えられなくなったスサノオの身体が、潰れるように地鳴りを上げて地面に伏した。

 

「よっしゃジン、剣か腕ブッ叩け!! こいつは破砕系に弱ええ!!」

 

「了解」

 

即応したジンが振り抜いたハンマーの勢いに任せ身体を一回転、そのまま全身の捻りを加えてもう一度全力の打撃を今度は武器の届く高さまで降りてきていた尾の大剣に叩き込む。

ベギィ!!と破壊的な音を立ててスサノオの大剣にヒビが入った。

弱点とはいえ第一種接触禁忌種の武器を一撃で損傷させるその膂力にリョウは目を見張った。ここまでのパワーを持つ者は、極東支部でもソーマくらいか、次点でナナの二人位のものではないか?

そう考えながら彼はスサノオの後ろ脚にバスターブレードを繰り返し叩き込むが、己の本分は忘れない。

 

「こういう身体してるヤツは転ばしても隙が少ねえ。しっかり覚えとけ!───そら避けろ!!」

 

当然ながら向こうもされるがままな訳がない。

その瞬間、スサノオが思い切り抵抗した。

地面に伏したまま二撃目をかまそうとしていたジンを『神機』で襲い、背後のリョウには長い尾を全力でブン回すが、二人はそれを飛び退いて回避していた。

スサノオのような(さそり)型───『ボルグ・カムラン神属』の骨格は巨大な尾を生やらかした多足の骨格だ。故にダウンさせても最大の武器である尻尾はフリーであるため、ダウンさせた時に見込める攻撃の機会はかなり短い。

その上種の源流である《ボルグ・カムラン》は両手が盾なのに比べて、スサノオは両手も武器なので尚のこと死角が存在しない。

この辺の知識はヘリの中で教えてあるが、実体験を通して学ぶ方がやはり実感として染み付くものだ。

そして。

 

「そろそろだ。腹ぁ括れよ」

 

「ああ。俺もそう思っていた」

 

起き上がったスサノオの髪が揺らめく。

眼と頭髪は毒々しい輝きを増し、『神機』と罅割れた剣は白い光を放つ。

オラクル細胞が活性化している証拠だった。

簡単に言えば、パワーアップ。

アラガミがそのような状態になるのは、殆どの場合がこの理由だ。

 

 

「……俺がコイツなら、()()()()()()()

 

 

グバッ、と胸の鎧が開き、禍々しい牙が並んだ巨大な口が現れる。

怒髪天とはこういうものを言うのだろう。

それは食料の反逆への憤りか、あるいは傷付けられた我が身とプライドか。

後ろの脚で立ち、天を衝くように、世界よ我が怒りを知れとばかりにスサノオは吼えた。

 

 

「ギュラララララララララララ!!!!!」

 

 

『スサノオ、怒りで活性化!! 気を付けて下さい!!』

 

大音声(だいおんじょう)に思わず耳を塞ぐ二人。

言うが否やスサノオは尾まで自分に絡み付かせるように全身を引き絞り、罅割れた大剣にオラクルが凝縮。そして溜めた力の全てを解き放つ。

ハンマー投げのように身体ごと自らの尾を振り回し周囲一帯を薙ぎ払い───破壊の竜巻が巻き起こった。

戦場を丸ごと撹拌するような大剣の烈風をリョウは思い切り上へ、ジンは全力で後ろに跳ぶことで躱し、()()()()()()()()()()()()()()()()

大剣の通り道に紫色のオラクルの塊が出現し、ジンが今まさにその脇を通り過ぎたと同時に爆発を起こしたのだ。

またもや肝を潰す思いをしたリョウだが、靴底で地面を削りながら姿勢を保っているジンを見て胸を撫で下ろした。

大きく後ろに吹き飛ばされたように見えたジンだが、どうやら後ろに跳んで稼いだ距離が幸いし爆風で煽られただけで済んだらしい。

しかしスサノオがそれで済ますはずがない。

己に痛手を与えた怒りと自分の攻撃に揺らぐ様から『与し易い』と思われたか、スサノオは一直線にジンに迫る。

 

「チッ……!」

 

怒りで活性化した巨体を止めようと、リョウは舌打ちをして神機を銃形態に変形。オラクルの弾丸をスサノオの背中に叩き込むが、黒貴の身体はびくともしない。

外傷はなくとも衝撃は通っているのかその場から動けずにいるジンを見て、いよいよ不味いかとリョウはポーチ内のスタングレネードに手を伸ばす。

だがそれは杞憂に終わった。

ジンは動けなかったのではなく、ただ敵を引き付けるために立ち止まっていたに過ぎない。

充分に敵を引き付けたと判断したジンが、いきなりスサノオへと突っ込んだ。

 

「ギュルッ」

 

またも懐に潜り込まれ姿を見失うが、アラガミとて手痛い経験は学習するものだ。

自分の至近にいるだろう虫を潰すべく、スサノオは『神機』で自分の足元を山勘で殴りつける。

が、手応えはない。

それどころか旺神ジンが影も形も見当たらない。

───スサノオの懐に潜り込んだジンは巨大な脚と肩を踏み台にして、とんとんと羽のような身軽さでスサノオの頭上に飛び上がっていた。

スサノオの全身を視界に収める程の空中で、ガコン、とブーストハンマーの機構が展開する。

変形した鉄槌の後部から迸る炎。甲高い駆動音は『お前を砕く』という神機が上げる鬨の声。

 

それに反応してスサノオが顔を上げた時にはもう遅い。

ジェット噴射の推力で流星のように落ちてきたジンのハンマーが、大剣もろともスサノオの顔面を粉砕した。

 

絶叫を上げて激しく後退(あとずさ)るスサノオ。

ふわりと軽い動作で着地、くるりとハンマーを回して構え直し、口元を曲げてジンは犬歯を剥き出した。

 

「ハッハァ……ずいぶん足元がお留守な奴だ」

 

………大発見みてえに言ってっけど、ヘリの中で資料渡して教えといた事なんだよなぁ。

そうリョウは思いはしたが、そもそも『知っている事』と『その通りに動く事』はまるで別物だ。

説明された事を忘れているのかどうかは知らないが、事実上ジンは『初見の敵の行動にその場で対応・分析・攻略した』事になる。

 

この辺りで、リョウはジンに対する認識を思いきって切り替えた。

新兵を教導するように丁寧に動いては()()()()()()()()

指示は連携をサポートする最低限に止め、戦闘行為そのものは個人に任せる。

初陣に臨むルーキーに担わせるには重すぎる信頼だが、コイツはこの位でちょうどいい。

 

「うし。ジン、方針変更だ」

 

「うん?」

 

「ケツは支えてやる。思うようにやってみな」

 

リョウの言葉に一瞬きょとんとしたジンだが、次第にその表情が変わっていく。

つり上がった頬肉に細められた異類の瞳のその奥に、リョウは危うい光を見た。

 

 

「────話がわかるじゃないか」

 

 

言うが早いか、ジンが消えた。

いや消えたのではない、そう思えるような速度で前へと突走(つっぱし)ったのだ。

───(はや)い!!

虚を突かれやや出遅れたとはいえ追い付ける気配がない。ぐんぐんと遠ざかっていくその背中に、走力には自信のあったリョウは密かにショックを受けていた。

しかし敵がそれを座視しているはずもない。

絶対的な強者として生まれ初めて体感する明確に自分を脅かす脅威に対して、スサノオの反応は激甚だった。

 

 

「ギュラァァアアアァアアッッッ!!!!」

 

 

金属じみた咆哮を上げ、スサノオの攻撃性が完全に解放された。

口から『神機』から大剣から、薄紫のオラクルの砲弾が嵐のように吹き荒れる。

巨大な剣と両手の『神機』に印象を引っ張られそうになるが、スサノオの真の恐ろしさは中距離での制圧力にある。

『ボルグ・カムラン神属』特有の防御力を犠牲に得た()()()()は、攻撃範囲に破壊力、さらに連射性能ともに尋常ではない。盾で防ごうものなら大きく吹き飛ばされ、攻撃どころか距離を詰めるのも困難だろう。

まともに攻撃を届かせたいのなら遠距離から狙撃するか、近接武器ならこの弾幕を掻い潜って接近するしかない。

 

それを知ってか知らずか、ジンは一つも速度を緩める事はしなかった。

 

屈みあるいは斜めに跳んで、爆発にも巻き込まれないような疾走で、群れを成して飛来する破壊をジンは全て後方にやり過ごす。

感情の抜け落ちた表情はただ一つの標的に意識を注ぎ込んでいるそれだった。

それを受けたスサノオはバラ蒔いていたオラクルの弾を一ヶ所に集弾、潜り抜ける隙間もない圧倒的な密度でジンを()ぜさせようとする。

 

が、その目論みは一瞬で頓挫した。

大剣と『神機』を向けた瞬間に吐き出したオラクルの弾がまとめて暴発したのだ。

吐き出されつつあったオラクルが意図せぬ爆発を起こし、発射台である砕けた大剣と『神機』にダメージを与える。

 

「うし、命中」

 

下手人はリョウだった。

ジンの後方を走りより広く敵の姿を捉えていた彼はスサノオの思惑を察知し、スサノオが動くと同時に破壊力に長けたブラスト銃の炸裂弾を()()に叩き込んだのだ。

その爆発を目眩ましにジンはブーストハンマーの機構を解放、ジェット噴射の推力を得て『神機』と大剣の鬼門をすり抜け牙城の内部───スサノオの足元へと侵入した。

推力を得て暴れる鉄槌を筋力で強引に制御、身体の発揮しうる力を超えた乱撃で脚の一本を集中的にタコ殴りにする。

 

「ギッ………!!」

 

身体の構造的に自分の真下には尾も腕も届かない。

スサノオは慌てて移動してジンを懐から追い出そうと動き、ジンはそれに追撃をかけようとして、やめた。

既にスサノオの移動方向に回り込み、神機の刃の根本から生やした()()()()を構えるリョウがいたからだ。

 

彼らが神喰らい(ゴッドイーター)たる所以、神機の銃形態と近接形態に続く三つ目の姿《捕食形態(プレデターフォーム)》。

神を喰らい血肉に変える不遜の(あぎと)がスサノオに喰らい付く。

ジンが殴り続けたおかげで、潰れかけている一本の脚に。

 

ばつんっ!!と肉感のある鈍い音と共に、スサノオの膝から下が喰い千切られた。

 

『ブラッド(ワン)! バースト状態、解放します!』

 

オペレーターのアナウンスが通信機から聞こえてくると同時、異形の顎(プレデター)が喰い千切ったオラクル細胞(にく)を飲み込んだ瞬間、リョウの身体から金色の光が放たれた。

喰らった神を血肉に変え、リョウの偏食因子が活性化しているのだ。

 

「ジン。三秒稼いでみな」

 

「……!」

 

テストするような言葉と共に、彼のバスターブレードに禍々しい光が纏わり付く。

低く身を落として神機を構えるただそれだけで放たれる威圧感は、まるで彼自身が神を喰らう意思持つ兵器であるかのようだった。

彼が口にした『三秒』とは即ち、断頭台の刃が落とされるまでの時間。

 

「!!」

 

─────三。

生存本能に警鐘を鳴らされたスサノオが、脚をもがれ(くずお)れた身体を立ち上がらせてリョウを狙う。

それを受けたジンは即座にまだ無事な脚を強引に払うように殴り飛ばす。

支えを一本失い不安定になっていたスサノオの身体は、それだけでまた転倒させられた。

 

─────二。

スサノオが長大な尾を振るう。

大剣こそ折れているが、その一撃は人一人を叩き潰して余りある。

鞭のように振るわれた木の幹のような尾に、ジンは全力でハンマーを振り下ろした。

高速で動く尾を正確に捕らえたハンマーは、その一撃がリョウに届く前に強引に地面に縫い付けた。

 

─────一。

もはや手段を選ぶ余裕は無いと判断したのか、スサノオの大剣と『神機』に光が集約されていく。

ジンの妨害ごと巻き込むつもりなのだろう、距離が明らかに自爆覚悟だ。

流石のジンも一瞬固まりそうになるが即座にハンマーの機構を解放、全力の一撃(ブーストインパクト)をスサノオの胸に叩き込む。

胸の鎧が粉々に砕け散り巨体が大きく揺らいだが、しかし攻撃は中断されない。スサノオも腹を括っているようだ。

これはもう間に合わない。

ジンは光の強さから攻撃の規模を推定し、離脱の算段を立てた。

 

 

 

そして、ゼロ─────

 

 

「よくやった」

 

リョウの神機が莫大なエネルギーに包まれた。

《チャージクラッシュ》、(オラクル)をチャージして一発に限り爆発的な攻撃力を叩き出すバスターブレード特有の攻撃。

しかし彼が放つそれは、それよりもさらに一線を画すものだ。

暗い炎が噴き出しているかのようなその刃は、先刻ヴァジュラを叩き斬った時よりもさらに長く、強大になっていた。

 

そして光は放たれた。

己の身体も省みない破壊の嵐が、スサノオを起点として吹き荒れる。

その爆発は地を抉り、自らの損傷と引き換えに二人に重傷を負わせた事だろう。

───そう、それが当たっていれば。

 

それを委細構わず、神楽リョウは断ち払った。

分類『C.C.ブレイカー』。

バースト状態で放たれる彼のブラッドアーツは、もはや有象無象を区別しない。

そして───

 

 

「──────消え失せろッッッ!!!」

 

 

斬るというより、破断する。

スサノオの放ったオラクルの嵐すら呑み込んで掻き消し、バギバギメキメキと猛烈な音を立てて黒貴の鎧が断たれていく。

『神機』を上下に分断し、肩口からめり込んで袈裟懸けに通り抜けてなお、振り抜かれた刃の速度が変わらない。

 

断末魔すら上がらない。

刃の軌道上にあった上半身や下半身、そして尾を不揃いに断ち斬られた接触禁忌の神蝕皇が────バラバラになって崩れ落ちた。

 

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