そして神は人と成る ─GOD EATER 2─   作:嵐牛

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第7話

ズズン、と地面を鳴らして散らばる残骸。

リョウのバースト状態は地面に着地すると同時に解けた。

余りにも強引な幕引きだった。

息をついて沈黙した標的を一瞥、渾身のドヤ顔を披露するリョウに、ジンは思わず閉口した。

 

「……俺の好きにしていいんじゃなかったのか?」

 

「やっぱ最初はな、リーダーがガツンと決めてこそだろ。それでこそ尊敬が生まれるってモンだ」

 

「これ報酬どうなるんだ。これだけ動いてトドメ刺した奴の全獲りとか言ったらキレるぞ」

 

「歩合制、ってか討伐報酬だかんなぁ。想像の通りトドメ刺した奴の総獲り………いや嘘、嘘。冗談だ、冗談だって。えっ嘘だろマジギレ?」

 

どんどんつり上がっていくジンの眦。

腰が退けつつもちゃんと貢献度も考慮される事とプラス基本給である事を教えて何とか宥めることに成功したリョウは無駄にかいた冷や汗を拭い、不承不承ながら納得したジンは爪先でスサノオの死骸を遊ぶように蹴飛ばす。

 

「しかし、まぁ……少なくとも勝算はあるんだろうと思っていたが、まさか一発で片付けるとはな。俺が来る必要とか無かっただろ、これ」

 

「自己紹介も兼ねてな。お前を連れてきたのはお前の実力を見る為なんだが……」

 

「実力? おいおい、訓練課程を終えたばかりの新兵の実力を測るなんて……」

 

 

「イヤお前、明らかに新兵じゃねーだろ」

 

 

この期に及んでシラを切るなとでも言いたげなリョウのジトッとした視線に、黒と金の眼が僅かに見開かれた。

明確な確信を持った語気にやや沈黙してしまったジンだが、取り敢えず流れとして冷やかしを入れる事にする。

 

「いやいや、俺は正真正銘のルーキーだよ。あんたの指示に必死で従っただけだ。 だが部隊の長にそう言われるのなら、どうやら俺の才能はなかなかのものらしいな」

 

「流石に誤魔化せるライン越えてんぞ。

そりゃ確かに素質ってのはある。神機との適合率だったり、いざアラガミを前にした時に恐怖に負けず動けるかだったりな。

けど、動けるかじゃなくどう動くかは実戦を繰り返さなきゃ身に付かねえ。

何が『絶対終わった』だ、とんだタヌキじゃねえか。

 

……お前、どういう経歴でここに来たんだ?」

 

沈黙が流れた。

リョウの瞳にはしかし問い詰めるような剣呑さは無く、ただ純粋な相手に対する興味のみがある。

対するジンの表情はやはり変わらない。

しかしどことなく目の前のバスターブレード使いを値踏みしているようにも見える金と黒の目が、少しだけ揺れたようだった。

しばし脳内で行動の選択肢を弄んでいた彼だが、結局のところ彼の口が答えを返す事はなかった。

 

「ま、別に教えてくれなくてもいいんだけどな」

 

リョウが自分で提起した問題を自分でぽいと放り捨ててしまったからだ。

流石にこの流れで自己完結されるとは思っておらず、警戒心の遣り場を失ったジンは途中で梯子を外されたような心持ちでリョウを見る。

 

「いや、そりゃ気になってんぜ? けど話さねえって事はそれなりの理由があんだろ? そこを無理に聞き出そうなんて野暮なこたしねえよ」

 

「………」

 

「今話せたぁ言わねえさ。いつか気が向いた時に教えてくれりゃいい。

……その為の信頼ならこっから積み上げてやっからよ」

 

そう言って、頬の刺青を歪めてリョウは笑う。

ニカッという擬音がぴったりな、戦場には不釣り合いとすら言える年相応の屈託のない笑顔で───

 

 

『二人とも気を付けて! 目標アラガミのオラクル反応、まだ消滅していません!!』

 

 

ジンの視界の隅に動くものがあった。

それは今しがた胴体を切り裂かれた残骸。

しかし強靭な生命力を持つそれは、消えかけていた命の灯火を執念で繋ぎ止めていた。

スサノオ。

頭と右腕のみとなってなお生存していたその異形が、文字通り死力を尽くして右手の『神機』を振りかざす。

己を死の淵へと追い込んだ、神楽リョウへと。

 

「っと、やっべ………」

 

距離的に回避は間に合わない。

背中に冷や汗を垂らしながら、迫り来る巨大な口に対して神機を担ぐように背中に回し、装甲を展開しようとする。

するとその時。

グラリ、と傾くように攻撃の軌道が変わった。

変更された攻撃目標は、旺神ジン。

 

「よっ、と」

 

しかしそれを予見していたかのようにジンがバックステップ。

一瞬前までジンがいた場所にスサノオの『神機』が激突、その地点を派手にかじり取る。

そして直後に、下から上へとアッパーカットのように振り回されたリョウのバスターブレードが、スサノオの頭部を半分ほど抉った。

 

「ギ…………ア……………」

 

ズズン、と再び地面に崩れ落ちるバラバラ死体。

予期せぬしぶとさを見せたスサノオだが───今度こそ、蝋燭の火は完全に吹き消された。

 

『………対象のオラクル反応の消滅を確認。危ない所でしたね』

 

「全くだ。俺に狙いがズレてなきゃ、あんたの上半身はキレイに無くなってただろうよ」

 

「バカ、死ぬかよ。バスターブレードにゃパリングアッパーって技術があってだな………」

 

『周囲に別の敵影は目視できますか?』

 

「? いや、何も」

 

「ああ。特に音も匂いも無いな」

 

(匂い………?)

 

次はもう少し難しい任務でもこなせるんじゃないですか? というオペレーターの軽口で、二人は帰投用のヘリが到着するまであちこちを探索した。

ジンの物資回収の手際がやたら良かったり、レア物を巡って小競り合いを起こしている内に、タンデムローターが空を叩く音が聞こえてきた。

 

「迎えだ。帰るぜ」

 

「…………」

 

割とマジな剣幕で集めた物資がどのくらいの利益になりそうかの鑑定に夢中で心ここに在らずのジンの後ろ襟を掴んでズルズルと引きずる。

意外と金汚い、と頭の中で評価を一つ付け加え、リョウはふと首を後ろに向けてジンを見た。

頭に過るのはさっきの光景。

スサノオが死の間際に振るった攻撃。

あの攻撃、結局ジンに容易く回避され無意味に終わったのだが。

 

何というか、不自然ではないか?

あの時スサノオは間違いなく、自分を狙っていたはずなのに。

そう、まるで途中から、旺神ジンに吸い寄せられるかのように────

 

(…………ま、気のせいだろ)

 

頭と右腕しか残っていない死に体だったのだ。

途中でバランスを崩したのだろう。

帰還ポイントに到着した二人。

対アラガミ装甲を纏った護送機が、二人の戦士を迎え入れるようにそのドアを開いた。

 

 

 

時は少し遡り、二人が今度こそスサノオにトドメを刺した直後の事。

スサノオの沈黙を確認して一安心のはずのオペレーター、フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュが、怪訝な目でモニターを見詰めていた。

 

「………いま一瞬、偏食場パルスが………?」

 

偏食場パルスとは、特殊な力を持つアラガミがその能力を発揮する際に広がる磁場のようなもの。

それが戦闘中に突然観測されるというのはトップクラスの緊急事態だ。援軍を送るか、場合によっては撤退も視野に入れて行動せねばならない。

それがリョウ達がスサノオと戦っていたエリアで、何の前触れもなく発生した……のだろうか?

再び何かを観測しはしないかと計器を睨むフランだが、計器は何も返さない。

本当に一瞬だけアラートを鳴らしたきり、何の異常もないレーダーの図と数値を示し続けている。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、何も……」

 

同じくオペレーターの竹田ヒバリには問題ナシと返す他ない。

最終的に誤作動か何かだと結論付けて、フランは機材のメンテナンスの依頼書を手に取るのだった。

 

 

◇◇

 

 

ミッションから帰投したジンは、割り当てられた自分の部屋のベッドにどさりと横たわる。

疲れた。肉体もそうだが、精神的に。

銀髪さん(シエル)ネコミミさん(ナナ)に今回のミッションの様子を聞かれたが、リョウ(だっけ? よく覚えていない)が自分について話す度に驚きと共に誉めてくるので、今マイルームにいるのはそんな慣れないやり取りから逃げてきたのに近い。

そしてそれ以外に向こうが言う事を総合すると『ウチの隊長スゴいでしょ?』みたいな感じだった。

頬に菱形の刺青を持つあの男は、本当に彼等の支柱らしい。

あの黒いアラガミを一刀両断した光景を思い浮かべながら、ジンはポケットから通信端末を取り出す。

それは公の基地局を経由せず、使用した形跡も残らない非合法な品だった。

予め登録されてあった連絡先を呼び出して通話ボタンを押す。

きっかり三コールで、相手は呼び出しに応じた。

 

『─────』

 

「あー。俺ですよ、俺。旺神ジン。

極東支部には無事に入り込みました」

 

『───、────?』

 

「ええ、特に問題らしい問題は何も。

………は? 敬語? ……しょうがないだろ、使わなきゃアンタの周囲が五月蝿いんだよ。どうせこの話だってそいつらも聞いてるんだろう」

 

案の定受話器の向こうからぎゃーぎゃー聞こえてくる大声の文句に顔をしかめる。

耳元での大声は苦手なのだ。

受話器をやや耳から離して、ジンは通話相手に報告を続ける。

 

「ああそうですね、アンタから聞いた通りでしたよ。特にアイツ、………名前なんだっけ。

アイツ最初に峡谷で視た以上に強いです。

リーダーがあれなら、その部下も相当なんじゃないですか」

 

『─────』

 

「……そんなん言われましてもね。

こっちは小細工ナシの身一つで頑張らなきゃなんな………、あ」

 

不意にジンが言葉を止めた。

訝しげな沈黙を返す通話相手に、ジンはやや気まずそうに口を開く。

 

「あー、今さっき初任務行ってたんですがね?

その時にまぁ、ちょっとピンチみたいな局面があって」

 

『………───?』

 

「……一瞬だけ『使った』んですが、大丈夫ですかね?」

 

受話器の向こうから一斉に怒声が飛んできた。

一応よっぽどの時は使っていいとは言われていたものの、潜入した初っぱなからとなると流石に許容範囲から外れてしまうらしい。

大丈夫バレてないバレてないと昂る相手を何とか鎮め、最後に二、三言葉を交わして通話を切った。

………ともかく報告の義務は果たした。

通信端末を再びポケットにしまい、ベッドに横たわったまま見慣れない天井を見上げる。

今しがたの会話の内容を思い出しながら、ジンはぼそりと呟いた。

 

「俺は別に、アンタが何を思ってそうしようとしてるのかは知らないし、知ろうとする気も無い。

だけど………」

 

ジンの脳裏に峡谷での記憶が過る。

下手な接触禁忌種より凶暴化したアラガミを、チームワークで無傷で倒した彼ら。

そしてそれを束ねる、刺青の男。

 

 

 

「………果たして極東支部ってやつは、アンタが言うほど脆いものなのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

─────NORN──────

 

 

旺神ジン(18)

 

2074年フェンリル本部より極東支部に転属。

同時にフェンリル極致化技術開発局入隊。

出生:4月1日 身長:175cm

 

特殊部隊「ブラッド」所属。

本部より届いた情報を元にしたメディカルチェックの結果、偏食因子との適合率が非常に高く、それに伴った身体能力も驚異的な水準にあることが判明している。

なお外見的な理由や初対面の人間にすぐニックネームを付ける癖があり、他の隊員との不和が予想されたが、幸いにしてその事態には陥っていない模様。

しかし記憶力に若干の難があり、今後の任務においての支障が懸念される。

 

神機:ブーストハンマー・ブラスト(第三世代)

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