聴いて驚け!強竜者と歌姫のブレイブシンフォニー 作:マガガマオウ
ツヴァイウィングのライブから2年の月日が流れた、事件直後は連日のように大きく報道された事件は悲惨な事故とされ、観客の半数が犠牲となった。
それと同時に、ツヴァイウィングの一人天羽奏の無期限の活動停止は当時も大きな話題を呼び、今なお彼女の復帰を望む声が途絶える事は無い。
そして、ただ一人歌い手として残った翼は立風館にて竹刀を振るっていた。
その隣で、斬撃の勇者こと立風館ソウジが佇みその様子を見守っている。
この2年の間、彼の剣技に触発され教えを乞おうとした翼は、自分よりも父に習えとこの場所に入門させたのである。
以来スケジュールの合間合間で時間を作り、こうして甲斐甲斐しく通い詰めているのである。
彼女の熱意は、凄まじく遂にはソウジの父源流をも説き伏せソウジに稽古をつけてやれと説得したほどである。
さしものソウジも、父の申し出は断り切れずただ唯一の弟子として翼に剣を教える事となった、最も彼の剣は戦いの中で磨かれた技、おいそれと教えて身に付くものでもないのだが。
「ふっ!ふっ!ふっ!」
「そんな振りでは隙が大きすぎるよ、もっと体の動きを小さく。」
「はい!」
それでも一度覚えた憧れの火は、ちょっとやそっとの鍛錬では消えず寧ろ過酷であればあるほど翼の情熱を燃え上がらせた。
この2年の間は、多忙の中でも日々の鍛錬を惜しむ事は無く目標と定めたあの技を身に付けるべく己の精進に勤しんでいる。
最早誰が何と言おうと、この時間だけは譲る気は無いのだろう一心不乱に竹刀を振るう、そんな崇高な時間でもアレはお構いなし出現するのではあるが。
己と剣が一体となる感覚を楽しんでいた翼の携帯に二課からの連絡を告げる着信音が響く。
「むっ!先生失礼します。」
鍛錬を打ち切り、五月蠅くなり続ける携帯の元まで行くと手に取った。
「翼か?ノイズが現れた、直ぐに向かってくれ。」
「了解、出現場所は何処ですか?」
「迎えをよこした、移動しながらでいいから現地の様子を把握しておいてくれ。それと、近くに、ソウジが居るなら……。」
「分かってるよ弦十郎さん、僕も同行しよう。」
「居たのか、助かる。」
迎えに来た車に乗り込み輸送機が泊まってる空港まで移動する、翼とソウジの二人は現地の様子をライブカメラからの映像で確認した。
「押されてるな、僕らが到着するまで持ってくるといいけど。」
「?周辺住民の避難は完了していますし、現場に居るのは一課の隊員ですから問題はないと思いますが?」
深刻そうな表情で戦闘の様子を画面越しに見ていたソウジの呟きに、翼は何の気なく答えを返す。
「僕が言いたいのは、そう言う意味じゃないんだけどね。」
その返答に困った顔をして、再び画面に注視すると何も言わなくなった。
元来彼は、余り喋る人間ではないおまけに思ったことを直ぐに口にしてしまう困った悪癖があり、それが元々少なかった口数をさらに減らしていた。
そのまま、会話がないまま輸送機の元に到着すると無言のまま乗り込み現地に向かった。
現地では、一課の隊員が決死の想いでノイズたちと相対していたが、彼らの使う武装ではノイズに有効打を与える事が出来ない為にじりじりと後退を余儀なくされていた。
「まもなく、目的地上空です。」
「了解。」
「ブレイブイン。」
『ガブリッチョ!ザクトォォォル!』
パイロットの呼び掛けで降下口まで移動した二人は其々の持つ力を解放した。
翼がシンフォギアを発動するための歌声を紡ぐ横で、ソウジはサンバミュージックに合わせてステップを踏む、やがてピックが来るとターンをして引き金を引く。
「キョウリュウチェンジ!」
夜空に木霊して、サンバと少女の歌声がちぐはぐなリズムを刻む中鎧を纏った戦姫と竜に選ばれた勇者の一人が降り立った。
「いざ……!」
「参る!」
地を蹴り勢いをつけて逆立ちし脚に付いた刃で回し切ると、次いで跳び上がり空中に無数の刃を作り出し打ち貫く、更に手にした長物の剣を刃幅が広くなる様に変化させ跳び上がり斬撃を飛ばす。
二年の間、近くで剣を振るいその技を見てきたからだろうか、翼の剣はソウジの得手である斬撃剣の要素が多く汲み取れる。
一方のソウジの技は、父の剣である無双剣と己の斬撃剣を融合させた斬撃無双剣であり荒々しさと華麗さが合わさった見惚れるほど見事な剣閃であった。
逆手に持ったガブリカリバーが揺れ閃き一拍遅れて崩れ落ちる、相手に斬られた認識させない程に繊細で優美な太刀筋、翼の様な派手さはなくとも見る者を引き込み魅了する。
そんな二人に掛かれば、ものの数分で片が付いた。
「先程ので最後ですかね?」
「うん、増殖させるタイプも居ないし多分もう大丈夫だと思うよ。」
静かに佇む二人の後方で、一部始終を見ていた一課の隊員たちを余所に状況を確認する。
「それじゃあ、後は彼らに任せて帰ろうか。」
「はい。」
辺りを見回し、敵影が居ない事を確かめるとグリーンは獣電池取り出しスイッチを押しそのまま、ガブリボルバーに装填した。
『ガブリッチョ!ディノチェイサー!』
『『ギャァァァオ!』』
音声が読み上げられ、二体の小型獣電竜が姿を見せた。
グリーンはガブリボルバーから獣電池を抜き取り、二体に投げると一体が逆さに成り一本の獣電池に左右から噛み付いてバイクに変形した。
「さっ、行こうか。」
「はい。」
馴れた様に、グリーンの運転するディノチェイサーの後部に乗るとその場を離れた。
数時間の間、道なりに進み翼の住まいの近くまで付くとそこで翼を降ろし、ソウジは立風館へと帰って行った。
ソウジの背を見送り自室に戻ろうとする翼の携帯に、とある人物からの着信を告げるメロディーが流れた。
「奏?こんな時間に、なんだろう?……へ⁉」
訝しみながら送られてきたメールに目を通し暫く経つと素っ頓狂な声が漏れだした。
無理もない、メールに添付されていた白熊の頭に腕を回し晴れやかな笑顔をカメラに向ける奏が写っていたのだから、しかも一緒に写っている白熊は野生の個体で元気そうである。
「奏……貴女、一体なにを目指してるの……?」
そもそも何故、奏が北極圏に居るかと言えば二年前に遡る……。
そうあれは、壊滅的な被害から如何にか立て直した数日後の二課の元にキョウリュウレッドこと桐生ダイゴが訪問した時だった。弦十郎からすれば思わぬ大英雄の来訪である。
「はじめまして、私は翼と奏の上司の風鳴弦十郎と申します。」
だからだろうか、いつになく畏まった態度でダイゴに接していた。
「おいおい、そんなに畏まらないでくれよ。歳だってそんなに変わらないだろ?」
しかし、ダイゴからすれば過ぎた歓迎であり、もう少し砕けた対応が望ましいようだった。
「むぅ……そうか、俺もやはりこちらの方が接しやすい。」
「ははは、俺もそっちの方が話がし易いぜ!」
弦十郎とダイゴの初対面は、友好的な雰囲気から始まった。
最初は、ライブでの助太刀を改めて感謝した弦十郎と何でもない事のように返し言葉だけ受け取ったダイゴ、二人は互いに意気投合したようで話は弾んでいた。
そして、奏が二課を離れ世界を回る様になった要因になった会話に差し掛かるのである。
「ダイゴ、折り入って頼みたいことがある。」
「ん?なんだ、改まって?」
急に真剣な態度で話し出した弦十郎に、特に気にした様子も見せずに続きを促した。
「君達キョウリュウジャーに二課に入ってほしい。この前の事件で俺達は戦力不足だった。正直、君たちが来てくれなかったら被害は半分では終わらなかった。」
弦十郎は自分たちの力不足を思い知らされたのか、沈痛な面持ちでダイゴに頭を下げる。
「その事か……悪い弦十郎、その誘いには乗れない。俺以外の仲間にも都合ってものがある、俺の一存では決められない。」
「そうか……無理を言って済まなかった。」
しかし、ダイゴからは色よい返事はもらえなかった。
「……だがまぁ、空いている時でよければ声を掛けてくれ。いつでもは無理だが、余裕があれば力は貸せるって仲間たちもそう言っていたぞ、まぁそれでも良ければだが。」
「本当か!それは心強い、是非ともお願いしたい。」
こうして二課とキョウリュウジャーの協力関係が結ばれたのである。
「あぁ、それと俺からも提案があるんだ。」
「提案?」
ダイゴからの提案とはと、弦十郎は思案を巡らせる。
「お前の所から、キョウリュウジャーになれる素養を持った奴いるってある人が言ってたんだ。」
「何?それは、本当かダイゴ。それ一体誰なんだ?」
その一言に、身を乗り出しその人物の名を聞こうとする。
「天羽奏って言うらしいんだが……。」
「あっあたし?」
キョウリュウジャーになれる可能性がある人間、それは奇しくも二人のシンフォギア奏者の内の一人である奏だったのだ。
「……話は、分かった。しかし、十大獣電竜はもう既にパートナーを決めているんじゃないのか?確か、後継者を決めればその人物も変身できるらしいが、誰かの後継者を奏にするのか?」
弾んだ話題の中で、十大獣電竜と自分たちの関係それから現状についても幾らか話していたダイゴ、弦十郎はその事で質問をする。
「いや、十大獣電竜以外にも一体だけ獣電竜はいるぜ。ただそいつは、気難しい奴で中々パートナーが決まらないんだ。」
「成程、奏やってみないか?俺としては、このままガングニールで戦い続けるより君の負担が無い分良い提案だと思うんだが。」
「あたしは……。」
「勿論だが強制はしない、シンフォギアに未練があるならこのまま奏者でいることも認めよう。」
「俺も、提案はしたが無理強いするつもりはないぜ。ただ受けるって言うなら、あいつに勝てるように鍛えてやるつもりではいるし、仲間たちも協力はするって話していたぞ。」
「……時間をくれ。いきなりだから、どうしていいか……。」
はきはきとした人柄の奏にしては珍しく、答えを遅らせた。
そして、静かに翼の方を見ると何かを案じている様子を見せた。
「分かった、ゆっくり考えてくれ。」
弦十郎は、その視線を鑑みて短く返しその後はダイゴも何も言わないまま別れ挨拶だけ言って帰っていた。
その日は、珍しく奏から翼の傍に寄り添っていた、普段は翼から近づく事が多いだけに彼女は大仰に驚いていた。
「なんだよ、私から近寄るのは可笑しいか?」
「そ、そんな事ないけど……。」
「……………翼。」
いつもの二人であれば他愛ない事でも談笑するのに今日に限っては殆ど会話がない、暫くの沈黙が続いたが徐に奏から口を開いた。
「……何?」
「あたしはさ、あの日あの場所で死んでたかもしれないんだ……今思えば、随分自分勝手な判断だって分かってるよ、でもあの時はそれしかないって本当に思ってた。」
「奏……。」
「この世界に、相方が自分一人残して逝く事がどれだけ辛いか考えてる余地はなかった。だから、もう一人にしないって決めたんだ。」
それは、贖罪であり懺悔だった。残された者の事を考えない身勝手な己へ禊であった。
「でもこのままリンカーを使い続けていたら結局翼を一人にしちまうんじゃないかってさ、ずっと考えて今でも震えが止まらないんだ。」
リンカー、それは一般人でも素養さえあれば即席の奏者になれる制御薬、しかし使用者への反動が大きく命を削る劇薬……。
奏は、そんな劇薬に頼り己の体を力の代償として戦い続けていた。
「正直に白状すると、ダイゴさんの提案に乗っかりたいって思ったんだ。こんなあたしでも、何の気負いもなく翼の傍に居れるならって……。」
ダイゴからの勧めは、将来に不安があった奏からすれば正に天からの救いだっただろう、しかし彼女は二の足を踏んだ何故なら。
「でも、その為には今翼の傍から離れないといけない……また翼を一人ぼっちにしないといけない。」
相方を、対翼の片割れを置いて行かなければならない事に苦悩したのである。
「……奏、前に私に真面目が過ぎるって言ったよね。」
「ん?確かに、言ったけど……。」
「なら、今は私が奏にその言葉を言う番だね……。」
「はぁ⁉」
唐突に過去の自分の発言を混ぜ返され、困惑気味に声を出す。
「奏はダイゴさんに付いて行ったら、帰ってこないつもり?」
「そんな訳ないだろ!必ず帰ってくるよ!」
「なら良いじゃない、帰ってきてくれるなら……生きていてくれるなら、私は一時的な別れは仕方ないって思う。」
「翼……。」
「私は大丈夫!キョウリュウジャーの人達も協力してくれるし、何より目標が出来たから。」
「うん。」
「だから行ってきて、奏のやりたい事をやってきて。」
「ありがとう翼、必ず戻ってくる約束だ!」
そして、次の日にはダイゴと共に二課を離れ修行の旅へと出たのである。
それからは、時々メールが送られてきて添付されている画像に度肝を抜かれてきた。
最近は、慣れつつあるがそれでも猛獣と戯れている画像には心配してしまうのは仕方ない事だった。
「全く……ん?」
なのでいつもの様に、一緒に綴られてるメッセージを読んでメールを閉じようとして下にスライドさせていると、いつもの内容とは違う事に気が付く。
「翼へ
近々翼が先輩になるかもしれません。
新人には優しくしろよ!」
記された内容を把握するのに少し時間を要した、後輩が出来るとは一体?
「司令からは、そんな話されてないけど……。」
急に決まった事なのかもしれないと思い、明日にでも確認しようと決めて自室に戻ることにした。
そして、後日例の奏からメールの件を聞こうと指令室を訪れようとしたとき、いつもより慌ただしい室内の様子に何事かと思い入室した翼は奏のメールの真意を知る事になる。