聴いて驚け!強竜者と歌姫のブレイブシンフォニー   作:マガガマオウ

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あの日の少女は~暖かな出会い~

一人の少女が居た……。

名は立花響、二年前のツヴァイウィングのコンサートの事故を生き残った生存者の一人である。

彼女にとってこの二年の歳月は、多くの困難と出会いの連続であった……。

その中でも印象に強く残った年の離れた二人の男女との出会いは、彼女の今の形作るのに大きな影響を与えた。

時は二年前に遡る……。

 

二年前事件直後より少し後~

当時の響の周りには暗雲が立ち込めていた、いや正確には響たち生存者がである。

人気アイドルのライブ中に起きたノイズの襲撃を奇跡的に生き残った半数の観客は、被害者遺族の収まりきらない感情の捌け口になり、さらにそれに便乗した意味の無い悪意に晒され一部の生存者に至っては精神を病み一般的な社会生活が困難になるほど疲弊していた。

無論、響にもそう言った悪意を浴びせる心無い人々が手が迫ったのは言うまでもない。

彼女の自宅には連日の如く報道陣が詰めかけ、ある筈もない責任を押し付けそれが過ぎれば今度は騒ぎに便乗しただけの一般人が石を投げ無意味な罵詈雑言を書き殴った張り紙を玄関や壁に貼り付ける言葉汚く罵るなど、これ幸いにと一人のそれも事件で大怪我を負い生死の境を彷徨った少女に対して余りの仕打ちであった。

だからこそ、その日も家のインターホンが鳴った時は、響は恐怖で怯え肩を震わせたのである。

そんな彼女の様子を見ていた母親は、唇を噛みながら訪ねてきた人物をドアモニター越しに確認した。

 

「どちら様ですか?」

 

報道陣ならば追い払えばいい、一般人なら警察に連絡するだけだと思い母親は玄関の前に立つ人物の人相を確認した。

 

「あっ!えぇっと、私は天羽奏って言います。立花響さんのお宅で宜しいでしょうか?」

 

そこに立っていたのは、響が傷を負い塞ぎ込む原因ともなったライブを開催したアイドルグループの一人だった奏であった。

 

「何か御用ですか?」

 

最初は驚いた何故ここに人気アイドルの奏が居るのかと、しかし疑問はある可能性に帰結しそれが真実だろうと思い込んだ。

 

「えぇ、実は今回のライブでの事件で生存なさった方の自宅を回ってまして、その~……。」

『矢張りだ、恐らくは彼女のほかに他にもテレビの関係者も同行している筈よ!』

「帰ってください!私達からはあなた達に響に合わせる謂れはありません!」

 

奏も芸能人である、今苦しんでる響を無理やり引っ張り出しその場は立ち直らせたように見せて世間の注目を得ようとしているのだろうと、思い至った母親はきつい口調で奏に言い募った。

 

「……分かりました、今日は帰ります。」

 

奏は意外の程あっさりと、引き下がる様子を見て諦めたのだろと安堵してその日も心無い誹謗中傷の嵐をやり過ごした。

次の日も奏は訪ねてきた、しかし今度も母親は毅然とした態度で追い返す。

そんなやり取りが、連日のように続き遂に母親が折れ奏を家に招き入れたのは最初に奏が訪れてから二週間が過ぎた時だった。

いざ招き入れてみると、入ってきたのは奏一人だけで後のカメラマンやディレクターと言ったそれらしい人間は居らず、奏自身もカメラを隠している様子はない。

 

「あのそれでご用件は……。」

「……さてと、じゃあ始めますか!」

 

質問しようとした母親の言葉を遮り、奏は大きなに声でそう言うと慣れた様子で割れた窓ガラスを内側からダンボールで補強して外の張り紙を剥がし、荒れた室内を片付けたりして家の外と中を片付けていく。

 

「あっあの!やめてください!お客様にこんな事してもらう訳には!」

 

暫く奏の突然の行動に呆気に取られていた母親が、慌てた様子で静止に係る。

 

「え?あぁ、すいません……翼の部屋と同じ位散らかってたから思わずいつものノリで片づけちゃったよ。」

「はぁ……え!あの、翼ってもしかして……。」

「お母さん、どうしたのお客さん?……へ⁉天羽奏さん⁉ツヴァイウィングの⁉」

 

奏が、事も無げに呟いた一言を聞き流そうとしたが気になるキーワードが飛び出し思わず聞き返そうとした時、居間の騒がしさが気になったのか様子を見に来た響がやってきた。

 

「ん?あっ!君は!」

「え?あの、何処かで会いましたっけ?」

 

響の姿を見た奏は、初対面ではない反応を見せその様子を少し緊張しながら不思議そうに返した。

その後は騒がしさを気にして様子を見に来た響の祖母の呼び掛けでいったん落ち着き、三人で話し合う事になった。

 

「それで、今日は一体どういったご用件で?」

「お母さん!」

 

最初の行動で多少の毒気は抜かれたとはいえ、母親はまだ警戒を解かないで奏に尋ねる。

その様子を横で見ていた響が、思わず窘めようとする。

 

「はい……自分勝手とは理解しているんですけど、私達のライブを見に来て被害にあった人たちの元に尋ねて、謝って回ってるんです。今回、立花さんのお宅にお邪魔したのもその用で……今回の事件は私達、ツヴァイウィングの責任です。折角ライブを見に来てくれたのに辛い思いさせ不快な境遇にしてすいませんでした。」

「……ふぅ、そんなにかしこま畏まらないでください。理由は分かりましたから。」

「奏さん……。」

 

さっきまでの快活な表情から一転、真剣な顔で二人の前で頭を下げる奏からは本当に強い謝罪の念が感じられた、だからこそ響も母親も奏を責める気は起きなかった。

 

「顔をあげて下さい。確かに、あの日のライブで私は怖い思いをしました……でも、ライブに行けた事は後悔してません。あの時のあの場所でのドキドキは、楽しい時間でした思い出だしたら何度でも興奮できるぐらい衝撃的でした……あの思い出があるから、私は今も生きていける。寧ろ、そんな素敵な体験をさせてくれてありがとうございます奏さん!」

 

その目には一部の後悔も絶望も無かった、確かに昨日まで他者から悪意には参っていた、だが響の心には何故だかそれすらも受け入れようとする余裕があった。

 

「立花さん……。」

「私からも、言う事はありませんよ。元より被害にあった本人がこう言ってるんですから、当事者でもない私がどうのこうの言えるものでもないでしょ。」

 

若干呆れ交じりのでも暖かな優しさを含んだ声で、母親も響に同意した。

 

「立花さん、それにお母さんもありがとう……私の私たちの歌を聞いてくれて、その歌で勇気を与えらたって言ってくれて……すっごく嬉しい。」

「響でいいですよ奏さん……こちらこそです。それより、どうして奏さんがここに?お仕事は良いんですか?」

 

奏の謝罪で忘れていた疑問を思い出し、響が尋ねる。

 

「あれ?知らないのか、私は今は芸能活動は無期限で活動停止してるんだけど……。」

「「え?えぇ⁉」」

 

生存者の迫害が始まってから外部からの情報を断っていた響たち親子にとって奏の発言は寝耳に水だった。

その後、奏の進退についてあれやこれや質問していたら外はすっかり暗くなっていた。

 

「奏さん、その今晩泊っていきませんか?」

「え?」

 

そろそろお暇しようかと席を立つ奏を、響が呼び止める。

 

「いえ、その私はまだ奏さんとまだお話がしたいなって……ダメですかね?」

「ダメではないけど、家に人に迷惑じゃないかな。」

 

少し茶目っ気を出して奏に問いかける響を見て、戸惑いながらも満更じゃない態度で母親を見る。

 

「そんなことないですよ、寧ろ響がここまで積極的になってくれてるんですから大歓迎ですよ。ただしあまり夜遅くまで起きてない事いいですね。」

「やった!お母さんありがと!ねぇ、奏さんお母さんからの許しも得られましたしどうですか?」

「じゃあ、お言葉に甘えようかねぇ。」

 

その日は響にとって忘れられない一日となった、いやもっと言えば翌朝にも人生に大きな影響を与える人物と出会えるのだが。

その出会いは、早朝に布団を出て何処かへ向かっていく奏の後ろを追いかけた時だった。

奏は動きやすい格好で並木道を颯爽と走り抜け、小さめ公園に入ってく。

響は少しばかり息を切らしながらも、如何にかついていくと公園の中心に奏ともう一人母親と同じ位の年齢であろう男性が向き合っていた。

誰だろうかと思いながらも、ここまで奏を追いかけてきた疲れが思考の邪魔をした。

 

「遅かったな!こっちの準備は出来てるぞ!」

「ははは、ごめんごめん。響に気付かれずに出てくるのが難しくって。」

「?響って言うのは、そこでへたってる子か?」

「え?って、響⁉何でここに?」

 

奏本人としては気付かれずにここまで来たつもりだったので、響がここに居る事にとても驚いたようだ。

しかし響は、息を整えるで精一杯でまだ応対できそうにない。

奏が肩を貸して公園の中のベンチに座らせると、男性が奏に声を掛けた。

 

「まだまだ詰めが甘いな奏。」

「ちぇ、相棒と会えるのはまだまだ先かぁ~。」

 

中々調子の戻らない響を余所に、二人だけで何やら和気藹々と話している、会話の内容はよくわからないが二人の間で通じる話題なのだろう。

そこから漸く息を整えた響は、改めて奏と一緒に居た男性と向き合った。

 

「もう大丈夫そうだな。」

「おかげさまで、所で貴方は?」

「俺か?俺は桐生ダイゴ、奏の師匠をしてる。」

「師匠?」

「あぁ、奏を一人前の勇者にするためのな!」

「???」

 

いきなり理解できないこと言うこのダイゴと名乗った男と奏は、本当に師弟の関係あるらしく暫く呆然と二人の稽古(?)を眺めていた。

しかし、そうやって眺め続けるのも飽きてきた響は、さっきダイゴが言った勇者と言うキーワードについって考え始める。

勇者と聞いて最初に思い浮かぶのは矢張りファンタジーの世界の主人公だろうか、魔物が闊歩する世界で魔王と称される悪の親玉と戦うヒーローでもここは現代で場所は日本、確かにノイズと言ういつどこに現れるか分からないモンスターが日々の暮らしの迫ってはいるが日常は至って平和である。

さてそんな平和な世の中で、凡そファンタジーやRPGの中でしか聞かないような勇者と言う単語が出てくる意味とは?

あのダイゴがただの異常者なのかと言えば、どうもそういう風には見えないだが、そうでなければあの言動の説明が付かない。

 

「ははは……うん、まぁそう言う反応になるよね……響この後時間ある?」

 

色々と思案しては悶々として一人で百面相していると、その様子を見た奏が声を掛けた。

そこからはダイゴと奏に連れられてある場所に向かった、そこには地面に何かのレリーフが彫られ所があり二人がその上に乗ると響を手招きして呼び寄せった。

 

「あの……奏さん、ここは一体……?」

「まぁ、ここに立って。」

「みんな揃ったな、じゃあ行くぞ!」

 

恐る恐る近づいて奏たちの近くまで行くと、奏は響の手を取りレリーフの元に立たせたのをダイゴが確認していつの間にか手にしていた不思議な形の拳銃の引き金をレリーフに向かって引いた。

突端に響の周りの景色がまるっと変わる、そこは中世の遺跡の中の様な意匠がそこかしこにあしらわれた不思議な空間だった。

 

「いきなり別の場所に……テレポーテーション?」

「厳密には違うんだけど、説明が面倒だからそれでいいや。」

 

急に変わった周りの景色に戸惑いながら、それでも響の中の好奇心が勝り興味津々と言った表情で辺りを観察する。

 

「あら、お客さんかしら?ようこそ、スピリットベースへ!」

「えへへ、最近はいつものメンバー以外の人も来てくれて賑やかですねキャンデリラ様!」

「ほえ⁉」

 

不思議空間の観察に集中していると、何やら楽し気な声が二つ聞こえてきて驚き変な声が出る。

慌てて振り向くとシルエットこそ人型だが、姿形が明らかに人ではない二人組がこちらを見ていた。

 

「あぁ、びっくりさせちゃった?おいらはラキューロ、これあげるから許してくれる?」

「あ、ありがとう?」

 

二人組の一方で背の低い方、ラッキューロが棒キャンディーを腰のカバンから出して渡してくれた。

見た目はコミカルで何処かのテーマパークでマスコットをやっていても疑わない自信がると、心の中で思ってしまう。

 

「ごめんなさいね、私達こんな見た目だから普通の人と接する機会が無くて。」

「い、いえ気にしない下さい。」

 

そして、ラッキューロにキャンデリラと呼ばれた女性(?)が続いて謝ってきた、こっちの見た目もテーマパークのショーに居れば疑わずにキャラクターなのだと認識できるだろう。

 

「初見だとやっぱりそういう反応になるよな……私も初対面の時は思わず身構えたし、でも付き合ってみたら案外気のいい奴らではあるから、仲良くしてやってくれよ。」

「ちょっとちょっと!案外ってのは無しじゃないっすか!これでも、壁を作られないように気を使ってるんすから!」

「そうよ!私達は人々に笑顔でいて欲しいだけなのよ!」

 

呆然としている響に、奏は心情を察したのか同意していると、キャンデリラ達が不貞腐れた様に言い募った。

 

「ごめんごめんこの通り。ほらこの間欲しいって言ってた《らぶdeぼーるタッチダウン!》の限定特装版あげるからさ?」

「え⁉まっ全く奏さんは、物で釣ろう何って……でも、どうしてもって言うのなら許してあげなくもないっすよ?」

 

しかし、そこまで大事ではないのか奏は軽く謝ると、ラッキューロも気にした様子も見せずに許そうとしていた。

 

「《らぶdeぼーるタッチダウン!》!あの!奏さんも、あの漫画読んでたんですか?」

「え?じゃあ響も?」

「はい!同じクラスの子とよく話してますっ!………前までは、ですけど。」

「………そっか。」

 

一瞬だけ明るい表所になったが、直ぐに浮かない暗い顔になった響を見て全てを察した、本人がいくら気にしないと国では言っていても、やはりクラスメートとは事件を切っ掛けに疎遠となってしまっていた。

 

「ど、どうしたんすか⁉そんな暗い顔して⁉」

「私達、何か気に触るしちゃったかしら⁉」

 

しかし、事情を知らないキャンデリラ達は響の表情の変化に戸惑い慌てふため始めた。

 

「いえ……二人が原因じゃないんです、ただ……。」

「……何があったか、話してくれないかしら?話を聞いても、何が出来るって訳じゃないけど、でも話してみるだけでも楽になるかもしれないわ。」

「そうっすよ!ここには、おいら達以外いないっす。何を話しても、聞き咎める人なんていないっすよ。」

 

沈痛な面持ちの頭を上げ、無理に口角を上げて苦笑して見せる様子を見ていた二人が、響の隣に座りそう囁いてくれた。

 

「二人とも……聞いてくれますか?」

「えぇ、勿論!」

「ちゃんと、聞いてるっすよ!」

 

二人の優しさに触れ、決心したのか二人を交互に見て切り出した。

この数か月の間に起きた出来事、仲の良かったクラスの子に無視されそこまで関わりの無かった人からは謂れのない言葉を吐きかけられて、辛かったこと悲しかったこと寂しかったこと一度口に出すと堰を切った様に溢れ出し止められなかった、響自身も気づかぬ内に溜まっていた鬱憤を出会って一時間も経ってないような人たちにさらけ出せたのは二人の人柄がそうさせたのかもしれない。

 

「……響ちゃん、よく我慢したわね。」

「え?」

 

話を聞き終え、場がどんよりと重くなっていたが不意にキャンデリラが囁くと抑えていた涙が溢れ出した。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

気付けば獣の雄叫びの様な叫びが木霊して、幼子が泣き叫ぶが如く泣き出した。

一体どれだけ泣いただろう、抑えつけていた感情が声にならない嗚咽となって外側に溢れ出し当て処のない激情と合わさっていたと思う、そんな目も当てられない姿を三人は静かに温かく見守ってくれた。

 

「お見苦しい所をお見せしました……。」

 

溜まっていた不満や不安を曝け出せてスッキリしたのか、赤面しながら三人に頭を下げた。

 

「いえいえ、気にしないで。それよりも、もう言いたい事は無い?」

「はい……もう大丈夫です。寧ろ、何だか体が軽くなった感じがします。」

「心の中で蓄積していたものが外に出たからだろうな。」

 

一緒にここに来たはずなのに、今まで何処かに行って姿が見えなかった人の声がいきなり明後日の方向から聞こえてきた。

 

「ダイゴさん!今まで何処に行ってたんですか⁉」

「あぁ、ちょっとある人に呼ばれてな。」

「ある人?それは誰ですか?」

「まぁ、それは……響、その人からこれをお前に渡せって言われてる。」

 

ダイゴは、何かをはぐらかす様に響の手を取って無地の電池に似た何かを渡してきた。

 

「あの、これは?」

「お守りだ。」

「お守り?」

「おう!勇気の出るお守りだ!」

 

そんな事があってから、数日後に奏は別の生存者の元へ向かい響たちへの迫害は続いたある日、響の元にまたも見知らぬ人たちが訪ねてきた。

 

「……初めまして。」

「初めまして……。」

 

しかし、奏の時と違い重苦しい空気が場に流れていた。

 

「あの……。」

「済まなかった……いきなり大事な娘を失い、自分が判らなくなっていた……。」

 

それもそうだろう、響が向き合っている相手はあの事件の被害者の遺族なのだから。

 

「そんな!そんな事は……!」

「いや……私自身、大人気ないと思ってはいても止められなかった。君たちを恨むことでしか弱い自分を保つことが出来なかった……謝って済む話じゃないのは重々承知している、これは私のエゴで自己満足だと言う事も理解している!だがそれでも謝らせてくれこの通りだ。」

 

遂には椅子から降りて床に手を付き、頭を地に付けて謝罪してくる。

この人の娘は響と同年代だった、だからこそやるせない思いが生き残った響に向いた、それからは世論の流れが彼の心をより攻撃的にさせた。

 

「ツヴァイウィングの翼さんに諭されて漸く気付けたんだ!私が間違っていた、君がどれだけ苦労していたかも知らずに、ただ一方的に自分が楽になりたいがために君をさらに傷つけた!……本当に、本当に済まなかった!」

 

その言葉の後、彼から声を押し殺しても聞こえてくる泣き声が漏れ出した、この人も普段は誠実で優しい人なのだろう、でもそんな人でも大事な存在を失えば暴走してしまうのだ。

 

「顔を上げてください……。」

「立花さん……。」

「確かに、事故の後は辛い事ばかりでした……でも、その事で誰かを恨んだりはしてません。だって!辛いのはみんな同じだから、私は運よく助かりました。だけど助からなかった人もいて、その人にも大切に思ってくれている人がいて、その大切に思っていた人を失えばきっと冷静で何て居られなかった筈で……だから、当然の事なんです!その人が大切だったから、生き残って幸せになっているかもしれないと考えて許せなくなるのは普通の事なんです!だから、謝らないでください……そんなことされたら、私は誰かを恨んでないといけないじゃないですか。」

「立花さん……ありがとう……。」

 

その後も他の被害者の遺族は響の元を訪れ続けた、してその度に響は自分の想いを告げ続けた。

やがて、生存者の迫害の実態を知り始めた被害者の遺族たちは、彼らに対して償いの意味も込めて庇い始めた、そうすると誰の怒りの代弁なのか分からなくった迫害は自然と消滅ていった。

 

そして、月日は流れ二年後のある日の夕暮れ……。

響は、あの日あの時の自分を腕の中の少女と重ねた、自分が如何にかしなければなかば無意識に覚えのない歌を紡いだ。

そして、眩い光の中で覚醒した……己が意思を歌に換え、己の力して戦う戦姫へと……。

彼女に起きた変化とそれ至るまでの道程は、この日の朝に遡る……。

 


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