聴いて驚け!強竜者と歌姫のブレイブシンフォニー   作:マガガマオウ

4 / 5
戦姫の目覚め~胸の内に響く歌~

逝く人も残る人そして亡くし残された人にも、全て等しく不幸の連鎖へ追いやったあの事故から二年の歳月が流れた。

あの事故の笧から抜け出した当事者とその関係者たちは、その心の負った傷を庇いながら互いに支え合い逆境を乗り切った。

そして、奏の来訪があったあの日から後ろを向く事を止めた響は今……。

 

「立花さん!」

 

彼女の通い始める私立リディアン音楽院の教室で教諭からの説教を受けていた、その腕の中に猫を抱えて。

 

「あの~この子が木に登って降りられなくなって……。」

「それで?」

 

どうにも授業の修業時間に遅れた弁明にしては弱い言い訳に、向かい合う教諭も呆れながら続きを促す。

 

「……きっとお腹を空かせてるんじゃないかとぉ……。」

「立花さん!」

 

捉える人が人なら一見ふざけてるとしか思えない受け答えに、教諭はまた声を張り上げた。

 

「たぁ~疲れた~、入学初日からクライマックスが百連発気分だよ~私呪われてる~。」

 

その後も続いた教諭からの説教に疲労の色を浮かべる響は、自分と幼馴染であり親友の小日向未来に割り当てられた寮の部屋の床に仰向けに寝そべって弱音を溢す。

 

「半分は響のドジだけど、残りは何時ものお節介でしょ。」

「人助けと言ってよ、人助けは私の趣味なんだから~。」

 

そんな彼女に辛辣だが愛嬌も含まれた突っ込みを返す未来に響は、体を反転させて四つん這いで起き上がりむくれた声音で反論した。

 

「響の場合度が過ぎてる、同じクラスの子に自分の教科書貸さないでしょ普通。」

 

親切心は別段問題ではない寧ろ褒めらるべきことだが、響の場合はそれが些かおおらか過ぎた。それを案じる未来だからこそ心配で小言を口にする。

 

「私は未来から見せて貰うからいいんだよ~ふふ。」

「……バカ。」

 

所が当の本人である響は無用の心配だと聞いていないのか、親友の未来を信頼しているのか楽天的な返答をする。未来は信頼してくれてる事が嬉しいのとそれでも心配でならない感情が入り交じり難しい顔で小さく悪態をついた。

 

「おぉ!CD発売はもう明日だっけ⁉あっはぁ~やっぱカッコいいな~翼さんはぁ~。」

 

風鳴翼の写真集を掲げて子供のように燥ぐ響。その様子を未来は温かく優しい視線で見つめる。

 

「翼さんに憧れてリディアンに進学したんだもんね大したものだわ。」

「だけど……影すらお目に掛かれなかった。そりゃトップアーティストだし簡単には会えるとは思って無かったけどさ。」

 

憧れの人に会える可能性を信じリディアン音楽院への入学を決め、その念願叶い無事ここへ入試試験に合格したが、まだ本懐を達しない響は頬杖を突いて思案顔を覗かせるが、彼女は自分の胸元を覗き込むとあの日ダイゴに渡されたお守りと胸に刻まれた音楽記号のフォルテにも見える傷跡が有り、傷痕の方を注視する。

 

『あの日私を助けてくれたのはツヴァイウィングの二人……そして他に6人。誰かは分からないけど確かにそこに居て私達事故で生き残った全員を助けてくれた。だけど退院してから聞いたニュースは多く人々が世界災厄のノイズの犠牲になった事だけ……戦っているツヴァイウィングと色彩豊かな戦士たち、あれは幻?私が翼さんに会いたいのはあの日何が起きたか分かるような気がするから。』

 

朧げな記憶の中で人々を守る為その力を振るうツヴァイウィングと謎の六人組の戦士。あの日薄れゆく意識の中で目に焼き付けた情景が瀕死の淵で見た己の幻想なのかゆるぎない真実なのか、彼女はただその答えを求めながら未来と向かい合うように眠りの床についた。

その夜、噂の翼はキョウリュウジャーの一人のソウジと共にノイズの討伐に駆り出されたのだが、そんな事は知る由もない響達の安眠の夜は明けていった。

 

「自衛隊特異災害対策起動部による避難誘導が完了しており被害は最小限に抑えられた。」

 

リディアンのカフェテラスで昼食をとってる最中、ネットニュースで昨日の事故の記事を読み上げる未来。

 

「ここから、そう離れていないね。」

「うん……。」

 

記事に載ってる事故の現場の位置はリディアン音楽院から近くにあった、その事を未来が話すと食事中の手を止め響が同調する。

 

「風鳴翼よ!」

「芸能人オーラでまくりね、近寄りがたくない?」

「孤高の歌姫と言ったところね。」

 

昼食時で賑わいを見せるカフェテラスの中に、それまでとは別種の騒がしい言葉が囁かれ出した。

 

「はっ!」

 

その声を聞いていた響は居ても立ってもいられず、茶碗を持ったまま椅子を引いて立ち上がった。

 

「はぁ……!」

 

そして振り替えた時、自分の真後ろを追い求めた憧れの人である翼が通り過ぎようとしていた。

 

「あっあの……。」

 

突然の立ち上がった響に一瞬足を止めた翼、目の前に会いたかった人が居ると言う状況は響が思っていた以上に緊張するもので、ガチガチに固まって話し掛けようとする口を強張らせた。

 

「へ?」

 

そんな様子の響を見据え翼は無言で自分の頬を指で示した、その仕草を真似て自分の頬に指を据えるとご飯粒に触れる感触が伝わった。

 

「あ~ぁもう駄目だ~翼さんに完璧可笑しな子って思われた。」

 

夕暮れに蔭る教室の中、昼食時の翼との初対面での失敗に項垂れる響。

 

「間違ってないからいいんじゃない?」

 

そんな響に淡々と突っ込みを入れる未来、やはり彼女は響に対しては対応がややドライな気がする。

 

「それ、もう少しかかりそう?」

 

それでも響に気にしている様子がないのは、彼女達に確かな信頼関係が築かれてるからなのだろう。

自分の隣でノートを纏める未来に、顔を向けそう尋ねる響。

 

「うん……ん?あっそか、今日は翼さんのCD発売だったね。」

 

何気なく答えるが妙に急かす響の態度に、少し考えその理由に行きつき聞き返す。

 

「でも、今どきCD?」

 

ダウンロードが主流となった昨今においてCDの方を望む響に、未来は不思議に続けた。

 

「うるさいな~初回特典の充実度が違うんだよ~CDは~。」

 

望みの物を手の出来た時の事を考え、早くも幸福感で声のトーンを上げる響。

 

「……だとしたら、売り切れちゃうんじゃない?」

「んひぃ⁉」

 

だが未来は冷静に思った事を口に出すと、その事は頭から抜けていたのか響は顔を上げて焦りだす。

急ぎ学園を出て電車に乗り町へ到着すると、彼女は急ぎ足でCDショップに向かう。

 

「CD!はぁはぁ特典!はぁはぁCD!はぁはぁ特典!」

 

息を切らせながら興奮の色を表情に表し、暮れなずむ街を一思いに駆け抜ける響はマラソンの掛け声の様に繰り返すのだった。

 

「あっあぁ!ふぅ……。」

 

そして、CDショップのある角を曲がり一息ついた時、風が吹き何か埃の様な物を巻き上げた。

 

「え……?」

 

一瞬違和感を感じ近くのコンビニの店内を覗き込んだ時、人の姿がない事に気が付いた。

コンビニの店内だけではない見渡す風景の中に人は居らず、その代わり人一人分の黒い灰の様な物が至る所に散乱していた。

 

「ノイズ!」

 

響にはその光景には見覚えがある。二年前自分が当事者となったあの事故の最中、逃げる人々に取り付き命を奪った異形の影ノイズの仕業だと。

 

「いやー!」

 

呆然と立ち尽くす響の耳に誰か幼い少女の叫びが聞こえた時、己の身の安全など忘れ助けを呼ぶ声の元へ走り出した。

その時、特殊二課の作戦司令部も慌ただしく動いていた。

 

「状況を教えてください!」

「現在、反応を絞り込み位置の特定を最優先としています。」

 

指令室に入ってきた翼が開口一番に状況の説明を求める。職員たちも急ピッチで索敵をしているが未だ特定はできていなかった。

そして少女を助け出す事に成功した響は、少女の手を引き細い路地を走っていた。

 

『ここはダメだ!すぐに引き返せ!』

 

その時、響の胸の中で誰かの声が聞こえた、聞き覚えは無いが若くだが威厳を感じる声は今響たちが居る場所は危険だと警告していた。

 

「っ!何、急に⁉」

 

その声が聞こえて一瞬驚くがそれ所では無い状況に、逃げる足は止めないで路地を通り抜ける。

 

「うそ!」

 

路地を抜けた先は細い川があり両サイドには、ノイズが犇めき合い通路を塞いでいた。

 

「お姉ちゃん!」

 

何処にも逃げ場が無い閉所で追い詰められ、少女は響のスカートを強く握る。

 

「大丈夫お姉ちゃんが一緒に居るから。」

「うん……。」

 

不安に揺れる少女を安心させるため強気の言葉で励ますと、少し落ち着いた様子で消え入りそうな返答が返ってくる。

 

『川に飛び込め、暫くは撒けるはずだ。』

「また⁉いや、今はそれしかないよね……。」

 

響の胸に響く謎の声が状況を切り開くための助言すると、少女を腕の中に抱え目の前の川に飛び込んで対岸に移る。

 

「はぁはぁはぁ……シェルターから、離れちゃった……!」

 

息も絶え絶えで少女を背負いながら逃げ続ける響達の現在地は、ノイズから逃走する中で避難シェルターから遠のいてた。

ここまで逃げていた響の体力は限界へと近づいていて、足をもたつかせて転び背負った少女ごと倒れる。後ろを見るとノイズの群れがゆっくりと追い迫って来る。

 

[生きるのを諦めるな!]

 

あの日あの時あの場所で死にかけ、自分に懸けられた奏の言葉が脳裏に甦った時、まるでその言葉に力が有るかのように響はもう一度立ち上がる。そしてもう一度少女の手を握り生き残るために走り出した。

逃げて……逃げて……逃げ続け、漸く一息付けられる場所まで移動すると響達は、体を大の字に広げ息を整える。

 

「死んじゃうの……⁉」

 

ここまで一緒に逃げていた少女がふと弱音を溢す。それを聞いた響は起き上がり優しく微笑むと静かに顔を横に振った。だが顔を後ろ向けた時……背後には大量のノイズが迫っていた。

少女は一瞬で跳ね起き響に駆け寄った。だが幼い彼女でも理解できる絶望的な状況に嗚咽が漏れだした。

そんな状況の中、響はその目を見開き迫りくるノイズを睨み付け生き足掻こうと思考する。

 

『生き残りたいか?』

「えっ?」

 

そんな時、またあの声が囁きかける……。

 

『生き残りたいならば歌え、その胸に宿る聖遺物を起こす歌を!』

「なにを……っ!」

 

謎の声が言ってる言葉の意味を理解できない響は、声ではなく歌でその意味を知った。聞いた事は無いだが知っている。何故だか懐かしい気力が湧きたつ感覚……。

 

「生きるのを諦めないで!」

 

寄り添う少女に力強くそう言うと、響は紡いだ胸に流れるその歌を……そして、逆境を跳ね除ける戦姫に……変わる!

 

「反応絞り込めました!位置特定!」

「ノイズとは異なる高出力エネルギーを検知!」

「波形を照合、急いで!」

 

その時を同じくして、ノイズの正確な出現場所を探り当てた特殊二課の面々は同時に発生した響のモノと思われる反応も探知していた。

 

「まさかこれって、アウフヴァッヘン波形⁉」

 

照合した波形のタイプを一目見た時、了子女史が戦慄の表情を見せた。

 

「ガングニールだと⁉」

 

そして、示されたエネルギーの波形の固有コード名に驚愕した弦十郎が声を荒げる中、翼だけが落ち着きを取り戻していた。

 

「……後輩って、こう言う事なの奏?」

 

その表情は旧友の悪戯に呆れたようだったが、どこか懐かしさを感じてるとも言える声色で呟いた。

 

「ぐぅあぁぁぁぁ!」

『くっ!何と言う力の波長だ、私が抑えなければ彼女が飲み込まれてしまう!』

 

自身の変化に伴う痛みに苦しみ藻掻きながら外装を纏っていく響。その胸に首飾りとしてぶら下るあの日の電池の様なお守りが光を発していた。

 

「……目覚めたか響。やっぱり奏を親父に預けて日本に戻ってきてよかったぜ。」

 

その様子を少し離れた所から見ていたダイゴが、一人そう囁いた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。