真夏の夜の迷宮 作:1919野獣
「ぬわあああん疲れたもおおおおん!」
だだっ広い草原の中、膝まで覆い隠す長さの草生える中に一つだけあるベッドの様な形をした大岩。その上にパンツ一丁で寝そべりながら太陽光を浴びている男がいた。
ただ日光を浴びているだけなのに何故疲れるのか、小麦色に焼けた肌はともすれば別の何かの様に見え、普段からジムに通っているのか筋肉質な体は空手に必要な筋肉を重点的に鍛えているのがハッキリ分かる。
「MURの野郎もKMRも準備があるからって日光浴をサボりやがってよォ。後でお仕置きだぞお前!」
ここにはいない二人の姿を脳裏に浮かべながら男は立ち上がると、遠くに見える自分が産まれた場所、下北沢村を見る。
今日は故郷出発の日、事前に用意しておいた荷物の確認を済ませると言って家に引き篭った二人を思い男は悲しくなる。
「全くよォ!新たな門出に荷物なんて必要……ねぇんだよ!」
男は既に村の住人には別れを済ませ、着の身着の侭で村を出てくる二人を待っている状態だった。
今から向かうのは世界で唯一の迷宮がある都市オラリオ。
そこには神々が住んでいて、ファミリアというものに入れば
それを駆使し迷宮を攻略する訳だが……男は本当にそんな嘘臭いものに効果があるのか?と罰当たりな思考を有していた。
「ま、神の恩恵なんて無くても迫真空手部の技があるなら平気でしょ!大丈夫だって安心しろよな!平気平気!」
男は自分自身に言い聞かせるように喋り倒すとパンツの他に唯一腰に掛けていた一振りの太刀を握り締める。
邪剣『夜』、男が肌身離さず持ち歩いている名刀であり、呪われた一品でもある。
昔オラリオから来たという老人から受け取ったものであり、それからというもの男は常に腰に掛けて持ち歩くようにしていた。
「邪剣『夜』と聖剣『月』が交わる時、世界が淫夢の夜に包まれる……か。これもうわかんねぇな。あの耄碌ジジィいかれてんじゃねぇか?」
自転車に乗りながら何食わぬ顔で近付いてきた老人を思い出しながら、その時に言われた言葉を噛み締める。
全く意味の無いだろう話だというのは分かっているが、どうにも二年前に会ったあの日に言われた話が忘れられない。
男は暫く考え込んだ後に老人の話に耳を傾けるのは時間の無駄だと悟り、何時まで経っても来ないので気晴らしに鬱憤を晴らそうと考えて下半身に手を伸ばす。
が、その時になって漸くハゲの男と中の上の顔をした男の二人組がやって来た。
「ちょ、遅いっすよ!MUR先輩にKMR!もう待ちくたびれちゃったよぉ」
「お、そうだな。悪い、思ったよりも整理に時間が掛かったんだ」
MURと呼ばれたハゲの男はランドセルを背負いながら男に謝罪する。しかし男は野獣の眼光でランドセルの中に隠れているポッチャマ人形を見逃さなかった。
「すいません先輩!重たい荷物を背負った老人の方が1919人くらい居て遅れました!」
「おっ、大丈夫か大丈夫か?まぁそういう事なら仕方ないな!じゃけん行きましょうねぇ」
先輩と呼ばれた男は二人を連れて草原の中を歩いていく。目的地は迷宮都市オラリオ、三人は浪漫を求めて草原を旅立った。
「あ、そうだ。この辺にぃ、うまいラーメン屋の屋台、来てるらしいんすよ」
指を指しながら二人に話し掛ける男。
賑やかな雰囲気を醸し出しながら歩みを進める彼等に迫り来る運命とは如何に。
次回、男の真名が明かされる。
ま、多少はね?