才能が欲しかった。何か1つでも良いから世の中に誇れる才能が欲しかった。欲を言えば1つじゃ足りないけれど、それを言い出したらキリがない事も分かっていた。何かを始める勇気も無くて、何かを続ける根性も無くて、ただただ同じような毎日を過ごしていく。夢を目指していた事もあったけれど、いつしかそれも諦めてしまった。
大学まで進んで、無事に卒業出来た事は覚えているんだけど……………
「ここ、どこよ」
気がつけば、辺り一面真っ白な砂漠のド真ん中。リゾートビーチを想像して貰えれば良いだろうか。あれが何処までも果てしなく続いている世界。
これが夢なのは間違い無いだろう。でなければ、こんな非現実的な場所に居るはずがない。第一俺はついさっきまで━━━
「━━━あれ?俺、どこに居たんだっけ?」
あぁ、まただ。ここに来てから、どうも記憶が欠如しているようだ。
自分の名前も、過去の経歴だって粗方思い出せる。だけど、ついさっきまでの出来事を忘れてしまった。
「マジかよ………」
俺はこの事に、言い知れぬ恐怖を抱いた。落ち着け。落ち着くんだ。大学の卒業祝いとして友達と旅行を計画していた事は覚えてる。それで、どうせなら海外が良いと言う話もした。場所は…………えっと………ヨーロッパだった気が………。いや、この際場所はどうでも良い。えーっと、それから色々と計画して、遅い時間になったから解散したんだ。うん。それで家に帰ろうと……帰ろうと………
「あれ?俺の家、どこだっけ?」
お、落ち着け!!住所は、東京都○△区の………あー!!待て待て!!すぐに思い出すとも。いったい何年住んできたと思っているんだ。
「何年……なんねん……なん、ねん……」
俺、何歳だっけ?それと、俺の名前、なんだっけ?え?え?俺は誰で………俺、俺は……だれ?
「━━━ちっ、遅れたか」
ゴォォォオオオオと言う音と共に、黒い影が俺を包み込んだ。黒い影はやがて実体を伴い、人形へと変わっていく。
「ふむ。落ち着け落ち着け。ほーれ深呼吸じゃ。怖がる事はない人の子よ。我が教えてやろう。思い出させてやろう。故に、この砂に飲み込まれるでないぞ」
俺をすっぽりと包み込んでくれているから、きっと俺より大きいんだろうな、と思っていたがそうじゃなかった。俺の下半身が丸々砂に沈んでいたのだ。
「ほれほれ。安心せい。大丈夫じゃ、大丈夫じゃよ」
男の人なのか女の人なのかは分からないが、その声を耳にするだけで安心出来た。背中を擦ってくれる手は優しく、暖かかった。
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「すみません。みっともない姿をお見せしました」
「ふはははは、構わん構わん。我は許す」
あの後、落ち着いた俺は目の前の人の腕の中で泣いた。もしかしたら発狂寸前だったのかもしれない。目の前に居る人が何者なのか………それはこれから聞くことにしよう。
「うむ。さて、お主について説明せねばいかんな。先ず始めに、お主は最近の出来事を思い出せるか?何でも良い」
最近の出来事…………
「すいません………何も思い出せないです」
「うーむ。成る程な。これは重症よな」
目の前に居る人は腕を組み、難しそうな顔をして唸る。空から見れば、この真っ白な砂漠にポツンと浮かぶ黒い点のように見えるだろう。それだけ目の前に居る人は黒で統一されていた。真っ黒なドレスに黒いストレートヘアー。外見は若々しく20代前半に見える。だと言うのに、古くさい言葉遣い。まるで中世の貴族のようだ。あぁ、全身が黒で統一されていたと言ったが、彼女……の肌は白く健康的な瑞々しさがある。
「いよーし!では1から説明するぞ!」
「はい。よろしくお願いします」
いったい何を言われるのか。この時点で俺は、恐らく次に言われるであろう事が想像できていたのかもしれない。
「お主は死んだ」
バッサリと、真顔で言い切られた。
「………随分と……遠慮無く言いますね」
「それはそうだろうが。お主は死んだ。これは覆らぬ。いや、覆してしまっても良いのだが」
「出来るんですか!?」
「まあ待て。お主の死因だが、歩道を歩いていたお主に居眠り運転をしていたトラックが突っ込み、ビルの壁とサンドイッチ★になった訳じゃ」
あー、成る程ー。サンドイッチ★か~~~って!メチャクチャ軽いな!?!?
「当然、死体は原型を止めておらず、もうハンバーグ状態じゃよ。そんな死因をしたのに、あっさりと何事も無かったかのように復活してみい。お主は化け物として見られることじゃろうな」
あっ………そうか。俺が生きてたあの世界じゃ、魔法もなければSF映画に出てくるような近未来技術も無い。そんな中で、ハンバーグよろしくミンチになった死体が元通りになって、尚且つ何事も無かったかのように動きだしたら………。
「うむうむ。理解したようじゃな。頭の回転は悪くない」
彼女は満足気に頷いて、何かを思い出したかのように手を叩いた。
「そうじゃそうじゃ!我としたことが、久しぶりの客人故、すっかり忘れていたわ」
そう言って指をパチンと鳴らすと、俺と彼女の間に丸いテーブルと椅子が二脚。机の上にはティーセットとお菓子が置かれていた。
「さぁ、座るが良い。話の続きは茶を飲みながらするとしよう」
彼女は先に座り、カップへティーポットの中身を注いでいた。その液体の色から察するにどうやら紅茶のようだ。
「む?紅茶は好かんか?」
「い、いえいえ。いただきます」
目の前で起きたファンタジーに面食らったが、彼女の言うとおりならここは死後の世界。ならば、こう言うファンタジーもあり得るか。
「それで、俺は死んだと言う話でしたけど、なら俺はこれから天国か地獄へ行くんですか?」
そう言うと彼女はお菓子を摘まみながら渋い顔をする。何か変な事を言ってしまったのだろうか?あ、実は天国や地獄なんてものは無い、とか?
「いや、天国や地獄はあるよ。ただお主ら人間が想像しているような所では無いがな」
「と言うと?」
「ふむ………まあ良いか。天国や地獄と言うのはな、言わば保管庫のようなものじゃ。善良な魂を保管しているのが天国。逆に極悪な魂を保管しているのが地獄。そうやって基準を作っておるのじゃよ」
「基準?」
「うむ。まあ、我にとってはくだらぬものに過ぎん。我以外の管理者が勝手に作りよった。実にくだらぬ。趣味の悪いことよ」
吐き捨てるように言うと、彼女は紅茶を一口飲んだ。
「お主が望むなら天国へとやっても構わん。だがあれはそんな優しいものではないぞ。虫籠……否、標本と言えば近いじゃろう。自分のお気に入りを側に起きたいが故に作るのだから」
その“保管庫”についての詳細は聞かない事にした。決して気分が良くなるものでは無さそうだからな………
「ふふっ。賢明じゃ。さてと、話に戻ろう。お主は死んだと言ったが、すまぬ。あれはこちら側のミスなのじゃ」
「えっ……?どういう……」
「うむ。お主ら人間が住む次元、そこに住む全生命には決められた天命……寿命の事じゃ。その決められた寿命までに、どのように生きたかで次なる生を決める。怠惰と堕落をし続けた者は、来世では険しい人生が用意されていることじゃろう。決して努力を怠らず、懸命に生きた者には、来世でささやかなる恩恵が与えられる」
恩恵……?胸の奥がざわついた。
「さっき言った天国と地獄へ行った魂は中々解放されん。故に、その魂には来世を用意することは難しいんじゃ。だがそれ以外の魂は、我らの審査により来世を決め、輪廻へと送る」
「…………それで、ミスと言うのは?」
彼女の顔に影がさす。心底申し訳なさそうにしながら続きを話してくれる。
「我の不注意でお主の事が書かれている書類が別の場所に紛れての、お主はあと六十年は安泰に過ごせるはずじゃったんじゃが……部下の一人が勘違いしての。お主の死期を早めてしもうた。本当にすまんかった」
彼女はゆっくりと頭を下げた。
聞かされた内容に驚いた。怒りも沸いた。悲しくもなった。この人……人?を責めるのは簡単だ。どうして、と。何をやってるんだよって。でもこれは……チャンスでは無いかと思えた。
「それで……これから俺はどうなるんです?」
彼女は俺の反応を知っていたかのように━━━いや、恐らくは思考を読んだのだろう。人間よりも上位の存在なはずだ。それくらいは容易いのだろう。
「お主には別の世界での新たな生を用意しよう。なるべくお主の願いも聞き入れる。こんな事で償いにしようなどと、お主から見れば軽いように見えるかもしれん。だから、我が持つ全権限を行使してでも、お主の次の生が満足の行くものにしてみせよう」
全、権限━━。それがいったいどれ程のモノなのかは分からない。けれど、彼女が神のような存在であることは確かだ。そんな上位存在が言うのであれば、その力は凄まじいものだろう。
ゴクリと喉がなる。最近の出来事すら忘れていたのに、心の奥底で燻っていた炎が一気に燃え上がるのを感じた。
━━━渇いていた。欲していた。誰にも負けない━━━
「さぁ!何でも申してみよ!我が叶えてやろうではないか!」
「それじゃあ━━━」
━━━愚か者だろうか。そうかもしれない。けれど、今の俺には、どうしても欲しいモノなんだ。
「誰にも負けない、才能が欲しいです」
━━━この後の事はほとんど覚えていない。彼女とどのような言葉を交わしたのか。呆れられたのか、笑われたのか、憐れんだのか。
━━━でもこれだけは覚えてる。背中を優しく叩かれたことと━━━
「行ってらっしゃい」
━━━その優しい言葉だけは、忘れたくない
今回は転生シーンでも、主人公がどのような才能・能力を望んだのかは書きませんでした。決して決めていないとかではなく(震え声)←
察しの良い人達なら気づいたでしょうけど(汗)
彼が選んだのは、誰にも負けない才能。でも、どんな才能なのかは指定しなかった。その結果が………と言う訳です。
それでは、次回もお楽しみに~~~。