一花がなんか怖い件について
「五月、アンタが言ってた映画今日行きましょ?」
「そうですね。放課後は予定がないので行きましょう。」
「ニ乃、昨日も映画行ってた。」
「昨日のとは違う映画に行きたいのよ。四葉も来る?」
「あ〜行きたいんですけど、今日はバスケ部の助っ人を頼まれてるので行けないです。」
「そ、仕方ないわね。」
俺の目の前数十メートル先で楽しそうに談笑する姉妹達。
そしてその数十メートル後ろを歩く俺。
その間には決して破ることのできない壁が存在している。
もしコイツらが赤の他人ならうるさい奴と思って無視するだけなのだが生憎そうは行かない。
なぜならコイツらは俺の生徒なのだ。
俺の目の黒い内は楽しく遊べるなどと思うなよ。
「ちょっと待てお前ら……。」
「ねぇ風太郎くん、イイかな?」
俺の言葉を遮るように一花が目の前に教科書を持ってくる。
「ん、どうした?」
「えっとね……」
勉強と俺が大っ嫌いな問題児だらけの5姉妹だったが、初回授業以来1人だけ大きく変わった奴がいた。
長女の一花だ。
どういう心境の変化なのかは分からないが、一花は初回授業以来真面目に俺の課題をこなしている。
その上、相当量の自習もこなしておりこうして毎朝一花の質問を受けるのが日課となりつつあった。
毎回俺が4姉妹に話しかけようとするタイミングで聞いてくるのはまぁ……偶然だろう。
「日本史か、織田信長の行ったことを年代順に並べなさい……か。」
「この人いつも戦ってばかりで何が何だかサッパリだよ。」
問題文を元に順を追って一花に説明をしていく。
まず、織田信長が日本史で最初に姿を現わすのは1560年の桶狭間の戦いだ。
圧倒的戦力で天下統一の有力候補と見られていた今川義元を尾張の田舎大名の織田信長が破った日本史最大級の下克上だ。
次に有名なのは信長の残忍性が強調される比叡山延暦寺の焼き討ちだ。
そして次はおそらく織田信長で最も有名であろう鉄砲隊を駆使して武田騎馬軍を壊滅させた長篠の戦いである。
そして家臣の明智光秀に裏切られて非業の死を遂げた本能寺の変をもって織田信長の歴史は終わる。
「………。」
日本史の授業に夢中になっていた俺は三玖の熱い視線に気づくことができなかった。
一通りの説明を終えて一花を確認すると小首を傾げている。
「それじゃあ、この金ヶ崎の戦いってなに?」
「金ヶ崎の戦い……って何だっけな?」
日本史はいくら勉強しても全てを完全に網羅する事は難しい。
問題を解いていればこうして知らない語句が出てくるのは仕方ないことだ。
「へぇ。風太郎くんでも知らないことがあるんだ。なんでも知ってると思ってた。」
「なんでもじゃない。知ってることしか知らない。」
「ちょっと安心したかも……。」
一花はノートに俺の解説をメモしながら馬鹿にするでもなく楽しそうに笑う。
やはりコイツは俺のペースを乱す。
バツが悪くなり頰をぽりぽりとかきながら明後日の方向を見る。
「金ヶ崎の戦いは俺もよく分からないから調べたらまた教える。」
「ありがとう。じゃ、じゃあさ……」
ここまでにこやかに話していた一花の表情が突然強張る。
何事かと思って視線を移すとどういうわけか顔を赤らめてモジモジと両手を体の前でこすり合わせている。
どうしたんだ急に?具合でも悪いのだろうか。
「いちいちこうやって教えてもらうのは風太郎くんも大変だと思うから携帯の……「一花は放課後は予定あるの?」
二乃が俺と一花の間を切り裂くように強引に割って入る。
そして二乃は俺にだけ見えるように悪魔のような顔をする。
これも毎朝の恒例行事となりつつある。
俺と一花の授業が白熱してくると決まって二乃が割って入って一花を連れて行ってしまう。
一体俺が二乃に何をしたというのだろう。
確かに勉強嫌いの二乃にとっては家庭教師の俺は鬱陶しい存在かもしれないがここまで表立って嫌われている理由がわからない。
「そう言えば五月が呼んでたわよ。」
「え、ちょっと!?」
「まさかこんなに一花が好きになってるなんて予想外だわ。やりたくは無かったけどあの作戦をするしか無いのかしら……。」
ブツブツと独り言を言っている二乃に引っ張られて一花は連れられていく。
「一体俺が何をしたというんだ……。」
「フータローは分からないの?」
「い、いつの間に!?」
五月たちと一緒にいた筈の三玖がいつの間にか隣にいた。
「あぁさっぱり分からない。」
思い返してみたがやはりニ乃に嫌われる理由が分からない。
「はぁ……。」
三玖はあからさまに大きなため息をつく。
何でそんなにお前に失望されなければいけない。
「分からないならいいよ。」
三玖はそう言うと5人の元に走って行ってしまった。
結局何なんだよ。
ーーーーーー
学校に到着すると真っ直ぐに図書室に向かって戦国時代に関連する本を根こそぎ借りてきた。
ドサリと音を立てて机の上に山積みの本を置く。
その反動で机の中から1枚の便箋がヒラヒラと舞い落ちた。
見覚えのないその便箋を見ると全く可愛げのない白の便箋に妙に達筆な文字で『フータローくんへ』と書かれていた。
『昼休みに屋上に来て。
フータローに伝えたい事がある。
朝のこと
お願い、来て。』
どういう風の吹きまわしかは分からないが三玖は二乃が俺を嫌う理由を教えてくれるようだ。
だが問題は差出人が三玖だという点だ。
あいつは5人の中で一番何を考えているか分からない。
単純に好意で教えてくれる可能性もあるが、イタズラの可能性も考えられる。
「その手紙なに?」
「うぉ!?」
いつの間にか背後に一花がいた。全く気配を感じなかった。三玖といい、コイツらは忍者の家系なのかと疑ってしまう。
「その手紙なに?」
不自然なほどニコニコな笑顔で後ろから手紙を覗き込んでくる。
はたから見れば可愛い美少女が上目遣いをしているように思うのかもしれないが、俺にはそんな綺麗なモノには見えなかった。
言葉では言い表せないのだがなんといかこう……背後から黒いオーラが出ているのだ。
「な、なんでもないぞ。せ、先生からの呼び出しだ。」
「先生がわざわざそんな封筒を送るかなぁ。あり得ないよねぇ。」
淡々と抑揚のない声で詰め寄られる。ど、瞳孔が完全に開いてしまっている。
何故かわからないが本能的な危険を感じて後ずさる。
どうするか?
A.本当の事を言う B.誤魔化す
「ちょ、ちょっと呼び出された。」
「いつ?どこに?」
「ほ、放課後に屋上です。」
「ふーん、そーなんだ。」
Aしかないだろこの状況で!?
つかBでバレた時は俺の人生も終わってしまう気がする。
身の危険が迫っている俺に救いの鐘がなる。
キーンコーンカーンコーン
朝礼が始まる合図のチャイムが鳴り一花は渋々自分のクラスへと戻って行った。
あ、あの黒いオーラは一体何だったんだ?
冷や汗を流しながら俺はその場に倒れこんだ。
★原作との違い
・一花と風太郎の心の距離がゼロ距離
・二乃が風太郎排除作戦を画策中
・一花闇堕ちしかける
・金ヶ崎の戦いを知らなかったので三玖の好感度が下がる
原作を読んでいると一花は負けヒロインが似合うと思ってしまう……。
ちなみにこんな作品を書いていながら作者は一花推しではないです。(もちろん一花は好きだけど)