突発デートですと!?
夏休みも中盤に差し掛かったある日、今日は家庭教師のアルバイトもない。
つまり今日は久しぶりに1日中自分のしたい事ができるのだ。
そう思うと遅くまで寝ているのは勿体無いように思えてしまい日も登る前から布団から飛び出してしまった。
朝起きて早速ひと勉強終えた俺は単語帳を片手に、らいはの世界一美味しい卵焼きをつまみながら優雅な朝飯を取っている。
「行儀が悪いよ。」
らいはは、まるで母親のように俺を叱る。
怒った顔も俺にとっては最高の癒しだ。
穏やかな気持ちでらいはの頭をポンポンと撫でる。
らいはは文句を言って逃げようとしているが結局されるがままに頭を左右に揺らしている。
うん、かわいい。
「そ、そう言えばポストにお兄ちゃん宛に手紙が入ってたよ。」
「手紙だと?」
コホンと咳き込みながら手渡された手紙を開けて見ると、丸っこい可愛らしい文字が目に飛び込んでくる。
『 >3
時はきた
金色の火花を
魚と一緒に見るのは
すきですか?
くるしいですが
いいました。 』
何だこの怪文書は?
ぱっと見では意味が全くわからない。
「おにいちゃんに手紙って珍しいね。一体誰から来たの?」
らいはは俺に手紙が送られた事に相当驚いたのか身を乗り出して手紙を見ようとする。
しれっと失礼な事を言われた気がするが、らいはにかぎってそんな事はあり得ないだろう。
「宛名が書いてないな。……多分嫌がらせだろう。」
多少のイレギュラーはあったが基本的には穏やかな朝食を終えてまた勉強を再開する。
こんなに充実した朝はとても久しぶりな気がする。
思い返してみると家庭教師を始めてから今日まで常にあの5人に振り回されていた気がする。
「はい、おにいちゃん。」
『世界一気の利く妹』のらいはが勉強をする俺の横に緑茶を置く。
あぁ、なんだか今日は本当に良い1日になりそうだ。
「たまにはこういう日があっても良いよな。」
五つ子の家庭教師という過去最高レベルに過酷なアルバイトで傷ついていた俺に与えられた束の間の休日を楽しんでいた時に、絶望を伝えるインターホンが鳴った。
「誰かな?」
らいはが玄関に向かって行く。
悪質な新聞や宗教の勧誘じゃなければ、俺の出る幕は無いだろう。
そう思ってペンを動かそうとした俺の手が思わず止まった。
「お邪魔します。」
朗らかな声で挨拶をしながら家に入ってきたのは白のシャツにパーカーを羽織り、すらっと伸びた足を細いズボンで強調している一花だった。
普段の見慣れた着崩した制服姿でも、危ないところが見えてしまいそうなほどラフな家着でもない一花の姿はこう、なんというか……悪くはないと思う。
「な、なぜお前が……。」
「急に君の声が聴きたくなっちゃって。」
「そうか、もう聞いたな。帰ってくれ。」
いくら家庭教師の生徒だからといって休日までワガママに付き合ってやる必要はない。
俺の平穏を乱さないでくれ!!
「違うの、違うの。本当はこれを渡しに来たんだよ。」
少し顔を赤くして焦りながら手元のバックから取り出したのは茶色の封筒だった。
「はい、いつもありがとうございますっ。」
そう言うと一花はその封筒を俺に渡して来た。
この五つ子が俺に贈り物など絶対に裏があるに違いない。
まさか二乃の差し金か!?
恐る恐る封筒を開けてみるとその中には世にも珍しい福沢諭吉の描かれた紙がなんと5枚も入っていた。
「そんな馬鹿な!?これで俺に何を要求するつもりだ。」
「何も要求しないよ。家庭教師の月謝だよ、月謝。」
一花に対して警戒しすぎてらいはの事を放ったらかしにしてしまった。
らいははどこに行ったんだ?
「お母さん、おにいちゃんがやりました。」
なんでおがんでるんだ!?
嬉しそうに報告しているらいはを見ていると急に申し訳ない気分になる。
この歳でらいはにはいっぱい我慢させてしまっていることがあるもんな……。
「なぁ、らいは。欲しいものないか?」
俺はらいはに日頃に感謝を込めて何かプレゼントしてあげることにした。
「買い物に行きたい!」
買い物か……
今日は1日暇だし勉強なら夜からでもできるだろう。
可愛い妹に1日を使うのも悪くない。
「買い物に行きたい!一花さんも一緒に!!」
は?
まさか休日まで一花と一緒に過ごさなければならないのか!?
「や、一花も予定があるだろう?そうだろう?」
頼むから予定があってくれ!!
「予定は夕方からあるけどそれまでは暇だから大丈夫だよ。」
どうやら俺は相当神様に嫌われているらしい。
俺の平穏な休日が午前中だけで終わりを告げた。
「も〜らいはちゃん大好き!!」
「私も一花さん大好きです!!」
その場に崩れ落ちる横で早くも一花とらいはは買い物の予定を立て始めいる。
いつの間にそんなに仲よくなったんだい……。
ーーーーーーー
休日のデパートは案の定人でごった返していた。
仲睦まじい夫婦から熱々のカップル、騒がしい高校生など多種多様な人種がいた。
その中で俺たちはどういう関係に見られているのだろうか。そんな疑問がふと頭に浮かぶ。
らいははまだ小学生だ。
そして俺と一花は高校生だが、百人いたら百人が可愛いと認めるような美人と、冴えない目つきの悪い俺。
客観的に解説してみると中々に混沌とした組み合わせだな。
「ねぇねぇ。私達って周りからどう見られてるのかな?」
らいはと手を繋いで楽しそうに話していた一花が耳元で囁く。
どうやら一花も同じ事を考えていたみたいだ。
それはそうとして距離が近いから少し離れてくれないか。
……少し照れる。
「おそらく子持ちの親同士が再婚してまだ期間が経ってなくて気まずい関係の異母兄弟とかじゃないか?」
「おー重い設定だね。」
一花は何が面白いのか目を細めて楽しそうに笑う。
「私は夫婦か……こ、恋人に見られてるんじゃないかなと思うよ。」
「それはないな。俺と一花じゃ余りにも釣り合ってないだろう。」
「そんなことないよっ!!」
突然大きな声を出して周りの客から注目される。
中にはカップルの痴話喧嘩とかほざいてる奴までいる。
そいつらはおそらく目が非常に悪いのだろう。
いい眼科を紹介してやろう。
「またお兄ちゃんが失礼な事を言いました?」
「違うよ。次どこに行こうか相談してたの。」
一花は申し訳なさそうに謝るらいはに慌てて弁明している。
何で一花はあんなに怒ったんだろう?
思い当たる節がなくさっきの会話を思い返していると突然ゲーセン前で呼び込みをしている店員に声を掛けられた。
「そこの仲良しカップルさん!」
声を掛けられた気がしたが気のせいのようだ。
ゲーセンの前を素通りしようとする。
「今ならプリクラがカップル割りで安くできますよ!」
そう言うと店員は俺の手にチラシを握らしてきた。
勘違いしている上に強引な店員だな……。
「あの、俺たちは別にカップルじゃ……」
「あ、ありがとうございます。」
チラシを返そうとする俺から一花は目にも留まらぬ速さでチラシを奪い取った。
だからお前たち姉妹は忍者の家系なのか!?
「行こっ!風太郎くん。」
一花は俺の腕を両手でガッチリと掴むと強引にゲーセンの中へと引っ張って行く。
この状態は側から見ると腕を組んでるように見えるのではないか!?
これでは俺が軽蔑しているバカッパルと同じに思われてしまう。
「わかった、わかった。自分で歩くから離してくれ。」
一花は突然立ち止まる。
それでも腕は依然としてガッチリと掴まれたままだ。
「わざわざカップルじゃないって否定しなくても良くない?」
「いや、でも……」
事実俺たちはカップルでは無いんだし認めるわけには……。
「反省する?」
一瞬一花の目から光が消えたように見えた。
蒸し暑いゲームセンターの中で一花と俺の周りだけ急激にに温度が下がったように感じた。
「は、はい……。」
人間的本能で身の危険を感じた俺は戦略的撤退を余儀なくされた。
俺の返答に満足したのか一花はようやく右腕を解放してくれた。
結局らいはと俺と一花の3人はキラキラの写真を撮った。
まさか人生であの箱に入る日が来るとは思ってもみなかった。
「えいっ!」
一花は出来上がったシールを一枚剥がすと俺の携帯に貼り付けた。
人差し指を口元に当てて悪戯っぽい笑みを一花はしている。
嫌な予感がした俺はそのシールを剥がそうとするが止められる。
「さっきの罰だよ。剥がしちゃダメだからね、絶対に。」
なんだか一花には一生勝てない気がしてきた……。
目の前が真っ暗になった俺の袖をらいはが掴んでヒラヒラと揺らす。
お兄ちゃんが立ち直るまでちょっと待ってくれるかい?
「お、おにいちゃん……一花さんが4人いる。」
らいはの言葉とともに新たに3人の浴衣姿の女性が現れて、俺の休日は更に掻き乱されることになる。
どうやら神様は俺のことが大っ嫌いみたいだ!
★原作との違い
・給料を渡しにきたのが五月ではなく一花
・一花とらいはと風太郎がデート
・夏祭りにきたのが一花含めて4人(誰が来てないのかな?)
一花の話だととても描きやすいです。
というか一花カワイイなぁ……。