TS光堕ち真祖アルモちゃん   作:ちゅーに菌

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 どうも今は姉を名乗る不審者と申します。プロットだけは死ぬほどある中で、一番具合の良さそうな奴を投稿してしまいました。不慣れではありますが、楽しんでいただければ幸いです。一応はまだ続く予定です。








アルモちゃんと立香ちゃん

 

 

 

 

 "転生"という言葉を思い浮かべたことはあるだろうか?

 

 仏教用語の方ではなく、死後の経験や来世等と言われる方である。

 

 個人的に全くこれっぽっちも自慢にはならないが、私は――所謂、"転生者"というやつだ。

 

 まあ、よくあるテンプレ的な神様やら、SCP染みた転生トラックにぶち当てられたとかいうことは全くない。かといって私自身がどのように転生したのかと聞かれればそれはそれで困る。死んだ自覚はあるのに不思議なものだ。

 

 何せ、私には転生する前の私個人としての記憶がほとんど無いのである。自分がどんな人間だったとか、家族がどうだったとか、アイデンティティに関するものだ。まあ、とりあえず"人間の男"だということは覚えており、個人の記憶がほとんどないことが返ってこの世界をすんなりと受け入れられるという結果になってしまったのは皮肉だが、喜ぶべきかもな。

 

 ちなみにだが、今の私は身体の方は女性だったりする。そのせいか、前世で男だったのに一人称は私になってしまった。ついでに言えば性的趣向も男女問わず、どちらでも愛せるようにもなった。こればかりは未だにイマイチ割り切れていないが、仕方あるまい。

 

 更に私が転生して真っ先に気づいたモノは"2つ"あった。

 

 ひとつはこの世界について。どうやらこの世界は"型月"世界のどれからしい。未だに細かい断定は出来ないが、どれだとしても転生先としてトップクラスに優しくない世界なのはわかる。

 

 もうひとつは転生に付き物なチート能力とでも言うべきもの。

 

 それは私の種族。私は型月生物の中でも最上位に食い込む"真祖の吸血鬼"だったりするのだ。

 

 真祖とは吸血種の中の、吸血鬼の一種。その中でも最も特異な存在であり、生まれたときから吸血鬼であるもの。人間に対して直接的な自衛手段を持たない星が、人間を律するために生み出した自然との調停者或いは星の触覚だ。

 

 ヒトを律するものならばヒトを雛形にしており、精神構造及び肉体ともに人間の形をしているが、分類上は受肉した自然霊或いは精霊にあたる。また、非常に高い身体能力を持つ他、精霊種としての"空想具現化(能力)"を持ち合わせ、星そのものから無限にエネルギーの供給を受けることが可能というこの星で最も優れた生物である。

 

 

 勿論、空想具現化も使えるし、爪だって立てれる。まあ、王族でもなんでもない普通の真祖なのでアルクェイド・ブリュンスタッド等と比べられると足元にも及ばないが、それでも生きるには十分過ぎる程、便利で強い身体だ。

 

 普通、変わった世界やら体やらと、このような意味不明の事態に陥ってしまえば半狂乱やらSANチェックに失敗して不定の狂気になりそうなものだが、不思議なことにそうはならなかった。

 

 理由は大体分かっている。それは本来であればそこで終わっていた筈の命が、なんの悪戯かまだ続いているせいであろう。死んだことで達観したというわけではなく、転生によって生きる意味を失ってしまったと言えるかも知れない。

 

 要するに私は自分自身の生に対して恐ろしく冷めてしまったのだ。考えても見て欲しい。そもそも人間は極論なんのために生きている?

 

 私が思うにそれは一度きりしか生がないからだ。一度きりしか人生はないのだから個人として人間は今を必死に生き、少しでもよい環境を目指しながら時に妥協して生きる。また、そんな己を育ててくれた親や、己の見初めた人等自分以外の誰かに生きる意味を見つけて生きることも立派な理由だろう。

 

 そのような私の価値観は、転生というたった一回の事象を体験したお陰で、見るも無惨に崩壊してしまったのだ。

 

 何故なら一度しか人生がないという大前提が崩れたからに他ならない。一度がある以上、今死ねば二度目、更に死ねば三度目があるかもしれない。希望的観測でしかないが、それでもあらゆる行動の無意識下にそれを考えてしまうのは仕方のないことだろう。その上、私には家族も愛する者も今はいない完全な独り身だ。そんな状態で昔のように精一杯生きろという方が無理な話だと私は思う。

 

 加えて私には普通に生きるのが馬鹿らしくなる程の"真祖の肉体(チート)"がある。

 

 まあ、昔はちょっと苦労したり、己を磨いたりもしていたが、それでも生活が安定してしまった今となっては――――。

 

 

 

「ぷはぁッ……! たまんねぇ!」

 

 

 

 真っ昼間から缶ビール片手に塩キャベツをツマミにする、上下ジャージ姿の真祖の女性が私であってもそれは仕方のないことなのである。

 

 一日中お酒とツマミを食べ、娯楽をしつつ、飽きたら寝るという非常に自堕落な生活を長いこと繰り返していた。

 

 太る? いいんだよ、空想具現化で身体を分解してから造り直せば元通りだから。究極のダイエットだな。これぞネオニートならぬ、テラニート。略してテラニーだ。

 

「……あれ? もうお酒ないじゃん」

 

 その事実に気付き、私は大いに落胆する。仕方なく、一度伸びをしてその場から立ち上がると、部屋の隅に立て掛けてある"棺"を背中に担ぎ、玄関でサンダルを履いてから外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ先に飛び込むのは田舎の田園風景である。振り返ればそんな田んぼの中を通る道の脇に立つ寂れた日本家屋の小さな我が家があった。どう見ても真祖が住んでいるような屋敷には見えない。

 

 表札には平仮名で"あるもーでぃあ"と名前が刻まれている。無論、私の名だ。千年城ブリュンスタッドなんて出せる訳もないので、ブリュンスタッドの名など持ってはいない。ただの真祖アルモーディアちゃんなのである。

 

「あつーい……」

 

 8月も初頭の暑さと、照りつける太陽、蝉の大合唱により外出する気力がみるみる減退していくが、お家にはお酒がないので私がんばる。

 

 家を後にして暫くそんなのどかな風景の中を歩く。酒屋は1km程離れているから地味に遠い。まあ、この真祖ボディでランニングすればすぐに着くが、それもめんどい。

 

 ちなみに私の住むこの村は、山に囲まれた人口数百人の村で、街との交通は車とバスのみという小さめの村である。まあ、住めば都という奴だ。というか、ちょっと都会だと私はすぐにUMA扱いなのでこういう場所でしか暮らせないという理由はあるな。

 

「アルモさまでねぇが!」

 

「んー? ああ、金田のとこのちみっ子じゃないか」

 

 徐々に田んぼから畑がちらほらと見える光景に切り替わっていると畑から声を掛けられた。それは80歳過ぎの女性であった。可愛い歳の取り方をしたお婆ちゃんだと言えよう。

 

「その呼び方はやめでくんちぇ。おらも後は死ぬだげだ!」

 

 そう言いながら笑う姿はまだまだ元気そうだ。後、30年は生きるだろう。彼女は私が数百年前、ここに根を下ろしてから知り合った仲なので、彼女が赤ん坊の頃から知っている。幾つになっても子供みたいなものだ。まあ、私からすればこの村の人間は全てそうなのだがな。

 

「この頃雨がふっていねぇ。畑さ雨を降らせでぐれねぇが?」

 

「お安いご用だ」

 

 パチンと指を鳴らして"空想具現化(マーブル・ファンタズム)"を発動させる。すると周囲の畑の上だけに雲が立ち込め、そこから程々の量の雨が降った。我ながら器用にも畑に立つ彼女だけには雨が当たっていない。無駄に洗練された無駄のない無駄な技術である。

 

 その後、他愛もない話を暫くしてから雨の礼にキュウリをくれるというので7~8本貰ってから酒屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日休業……?」

 

 酒屋に着くと私にとっての絶望という名の四文字が刻まれた札が掛かっていた。しかし、それでは諦めず、今日は普通に営業中の筈のため酒屋の隣にある店主の自宅を訪ねる。

 

「ごめんくださーい!」

 

 扉をどしどし叩いてみるが特に反応はない。しかし、私の真祖的直感(ただの勘)が中に人がいると叫んでいたので扉を開いた。この辺の人間は私も含めて玄関に鍵なんか掛けないからな。

 

「あ、アルモ様……」

 

「お前は平日に店を開かないでなにをしているんだ?」

 

「平日の昼間っから酒の臭い漂わせてる奴には言われたくねぇなぁ……」

 

 すると民家の和室に敷かれた布団の上でうつ伏せに寝そべる50歳代の男性を発見する。なんだか、正論を言われている気がするが、寛大な真祖アルモちゃんは気にしないのである。

 

「腰をやったぁ……?」

 

 話を聞くとどうやらぎっくり腰らしい。早朝になり、奥さんに連れられて病院に行って現在に至るというわけだ。ちなみに奥さんは街の方に用事があるらしいので今はいない。

 

「だから今日と……明日も無理かも知れねぇ」

 

「私の御神酒は……?」

 

「…………お代は今度でいいから倉庫から好きに持ってってくれ」

 

「わぁい!」

 

 全てに絶望した顔で店主を眺めているとそんなことを言われたので、喜んで倉庫に向かった。

 

 このように私はこの村でずっと昔からバリバリ存在する土地神として崇められているのである。偉いのである。えっへん。

 

 ご利益は天候を操り、害獣を物理的に一網打尽にし、植物の成長をよくする等々。まあ、神様じゃなくて真祖なんですけどね。村の人間からしたらどちらでも変わらないことだ。

 

 倉庫で16本入りの黄色いビールケースを見つけたのでケースごと貰っていくことにした。勿論、ケースは後で返す。

 

 店主に一声掛けてから帰ろうとすると、痛そうに唸っている声が聞こえた。ちょっと可哀想に感じたため、薬でも作ることにしよう。

 

 背負っている棺を縁側に置いてから庭に出て空想具現化でぎっくり腰に効きそうな薬草を生やす。とはいっても現代の薬草では高が知れているので、神代に生えていた奴を適当に何本かだ。

 

「~♪」

 

 次にその葉や実をとって手の中で擂り潰す。真祖な筋力ではすり鉢いらずである。そして、実の色で親指の爪ほどの大きさの赤茶けた丸薬のような物体が完成した。生やした神代の草がペンペン草並みに生えたら困るので枯らしておくのも忘れない。

 

「ほら薬だ飲め、あーん♪」

 

「いや……アルモ様なんだそれ?」

 

「あーん♪」

 

 ふわ毛ロングパツキン巨乳な美女の真祖ちゃんにあーんされているのに口を開かないとはこやつめ、ハハハ。

 

「もがっ!?」

 

 とりあえず筋力にモノを言わせて、口を抉じ開けててから無理矢理飲み込ませた。

 

「なんだこれ妙に甘……うぉ!?」

 

 飲ませた直後、店主の身体が一度ビクンと大きく跳ね、その勢いで立ち上がる。

 

「どうだ? アルモさんのご利益だ」

 

「す、すげぇ!? もうどこも痛くねぇ! それどころか絶好調だ!」

 

 そりゃ、神代の薬なんだから当然である。副作用なんかも勿論ない。脳挫傷ぐらいまでなら完治可能だ。流石に腕を生やしたりは出来ないがな。

 

 ちなみにアルモ様、アルモ様と呼ばれるが、村人によると漢字では亜瑠母と書くらしい。とんだキラキラネームである。

 

 そんなこんなでそのままのテンションで店を開け始めた店主にビール代を渡したところ、お礼として1.8Lの大吟醸を一本貰った。元手ゼロなので儲けものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっさけ、おっさけ♪」

 

 棺を背負い、ビールケースを肩に担ぎ、その上にキュウリと大吟醸を乗せながら帰路に着く。帰ったら味噌キュウリにしてお酒と一緒に頂くことを想い描くだけで心が弾むようだ。

 

「おっさ――」

 

「………………(じー)」

 

 そんな感じでスキップしながら帰っていると、こちらを見つめる幼女の脇を通り過ぎたため、シラフに戻ってテンションを下げる。流石に今の私は教育上かなりよろしくない。

 

「………………(じー)」

 

 麦わら帽子を被り、白いサマードレスを着て、虫取り網と虫かごを持った"オレンジ頭の幼女"は尚も食い入るようにこちらを見つめている。

 

 なんだか、とても汚い大人になったような気分になったが、一日中酒とツマミを掻っ食い、昼間っからジャージ姿でビールケースで酒買いに行ってる女が汚い大人以外の何物でもないことに気づき、愕然とした。

 

「お姉ちゃんそれなーに?」

 

 そんなことを考えていると幼女に指を指される。

 

 純粋な瞳の前に汚れた真祖ちゃんが目を背けていると、どうやら幼女が指しているのは私ではなく、私が背負っている棺であった。

 

「あー……」

 

 "(コレ)"はなんて言うべきか。しかし、いたいけな子供に嘘を吐くのも憚られる。ちょっとだけ本当のことを話すか。

 

「コレはね。お姉ちゃんにとって"一番大切な宝物"が入ってるんだよ」

 

「そうなんだ!」

 

 そういうと幼女は目をキラキラと輝かせた。小さい子は可愛いなあ、見ててほのぼのする。まあ、見たところ魔術師の家系のようだが、見てわかるレベルで彼女の魔術回路に特筆すべき点はない平凡なものだ。分家とか、魔術家としては回路を残して廃れた家とかそんな出生なのかも知れないな。

 

「ちなみにお姉ちゃんはアルモーディアって言うんだよ。長いからアルモって呼んで。君の名前は?」

 

「アルモちゃん……?」

 

 …………まあ、それでいいか。

 

「うん! わたしは"りつか"っていうの!」

 

 そう言いながら彼女は虫かごに書いてある、恐らくは親が書いた四文字の漢字を私に見せてきた。

 

 そこには"藤丸(ふじまる)立香(りつか)"とある。

 

 へー、りつかちゃんかー。中々可愛らしい名前じゃないか。

 

 

 ………………………………。

 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……藤丸立香?

 

 

「どうしたのアルモちゃん?」

 

 立香ちゃんはくりくりした大きな黄色の瞳で私を見つめている。

 

 私は無言で彼女の麦わら帽子の鍔を掴んで少し持ち上げた。するとオレンジ色の髪は右側だけが結ばれていることが確認でき、そのまま麦わら帽子を頭に戻した。

 

「ふっ……」

 

 私は小さく息を吐くと口を開いた。

 

 

 

 

 

「"生きる上で最低最悪の世界線(Fate/Grand Order)"じゃないか……ッ!」

 

「アルモちゃん!?」

 

 

 

 

 

 私は立ち眩みを覚えて膝を突く。

 

 世界が少なくとも2度滅ぶことが、今この瞬間に確定しましたが私は元気です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん゛ー!」

 

 私は家の縁側でメロンシロップの掛かったかき氷を頬張り、頭がキーンとした様子の幼女――藤丸立香ちゃんを眺めていた。体が頑丈過ぎて、頭がキーンの感覚を失ってしまった私だが、人がそうしているのは大変微笑ましく感じる。ちなみに氷は自家製(マーブル・ファンタズム)である。シロップは別売り。

 

 話を聞いたところによると、立香ちゃんは夏休みでここに来ているらしい。今は8月の頭なので9月の直前までずっとこの村にいるそうだ。

 

「はぁ……」

 

 私は縁側にふたを開けた棺を置いて虫干ししつつ、目頭を押さえながら今後のことで頭を抱えた。

 

 あのような自堕落でその日暮らしな生活を送っていた私が焦るのはおかしいと自分でも思うが、彼女を見つけてしまったとなれば話は別だ。何せ、世界が二度滅ぶことが確定し、それは恐らくこの藤丸立香という少女によってしか解決されないからだ。

 

 仮に不慮の事故でカルデアに行く前に彼女が死ぬとしよう。そうなるとその時点でほぼ一部は終了、詰みである。

 

 仮にレフの爆弾によってクリプターらが一人も欠けず、その上で奇跡によって7章と時間神殿を切り抜け、一部を駆け抜けれたとしても、二部の異星の神相手では無理ゲーもいいところだろう。ついでに言えば1.5部もまず新宿で誰かしら死亡者が出ると思われる。頭脳でアレに勝つのはまず無理だろう。新宿のアーチャーを絆せるのは立香しかいない。

 

 そして私、中国産の真祖と作中で言われている真祖とは異なる精霊種なぐっさんと同じく中々死ねない体なので関わらざるを得ません。なんてこった。

 

 

「アルモちゃんも夏休み?」

 

 

 その純粋な目と心は何よりも私を深く傷つけた。

 

「アルモお姉ちゃんはねぇ。いつでもいつまでもずっと夏休みなんだよ?」

 

「えー!? すごーい!」

 

「いいでしょう?」

 

「いーなー!」

 

 どうだ! いいだろう! まいったか……まいった……か…………あははは……はは。

 

「ダメだよ……立香ちゃん……アルモお姉ちゃんみたいになったら……」

 

「どうしたのアルモちゃん!? どこか痛いの?」

 

 ははは……強いて言えば心が痛いな。この世界に生まれてからバイト以外で働いたことなんて一度もねーよチクショウ!?

 

 なんだか立香ちゃんと接していると世界の終わりとかどうでもよくなって来る。何故私が気に病んでいるというのか。

 

(まあ、私にとっては別に世界が終わっちゃったらそれはそれでいいかな。また、死ぬだけだ)

 

 悩むのを止めて、私は本気でそう考え、頭を空っぽにしながら立香ちゃんと遊ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルモちゃん?」

 

「んー? 何かな?」

 

 日が陰り、立香ちゃんの実家だという民家の前。一人で帰すのは大人としてどうかと思ったので送り届けたのである。

 

「また明日来てもいい?」

 

 そう言いながら立香ちゃんは私を見上げて、期待に満ちた目をする。なんだこの天使、お持ち帰りしてぎゅっとしてお昼寝したい。

 

「いつでもおいで」

 

「わーい!」

 

 だが、私は鋼の自制心でそれを堪え、しゃがみ込んで立香ちゃんに目線を合わせると、頭に手を乗せて撫でる。さらふわな髪触りを感じつつ向日葵のような笑顔に変わった彼女の表情を楽しんだ。

 

 まあ、今はこの可愛らしい少女との出会いを純粋に楽しんでもいいだろう。

 

 

 

 

 

 だが、この時、私はまるでわかっておらず、考えてもなかった。

 

 

 "100の人格を持つ山の翁全ての心を掴む"

 

 "悪の数学者に心の底から晴れやかな敗北を与える"

 

 "人に全てを奪われた狼が心を許す"

 

 "熊がセットのギリシャ神話の女神になつかれる"

 

 "城に住まう引きこもりの妖怪に自発的な外出を促す"

 

 "人類全ての欲を従える"

 

 

 それら全てが、等しく藤丸立香という存在の最大の異常性足り得る事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に暦では秋に入っている8月31日。今日は立香ちゃんが街に帰る日である。

 

 立香ちゃんは毎日私の家に通い、この最後の日も私の家で遊んだのだ。そして、今はその帰り。傾いた夕陽が私たちを照らし、もう目と鼻の先に立香ちゃんの実家が見える。

 

「バイバイ、アルモちゃん……」

 

 立香ちゃんはとても寂しそうな様子でそう呟いている。名残惜しいのは私だけではないとわかり、少しの嬉しさと共に更に後ろ髪を引かれた。

 

 思い返せば色々なことをやった。虫取り、水遊び、畑の手伝い、夜に星を見る、お菓子作り、料理、自由研究、読書感想文等々思い返すだけでも沢山の思い出が溢れてくる。

 

 何よりもその愛らしい姿、小動物のような仕草、陽だまりみたいな笑顔、隣にいるだけで幸せな気分になれる善性の匂い。

 

 ああ……これは魔性の女だ……けれど魔性なんかじゃない。だって彼女はこんなにも細やかで、優しく、可愛らしいのだから。

 

 そして、溢れ出した想いは、いつしか私の心と体の全てを塗り潰し、満たし、占領した。それでも私のなかにあるのは嬉しさと愛しさだけ、嫌悪も後悔も何もない。

 

 嬉しい、ただ嬉しい。もっと側に居たい、触って欲しい。抱き締めたい、抱き締めて欲しい。もっと……もっと――。

 

「………………く」

 

「え……?」

 

 自然と私の唇は言葉を溢していた。

 

 ああ、そうか……そうか……これが愛か。焦がれるような、焼けるような、今すぐ逃げ出したいようなこの感覚が愛なのか。なんて心地がよくて、幸せで、溺れてしまいたいものなんだ。

 

 前世の私はきっと……こんなに誰かを愛したことはなかったのだろう。もう……我慢できない……したくない!

 

「私も……行く!」

 

 私は羞恥心による声の震えを越え、涙ながらに心の内を全てさらけ出した。

 

 

 

 

 

「立香がいない生活なんて耐えられないよォォォ!?」

 

 

 

 

 

 こうして立香ちゃんに絆されきった私は、夏休みの終わりには既に立香ちゃんが居ないと生きていけない体にされていた。

 

 あ、それと気付いたらなんか虹色の金平糖というか、聖晶石みたいな奴が3個手元にあるんだけどこれ渡していいのだろうか……? まあ、カルデアに行くまでアルモお姉ちゃんが持っているとしよう。

 

 もう止まらない、止まれない。真祖アルモーディアこと私の立香と歩む人生はここから始まったのでした。

 

 

 

 

 







アルモーディア
 本作の主人公にして、FGOにもいると思われる真祖の女性。別にブリュンスタッドでもなんでもないただの真祖のため、性能はそれなりだが、それでも真祖なのでかなり強い。また、前世が人間だったためある一点、アルモーディアは他の真祖とは若干変わった点を持つ。


ぐだ子
 絆す天才。最早、能力の域なFGO主人公。中身はパンピーのアルモちゃんが彼女の魔力に勝てるわけもなく、アルモちゃんは光堕ちした。



~アルモお姉ちゃんの絆Lv(カルデアバージョン)~


絆Lv1
『頼むからまだまだ死んでくれるなよ? 君の肩にこの星の人類全ての未来が掛かってるんだ。ついでに私の生活もな』


絆Lv2
『エンドロールは遠いねぇ……先も見えないのによくもまあそんなに頑張れる気になれるものだ。労いにアルモお姉ちゃんが肩を揉んであげよう。もみもみ』


絆Lv3
『君はひとつしかない命に吹けば飛んでしまうような体で戦場に立って怖くはないのか? 私にはわからないな……え、私がいるから怖くない? フフ……誰にでもそういうこと言うんじゃないぞ全く』


絆Lv4
『思えばこの星で生まれてから、誰か一人に肩入れし続けたのは君が初めてかも知れない…………もしよければ、少しだけ手を握ってもいいかな?』


絆Lv5
『……あのだな。なんでも私に言っていいんだぞ? 君の頼みならどんなことだって叶えよう。私は君とずっと一緒にいたいと思うし、君には永遠に側に居て欲しいよ。好きだから吸わない……か、それこそ私には出来そうにないなぁ……フフ』


絆Lv6
聖晶石3個GET!


絆Lv7←イマココ



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