TS光堕ち真祖アルモちゃん   作:ちゅーに菌

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 ちなみにですが、この小説で英霊関係で原作との乖離点があった場合、基本的にアルモちゃんが過去に関わったり、やらかした結果ため、全部アルモちゃんが悪いです。






穿て!ゲイ・ボルク・オルタナティブ! ~千年城にて姫は籠る~ その3

 

 

 

「助けてぇよぉぉぉ!?」

 

『お戻りくださいお姉さま。お戻りくださいお姉さま。お戻りくださいお姉さま。お戻りくださいお姉さま』

 

 所長が追いかけられているのはわかるけど、あの30体ぐらいの試作マリーちゃんたちをどうしようか……? スカサハさんしか倒せる相手じゃないしなぁ。

 

「見たところあれがオルガ何某の完成型か」

 

 そう呟くスカサハさんは更に口を開く。

 

 え……? 完成型……?

 

「なるほど……これまで見た試作マリーちゃん(真祖もどき)は個体差があるとは思っていたが、そういうことか。見るからにアレが一番出来がいい(アルモに近い)。どうやら奴は、真祖の作り方を思い出しつつ、アレンジを加えながら作っていたようだな。多数の習作のうちの傑作とは、アルモらしいのも(つくづく)

 

「お、オルガマリー所長は真祖になってしまわれたのですか!?」

 

『あ、うん。やっぱり流れでそんな気はしてたよ』

 

 所長!?

 

「まあ、朱い月が設計した図面通りのモノを真祖と呼ぶのなら、アレは真祖に限りなく近い何か、そんなところだな」

 

 うーん、つまりは真祖ってことでいいんだね。アルモさんは真祖に変えることで所長を救ったのかな。

 

「とりあえず、話を聞くためにも捕らえるか」

 

「出来るの?」

 

「――フ、私を誰だと思っている」

 

 次の瞬間、スカサハさんの姿が霊体化していくというよりも、空間に溶け込んで薄れていくように完全に消える。でも、その様子に私はどこか見覚えがあった。

 

『ふむ、久方ぶりにやったが、この霊基でも出来るものだな。"圏境"とやら』

 

 あ、やっぱりそれアルモさんがよくやってる奴だ。

 

『ああ、何せこれはアルモから直接学んだからな』

 

『影の国の女王が、最古の真祖から教えられたなんて、神話的大発見だよねぇ……まあ、逆も然りだけどさ』

 

 ダヴィンチちゃんが呟く中、スカサハさんはまた言葉を吐く。

 

『この細腕に拳法は、身に付かん……と、思っていたのだがな。アルモの才能で武術を極めているのを見ていると、私がやらず嫌いをしているのは示しがつかぬ。だから奴から色々と習ったのだ』

 

 …………そこまで言われるアルモさんってどれだけ才能がないんだろう……?

 

『私は40年程で体得出来たな。武術とは奥が深い』

 

 あれ? アルモさんは圏境の習得に数百年掛かったって言っていた記憶があるんだけど――。

 

 そこまで考えたところで、スゴい勢いで武術を習得していくスカサハさんを、アルモさんが死んだような目で眺める姿が想像できた。

 

 "流石は師匠、全力ですね これだからケルトは…… もうやだ、おうちかえる ライダー助けて!"

 

 うーん、こんなこと言ってそうだなぁ……あれ? ひょっとしてアルモさんがスカサハさんから逃げたのって、自分が長い時間を掛けて極めた武術を、目の前でホイホイ習得されるからもあるんじゃ……。

 

「んー!? んー!?」

 

『少し黙れ』

 

 そんなことを一人で考えていると、目にも留まらない速度でスカサハさんが所長を拐い、近くの柱の裏に行くと跳び上がり、天井付近でゲイ・ボルクを突き刺して留まった。

 

 試作マリーちゃんたちが向かった頃にはスカサハさんは天井にいるため、柱の裏には誰もおらず、そのためか、辺りを見回し、首を傾げた上で散開していった。

 

 ええ……アレだけいて誰も上は見ないんだ……スカサハさんは消えてるけど、所長は普通に浮いてるのに……。

 

 私たちは所長から安全に話を聞くため、一旦ドライブシアターに戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《戦争と賞金稼ぎ、どうちがうの?》

《ああ。そりゃあ戦争で稼ぐ奴は悪党さ。賞金稼ぎで稼げねぇ奴は能無しだ》

 

 戻るといつの間にかアニメ映画が上映していた。どうやら普通に映画を映す機能はあるみたいだけど、いったい誰のためになんのために上映しているんだろう。

 

 そんなことを思っていると、ドライブシアターの周りにふよふよと漂う光みたいなモノや、人に似た容姿をした美男美女が車に乗っていることに気づく。他にも隅にドラゴンがお行儀よく座っているのが見える。

 

『よっと……観測データによると、妖精種や精霊種のようだ。幻想種だからいてもおかしくないと思ってはいたが、なーんでこんな馴染み方してるんだか……』

 

 するとその辺りをふよふよ浮いていた炎の精霊――イフリータが私たちのいる車に寄って来て、くるくると踊るように回っていた。

 

『~♪』

 

 なんか、すごく、たのしそう。

 

「落ち着きました所長?」

 

「ええ……あのね……私……」

 

 連れて来た所長は冷静になったのか、落ち着いた様子だけど、全く生気のない目をしている。その上、なんだか話し方が少しおかしいような……。

 

「魔術刻印……なくなっちゃったの……うふふ……ふふふふふ!」

 

 私はカルデアスに入れられ、体のほとんどを失った所長ならばそれも仕方ないと思う。

 

 けれど魔術刻印とは、魔術師が親から受け継いで、子孫へと残す固定化した神秘であり、一代掛けて研究した神秘を、魔力を通すだけで行使可能にするモノ。

 

 そして、アニムスフィア家は十二のロードのひとつであり、その魔術刻印は、私では想像を絶する程貴重で、大切に引き継いできたモノのはずだ。

 

 それが消えたということは、きっと所長はアニムスフィア家を自身の代で潰したと考えるはず――。

 

「わ、私……死んだ……死んだわ! なのに生きてる! 全部現実だったわ!? そ、そそ、それ――ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、生きていて――」

 

「所長!」

 

 また、所長が真っ青な顔で頭を抱えながらガタガタと震え出したので、私は所長を抱き締めた。失礼かも知れないけれど胸元に所長の顔を寄せて、頭を撫でる。

 

「大丈夫ですから。所長は……所長は頑張りました! 人類はまだ滅び切っていませんし、所長がいたから今こうして私がいるんです!」

 

 これは嘘偽りない本心だ。所長が前所長の遺志をついでいたから、100人あまりだけれどまだ人類は残っているし、私がカルデアに来ることもできた。

 

 感謝はすれど、所長を責める人なんてどこにもいないだろう。カルデアの皆もわかっている筈だ。

 

「……私、わるくない……? レフが言ったように私が――」

 

「誰も……どこにも悪い人なんていませんッ!」

 

 泣きながら顔を上げ、すがるような目でそう言ってきた所長を、私はもっと強く抱き締めた。

 

 悪いはずがない。あんなに純粋な思いで生きていた他ならない所長が悪いなんて、それだけは絶対にない。

 

「………………ありがとう、もう少しこうさせて……」

 

 すると所長は幾らか生気の戻った目でそう言ってきたので、私はぎゅっと抱き止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の体……どうなったの?」

 

『数値上は完全に真祖の吸血鬼だね。ただ、細かいところは精密検査してみないとなんとも言えないかな』

 

「以前とお変わりなく、可愛いですよ」

 

 にこやかな笑みを浮かべながらオルガマリーとやらに抱き着かれている藤丸立香(マスター)。サーヴァントとして契約し、少し共にいたからわかるが、なるほどこれはアルモが惹かれるのもわからんでもない。

 

 善性の匂いとでも言うべき、欠片も悪性を感じさせない様。どこをとっても平凡で、普通の域を決して出ない能力。そのくせ、度胸だけは私が知るどんな人間にも勝るように思える。

 

 守ってやりたい、私が守りたいと、他者へ無意識に思わせるような、そんな魔性の属性を持っているのだろう。いや、これを魔性と呼ぶには色々と失礼か。

 

 それにしても他者に依存する女か……その関係は見ようによっては奉仕をする側とされる側に見えなくもない。

 

 アルモの奴め。ここまで見越して、真祖もどきにメイド服を着せているのだとしたら、随分と皮肉が効いている……が、奴のことだ、何も考えていないだろう。

 

 まあ、アルモ自身は善性の真祖とでも言うべき存在だが、無意識にやった結果が、いつの間にか悪性に変質している。アレは昔からそういう存在だ。悪戯は除くがな。

 

「え……? 私、レイシフト適性あるの?」

 

『ああ、どうやら真祖アルモーディアはとんでもない天才だ。この短期間で、人間の霊体を入れる真祖の素体を造り、改良し、カルデアに戻すところまで考え、実際に実現させた』

 

 アレは天才ではなく、秀才だという言葉が頭を過ったが、今言うことでもない。経験と時間と研鑽の果てにアルモーディアという真祖は成り立っているのだ。

 

 その体はその一端を切り出したに過ぎん。

 

 そこまで考えたところでここから見える位置にはあるが、離れた場所の千年城の外壁が爆散した。

 

「な、なに!?」

 

「ふむ、ドラゴンだな。それも幻獣クラスだ」

 

 見れば黒く刺々しいドラゴンが、千年城の一角を破壊している。明らかにこれまでのモノとは違う様子だ。大方、この空間の主を喰いに来たのだろう。

 

 ドライブシアターとやらの近くにいる行儀のよいドラゴンを見習うべきだろう。まあ、それは神獣クラスだがな。

 

 確かに最古の真祖アルモーディアを喰らえば、一気に神獣に引き上がるどころかそれ以上の神秘を持ててしまうだろう。

 

 だが……アルモ(アレ)は火の粉を払い退けることに躊躇するようなものではない。興味を持たないモノへの対応の仕方は、狂った獣と変わらん。そういう意味では儂以上に、奴の魂は死んでおる。

 

 

《抉り穿つ――》

 

 

 そう思っていると案の定、館内放送でアルモの声が入る。そして、その掛け声と共に千年城から爆音と赤黒い極光が月夜の天空へと放たれた。

 

 極光――空想具現化と真祖アルモーディアの力を纏い全力で放たれたゲイ・ボルクは、遥かなる高みへと到達する。

 

 その直後、不自然かつ直角にゲイ・ボルクが二度曲がり、黒いドラゴンの頭上から落ちる。いや、投擲から常に加速し続けているため、落ちるというよりミサイルか。

 

 ああ、これだ……まさしくアルモが私から学び、己で発展させた技――。

 

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)

 

 

 アルモのゲイ・ボルクは黒いドラゴンを頭から貫き、心臓を抉り穿った上で内包された力が巨体を引き裂いた。当然、一撃でドラゴンは死に、ズタズタになった骸だけがその場に残る。

 

 元々、自然の産物なのか、壊れた場所にわらわらと集まってきた真祖もどきの空想具現化によって、城の外壁は修繕された。

 

《あー、もう。さっきのヒュドラもそうだけど、なーんで自分から殺されに来るのかなぁ? 風呂入ったのにまた解体じゃん》

 

 一見お前が弱そうだからだろうなと思ったが、聞こえていたら面倒なので心に留める。

 

 全く……黙っていれば真祖でありながら、やりようによっては"人の王"にもなれるような器だろうに。

 

「あれが……真祖アルモーディア……」

 

「普段は面倒がってしないが、奴のゲイ・ボルクの射程はこの千年城なら全域だ」

 

 何せ、儂の影の城がある島のほぼ全域がアルモの射程だったからな。本人は"城の中でも働かさせられてるのに、イチイチ外の魔獣の処理までしてられないもん"等という理由で編み出したそうだ。生活の知恵という奴だな!

 

「いや……スカサハさん、それ絶対違うよ?」

 

「それで、これからどうする? 目的のモノを確保したならアルモは放って置いてもよかろう」

 

 雰囲気がよくない方に向かっていたため、私は本題をマスターに突き付けた。

 

 まあ、私としてはアルモに少々キツい灸を据えたかったところだが、影法師(サーヴァント)の身で、私怨でそこまで出過ぎたことも言えん。

 

 それにアルモは長命のわりにアレだ……聖杯の知識によれば、"構ってちゃん"といったか。ソレなのでそのままにしておけば、そのうちしれっとカルデアに戻ってきているだろう。

 

「うーん、やっぱり私が連れて帰りたいな。アルモさんは私にとってお姉さんみたいな存在だから」

 

 そう言って、少し恥ずかしそうな表情で、頬を掻くマスター。家族か……そこまで思われているならば奴も喜ぶだろうな。

 

「………………ねぇ、私も行っていい?」

 

 それはマスターの手を握り締めたオルガマリーから呟かれた言葉だった。

 

「この体でこれから生きていかなきゃいけないことはわかったわ。納得はまだ……出来ないけど。爪の立て方も、空想具現化の使い方も、何故かわかるの。そんな私でも……その……今なら何か役立てることは……ない?」

 

 "あなたの役に立ちたい"と言えないのは女心か。罪な女だなマスターは。

 

 それを聞いたマスターは嬉しげな様子を隠せないと言ったような明るい笑顔になり、握られている手を胸の前に掲げた。

 

「ありがとうございます! また、これからよろしくお願いします! 所長!」

 

「もう……カルデアの所長でもアニムスフィアでもないわ。ただのオルガマリーよ」

 

「じゃあ、オルガマリーさん。あんまり私が言えたことじゃないけれど、これだけは言わせてください――」

 

 マスターは小さく微笑むと、オルガマリーの目を見据え、彼女を待っていたと言わんばかりの様子で声を弾ませながら囁く。

 

「"おかえりなさい"」

 

「ぅ――――……ぁ……立香ぁぁ!」

 

 少しの間の後、オルガマリーが何かが崩れたように大粒の涙を流しながら抱き着いた。その表情は嬉しげで安堵しきったように見える。

 

 わからんでもないと言ったが、撤回しよう。これはアルモが惹かれるわけだ。

 

 奴は自身ですら気づいてはいないが、何よりも欲していることは、普通かつ対等に接して貰えることだ。それこそ、人間と人間がありふれた接点を持ち、触れ合うように。友人、家族、上司と部下――奴にとってはなんだっていい。

 

 過度な野心は持たず、かといって僧侶ほど無欲に努めるわけでもない。誰にでもいい顔をするわけでなく、嫌いな者の前では態度を変える。求められれば人を助け、求められねば助けない。利益や損得、感情だけで行動する。程々に嘘を吐き、それなりに正直者。 

 

 どうしようもないほど、真祖アルモーディアという女は普通なのだ。身の丈に合わない程に。

 

 だから獣の本能として、自分自身が他の獣と比べ、どこの位置にいるのかという自然の摂理そのものを、無意識かつ病的なまでに理解しようとしていない。きっと、普通でいたいからだろう。

 

 そんな存在にあの人間(マスター)は……麻薬のようなものだ。

 

「――ク」

 

 しかし……この胸の中に渦巻くドス黒い感情……よもや、セタンタの時と似たような想いを今さらすることになるとはな……。

 

 存外、儂の魂はまだ死に切っていなかったのか、影法師の体故か――クク、まあ、どちらでも構わんな。

 

 私は小さく笑うと同時に、やはりアレに魔槍を撃ち込み、少し逆上(のぼ)せきった頭を冷やしてやろうと決意した。どうせ、何をしても死なん。

 

 

 

 

 






※アルモちゃんの抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)は本来ならこのように真上に投げます。



・今回のまとめ
オルガマリーの依存先
レフ→立香ちゃん Change!!



~オルガマリーの召喚時ボイス~

「真祖のオルガマリーよ。もう、所長でも魔術師でもないわ。ありがとうね……こんなになったのに……私を求めてくれて」






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