TS光堕ち真祖アルモちゃん   作:ちゅーに菌

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 どうも皆様お久し振りです。姉を名乗る不審者です。

 投稿期間を開けている間にぐっちゃんがやっぱりポンコツだったり、おっきーの部屋のコタツにサーヴァントが集まるのが公式化したり、おっきーが需要が謎なスキル強化を貰ったりと色々ありましたね(おっきー 星4フォウマ レベル100 スキルマ 宝具Lv1所持しているマスター)

 それは置いておき、再び現実がルナティックなので投稿しました。アルモさんが生きてこの方の食に対するゆるい情熱のお話となります。

 外伝なのでカルデアの時系列は特に考えないでください(驚きの開き直り) そのうち、番外編や外伝は整理すると思います。

 しかし、このタイトルで元ネタ伝わる人いるんだろうか……。






真祖アルモちゃん外伝 ぱすた虞美人さん

 

 

 

 時は5世紀から6世紀の間。後にイギリスと呼ばれることになるグレート・ブリテン島にて、そこではアーサー・ペンドラゴンと、それに連なる円卓の12騎士たちが、国を守るために、日々様々な外敵と戦いながら国を治めていた。

 

 そんなとき、彼らの城にフラりと現れた影があった。

 

 

 

『どもー、ニムエっち(ヴィヴィアン)の友人のアルモーディアだよ』

 

 

 

 それは自称、湖の乙女の友人を名乗る真祖の吸血鬼であった。その上、アルモーディアといえば、アルクェイドが生まれる前は、唯一魔王を葬る真祖の処刑人として名を馳せていた真性の怪物である。つまり、この当時は名実共に史上最強の真祖であった。

 

 本来ならば喧嘩っ早い(まず剣で語る)円卓の騎士たちが問答無用で追い返すか、戦いを挑みそうなモノだが、真祖は最高位の精霊種であり、同じく精霊種であるヴィヴィアンと交友があっても何も可笑しくはなかろう。その上、どうやって用意したのか、何故かアルモーディアはヴィヴィアンが着ている羽衣を身に纏っていたため、話ぐらいは聞くしかなかった。

 

 アルモーディアから話を聞くと、ヴィヴィアンから聞いたこの国を見てみたいと思い、直接出向いてきたとのことだった。叩き出すわけにも行かず、マーリンをもう一人抱えるような気分で、アルモーディアを遊歴の真祖として、ブリテンに置くことになったのである。

 

 まあ、最初は厄介な相手だと誰もが考えていたが、接してみると誰にでも人当たりがよく、優しく朗らかであり、何事にも節度を持っているという、マーリンと比べるのが烏滸がましいと考えるほど出来た真祖だったため、初日には既に馴染んでいたという理由もある。恐るべきはアルモーディアのコミュニケーション能力の高さであろう。長年培われた弟子入りのための土下座と、弟子としての下積みで培った忍耐力や腰の低さは伊達ではないのである。

 

 しかし、ある程度仲良くなると円卓の騎士たちはとても気になることが出てくる。やはりというべきか、徒手の武術家としても非常に高名で、最強の真祖であるアルモーディアの戦闘能力である。無意識ではあるが、騎士あるいは英雄の誉れとして血が騒いだのであろう。

 

 そして、円卓の騎士で最強との呼び声も高く、徒手にも自信のあったランスロット卿がアルモーディアに声を掛けた。決して、試合後にナンパをすることが目的ではないと思われる。

 

 

『んー、手合わせ? おー、いいよ。やろー、やろー』

 

 

 とんでもなく軽いノリでアルモーディアが快諾したため、二人は修練場で対峙した。集まった他の円卓の騎士たちや兵士がギャラリーとなったため、ちょっとした催し物である。

 

 はっきり言って、そのときのランスロット卿はアルモーディアを心のどこかで舐めている節があった。何せ、見目麗しい様子に、気さくな性格、ついでにあくまでも空想具現化を主体に戦闘をするはずの真祖であるということ。ランスロット卿でなくとも多少は油断しても仕方なかろう。

 

 尤もそんな油断は――。

 

 

『シィィィ!』

 

『――――――!?』

 

 

 例えるなら老李書文を前に、己の手を縛り、目を瞑って戦いを挑むような愚行だった。

 

 一瞬と一撃。徒手武術家として、時代最高どころか神代最高クラスの完成度を誇るアルモーディアに、高々一時代最高クラスの騎士が慢心を覚えることは余りにも軽率であったといえよう。

 

 真祖が時間を掛け、凡百の人間が持ちうる延長線の限界点まで極めたアルモーディアの徒手武術は、絶技や魔技の領域まで踏み込んでいる。そして、瞬間移動と見紛う足の運びから繰り出された一撃の掌打が直撃し、ランスロット卿は修練場の壁まで吹き飛ばされて、激突しながら気を失った。

 

 ちなみにギャラリーが唖然とする中、一番驚いていたのは、円卓最強が相手なのだから、本気でやってもいいと考えていたアルモーディア本人だったりする。

 

 ちなみにその後、ランスロット卿が油断せずに再戦したときには数分以上持っていた。しかし、やはりというべきか、剣に生きる者が拳に生きる者の土俵で戦うことに無理があったらしく、アルモーディアに一撃も入れられないまま、ランスロット卿は修練場に沈んだ。

 

 それからは円卓の騎士たちは己の武器でアルモーディアに挑むようになり、最早彼女は真祖というより、遊歴の騎士のような扱いになっていった。むしろ良い修練相手である。何せ、明確に何をしても死なないのだから一切の手加減無しで戦える者は貴重であろう。

 

 しかし、凄まじいスピードでブリテンに馴染み始めたアルモーディアにも看過できないことがひとつだけあった。それは――"食事"である。

 

 

『――――!?』

 

 1日目。出された食事を食べたアルモーディアは眉間にシワを寄せて、何やら考え込んでいた。

 

 

『………………(ぴくぴく)』

 

 2日目。どこから持ってきたのか、マイ箸で出された食事を残さず食べつつも、アルモーディアは心ここにあらず、といった様子だった。

 

 

『………………(ぷるぷる)』

 

 3日目。アルモーディアは昨日と同様に無心かつ無言で食事を食べていたが、全身が小刻みに震え、明らかに様子がおかしい。

 

 

『これを作ったのは誰だっ!!』

 

 4日目。ついにアルモーディアの怒りが爆発し、止めに入った騎士たちを余りにも卓越した拳の絶技で沈めつつ、厨房に怒鳴り込んできた。

 

 

『お前ら料理っていうモノを根本的に何もわかっちゃいねぇ! 喰えりゃいいってものじゃないんだよ! 野菜とポテトをマッシュしてビネガー掛けりゃ料理じゃねーんだよ!? 料理は日々の潤いにもなるし、食べることが生きる意味にもなるし、生育や精神のケアにまでなるんだ! つまりなにが言いたいのかというと――』

 

 

 一応、フォローしておくと、当時のグレートブリテン島は、人の物理法則に支配された西暦後でも、未だに多くの神秘が残っていたため、それを世界が許容せず、結果として大不作などが起こり、ブリテンで取れる作物も少なく痩せていたという時代背景がある。

 

 まあ、尤もそんなことは同じ時代を生きるアルモーディアは百も承知なため、それを加味しても堪えきれなかったのだろう。主に野菜マッシュとか。

 

 

『お前らに料理ってモノを教えてやるから覚悟しろよ……?』

 

 

 そうして、真祖アルモーディアはカムランの丘が赤く染まる日まで、円卓の騎士お抱えの料理人として、勝手に勤めることになった。

 

 これは神話には書けない非常に地味な(抑止力に廃絶されない程度の)裏話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うのがアルモーディアとアーサー王と円卓の騎士(我々)の馴れ初めですね」

 

「え……? あのアルモさんを料理で怒らせたの……?」

 

 食堂にて、セイバーのクラスで召喚された冬木のときとは違うアーサー王――アルトリア・ペンドラゴンの話を聞いた藤丸立香は唖然とした表情で呟く。

 

「あ、アルモさんは他人が作った料理は、どんなに失敗しててもケチつけないで"ウマい"って言いながら食べるし……明らかに不味い食品を食べても"まあ、少なくとも開発した奴はこういうのが好きだったんだろ"って批判とか全くしない人なのに……」

 

「まあ、当時のブリテンの料理は食材から料理方法まで、今こうして並んでいる料理に比べれば……餌ですね」

 

 アルトリアはテーブルの上に並べられた料理を眺めつつ、当時を思い返しながら黒々とした光りのない眼でそう語る。今、アホ毛を握れば、引っこ抜けて反転しそうな様子である。

 

「アルモーディアはとんでもなく料理上手だものね」

 

「虞美人さんは、それについて何かお知りなのですか?」

 

 何故か、アルモーディアについてアルトリアが話し始めてから立香の隣に座ってパスタが載ったトレイを持つ虞美人が、どこか誇らしげに口を開く。そんな彼女に立香を挟んだ隣の席に座るマシュ・キリエライトが質問を投げ掛けた。

 

「知るもなにもアイツはたまに私のところに来ては、料理をして食べ方を教えて来るのよ。まあ、それだけだけど」

 

「食べ方……?」

 

 立香が首を傾げていると、虞美人はこちらを気にすることなく、目の前にあるパスタを前にまず髪をかき上げ、耳に掛からないように後ろに流す。そして、フォークでパスタ麺をすすって食べると、口のまわりを舌で拭った。最後に指についたパスタのソースを舌先で丁寧に舐める。

 

 そこまでやってから立香とマシュに見られていることに気づいた虞美人は目を丸くして口を開いた。

 

「なによ?」

 

「い、いえ……なんでもありません」

 

(ど、どうしてそんなに不必要に色っぽいのでしょうか!?)

 

「あはは……なんでもないよ先輩」

 

(私の先輩、エッッッ!!!!)

 

 二人が反応していると他のサーヴァントが近づいてきたことに気付き、そちらに顔を向けた。

 

「おや、アルモーディアさんと料理の話ですか。私は彼女から料理の指南を受けたことがありますよ?」

 

「トリスタン卿」

 

 フラりとやって来たサーヴァントは円卓の騎士の1人――トリスタン卿であった。トリスタンはアルトリアに礼をしてから会話に加わる。

 

「お恥ずかしながら……最初は料理が出来れば、女性に対して好印象になるのではないか、他の円卓の騎士にイニチアシブが取れるのではと、俗なことを考えていたのですが……彼女はそんな私の下心を聞いて大笑いしました。そして、料理の基礎を解りやすく教示し、簡単に出来る女性が好む料理を教えて下さいました。それからは逆に興味が湧いて一人で料理をしたり、凝るようにもなって、今ではちょっとしたものです」

 

 何やらこれが円卓の騎士とは決して思えないほど俗なことを前半で語ったトリスタンだったが、後半は清々しいまでの賛辞である。

 

 とんでもないことに、あの真祖は料理人どころか円卓の騎士に料理を教えていたらしい。しかも当の本人からするとかなり好印象なようだ。

 

「あのときは――『料理を作る心構え? なに馬鹿言ってんだ。人間なんて極論は、食う寝るヤるで出来ている生き物だろ? そのうちのひとつにそんなに仰々しいことをしてたらキリがないっての。女を楽しませたい、何かをしながら軽く摘まめるものが欲しい、自尊心を満たしたい、直ぐに腹を満たしたい、旦那へと愛情を表現したい、高級料理店でお客様にお出ししたいetc.(エトセトラ)――料理をする動機なんて星の数ほどある。結局、ニーズに沿った料理で、食った相手と作った自分がよかったと思えればそれでいいのさ』――等と私に教えてくださり、感銘を受けたことを今でも覚えております」

 

「そんな基準にすら満たなかったのですね当時のブリテンは……」

 

 トリスタンが懐かしみながら妙に抑揚の似たアルモーディア声真似をする一方、アルトリアは死んだ魚のような目をしており、アホ毛が萎れ、少し肌が白っぽくなったような気がした。

 

「他にもガウェイン卿には今で言うところのパテを教えていましたね」

 

「そうなのですか!?」

 

 何故か知らなかった様子のアルトリア。

 

 パテあるいはテリーヌと言えばフランス料理の前菜で出ることの多い料理のひとつである。豚、兎、鶏などを使った料理であり、肉をミキサーで混ぜ、更にハーブや玉ねぎや酒などと混ぜ合わせ、テリーヌという型に入れ、オーブンで調理する。パンなどに載せて頂けるものであり、マッシュすることも多い上、狩猟した肉をなんでもパテに出来なくもないため、太陽の騎士はかなり熱を入れていたとのことである。

 

「え……? まさかカルデアのメニューにあるパテは……」

 

「はい、多くはガウェイン卿が作ったものです。作りおきも出来るので中々重宝されているようですよ」

 

「ははは……あのガウェイン卿に料理を教えていただなんて……それを私は今すら知らないだなんて……私より……真祖の方が人の心がわかるんですね……」

 

「あ、いえ、それはガウェイン卿なりの気遣――我が王!?」

 

「アルトリアさんお気を確かに!?」

 

「急患ですか!」

 

 ひっそりと白くなり始めるアルトリア。肌の白さを通り越して、真っ白に燃え尽きたような状態である。

 

 これはいよいよヤバいと、アルトリアは偶々居合わせたナイチンゲールに担がれ食堂を後にし、それに付き添う形でトリスタンとマシュも去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハロハロー! 私のでびるえんじぇるぅ!? すーはー……あぁいい匂い……これだけでご飯10杯は行けるよ!? アルモさんはいつでもどこでもリツカニウムさえあれば絶好調――むしろ絶頂なのさ!?」

 

「デビルエンジェルってなんなんだろう……? ワルキューレの仲間かな、オルガマリーさん」

 

「貴女少しは抵抗を――いえ、やっぱりなんでもないわ」

 

 どこからともかく話題の中心であったアルモーディアが出て来るなり、立香をその豊満な全身で撫でた。もう慣れ切った様子の立香は、東北土産のこけしのような表情と体勢で受けている。

 

 マシュたちとちょうど入れ替わるように食堂に来て立香の隣に座っているオルガマリーは、何か言おうとしたが、その立香の様子に閉口せざるをえなかった。

 

 

亜瑠母(あるも)様」

 

 

 すると見知った声にアルモーディアはぴくりと身体を震わせる。そして、顔を向けた先には閻魔亭の女将こと舌切り雀の紅閻魔の姿があった。

 

「…………あれ? えんまちゃん今日は1日厨房のシフトじゃなかったっけ?」

 

 ちなみにカルデアの厨房は常に2~3人程が在中しているように組まれたシフト制であり、それ以外に手伝いで入るのは自由といったスタンスである。そのため、そこまで仰々しいものではないが、真面目な紅閻魔がシフトをサボるとは考え難かった。

 

「亜瑠母様が食堂にいるときはそちらを優先していいとの取り決めでちゅん」

 

「後でエミヤはっ倒す」

 

 なんでさ!?という幻聴を聞きつつ、アルモーディアは溜め息を吐いた。ちなみにシフトにアルモーディアも組み込まれていたりする。

 

「えんまちゃんさぁ……私より料理の腕がいいんだから私から教わることなんて何も――」

 

「そんなことありまちぇん! あちきは亜瑠母様から学ぶことがまだまだあるでち!」

 

「あんた、えんまちゃ――紅閻魔の料理の先生の先生だものね」

 

「ん? どういうこと……?」

 

 アルモーディアの胸に溺れそうになっていた立香は、そこから抜け出してパスタを食べ終えた虞美人の言葉に対して疑問の声を上げた。立香の疑問を聞いた紅閻魔は口を開く。

 

「それはでちね――」

 

 その昔、閻魔亭でヘルズキッチンが行われたときのことである。

 

 そのときにいた刑部姫は、紅閻魔に異世界転生でもしなければ料理は覚えられない(意訳)と言わしめるほどの料理の才能や意欲の無さであり、紅閻魔が頭を抱える程であった。

 

 

『えんまちゃん困ってんの? だったら私がおっきーに料理教えようか?』

 

 

 すると偶々、虞美人と泊まっていたアルモーディアがひょこりと顔を出したのである。そして、一時的に空想具現化で部屋の一部をキッチンに改装して、アルモーディアはマンツーマンで刑部姫に料理の手解きを始めた。

 

 ちなみにアルモーディアは刑部姫が参加したときと同じときにヘルズキッチンに参加していたが、途中で"ショウジキナイワー"と呟き、空間に穴を空けてヘルアイランドから逃げていたりする。

 

 そういった経緯があり、許可はしたが、出来るわけがないと紅閻魔は考えていた。

 

 しかし、数日後。朝食ぐらいならば用意出来るようになった刑部姫が居たのである。これには目玉が飛び出そうになるほど紅閻魔は驚くと共に、アルモーディアに尊敬の念を抱くようになったのであった。

 

 それから紅閻魔はアルモーディアが宿泊しているときに時間を見つけては、アルモーディアの元に料理教室の先生の先生として教示を願うようになったらしい。紅閻魔がカルデアに召喚されたのは、アルモーディアがいることで紅閻魔が釣られたためかもしれない。

 

 ちなみに紅閻魔が最もアルモーディアから教わりたいと考えた理由としては最初に話を聞いたとき――。

 

『ヘルズキッチンねぇ……いや、私としては別に何も言う気はないよ。そういうものもあるんだなって感じ。人それぞれ考えがあるんだからそこを掘り下げたって結局のところは隣り合う平行線でしかないんだから大した意味はな――ん? 強いて言えば? 私の主観がそんなに聞きたいの? ならいいけど……そうだな――正直、馬鹿なんじゃないかと思うぞ。ヘルズキッチンは強要をしないにしても、料理するってのはまず小さくて純粋な興味から始めるだろ? その時点で人を弾くなんざ、凡百の素人に1から料理を教える者がやっていいことじゃない。包丁を取らせる前に素材を狩らせるとか、意味がわからん。敷居が高いとか、低いとかそれ以前の問題だ。それに料理教室で生徒の料理以前の心構えだの理念のためにわざわざ、生き物を大量に殺させることの方がよっぽど食への冒涜だと私は思うな。後で料理で使うとしてもだ。動物なら必要な分を最小限だけ殺して命を頂く、植物なら全ては採らずにあえて残しておく。食への敬意っていうのはそういう細やかなものだろう? 料理は政治で、ご家庭の食卓に最高の素材を並べるだっけな? 農家や牧場やら八百屋やら卸し市場やら……えんまちゃんが想像してる家庭は料亭かなんかか? 少なくとも普通の家庭は、街にある店を開いてるとこで買って、庭か畑に生えてる野菜で済ませるわ。だから、作る料理を設定して、1食分の費用を渡して、その範囲内で買い物をして、買えた材料から料理を作るとかが現実の家庭だろ。料理するのに武器は手に取らねぇよ。"お前"さ、1度ワンコインで買ったものだけで1食作ってみたら? 素人に向けた料理教室じゃねーよ。料理は物理ってのはまだわかるが、料理人が毎回作品を作っているというのはダメだ。意識が高過ぎる。世の家庭がイチイチそんなことを考えてるわけないだろうが。それにふわふわした気持ちも歴とした情熱や意欲だ。それを工夫に変えていければ正しく上達するだろうな。料理は努力って言うのもわからなくもないが、唾棄すべき世迷い言とまで言い切れるものか。最高の料理人が、最高の料理教室を開けることには直結しない。例えば凡人に剣を教えれる剣豪が何人いるよ? いや、剣には才能ってものも必ずしも勘定に入れなければならないからまだいいが、料理はそうじゃない。1日2~3回は必ず取らなきゃいけないものだ。だから死ぬ気で料理をしたい奴なんて一握りすら存在しないし、必要もないし、情熱も持てないんだよ。極論、ニーズとそれに応える料理だけ出来ればいいんだ。"テメェ"はあれか? 365日3食きっちり家族に用意してくれる世のお母さんの呟きを、世迷い言と切り捨てられるほど偉くなったつもりか? ヘルズキッチンなんてついて行ける奴はそれこそ頭がどうかしてる。だから生徒に頭のネジが飛んだ問題児ばっかり残ってるんじゃないのかな? それから――(自主規制)』

 

 喧嘩腰どころか、徐々に罵倒へとシフトする恐るべき歯に衣着せぬ物言いが逆に好印象であったためだったりする。

 

 やたらアルモーディアの視点が家庭的なのは、何人もの人間の夫になり、時には夫の連れ子を育てるようなことも行い、妻だったり、親代わり(ママ)だったりしたせいだと思われる。根本的に紅閻魔とは視点が違うのだ。

 

「その後、激怒して言動がどんどん過激になって行き、遂に行動を起こした亜瑠母様に『食べられる側の気持ちを知りたいなら実際に喰われてみろ、私は何度もあるぞ』と言われ、亜瑠母様に喰われそうになりまちた」

 

「アルモさん!?」

 

「ええ……」

 

「あのときは私……ヘルアイランドでヒュドラに頭を半分ぐらい齧り取られたりした後で、かなりご機嫌ナナメだったから……それに雀は吸血してもノーカンだし……」

 

 困惑の声を上げる立香とオルガマリーに対して取り繕うアルモーディア。わりと本気で喰い殺してやろうかと思ったらしい。ちなみに激昂するアルモーディアを止めたのは虞美人のドロップキックである。

 

 しかし、勉強熱心な紅閻魔はそんなアルモーディアにさえ師事したいとのこと。縁とはまっこと不思議なものだ。

 

「亜瑠母様は話しながら徐々に怒るタイプでち」

 

「それにその基準が微妙にズレててよくわからないのよ」

 

「そうなんだ……1度も怒ったところ見たことないからなー」

 

「アルモーディアって怒るのね……」

 

「そ、それよりも折角だから何か料理でも作ろうか……?」

 

 あからさまに全く関係のない話題に切り替えようとするアルモーディア。そうは問屋が下ろさないと言いたいところだが、アルモーディアは笑顔でピクピクと頬を痙攣させており、それ以上追及するのは(はばか)られた。

 

 しかし、それに純粋に反応した立香は何気無く、湧いた疑問をアルモーディアにぶつけた。

 

「朱い月のブリュンスタッドさんが食べてた料理とかってあるの?」

 

「ん? ブリュンスタッド様が好きだった料理? もちろん、あるよ」

 

「ああ……あれか。知っても失望するわよ……?」

 

「まあまあ、そう言うなってぐっちゃん。別に今さら減るもんじゃないだろ」

 

 そう言って何とも言えない困り顔をしている虞美人をアルモーディアは嗜めてから、立香たちに待つように言って厨房に向かう。

 

 そして、約十数分後――アルモーディアが持ってきた料理が載ったトレイの上にあったのは、油が張られて煮立つ小鍋、串に刺さった多少手を加えているがほぼ素材そのままの食材、パン粉と何かが混ざった粉、黒々とした香る液体などであった。

 

 そして――"ソース2度漬け禁止!"と書かれた旗が立っている。

 

 誰もが"えっ、これは……?"とあまりに似つかわしくない物の登場に困惑する中、アルモーディアは至極真っ当な表情でボツりと呟いた。

 

「串カツ」

 

 それは誰がなんと言おうと普通の串カツである。それも自分で揚げるタイプのモノだ。

 

 そのギャグのような言葉と状況に誰もが閉口する中、アルモーディアはそれだけでは足りないと思ったのか、唇に指を当てて少し考えた後に言葉を続ける。

 

「他にも今で言うところの焼き鳥とか、チーズフォンデュとか、チョコレートフォンデュとかも好きだったぞ」

 

「串モノ祭り!?」

 

「ああ、今で言うところのブルスケッタとか、カナッペも好きだったな」

 

「片手で食べれるものなのでちか……?」

 

「そう、ブリュンスタッド様は研究の片手間――というか片手で楽に食べられるモノを好んでたんだ。あの方らしいといえばらしいよね。他人からどう見えるとか全く気にしない辺りが特に」

 

「スゴいわよね。周りからの目とか考えないのかしら?」

 

 どこか懐かしそうにそう語るアルモーディアと、同じくやや溜め息気味で思い出した様子の虞美人。どこから突っ込めばいいものかと、その場にいた者たちは困惑する。

 

 その上、串カツを頬張る朱い月のブリュンスタッドなる月の王を想像して、笑っていいのかわからず、絶妙な半笑いを浮かべるしかない一同なのであった。

 

 

 

 

 







※料理人をしていましたが、アーサー王伝説は伝説のため、空想上の職歴を履歴書に書けるわけもないので、アルモさんの職歴はアルバイトのみです。


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