今年は姉を名乗る不審者(本物)の夏イベでの暴れっプリが凄かったですね(小声)
彼女――ジャンヌ・ダルクはどこにでもいる普通の農村の娘だった。父親はドンレミ村の名士で、優しい母と、三人の兄と、一人の妹に囲まれ、それなりに裕福な過程で育ちはしたが、それ以外に特筆するようなことはあまりない。
まあ、少々押しが強かったり、無自覚に図々しかったり、やたら食べ物に執着する上によく食べたりなど、端々に私の知るジャンヌ・ダルクのパーツが見られたが、概ね村娘である。冗談半分で武術を教えたら、私の数十倍の勢いで修得しそうになったことは流石は英雄の器といったところだろう。
私は酒場に住み込みで働きながら、姉のような存在としてジャンヌ・ダルク――家族からはジャネットと呼ばれる彼女と接した。
私の手料理目当てに週七で通ってきたり、実の妹を可愛がっているジャンヌを生暖かい目で見つつ、彼女の幼少期であり、平穏と言える時間を共に過ごした。だから、誰が何と言おうと私にとっては妹のような可愛らしい少女でしかない。
そんな彼女が12歳のときに神の声を聞いたと言ってきたときは、出来るならばジャンヌ・ダルクというキャラクター――つまりはアラヤという巨大な円環を破壊してしまいたいと少しだけ考えてしまったのも仕方ないことかもしれない。
それからはジャンヌ・ダルクと、最後までジャンヌと共に戦い、ジャンヌの死後も多くの戦場を巡ることになる兄の一人のピエール・ダルクに槍を教えもした。二人とも私よりも遥かに才能があったため、非常に複雑な気分だったが、二人の先を考えると寂しさだけが募る。
そして、1428年。ジャンヌ・ダルクが16歳のとき、彼女の壮烈で高潔な儚い物語の歯車が廻り出した。
◇◇◇
1431年。フランス、ノルマンディー地方ルーアン。
火炙りにされ、男女の区別すらつかぬほど黒くなった亡骸から出た灰が風に乗って飛ぶ様を遠くから眺めながら、全てが終わったことを噛み締めていた。
これから私は日本に向かい、戦国時代を見る。そのため、彼女の両親と兄弟に二度と顔を合わせることはないだろう。まあ、そうでなくとも最後に見た不安げな表情で彼女を送り出した母の姿を思えば話せることなど、ひとつしかない。
最後の最期まで彼女は己の信仰に殉じたと。
彼女が虜囚の身になった後も、私は圏境で出入りし、誰よりも近くで彼女と他愛もない話をした。
最期を迎える前に助けてやりたいと何度も何度も考えた。しかし、彼女はただの一言たりとも私に望まず、弱音すら一度も見せようとはしなかった。ただ一言、呟いた要望は"海が見たい"という少女のように小さな望みのみ。
尤も私は彼女を助け出せば抑止力に歯向かうことになるのは知っている。辻褄を合わせるために、彼女一人の死どころではない被害や、私自身に刺客が送られるため、たとえ彼女が助けを求めようと、助けることはないだろう。
しかし、ならばなぜ、私は彼女が死ぬまでずっと通い詰めたのだろうか? 彼女のいる向かいの壁に座り込んで対話し、どんな言葉を望んでいたのだろうか? 私は彼女に一言"助けて"と求められていればどうしていたのだろうか?
いつの間にか、今握り締めている拳から血が溢れているのはなぜだろうか?
だが、行動に移されることなど彼女は決して望まない。私には健やかな生き方こそを彼女は要求するだろう。
喪った者の復讐、報復、
だから私には必要ない。最初からこの結末を知り、勝手に首を突っ込んだ私が暴れていては示しがつかず、道理も通らないのだから。これでいい、このまま私がフランスから消えればそれでいい。
ああ、だが、仮に――。
人理が崩壊し、ここが"邪竜百年戦争オルレアン"と呼ばれる特異点に隔離されれば、私はどうしていたのだろうか?
◆◇◆◇◆◇
『つまり……アルモ君はジャンヌ・ダルクが生まれたときから知っていて、姉のように接していたということなのかい!?』
「色んな偉人に這い寄るアルモお姉ちゃんはブイにゃのだー!」
「はい、アルモお姉ちゃん!」
笑顔で答えるジャンヌ・ダルクこと、ジャンヌちゃん。現在は彼女とこの特異点についての情報共有と、私がジャンヌちゃんの人生の野次馬をしていたことをオブラートに包んで話したところである。
ちなみに現地の人間に見られると、今はマズいと思ったので、近くの森の中で話し合っている。今日は時間も丁度いいので、もう野営だろう。
ジャンヌちゃんから聞けたのは、フランス王シャルル七世を殺し、オルレアンにて大虐殺を行い、フランスという国を崩壊させたジャンヌがいるということ。
他の特異点に比べるとやっていることが地味な気もするが、フランスは人間の自由と平等を謳った最初の国であり、多くがそれに追随したことから、フランスの崩壊はその起点を崩すこととなり、結果的に大規模な文明の停滞を招くという。うん、並べてはみたが、やはり他の特異点に比べると、やり口がジュラル星人染みているような気がする。
それよりも不思議なものだよね。いずれその次女――おほん黒いジャンヌが、水着になったこのジャンヌちゃんにファミパンされながら、厨二病になって同人誌を描くハメになるのだから。私は今後どんな顔をして彼女と相対すればいいのかわからない。
「ほんっとお前、不必要に人間に首を突っ込んでばかりね」
「ははは、まあそう言うなぐっちゃん。人間も個々で見ればそれなりに捨てたものじゃないことは君も知っているだろう?」
「……知らないわよ」
一瞬、間があったぞぐっちゃん。そういうところが優しいのだが、本人は自覚していないか、自覚しようとしていないのでこれ以上は語らない。
「あはは、ということは、ジャンヌさんは私のお姉ちゃんになるのかな」
私とジャンヌちゃんとの話を聞き、ぐっちゃんと会話していると、立香が無自覚に地雷源でタップダンスをし始めた。
「お姉ちゃん……?」
それは立香なりの冗談のつもりだったのだろう。しかし、唖然とした様子で表情を失い、唐突に笑顔になった上で、瞳孔の開き切った目をしながらポツリとその言葉を呟いたジャンヌは明らかに様子がおかしかった。
「つまりあなたは私の妹……? 私はあなたのお姉ちゃん……?」
「いかん、早過ぎる」
ルルハワは時期尚早過ぎるため、私はブラウン管テレビの映りを直す要領で、ジャンヌちゃんの眉間に中指と人差し指を目にも留まらぬ速度で当てた。
「う……私は何を……?」
「危なかった」
一瞬の行動でジャンヌちゃんは今のやり取りを忘れたようだ。これぞ長年の修行で覚えた人差し指と中指を用いて対象の眉間に正確に一定のHzの振動を与えることでシナプスの結合を選択的に分解する記憶処理用の技だ。慣れると、改竄も可能になるため、中々便利なのである。
ちなみに昔、冗談半分で教えたら覚えてしまったため、ジャンヌちゃんも使えたりする。何故か、パンチで彼女は出来るけど。
「毒は……」
私はワイバーンの生の胸肉を爪で切り取り、少し指で転がしてから口に含んだ。しっかりと咀嚼してのみこむ。
「ふむ……まあ、ワイバーンの種類的にもありえないとは思ったが、やっぱり持ってないな。普通にどこにでもいるワイバーンか」
「普通この時代にワイバーンはいないわよ……」
ぐっちゃんがそう呟くが、知らないったら知らない。コイツらなんてちょっと大きめなトカゲの延長線の生き物だ。
臭いに関しては臭みはそんなに無さそうだが、とりあえず香草を使うか。
「
私が指を振るうと周囲に幾つかの神代から現代まで幅広い香草が生える。更に指を回すと水を鍋の中に直接発生させて水を張る。そして、指を鳴らせば鍋の下にガスコンロのように一定の強さと間隔で鍋を囲む火が灯った。最後に指で引き寄せる動作をすると、太めの木の枝が手元に飛んできて、その場で二本の菜箸が出来上がる。
ある程度水が温まり、お湯になってきたところで大きく切り出しておいたワイバーンの胸肉を指で引き寄せて鍋に投入し、最後に香草を掴み取って鍋に投入してからしばらく煮立てた。
『こんな例えは変なのはわかるんだけどさ……』
「何かなロマニ?」
『ジ○リのアニメの魔法使いみたいだ』
「まあ、空想具現化はおよそ普通の人間が抱いている魔法像そのままだからねぇ。人工物を弄ること以外はなんだってできるさ」
真祖にしかできない調理風景に対し、ロマニのあんまりにもあんまりな感想にどうかと思ったが、端から見れば確かにそのようになっているのかも知れないな。
魔術の理論も自然の理もねじ曲げ、証明不能な自然現象が故意に起こり続ける様は、魔術などに精通しているほど不可解に感じるものだろう。
立香、ぐっちゃん、ジャンヌは見慣れているのか普通にしているが、それとは対照的にマシュちゃんとマリーちゃんの二人は考えていることに違いはありそうな様子だが、どちらも目を輝かせて私を見ていた。
「私にもできるかしら……?」
「おいでマリーちゃん」
「うん……!」
そう言うとマリーちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべ、私の元までやって来たので、私は空想具現化のコツを片手間に教えることにした。
《なんだか所長……随分子供っぽくなったわね》
《それはそうでしょう。魔術刻印も人間の体も失って、ロードの魔術家としての誇りどころか、人としての誇りまで全部壊れちゃったんだもの。今のマリーちゃんの心は、何も飾るものも守るものもない剥き出しのままだから、誰かに依存していないと生きていけないんだよ》
《………………》
ぐっちゃんが珍しく、精霊種や吸血種にしかわからない波長の言葉で、まだ真祖に成り立てのマリーちゃんには聞こえないように私だけへ語り掛けてきたため、そう返事を返す。すると優しい精霊種の吸血種は閉口した。
《少しでも責任を感じているなら、ただ撫でるか抱き締めてあげなさないな。それが恥ずかしいなら特別扱いせず、普通に接してあげるだけでもきっと喜ぶよ》
それからぐっちゃんは言葉を返さなかったが、強要するようなことでもないため、こちらもそれ以上言うことはない。まあ、でも――。
(オルガマリーちゃん……実質私とぐっちゃんの娘みたいなものなんだよなぁ……)
まあ、ぐっちゃんとオルガマリーちゃんは、気づいているかいないのかわからないので言わぬが華だろう。
「~♪」
その後、しばらく煮立つまで暇なので、特に理由もなく"ideal white"を歌いながら鍋を見ていた。
(また、アルモさんが凄い歌詞の歌を歌ってる……)
(綺麗な声ですね……)
(ずっと喋らなきゃいいのよアイツは)
そこの現カルデアマスターと元Aチーム二名。小声で話しても聞こえてるからな? 特にぐっちゃん。トークのないアルモちゃんなんて、カレールーのないカレーみたいなものだろう……あ、それだと肉じゃがになるか。
それから煮詰めて臭みを抜いた後は、ウェアウルフから採った油を使って、唐揚げにする予定である。
「じー……」
後、これと同じ事を最初からずっと物欲しそうに覗き込んでいるプロテアちゃん用の巨大な鍋を具現化して、ワイバーン数十頭にもしなければならないので、少し大変だが、可愛い怪獣のためなので全く苦ではないな。
ちなみに――。
「ああ……幸せです……」
ジャンヌちゃんが、プロテアちゃん用のワイバーンの骨抜き唐揚げを丸々1個、要するにワイバーン1頭分を完食しやがったことに周りの者は度肝を抜かれていた。
◆◇◆◇◆◇
「いますぐにオルレアンに攻め入りましょう!」
翌日の早朝。ジャンヌちゃんは声高々に我々にそう宣言した。
確か、今の戦力では打ち勝てるかどうかわからないので、確証がないと攻めいることもできないといったことを原作では言っていた気がするが……もうこの時点で嫌な予感しかしない。
「一応聞くが、作戦は?」
「まず、アルモお姉ちゃんを突撃させます」
「うんうん……うん?」
「それから空想具現化で自爆してもらって敵城ごと吹き飛ばすのです……」
「ちょ――」
「人類の危機以上の有事の際はありませんから、致し方ない犠牲です」
どこかの鬼畜眼鏡軍師のようなことを言い始めたジャンヌ。これがバタフライエフェクトかと戦慄を覚え、ひょっとして霊基が水着になり掛けているのではないだろうかと考えた。まあ、私が自爆しても、すぐに再生するから実質無傷なので理には適っているんだ。
流石は元々のジャンヌ・ダルクはまだ脅し用や攻城兵器という認識だった大砲を、人間に向けて放った戦争の天才にして、人間の屑――もとい発想がサイコパス染みているジャンヌちゃんである。
しかし、果たしてそこまで、ハチャメチャなことをしてしまっていいものなのかと考え、私は尤もらしい言い訳を唱えることにした。
「ジャンヌ。明らかにジャンヌ・ダルクらしからぬもう一人の君がいることで焦るのは仕方ないが、いきなりそれは悪手だろう。ここは特異点。私でもどうしようもないような何かがいるかも知れないんだぞ? まずは敵の戦略を確認した方がいいんじゃないか?」
「…………そうですね。お姉ちゃんは逃げませんから、先に情報を集めましょう」
「ねぇ……コイツ頭おかし――」
「言うなぐっちゃん。これが英霊ジャンヌ・ダルクなんだ」
実際に目にした戦いを思い返せば思い返すほど、ルーラーでなければ恐らく、バーサーカーに一番適性があるのではないかと思う。宝具は対人宝具の大砲に違いない……あ、だからアーチャー適性もあるのか。
そんなこんなで、まずは敵戦力の把握をすることに方向性は固まった。
◇◇◇
「もうすぐラ・シャリテです」
オルレアンに直接乗り込む前の情報収集では、ひとまずはオルレアン周辺の街や砦で聞き込みを行うことになった。
そして、近場の街に向かったのだが、近付いてみれば街からは黒煙が上がっており、明らかに様子がおかしい。
「これは……」
風に乗って、人の焼ける臭いが漂ってくることがわかる。私は慣れており、ぐっちゃんとジャンヌちゃんは顔をしかめているが、残りの面々は青い顔をしていた。
「戻るか? なんなら街の外で待っていてもいいよ?」
そう言ったが、全員はそれでも行くと言ったため、既に外観も半ば廃墟と化している街へと足を進めた。そこにはワイバーンに破壊されただけでなく、明らかに人為的な攻撃で体に穴が開いた死体が幾つも転がっていた。
まあ、折り重なった死体に火が放たれ、趣味の悪いキャンドルのようになっているモノもあった。黒煙はコレから立ち昇っているのだろう。
「惨い……」
立香の呟きは尤もと言える。拷問して殺されなかっただけマシと言ったところか。
「消すよ。プロテアちゃんは他に燃え移りそうな炎を踏み消しといて」
「はーい!」
私が指を弾くと空想具現化により一部の気温が急激に下がり、目についた炎が次々と消えていく。まあ、死体は燃やしておいた方が後々、面倒を持ち込まない気もするが、逃げ延びた者が、死体を見つけられないのも不憫だ。二度殺すことになっても仕方あるまい。
『待った! 先ほど去ったサーヴァントが反転した! まずいな、君たちの存在を察知したらしい!』
「数は!?」
立香らの会話は聞かず、しばらく消火活動をしているとロマニから叫ぶような通信が入ったため、私も立香らの元に行き、ロマニの話を聞いた。
『おい、冗談だろ……!? 数は五騎! 速度が迅い……これはライダーか何かか!? と、ともかく逃げろ! ああ……ダメだ! もう逃げられない! マシュ、とにかく逃げることだけ考えるんだ! いいね!?』
ロマニの通信はそこで終わる。そして、このすぐ後にオルレアンでの最初のサーヴァント同士の対面が始まるんだなと思い浮かべ――。
次の瞬間、細く刺すように感じた殺気により、自然に動いた身体は、上半身を少し屈ませて腕を盾にする防御姿勢を取った直後、途方もない打撃による衝撃を片腕に受けた。
受ける直前に攻撃体勢を取った私は、感覚を研ぎ澄ませ、大気の僅かな震えを感じ取り、何もない虚空に向かって蹴りを放った。
その直後、遅れて互いに発生した衝撃は私の身体を数十m弾き飛ばし、攻撃が命中した片腕からは、骨が折れた異音と痛みを感じさせる。そして、同時に虚空に放たれた蹴り、何かを捉えて大きな打撃音と骨がひしゃげ、筋が千切れる音を響かせ、襲撃者を私が吹き飛ばされるのとほぼ同じだけ弾き飛ばした。
また、氣を込めて放つことで相手の氣を乱したため、襲撃者が使っていた隠密術――圏境が停止し、その姿を現す。
『な……そ、そんな……こんなことが――!?』
「あり得るだろう。この時代のフランスにコイツがいることは君らもよく知っているじゃないか」
その容姿を視認して、やはりそうだったという確信と共に大きな溜め息を吐く。そして、私と同じく防御をしたが、へし折れた片腕を治している相手に対して言葉を投げた。
「どうも、"この時代の
「ようこそ"未来の
まさか型月名物自分殺しを、こんなにも早く、自分自身が味わうことになるとは思っておらず、妙に挑戦的な笑みを浮かべている紛れもない私自身に顔をひきつらせるばかりだった。
あ、流石にしばらくドゥムジをふかふかする作業がありますので、ちょっとすぐに更新はできないと思います(マスターの鑑にして、投稿者のクズ)。
え? 七月の終わり頃までは忙しいって言ってたのに、ちょっと遅過ぎる? 八月はまだしも九月の頭は何をしていた?
…………そう言えばリースXPって名前で匿名投稿している者が、九月の頭ぐらいから、"B級パニック映画系主人公アトラさん"とかいう題名の感じや、あらすじの書き方がこの小説にクリソツなHUNTER×HUNTERの二次創作を書いていますね。ワー、イッタイショウタイハダレナンデショウネー。オネエチャンワカラナイナー。