珍しく久し振りに初投稿です。
「母上ー!!」
豪邸と言う程でもないが、質素という程でもない家。そんな屋敷内を4~5歳ほどに見える少女が足早に移動していた。
デフォルメされたワイバーンのぬいぐるみを胸に抱えているその少女は、長い黒髪とエルフのような切れ長の耳をし、実際にまるで妖精のように可愛らしい少女であり、成長すれば絶世の美女になることが約束されていると誰しもが考えるほどだろう。
また、何故か少女は赤い生地に"Buster"という文字の入ったTシャツを着ており、現代の人間が見れば"ダサT"等と呼ばれそうであるが、今の時代は2800年ほど現代から離れているため、ただのオーパーツである。
「ふー…… ふっふん♪ ふふっふふん♪」
「くるっぽー」
そして、少女はキッチンにやって来ると竈の前に鼻唄を歌いながら作業をしている、背が高く後ろ姿だけでも絶世の美女とわかるウェーブの掛かった金髪の女性の背後に立つ。また、女性の肩には白鳩が止まっており、装飾品の一部のように自然に見えた。
そこで少女は少し悪戯っぽい笑みを浮かべると、気付かれないようにと足音を消して近付き、女性の足に抱き着く。
「母上! おやつ!」
「おおっ! 鳩ちゃん! ビックリしたぁ!」
「くるっぽー!」
女性――真祖アルモーディアは、かなりオーバーアクション気味に驚いて見せる。少女――セミラミスは悪戯が成功したと思い、嬉しげな笑みを浮かべつつ抱き着く力を強めている。
「うーん、なら今日のおやつは……いい果物と砂糖があるから
「び……びんたんふーる?」
「りんご飴みたいな奴だよー。でも食べ過ぎて晩御飯が食べれなくなったらダメだぞぅ?」
「はーい!」
「うふふ、いい返事ね。水出してあげるから手を洗いましょう?」
そう言うとアルモーディアは、片手をセミラミスに伸ばし、少しだけ強めに優しく彼女の頭を撫でる。また、それが好きなのか、セミラミスもより笑みを溢し、目を細めながら撫でられていた。
これは種族も名も問わず、ただの親子だった2人の幼く何気ない時間の記憶である。
◆◇◆◇◆◇
「は、母上さん……ですか?」
「え……あ、アルモさんのこと……?」
『それに今、"セミラミス"って言ったよね……? あの世界最古の毒殺者で、暴政を敷いたアッシリアの女帝の?』
「ほう……どうやら、お前たちの中に、毒酒を呷る機会に預かりたい者がいるようだな。ならば存分に与えよう……光栄に思え」
『ひっ、ヒィッ!? ごめんなさい!?』
アサシン――セミラミスを呼び出して早々にロマニが見えている地雷を自ら踏み抜き、弄られている。馬鹿なのかと言いたくなるが、ロマニはそう言う奴なので仕方なかろう。
それよりもセミラミスの背後に音もなく回り込む。そして、私は手を伸ばすとギュッと鳩ちゃんを優しく力一杯抱き締めた。
「なっ!? 母上――」
「"また"会ったね鳩ちゃん! ざっと2800年ぶりだ!」
「ぁ……」
そう言うとセミラミスは言葉を止めて息を吐き、切れ長のエルフ耳を赤く染めた。私からは表情は伺えないが、セミラミスを正面から見ている立香たちがなんとなく微笑ましい笑みを浮かべているように見えるため、大方の想像は付く。
そして、周りの生暖かい視線に気づいたセミラミスは、プルプルと震え始め、私の抱擁からやんわりと離れようとするが、筋力E程度のランクしかないサーヴァントが、
「や、止めよ……母上……母上!」
「ああぁ……もう、鳩ちゃんったら……!
「…………ふん!」
「うぼぁー!」
弄り過ぎた上に調子に乗り過ぎたため、セミラミスの宝具――"
更に照れ隠しとばかりに、バシバシと鎖で叩く追撃をして来る。無茶苦茶痛いし、毒でビリビリする。
DV娘! 家庭内暴力反対!
「黙れ我の台詞だ。娘に情欲を掻き立てられる親が居て堪るか。クククッ……2800年……2800年か――キサマ、一切合切変わっていぬではないか!?」
「ママを労れ! ツンデレポンコツガテン系女帝!」
「散逸せよ……ッ!」
「にゃー!?」
「あっ、あのっ! セミラミスさん! それぐらいにしてあげてください! アルモさんには悪気……しかない気がしますけれど話が進まないので!」
あれ? 私、
しかし、マシュの懇願を聞いてくれたようでセミラミスは"
「…………まあよい。おい、愚母。さっさとこの状況を我に説明せよ。汝に喚ばれる上に、周りは他の英霊だらけと来た。何が起こっておるのだ?」
「あー……一応、現地サバだから知識が無いのか。えっとねぇ――」
◇◇◇
とりあえず、人理焼却からこの第一特異点オルレアンに来て、セミラミスとシャルロットちゃんを召喚するまでに辿ったカルデアの軌跡を全て、立香はシャルロットちゃんに、私はセミラミスに説明する。
また、カルデアの面々には義娘である事と、親子の募る話をしたいという事を告げ、説明は2人っきりになれる場所を選び、並んで座りつつ説明を終えた。
そして、全てを聞き終えたセミラミスは片手で目頭を押さえて大きな溜め息を吐く。
「人理焼却側にも愚母がいるのか……」
「アルモちゃんは偏在するのだ!」
「傲るな……ッ! そもそも各特異点全てに母上がいる可能性があると言うことだろう!? 毎回、こうして立ち塞がって来るというのならばこちらの身が持たんわ!」
「あー……それは多分、大丈夫。ジャンヌちゃん程、救いがなく、恥辱にまみれた悲劇的な別れ方をした英雄は他にはそんなに多くはないから、他の特異点では悪くて中立、良くて仲間になってくれると思うよ」
「味方に母上が2人いるだと……? 喧しくて気が滅入りそうだ……」
「私はどうすればいいんだ」
扱いが酷過ぎる気がするが、自分自身でも私が2人いたら普通に煩いと思うので何とも言えないところだな。
「さて……」
まあ、それはそれとして説明は終わったので、親子水入らずの時間を過ごすため、私は隣に座っているセミラミスを抱き寄せ、片手で頭を撫で、もう片方の手で背中をゆったりとした間隔で優しく指で叩き、子供をあやすように扱って見せる。
すると今度は私から逃げようとすることはない。それどころか、セミラミスから私に少し身を寄せて、体重を預けて来た。また、俯いているために表情は伺えないが、親として大方どんな顔をしているか想像がつく。
「本当に……母上は何も変わっておらんのだな」
「ええ、私はずっと私のまま。本当に久し振り……鳩ちゃん。また会えてよかった」
「…………ん」
それだけ呟いて、セミラミスは何も言わずにただ私に寄り掛かる。私はそのまま彼女を撫で、時が許すまで暫くそうしていた。
◆◇◆◇◆◇
(あ、あれが真祖アルモーディアですか……。なんかこう……与えられた知識と随分印象が違うような……)
(まあ! 本当にお母様なのね!)
(あれ……なんか彼女、たまに僕の演奏会で見掛けたことあるような……?)
(み、皆さんお静かに……! 聞こえてしまわれます!)
(あはは、多分、アルモさんは気づいてるんだろうなぁ)
現在、親子らしく仲睦まじげな様子のアルモーディアとセミラミスを、新しく加わった3体のフランスのサーヴァント、1体のデミサーヴァント、1人のマスターがこっそりと眺めていた。
と言うのも代表して、マシュがアルモーディアを呼びに来たところ、このようにとても声を掛けにくい状態だったため、どうしたものかと隠れて眺めていたところ、そのマシュを呼びに来た者が、ひとりまたひとりと加わり、このようになったのである。
ちなみにシャルロット・コルデーが印象と違うと言っている理由は、聖杯の必要最低限の知識を持つからであろう。と言うのも真祖アルモーディアは真祖の姫アルクェイドの誕生以前、唯一魔王を屠り続けた史上最強の真祖であり、未だに神代最高の幻想種の一体という極めて客観的な認識だったことが理由である。故に冷徹な生きる戦略兵器のようなイメージだったのだ。
「さて……そろそろか」
するとアルモーディアがそう呟き、少し名残惜しそうにセミラミスから手を離す。そして、真っ先に5人の方へ目を向けると立香と目を合わせた。
セミラミスに気付かれる前に戻るよう訴えているように感じた立香は、全員を引き連れて仮拠点に戻り、それを横目で確認してからアルモーディアは本題を切り出した。
「鳩ちゃん……いや、女帝セミラミス。君の宝具――"
「…………相変わらず、母上は何でも知っているのだな」
「真祖の吸血鬼だからねぇ」
「全く……いつもの決まり文句か。まあよい、放恣せよ。母上は我のマスターなのだからな」
それだけセミラミスが告げると、2人は立ち上がり、カルデアの一行が待つ場所まで歩いて行った。
◆◇◆◇◆◇
『"
立香は倒したバーサーク・ライダー――聖女マルタに言われた通り、竜殺しを探して移動する最中、別行動をする事になったアルモーディアの言葉を思い返していた。
"
女帝セミラミスが生前に作り上げられたと伝えられている空中庭園。想像を絶する巨大な浮遊要塞であり、戦略拠点であると同時に陣地形成における大神殿に相当する。その上に内部では、セミラミスのステータスから知名度補正まで激しく強化され、魔法の領域に踏み込んだ魔術さえ可能になるという馬鹿げた宝具だという。
無論、そのようなものを魔力だけで編み出せる筈もなく、現実世界に"虚偽"の代物を持ち込むので、"セミラミスが生きていた土地"の木材、石材、鉱物、植物、水といった"材料を全て揃える"必要があり、さらに中東に存在するある年代以降の遺跡から、土と石を一定量運び、それを組み上げることによってようやく発動準備が完了する。また、三日三晩の長時間の儀式を行う必要があるらしい。
そのため、最低でも4日は必要とするとアルモーディアは言ったのであろう。アルモーディアそのものが、セミラミスの故郷である上に、空想具現化によって材料を全て賄えるため、宝具を造るために離脱したのだった。
「街が見えて――!? 無数のワイバーンに襲われています!」
次の街――リヨンが見え始めた瞬間、街の様子をデミサーヴァントのために強化された視力でもって視認したマシュが叫ぶ。
『サーヴァント反応もだ! それにこれは……交戦しているみたいだ!』
「竜殺しのサーヴァントが戦っているの!?」
ロマニの通信にオルガマリーが叫ぶと共に、カルデア一向は救援のため、リヨンの街に急行する。
そして、誰もが焦燥して安否を心配する中、焼け爛れた街に入り、広場に向かうと遂に、魔剣を構えた銀髪の男性の姿が見え――。
「やぁ、一歩遅かったね」
「……ッ……ぁ…………すまない……」
目の前で銀髪のサーヴァントは背中から素手で霊核ごと貫かれ、倒れ込むと同時にエーテルの粒子となって消えて行った。
「な…………」
立香だけでなく誰も言葉が出なかったであろう。そして、たった今、竜殺しのサーヴァントを殺した者は、つい前日まで行動を共にしていた真祖の吸血鬼――この時代のアルモーディアである。
それまで大なり小なり、全員に意識があっただろう。竜の魔女に与しているこの時代のアルモーディアは、本心からそちらに下っているのではなく、ひょっとするとそのうち、協力してくれるのではないかと。
しかし、そんな淡い期待は、たった今、目の前で絶ち切られた。何より、立香どころか、虞美人ですら見たことがないほど感情のない笑みを浮かべていることにおぞましさすら覚えたことであろう。
それでも立香は一途の想いに賭けて、アルモーディアに問い掛けた。
「アルモさん聞いて! 私たちは――」
「人理焼却が行われ、人理修復を行うために君たちカルデアの徒は奔走しているのだろう? そして、ここは第一特異点。君たちの処女航海というわけだ」
「……え? 全部、知っているの……?」
「――――!? そ、そこまで理解していらっしゃるのなら、なぜ黒いジャンヌさんの側に――」
「まだ、思い出すんだ……」
アルモーディアはマシュの言葉を遮ってそう呟くと、自分を抱き締めて身を震わせた。そして、その赤い瞳から溢れるように一筋の涙を流し始める。
「あの日……あの街だ……。私の妹が十字架に架けられ、つまらぬ信仰の名のもとに焼かれた。あの光景、あの匂い、あの無念……。私は昨日……いや、一瞬前の事のようにさえ思える」
「姉さん……」
ジャンヌが前に出てアルモーディアに対峙する。しかし、目の前にいるのは、紛れもなくジャンヌが精算しなかった過去そのものである。彼女にとって、この真祖は紛れもなく、深く大きな心の傷であり、思い残しであった。
「だから盛大に"
「もう……もう止めてください! 姉さん!? 私は……そんな事は決して望ま――」
「知っているよ。だって私、ジャンヌちゃんのお姉ちゃんだもん」
アルモーディアは、そう言ってジャンヌの言葉を遮ると泣きながら笑う。しかし、その笑みは一切温かみのない冷笑であり、いっそのこと別人だと言われた方がまだ信じられる様子である。
「でも弔いって言うのはねジャンヌちゃん。本当は君のためにするものじゃないんだよ。遺された者たちが……置いていかれた者たちが……心の整理をつけるために執り行うんだ。グリーフワークって奴だね」
「それは……」
「だって、死んだ者が真の意味で甦る事は決してないもの。そんなの最早、魔法だ。だから君はもう私のジャンヌちゃんじゃない、私のジャネットじゃないんだ」
「――――ぅ……ぁ……」
「そう、これは葬儀だ。フランスひとつを道連れにしたただの葬儀。洒落た副葬品でしょ?」
実の肉親からの絶縁にも等しい事を告げられ、言葉に詰まるジャンヌを他所に、アルモーディアは何が可笑しいのか、調子外れに笑い続ける。
その声が響き渡る中、ポツリと呟かれた声が響く。
「誰よお前」
そう言ったのは、元Aチームのマスターにして、アルモーディアに近い真祖の吸血種であり、最も友好の長い友人のひとりでもある虞美人であった。
「誰……? 酷いなぁ……私は私だよぐっちゃん? 真祖なら直ぐにわかるでしょう?」
「ええ、確かにお前はアルモーディア本人よ。でも、私たちはそんなに恨み辛みに固執しないわ。すぐではないけれど……人間と同じように次第に少しずつ薄れるものよ。まして、アルモーディアは飽きもせず、密接に人間の側で暮らし、語らい、最期に立ち会って見送る。そんな馬鹿みたいで……心を磨り減らすような生活をずっとずっと長くしてきたような奴よ? たった1度、小娘ひとり死んだ如きで、そんなに女々しくなるわけないじゃない」
「…………………………」
それに対し、アルモーディアは答えなかった。相変わらず、張り付けたような笑みを浮かべたままだが、今までと比べて少し様子が変わったようにも見える。
それを気にした様子もなく、虞美人はアルモーディアを冷ややかに睨むと、また言葉を吐いた。
「お前……"狂って"いる? それとも"汚染"されているの?」
その言葉にアルモーディアは笑みのまま、薄く目を開き、凍てつくような視線を向けた。それにより、そもそもアルモーディアは笑顔を浮かべてすらいなかったことがわかったであろう。
暫く、アルモーディアは虞美人を見つめた後、小さく溜め息を吐くと、踵を翻して歩いて離れて行きながら、こちらに見えるように片手で軽く手を振った。
「ふぅん……。まあ、目的も義理も果たしたから、後はこっちのジャンヌちゃんに任せる事にするよ。バイバイみんな」
ひとまず、こちらのアルモーディア抜きで、アルモーディアとここで戦闘にはならなかったことに安堵するカルデアの面々。
そして、アルモーディアは去っていく最中、ふと思い出したように首を上げた後、立ち止まると、首だけで少し振り返り、立香へと視線を向ける。
それによって虞美人とオルガマリーを含め、サーヴァントたちが立香を庇うように立ち、それを見て何が面白いのか再び笑うと指を一本立てて見せてから口を開く。
「ああ、そうだ立香ちゃん。折角だからひとつ問題だ」
「問題……?」
そう言って嬉しそうにしている様子は、立香も知るアルモーディアのそれである。しかし、立香にも虞美人が言っていたように、このアルモーディアは決定的に何かが違う違和感のようなものを覚えていた。
「人理焼却の犯人さんを除いて、人間を一番殺したのってなんでしょうか?」
問題なのか、謎かけなのか、そもそも意味などないのか。そんな意味のわからない言葉を吐き捨てると、アルモーディアは振り返るのを止め、今度こそ去って行く。
その様子にカルデアの者達は言葉もなく、ただ眺めることしか出来ず――通信越しのロマニに多数のサーヴァントとそれ以上の大型の神秘――邪竜の到来を告げられたことでようやく我に返った。
アルモちゃんってシリアスも行けるのか(困惑)
作者に一言
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毎秒投稿しろ
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体に気を付けて毎秒投稿しろ
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アルモちゃんのバレンタインイベは?