TS光堕ち真祖アルモちゃん   作:ちゅーに菌

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アルモちゃんとチーズ

 

 

 

 

「あら……?」

 

 ある日、コノートの女王メイヴが早朝に日課の水浴びをしていたときのこと。池の向こう岸にいる男女の二人組を目視した。

 

 それは点に見えるほど離れた距離であり、覗きにしては遠過ぎたため、通常では目視出来ない程の距離であったが、彼女はコノートの女王メイヴ。視力も極めて高かったため、その二人組をはっきりと見ることが出来た。

 

 その片方はメイヴとどこか似た顔つきの男――コンヴォル王の子息であるフォアベイであった。それは母でありメイヴの妹でもあり、メイヴによって殺されたクロホラの息子である。

 

「――――――」

 

 だが、メイヴにとって問題はもう片方の女であった。それは、人を超え、神を超え、夜空の星そのもののような異様な美しさを秘めた金髪の女であり、それを目視したメイヴは心を奪われ、ただ彼女を眺めることしか出来なかった。

 

「――――この私が……!?」

 

 我に返ったメイヴは心底驚き、苦虫を噛み潰したような表情でそう吐き捨てる。なぜなら美しさとはメイヴにとって、己そのものを表す概念に他ならなかったからだ。

 

 言わば美の神が、他所の美の前に言葉すら出せずに敗北したようなもの。これほど、メイヴにとって恥辱なことはないだろう。

 

 それと同時にメイヴは"アルスターの地に女神よりも美しい怪物がいる"という噂が、このコノートでも実しやかに囁かれていることを思い出す。所詮、噂だろうと高を括っていたメイヴだったが、あの女がその存在だと半ば確信させられていた。

 

 そして、怒りに身を震わせながら、再び二人を眺めると――。

 

 

 何故か見るからにとても硬そうな"丸いハードチーズ"を二人とも抱えていた。フォアベイはギリギリ片手で持てるほどの大きさであり、女の方は直径1m程の巨大なモノである。

 

 

「はぁ……? なにそ――」

 

 意味がわからな過ぎる光景にメイヴは呆れたような、困惑したような声を上げ、その最中にも二人は片手でチーズを掴みながら足で地面を踏みしめ、腰を落とすと、とてつもなく綺麗な野球の投球フォームのような体の運びで、チーズを投擲した。

 

「――れ」

 

 女のチーズ――投球ならぬ投チーズの瞬間から物理法則を無視して加速し、池の中央で音速の壁を突破しており、メイヴが言い終えた時点で眼前にチーズが迫っていた。直径1mのチーズが池を割る程のソニックブームを出しながら目の前に迫る光景はあまりに滑稽だが、そんなものが当たれば――。

 

 

「――ぇ゛!?」

 

 

 人は死ぬ。

 

 メイヴはチーズの魔球が胴体にもろに直撃し、その破壊力のみで体内のほとんどの臓器が破裂した。鍛えられた体により、肉体の原型だけは保てているのが唯一の救いだろうか。

 

 メイヴはチーズに轢かれ、体を弾き飛ばされながら、呆けた最期の言葉を上げる最中、残っていたフォアベイのチーズが頭部へと直撃する。

 

 それは女ほどの破壊力も速さもなかったが、メイヴの甥という、かなりの血筋を持つ男の投げたチーズも凄まじい威力である。それは容易くメイヴの頭蓋を割り、最期の思考さえ許さず、その命を刈り取った。

 

メイヴへ後世に語り継がれるほどの恥辱にまみれた死を与え、復讐を遂げたフォアベイは歓喜の涙を流し、"師"という言葉を口にしつつ女に抱き着いていた。

 

女はそれを甘んじて受け、母のような優しげな表情でフォアベイの頭を撫でながら諭し、二人は足早にその場から去って行った。

 

 かくして、女王メイヴは死んだ。投げたチーズに殺されるという。数ある女王の中でも特に珍しく、誰からにも鼻で笑われるような結末を与えられて。

 

 

 

 

 

 女の音速を超えたチーズの異音に驚いたコノートの兵士たちが駆けつけると、そこにはメイヴの亡骸と血塗れのチーズが転がっている。

 

 呆然とする他ない状態であるが、ひとりの兵士は大きな方のチーズに文章が刻まれていることに気がつき、それを読み上げた。

 

 

 "クーちゃんの仇!"

 

 

「邪魔するよ」

 

 その直後である。兵士たちの隣に当たり前のように金髪の女がおり、小さい方のチーズを持ち上げると、そのまま池に向かって行き、チーズを水面につけてちゃぷちゃぷと付着した脳液や血液を洗い落としているではないか。

 

 しかし、その女性の姿を見たコノートの兵士たちは思い出す。

 

 

 それはアルスターの地に女神マッハの呪いがかけられ、壮年の男性達が皆、産褥にある女性と同じ苦しみを味わわされ、本来の戦士としての力を発揮できない状態にあったときのことである。

 

 それを好機と見た女王メイヴは、一頭の牛のために軍勢を送った。そのときにまだ青年だったため呪いを受けなかったクー・フーリンが奮闘したのだが、そんな中でクー・フーリンを避けてアルスターの地を進軍した軍勢は更におぞましいものを目にしたのだ。

 

 それは平原にポツンと置かれた岩に腰掛ける女神すら霞む程の美女と、その周囲一帯に転がる、無数のコノートの兵士たちであった。

 

 新しく来たコノートの兵士たちを目にした美女はそちらに目を向けると、にこりと微笑み掛ける。それはこの世のものとは思えない美しさと儚さを内包し、コノートの兵士たちが目を奪われた直後――。

 

 一斉に白目を剥いて昏倒し、彼女の視界に入ったコノートの兵士たちは等しく同じになった。

 

 美女は微笑みを止め、つまらなそうな表情になると、倒れた者たちから視線を外す。そして、またコノートの兵士たちがやって来るのをじっと待った。それは美女などではなく、人でも神でもなく、同じ土俵に並び立つことさえ出来ないような怪物だったのだ。

 

 そして、怪物の名は"アルモーディア"と言い、それが今まさにここにいたのである。

 

 

 全てを思い出したコノートの兵士らは恐怖する。あの怪物が今度はコノートに来て、女王メイヴを殺したのだと。誰一人としてその場から動こうとする者はいなかった。

 

「よーし、洗えた。お酒のツマミにしよっと」

 

 それだけ言い残し、アルモーディアの体が幽霊のように薄れていく。遂には透明になったかのように消え、それっきり彼女の姿はどこにもなく、静かに湖畔が揺れるばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち、チーズ……うぅ……はっ!?」

 

 オルガマリーは奇っ怪な夢から目を覚ました。

 

(な、なによ……今の神話に喧嘩売ってるような夢は……?)

 

 無論、そんな記録は人間にはない。真祖が人間とチーズをぶん投げて女王メイヴを殺したなど、いったい誰が信じるというのか。子供に聞かせるお伽噺の方がまだ現実的であろう。

 

 我ながらとんでもない夢を見てしまったと、オルガマリーは驚愕する。そして、まだ寝惚け眼で絶妙に硬く柔らかい枕から体を起こした結果、何かとてつもなく弾力のある物体に顔をぶつける。

 

「……? なにこれ――」

 

「お酒飲みたいなぁ……チーズフォンデュが食べたいなぁ……」

 

「――――!?」

 

 次の瞬間、自身の真上から忘れもしないアルモーディアの声が響いて来たため、オルガマリーは硬直した。

 

「ん……? なんだ、起きたのか」

 

「ぴぃ!?」

 

 すっとんきょうな叫び声を上げつつ今の状況を全力で確認するオルガマリー。すると、よく見れば顔に当たったモノはアルモーディアの胸であり、膝枕をされていた状態であることに気づく。

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

 そして、それを理解した瞬間、オルガマリーは脱兎の如く膝から跳ね落ちながらも離れようとする。

 

「……おい、今私から離れるのは危ないよ?」

 

「た、たすけ……助けてぇ!?」

 

 腰が抜けたのか、這いながら逃げるオルガマリー。それを見ながらアルモーディアは溜め息を漏らすと、"ジェイソンにでもなった気分だ"と呟きながら立ち上がる。

 

「あ……」

 

 オルガマリーは恐怖から後ろを見ることが出来ず、すがるように前を見ると、そこには弓を構えて彼女を狙い澄ますスケルトンの姿があった。

 

 死ぬと考えた次の瞬間、オルガマリーの前に影ができ、矢が風を切る音と共に肉に突き刺さる音を聞く。

 

「痛いなぁ……もう」

 

 それはオルガマリーを庇って腕に矢を受けたアルモーディアであった。彼女は半眼で突き刺さる矢と、矢を放ったスケルトンを交互に見てから、腕の矢を引き抜く。

 

 そして、矢をダーツのようにスケルトンに投げると、アルモーディアの手を離れてから矢が急加速し、スケルトンの額に突き刺さる。それだけで簡単にスケルトンは崩れ去っていった。

 

「よっと……」

 

 それからアルモーディアはオルガマリーを地面に座らせ、自身はしゃがみ込んで目線を合わせる。

 

「今、マシュちゃんが宝具を使えるようにするために、キャスニ――キャスターがルーン魔術で敵寄せしたり、キャスターと戦ったりしている最中なんだ。だから私から離れるとはぐれたスケルトンに殺されるぞ? ああ、ヒナちゃんはDr.ロマンに話を聞かれてるから――」

 

「わ、わかった……! わかったわ!」

 

「よろしい」

 

 途中で言葉を遮りながら全力で頷くオルガマリーに、納得したのかアルモーディアはそれだけ言うと、さっきよりは大人しくなった彼女を立たせ、近くの椅子代わりになりそうなコンクリート片に座らせた。

 

「えーと……それでなんだけど……」

 

 何故か歯切れが悪そうに少し頬を赤く染めながらポリボリと指で自分の顔をなぞるアルモーディア。その様子を奇妙に思っていると、どこからともかくある物体を取り出した。

 

 それはオルガマリーにはとても見覚えがあった。具体的に言うと今朝穿いた覚えのある物体である。

 

「はい、"マリーちゃんのぱんつ"」

 

「……………………え?」

 

 それは黒の女性用パンツであり、"大人な色気を醸し出す"との触れ込みでオルガマリーが購入したちょっと背伸びしたパンツであった。

 

 それを見せつけられると共に、オルガマリーは急に下半身がとてもスースーする感覚と、コンクリートのざらざらとした冷たさを同時に感じ始める。

 

 そして、アルモーディアはトドメの言葉を投げ掛けた。

 

「私にビックリしてマリーちゃんが失神したときにさ……その……マリーちゃん漏らしちゃってさ。流石に悪いと思って、お姉ちゃんが空想具現化で洗濯しておいたよ」

 

 "乾燥もアイロンもバッチリさ!"などと続けるアルモーディア。しかし、オルガマリーの耳には最早入っていなかった。

 

 そして、全てを理解し、思考する段階に戻ってきたオルガマリーはゆでダコのように顔を真っ赤にし、手で顔を隠しながら口を開いた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 それは恐怖や恐れではない。女性としてのプライドと、女の子としての気持ちが全て踏みにじられたような慟哭であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロして――」

 

「どうしちゃったのよ所長……?」

 

「なんか、パンツ返したらこうなっちゃった」

 

 現在は大聖杯が置かれた場所に繋がる洞窟の前にレイシフトした全員とキャスターのクー・フーリンがいた。また、どうやら芥ヒナコはまだ人間として通せているようである。

 

 ここにいるヒナコを含む4人と一匹だけに知れたのならまだ救いようもあっただろう。しかし、非常事態のため通信環境のある部屋に、カルデアに残ったほぼ全てのスタッフが情報欲しさに集まっているため、Dr.ロマンの通信を通して、自身の失神から失禁までが全て知れ渡ってしまったのである。

 

 それに気づいたオルガマリーは死んだ魚のような目で壊れたラジオのようになってしまったため、アルモーディアがおんぶして運ぶことになった。

 

 ここにいる全員がしている生暖かい目が、更にオルガマリーを傷つけるため、暫く彼女は立ち直れそうにない。折角、マシュが宝具を使えるようになり、大聖杯の許に向かうところなのだが、何とも言えない空気になってしまった。

 

「クーちゃん。ところで、残っている取り込まれたサーヴァントのクラスはなんだ?」

 

「ああ……セイバーとアーチャーとバーサーカーだ。でもバーサーカーは放っておいても問題はねぇ」

 

「バーサーカーなら途中で殺ったぞ。というか、レイシフトした場所にいやがった。一回殺られて、痛かったぞ全く……」

 

「………………お前、相変わらず貧乏クジ引きまくってんなぁ……」

 

「クーちゃんにだけは言われたくないな、幸運値Eでいつもロクな目に遭わないクセに……ああ、今はキャスターだからDだっけ? 一段変わるだけでこんなに変わるのか…………槍が呪われてんじゃね? 捨てろよ」

 

「うるせぇ! ……あん? なんでオレがランサーのときのことまで知ってんだよ?」

 

「ガイアの精霊だぞぅ! 真祖だぞぅ!」

 

「昔からぜってぇ答えねぇことには、それでゴリ押すよなお前……」

 

 そうは言うが、クー・フーリンはそれ以上言及する気は無いらしい。触らぬ神に祟りなし、というよりも親しき仲にも礼儀ありといった様子であろう。

 

「さてと……ちょっと皆、マリーちゃん見ててくれない?」

 

「いいけど、アルモさんはどうするの?」

 

 オルガマリーを他の者に預け、首を鳴らしながらそんなことを言うアルモーディアに立香はそう問い掛ける。すると彼女は当然のように口を開いた。

 

「なーに、後2体ならどっちかは大聖杯とやらの手前にいるでしょ。だったら片方は炙り出せるかなって」

 

「炙り出す……ですか?」

 

 アルモーディアが何をしようとしているのか理解出来ず、マシュが問い掛けるとアルモーディアは洞窟の入り口にしゃがみ込んで、地面に片手を置いた。

 

「うん、そう。可哀想だよねぇ。真祖相手なのに"天然"の洞窟にいるんだからさ」

 

 次の瞬間、アルモーディアの全身から赤い光が溢れ、かなり大規模の地鳴りが起こった。

 

空想具現化(マーブル・ファンタズム)

 

 そして、次第に地鳴りは収まったが、まるで洞窟の中の天井が大規模に滑落し、奥から出口(ここ)に向かって崩れてきているようなあり得ない異音と振動が響いており、それは徐々に強まっていった。

 

 アルモーディアは立ち上がると、腰を落とし、利き腕を前に突き出しつつ、もう片方の腕を引いて構えを取った。そして、待っていたかのように笑顔で一言呟く。

 

「ハロー」

 

「クソっ!? いったい、なんだというのだ!?」

 

 すると洞窟の入り口から、明らかに焦燥した様子で走って出て来たのは、左右の手に中国刀を持っている男性のシャドウサーヴァント。セイバーという風体ではなく、泥に呑まれている様子からアーチャーのシャドウサーヴァントだろう。何故か土埃まみれにも見える。

 

 マシュと立香は臨戦態勢になったが、クー・フーリンは特に構えを取らず、既に戦闘は終わったかのような様子でポツリと呟いた。

 

「アイツも運がねぇなぁ……」

 

 アーチャーは咄嗟の判断でアルモーディアに剣を振るう。得物によるリーチ差もあり、相手が退くことも十分に考えられるため、その判断は間違ってはいないであろう。

 

 尤も、相手が真祖の徒手武術家でなければの話であるが。

 

 アルモーディアはアーチャーの初撃を全く避けずにその身に受けながら、体を滑り込ませつつ引いた方の腕を瞬時に伸ばして手首を掴む。攻撃中のアーチャーは容易にそれを許した。

 

「しま――」

 

 そして、前に突き出すように構えられた利き手でアーチャーの胴体に打撃を加えつつ掬い上げ、手首を掴みながら後方の地面に叩き付けた。

 

「がぁッ!?」

 

 "当て身投げ"。様々な武術で使われてきた古典的な技である。無論、真祖の身体能力から繰り出されるそれは、想像を絶する威力と衝撃であろう。

 

 アーチャーは地面に叩き付けられて怯むが、アルモーディアは彼の手首をまだ離しておらず、そのまま利き手の爪を立てる。そして、繰り出された真祖らしい爪による一撃により、アーチャーは全身を引き裂かれて消滅した。

 

「いやー、パンクラチオンなんて使ったの、いつ以来だろうなぁ……忘れてなくてよかった、よかった。プラトン先生やケイローン先生に感謝だな」

 

 そう言いながら笑うアルモーディア。一部始終を見ていたマシュ、立香、そしていつの間にか復活していたオルガマリーも唖然とした表情で彼女を眺める。

 

 アルモーディアを知っている芥ヒナコはいつものこととでも言わんばかりの表情をしており、クー・フーリンは己が今キャスターであることを嘆くような目で彼女を眺めていた。

 

 

 

 







Q:なんで所長はアルモーディアに魔術ぶっぱなして逃げたりしなかったの?

A:CP(カリスマパワー)が0になると全ての能力が使用不能になります(適当)

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