「ふぃー、飲んだ飲んだ」
新宿の繁華街を私はのんびりと歩いている。先程マスターに無理を言って作ってもらった。ウイスキー入りのライオットブラッドケーキの所為でほろ酔い気分になりつつしっかりと帰路を進む。
私の名前は……覚えても仕方ないだろう。「名もなき暴徒」とでも呼んでくれ。大手とは言わずとも中堅の商社に勤める私は職場の先輩に勧められて飲んだライオットブラッドというエナドリの虜になっており、掲示板などで他の暴徒達とよくオススメの店の紹介なんかをしている。
暴徒と言っても4本の先にある「合法堕ち」には至って居ない模範的でどこにでもいる暴徒だ。趣味はVRゲームをする事だが、他にも色々な趣味を抱えている。
今の時間はそろそろ10時を過ぎ、周囲では飲み会や二次会が大きな盛り上がりを見せている。そんな喧騒の中をフラフラと帰っている、そんな時だった。
“ドタドタドタ”
「居…ぞ。……の角……」
「…から回……。こ……は頼……」
「…として…捕…えろ」
横の路地から明らかに誰かを複数人が追いかけているような物音。そして路地の奥に一瞬見えた真っ黒なサバトの参加者でも着て居そうな服装。
「…………」
どう考えても怪しい。そして危険そうだ。だが、ウイスキー入りのライオットブラッドケーキを食べた私は
“…………”
先程までの喧騒が嘘のように路地は静まり返っていた。普段ならばのんだくれかや怪しい薬品を売っていそうな男なんかが一人や二人居るはずなのだが路地に入ってから一度たりともそう言った輩を見かけない。ふと私は以前アニメか何かで見た人払いの魔法なんて物を想像したが、幾ら何でもそれないだろう。先程路地の入り口近くで警官達を見かけたのできっと彼らに補導されるか逃げるかしたのだろう。
“ダッダッダッ”
その時、路地の奥から一人の男が駆けて来た。この時期らしいクールビズなスーツに仕事用鞄を手に持ったどこにでもいそうな男だ。
「ちっ! こっちにも回り込まれたか…………いや違うな。誰だお前は」
いやそっちこそ誰だよ。
頭の中ではそう考えつつも身体は自然と動いていた。
「初めまして。私、グランドスプリーム系列の子会社スプリームビジット所属の◯◯と申します」
「ああ、ご丁寧にどうも。私は株式会社スワローズネスト……ってそうじゃない! あんたはあいつらの仲間じゃないのか?」
「あいつら?」
「…………どうやら本当に無関係な人らしいな」
私が心底不思議そうな顔をしていると、男は何かわかったらしく。安堵の息を漏らした。
「……! そうだ!」
すると突然男は手帳を取り出しページを一枚破くと何かを書き始め、書き終えたメモと手帳を私に渡して来た。
「その住所にある会社にこの手帳を届けてくれないか? 勿論報酬はしっかりと払う」
どう見ても怪しい仕事だ。普通こんな物を受けるのはフィクションの中だけだろうが、
「よくわからんが任せておけ!」
「ありがとう。この恩はいつか必ず」
そう言って男は追っ手達とおぼしき奴等を惹きつけるためにか、大きめの音を出しながら夜の暗闇へ消えていった。
〜翌日〜
「……ここか」
今日は素晴らしき土曜日。やる事もなかったので早速メモに書いてあった会社にやって来た。
【山本人材派遣】
会社について調べてて薄々察してはいたがスワローズネスト所属ってのは真っ赤な嘘で、やっぱり昨日のやり取りからしても興信所の様な会社なのだろう。
「えーっと? 受付で広報の松本課長に森本の代理でと伝える、と」
これも何かの暗号みたいなものかもしれんが私にはさっぱりわからない。
メモに書いてあるように伝えたら応接室のような場所へ案内された。
「どうも。広報課長の松本です。早速ですが森本の代理とのことですがどう言った要件でしょうか?」
「昨日の夜、新宿でその森本? さんにこの手帳を届けて欲しいと言われましてね。誰かに追われているみたいでしたね」
「それは……失礼、その手帳を確認させて頂いても?」
「どうぞ」
すると松本さんはペラペラと手帳を捲り、時折手を止めて何かを確認するといったことを何度か繰り返し、不意にパタンと手帳を閉じた。
「これは間違いなく森本の物ですね。届けて頂き本当に有難うございます。後程謝礼を振り込みたいので口座などを伺ってもよろしいでしょうか?」
「ええ。構いませんよ」
「ありがとうございます。……ところで一つ疑問があるのですがお尋ねしても?」
「何ですか?」
「私が言うのも何ですがどうしてこんな怪しい事を請け負ったのですか? 別に届けなくても貴方に害は無いと言うのに」
「ああ、それですか」
「はい。どうしてもそれが気掛かりでして」
「お恥ずかしい話ですが昨晩の私はかなり酒が回っていたのでポンポンと依頼を受けてしまったのですよ。そして、どうも昔から一度受けた頼み事は断れない性格をしてる物ですからついついここまで届けてしまった、と言うわけです」
「なるほど。ですが今私は貴方のその性格に助けられているのですからそう謙遜する事も無いと思いますよ?」
「そう言ってくれると幸いです」
その後も松本さんと暫く雑談を交わし、昼頃に【山本人材派遣】をから家に戻って来た。
「さて、と」
私は玄関のドアがしっかりと閉じているのを確認して家中のカーテンを閉じる。
日光を遮り人工的な灯りに包まれた部屋の中で私は懐から一枚の紙切れを取り出す。
昨晩渡された【山本人材派遣】までの行き方とその後の手順が書かれた紙だ。だが重要なのはそこじゃ無い。真の目的はこの
他のページの内容が殆ど読み取れない中、このページだけが普通に書かれていた。そしてその言葉こそが今の私を駆り立てている。
メモに書かれていた内容はこうだ。
“黄金の