War Robotsー宇宙からの侵略者ー   作:K.Miho

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プロローグ

 暗い洞窟の中に一冊の手記が落ちていた。

 

『この世界にはロボットがはびこっている。2100年までに機械工学が大きな進歩を見せたのもつかの間、各国の技術がインフレを起こした。人より優れた知能、何十倍ものパワーとスピード、そして燃料が切れない限りは死ぬことがない。どれをとっても人が敵うはずがなかった。

 

 人はだんだんとロボットに決定を委ねるようになり、「夕飯の献立」と告げれば、近隣のスーパーから安い具材のデータを入手し、かつ健康面を考えた献立になるように「お買い物メモ」をロボットが作成する。そしてそれを見て人が買い物をし、帰ってくると、次はロボットから指示される通りに、野菜を切って、炒め物をする。

 高齢者には介護ロボットがあてがわれ、排泄や入浴の補助から話し相手まで様々な業務をこなすようになった。このような社会的なロボットには感情といった人間らしさが重要であり、そのため人間らしいロボットもいくつか誕生した。そして、ついにはプログラムの範疇を超え、「自我」を持ったと言えるロボットも出現し始めた。

 

 このようにロボットの発展に伴い人間の業務は取って代わられ、多くの職業が衰退する一方で、何とか雇用を創出しようと試みた政府のおかげもあり、機械関係の職は増えた。壊れたロボットを修理するための「ロボット病院」を筆頭に様々な分野が生まれた。また機械の知識やスキルの無い者は、くすんだり傷ついたりしたロボットを磨く、靴磨きならぬ、「ロボ磨き」のようなことを生業(なりわい)にしている者もいた。さらには「自我」をもったがゆえに「悩む」という心が出てきてしまったロボットのためのカウンセリングも人間が行った。』

 

 

「なによこれ」

「さぁ、誰かの日記でしょうか」

「次のページにも続いているわね。続けてちょうだい」

 

 

『人々は生活を楽にしようとロボットの導入を試みたが、結果としてロボットの地位は相対的に上がり、時にはロボットが”よりよく生きる"ために人間が働いていると感じられる場面も多くなった。

 

 このような風潮は、政治・経済・外交など様々な側面で見られた。総理大臣を決定するのもロボットが担っているし、外交もロボット同士が通信によって執り行っている。そこに人が関与することは少なく、会議で決まったことをロボットが人々に伝え、それに従い内政を行う。これが世界の仕組みであったのだ。しかしそれを快く思わないものもいた。

 

 あくまで我々人類が主導権を握るべきであり、ロボットは人類の絶対的な支配下に置く必要があると主張する支配派の出現である。他方で、過去の膨大なデータを元に、最適な判断を下ことのできるロボットに様々なことを任せるようになってから、改善した問題が多くあったことも事実である。その最たる例が国際問題の解決だ。というのもロボットたちが私怨や妬み、プライドなどなしの純粋な"話し合い"により議論を進め、非常に理性的かつ円滑に物事が進んだからである。このような利点を強調し、ロボットとともに生きていこうと主張したのが共存派である。

一応、折衷案を提案するものは一定数居たものの、両者の対立は深まるばかりであった。そのようななか痺れを切らした支配派は遂に戦闘に特化したロボットを製作し、共存派に戦争を仕掛けた。このことによって争いの火蓋が切って落とされ、いよいよ戦争は本格化した。第三次世界大戦である。

 

 戦闘用に作られたロボット同士の戦いは熾烈(しれつ)を極め、無数のパイロットが命を失った。また、ロボットはたった数機でひとつの町を壊滅させられるぐらいのパワーはある。そのため犠牲者は、数億人をゆうに超えた。

しばらくして両派閥は疲弊し、一旦和平協定が結ばれた。しかしそれも束の間、水面下では新たなプロジェクトが動いていた。ウイルス兵器の開発である。戦闘用ロボットを使って戦っていたらどうしても町は破壊され、修理費用もかさむ。そのため人間のみを効率的に始末するにはウイルス兵器が手っ取り早かった。

 

 そうして24世紀半ば、遂にウイルス兵器を用いた全面的な攻撃が始まった。各々が開発していた独自のウイルスを対立派閥にまき散らす。それぞれのウイルスの作用機序は全く異なるものの、唯一共通しているのは感染したが最期、確実に死に至るということだけであった。優秀な科学者達が何年も研究した兵器である。効き目は抜群であった。弱~中規模の国家から敵の勢力を削っていく。もちろん強大な国は万全な対策をしているので、ウイルスによる被害は最小限にとどまっていた。

 

 しかし事件が起きた。ウイルスが科学者も予測できなかった突然変異を起こしたのである。その変異の結果として従来よりもかなり強力になったウイルスを防ぐ術はなく、あっという間に世界中に広まった。 そして、一人、また一人とネズミ算的に死者が増加していき、現在の世界人口は100人を切った。

 

 以上がこれまでの報告だ。今後のことは神のみぞ知るというやつだ。』

 

 

「これで終わり?」

「はい、そのようです。先輩何か分かりましたか?」

 

 女性には似つかわしくない汚い作業着を着た人物が、手記をじっと眺めながら尋ねる。

 

「いや、さっぱり分からないわ。過去にこのような事実があったという報告は聞いていないし、おおよそ誰かが書いた小説の一部か何かでしょう。」

「そうですよね。ロボット同士の戦いなんて聞いたことないですもん。漫画じゃあるまいし。」

「まったくね。」

 

 そうぼやきながら2人の考古学者は遺跡の探索を続けた。このご時世、手作業で遺跡探索だなんて一般人の目には馬鹿げているようにしか見えない。しかしこれは国から受けた最重要の極秘命令である。魔法のようにちゃっちゃっと終わらせるわけにはいかなかった。

 

「先輩、もう限界です。死にそうです。」

「はいはい、分かった分かった。死んでも調査はしてもらうからね。」

「うわぁぁ、鬼だぁって、痛てて。もう先輩、急に立ち止まらないでくださいよ。」

 

 先頭を歩いていた先輩考古学者の背中に思いっきりぶつかったにも関わらず、彼女は前を向いたまま微動だにしなかった。それはまるでコカトリスにでも睨まれたかのように、あるいは石化の魔法でもかけられたのように直立不動のまま、ただ眼前を見つめていた。

 

「ちょっと先輩、そこに何かあるんですか? 狭くて一人通るのもやっとなのに、先輩が立ちふさがってたら私は何も見えませんよ~。もしもーし。」

 

 何度呼んでも呆然と立ち尽くしたままの先輩を半ば無理やり押しのけ、ようやく目に入ってきたのは、壁一面に文字が刻まれている小さな部屋だった。

 

「……。なにこれ。」

 

 後輩考古学者があまりの凄さに思わず声を漏らす。

 

「おそらく、史書だと思う。紙ではなく石に、本ではなく壁に記されているけどね。」

「それによく見たら、壁だけではなくてそこら中に文字の彫られた板みたいなのも積まれていますね。」

「そうね。とりあえず解読してみるしかないわね。」

 


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