War Robotsー宇宙からの侵略者ー   作:K.Miho

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旅立ち_3

「それで、長老、すでに事態はお聞きしていますか?」

「ああ、新聞配達のコサック君から聞いておるよ。侵略者が現れたのじゃろう」

「そうです。どうもあのアメリカが落とされたらしくて」

「うむ、それで推測するにこの国からも討伐部隊を出すのであろう。ただしおおよそ人数が集まらなくて困っているのではないかね?」

 

 レオはぎくりとした。さすがは長老というわけだ。この国のことは良くわかっておられる。

 

「お恥ずかしながらそういうことです。円卓の騎士たちには声をかけたのですが、結局3機しか集まりませんでした」

「さようか。まぁ、長旅になるうえ強敵なのは確実。気が進まないのも無理はないであろう」

 

 話しぶりからして長老は全てを把握している様子であった。それに加え、すでに作戦を立てているのか世界地図を持ってきていて、おもむろに机の上に広げ始めた。

 

「さて、我々の国はここだ。この大きな大陸の最西端の小さな島国。かつての人間はブリテン島と呼んでおったかの」

「はい、それは私のデータベースにも入っております」

「それで、アメリカはここだ」

 

 長老はキャッスルがあるブリテン島の更に西の方、海を越えた先の大陸を指さした。

 

「それではやはり海を渡らなければなりませんね。急いで戦艦の準備を……」

「いや、そう焦るな」

「すみません」

「おそらく今の編成のまま行っても返り討ちにされるのが目に見えておる。それでだ、」

 

 長老は一呼吸おいてから話を続けた。

 

「伝説のロボットの元へ行き、協力を求めるべきだ」

「伝説のロボット……ですか?」

「そうだ、わしの昔の知り合いに"クミホ"というものがおる。そのものは極東の伝説のロボットの1機と言われていてな、とても同じロボットとは思えぬその俊敏な機動性を活かして敵を殲滅させる」

 

 クミホ、それは大陸の東のまた東、極東にいる伝説の機体の1つである。

 

「それでそのクミホは具体的にはどこにいるんですか?」

「いや、それが分からないのだよ。昔、まだこの世界に人間が溢れていて戦争をしている時に一度助けてもらったっきり」

「それでは今どこに居るのかも全く分からないということですか?」

「いや……」

 

 そう言って長老は懐から何かを取り出した。

 

「これは……? ペンダント?」

「そうだ。昔彼女からもらったものだ。わしに何かあった時、必ずこれが役に立つはずだと言って手渡されたものだ。手がかりはこれだけしかない」

 

 レオは長老からペンダントを受け取りじっくりと眺めた。そこには文字が彫られていた。

 

『そう呼ばれている理由はなんだろうと思っていた。やっとわかった。こいつは俺の心を奪った。きっといつか俺を墓場に導くだろう。』

 

 レオはその言葉の意味については詳しく聞くことを躊躇った。もちろん質問すること自体は悪いことではないだろう。しかし何故か聞いてはいけない気がしたのである。

 

「それで極東までのルートだがな……」

 

 長老は再び地図に注意を向けた。目的地はブリテン島から東へ、そのまた東へ行ったところにある。"極東"という言葉の意味は理解しているつもりではあったが、改めて地図上で見てみるとおそろしく遠い。

 

「そしてまず向かうべきところはここだ」

「ここは、ローマですか」

「そう、ローマだ。かつての帝国時代から考えればずいぶんとその勢力は落ちてきているものの、技術力はこの世界屈指。必要な装備を調達するうえでも立ち寄っておくべきであろう。それに兵士を集めるにも都合が良い」

「分かりました」

「それとじゃ。侵略者の影響なのか、制御できなくなったロボットが襲ってくるという事件が世界中で多発しているそうじゃ。くれぐれも気を抜かぬよう彼らに伝えてくれぬか」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 そういってレオは急いでランスロット、ガラハッド、ガレスを招集した。作戦会議や必要物資の調達などに時間がかかり、結局出発は翌朝となった。侵略者のニュースが知らされてからちょうど丸一日が経った。

 

「それではランスロット、ガラハッド、ガレス、諸君に重大な任務を与える」

 

 レオ国王は改めて正式な命令を下す。

 

「侵略者をぶっ倒してこい!!」

「「「はっ!」」」

 

 3人は息を揃えてレオの呼びかけに応答した。当初は乗り気ではなかったガラハッドも今ではそんな様子を見せない。父ランスロットの無茶にこれまで付き合わされてきたのであろう。ランスロットは決めたことは必ず成し遂げる性格である。何を言っても無駄なことは学習済みということか。

 

「さぁ、お前たち、母さんに挨拶をしてからいこうか」

 

 ガラハッドの母、すなわちランスロットの妻は、彼らに負けないほどのごつい図体をしている。彼女はその体躯もさながら、声も図太くて大きく、男性に劣らないパワーを持っており、決して"女性らしい"というわけではなかった。しかし大らかで面倒見が良く、家族のことをいつも気にかけている。

 他方でガレスには家族が居なかった。両親に捨てられ、一人とぼとぼと歩いていたところを旅に出ていたランスロットに拾われたのである。それ以降ランスロット家のもとで生活をしており、今ではもう家族の一員だ。

 

 ガラハッドが家のドアを開ける。この軋む音を聞くのもしばらくお別れかと思うと少々しんみりとした。そして何より無事に帰ってこられるのであろうかという不安も頭のどこかにはあった。しかしそれをあえて意識してしまうと、底のない深緑の沼に沈んでしまうような、あるいは永遠に続く闇に放り込まれてしまうような、そのようなどうしようもなく淀んだ感情の波が押し寄せてくる。

 

「母さん! 俺たちそろそろ出発するよ」

「そうかい。お前たち頑張るんだよ。無茶しがちな父さんを支えてあげるんだよ」

 

 がはは、とみんなが笑った。その様子は本当に仲の良い家族そのものであった。そんな中ランスロットが口を開く。

 

「ナターシャ。……今まで迷惑ばかりかけたな」

「何よあなた、そんな最期の別れみたいに言うんじゃあないよ」

「いや、しかし万が一だな……」

「まったく女々しいわね、ぱぁーと行ってばーんと倒してぱっと帰ってきなさい!」

 

 ランスロットは妻の言葉に勇気づけられて不安な気持ちがだいぶん軽くなったようだ。

 

「あなたたちも帰ってきたら好物のカレーライス(潤滑油)作ってあげるから楽しみにしときな!」

「「よっしゃ!」」

 

 

 そう言ってランスロット率いる円卓の騎士団は、宇宙からの侵略者・インベーダーを討伐する旅へと出た。

 

「父さん、国王から一応の装備は整えてもらったものの、これで十分なのか?」

 

 キャッスルから1時間ほど東へと進んだ時、ガラハッドが素朴な疑問を唱えた。ランスロットは3つの銃身から成るマシンガン兵器"アベンジャー"、そしてその軽量型"パニッシャーT"と呼ばれる武器を所持している。他方でガラハッドは、追尾型ミサイル兵器である"ハイドラ"、そしてその軽量型"スパイラル"を装備している。このミサイル兵器は追尾型であるので一度ロックオンをすればこちらは物陰に隠れていても問題はない。ダメージ効率自体はよくないものの相手に精神的ダメージを与えられるという点ではピカイチであろう。

 

「本当にガラハはそういう武器が好きだな。」

「俺は父さんみたいな脳筋とは違って頭を使って戦うスタイルなんだよ。」

「まぁ、なんにせよ、こちらが不利になったら武器を変えてでもちゃんと前線に出てくるんだぞ。お前にはその立派な盾もあるのだからな!」

「言われなくてもわかってるよ。」

「昔の仲間だがな、ハイドラを装備したスペk……」

「はいはい、もうその話は100回も聞いたよ!」

 

 脳筋で熱血なランスロットを反面教師にしたのだろうか、ガラハッドは知性派で常に冷静であった。一見対照的な二機ではあるものの案外バランスが取れているのかもしれない。

 

「そういえばガレスも父さんと同じ装備だったよな?」

「ああ、同じくパニッシャーTと標準版パニッシャーを積んでいたはずだが」

 

 ガラハッドとランスロットはそう言いながら後ろに付いてきていたガレスの方を振り返った。ガレスはどことなく神妙な顔つきをしており、目線すら合わせようとしなかった。

 

「ん? ガレスどうしたんだ? 調子が悪いのか?」

 

 ガレスの異変に気が付いたランスロットが彼の元へと駆け寄る。

 

「いかんいかん、身体全体から(オイル)がにじみ出ている。ガラハ、メディカルキットだ!」

 

 ガラハッドは持ってきていたメディカルキットを急いで取り出す。その時ガレスが意を決して口を開いた。

 

「た……わ…れ…した」

「ん? なんて言った? もう一度言ってくれるか」

 

 ランスロットがガレスの小さな体躯に合わせて出来る限りしゃがみこむ。

 

「た、盾を忘れました」

「「盾を忘れたぁ!?」」

 

 そう、ガレスはガラハッドと同様に普段から盾を装備している。今まで肌身離さず持っていた盾をこんな日に限って忘れてきたのである。

 

「まったくお前ってやつは何してるんだよ」

「ガラハさん、す、すみません。自分、ずっと緊張していて……」

 

 ガレスが委縮しながらスミマセンスミマセンと何度も謝っている。

 

「がはは。ガレスよ、そんなこともあるさ。まだまだ旅は始まったばかりだ。これから気をつければ良いだけだぞ」

「師匠……うわーん」

「泣くな泣くな、お前もいっぱしの男だろ」

 

 ランスロットはそのごつごつとした逞しい腕でガレスの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「さぁ、取りに帰るぞ。あの太陽に向かって全力疾走だ!!」

「はい、師匠!!」

 

「おいおい、まだ朝だぞ。まったくバカたちには付き合ってられないよ」

 

 ガラハッドはやれやれとため息をついて、何もない西の空に向かって二人を追いかけていった。

 

 


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