【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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朧月夜ノ刀使

「や~めた」

「──えっ?」

 

 姫和たちを先に折神紫の元へと向かわせた可奈美が相対していた少女──燕結芽は、『飽きた』と言わんばかりに構えを解いた。

 

 ()()()()()()()、そして敷地に侵入してくる大小様々な大きさ、形の荒魂の群れに視線を向けながら、結芽はしっしっと追い払うように手首をスナップしながら可奈美へと言い放つ。

 

「紫さま……じゃなくてタギツヒメ? と戦うんでしょ。こうも邪魔が入ると素直に楽しめないし、さっさと行きなよおねーさん」

 

「え、えーっと……いいの?」

 

S装備(それ)、時間制限あるんでしょ。ここで私と荒魂の相手をする暇無いじゃん」

 

 ──私は使わないから興味ないケド、と小さく付け加える結芽をよそに、可奈美は呼吸を整えるとその場を背にして駆けて行く。

 

「…………ありがとう。全部終わったら改めて決着! つけようねっ!」

 

 その言葉と後ろ姿を見送った結芽は、懐からワイヤレスイヤホンを取り出すと、おもむろに片耳に装着してスイッチを入れた。

 

「──もしもし寿々花おねーさん? 御前試合決勝の舞台の方に荒魂がすごい集まっててるんだけど~、これもしかしなくてもタギツヒメに引き寄せられてるってことだよね?」

 

『そうなりますわね。結芽、()()()()()()

 

「あは、誰に聞いてるの? こっちは私一人でじゅーぶんだから、他は任せるよ」

 

『わかりました』

 

 会話を切ってイヤホンを仕舞おうとして、結芽は『あ』と口を開いて寿々花に聞いた。

 

「ねえ、真希おねーさんとおにーさんはどうしてるの? どうせ喧嘩してるんだろうけどさ」

『そうですね……先ほど森林地帯の方に落ちて以降連絡がつきませんが、まあ大丈夫でしょう』

「ええ……まったくもー」

 

 はぁ、とため息をつきながら、結芽は御刀を構え直して迫り来る荒魂の群れへと向き直る。ギラリと鋭い眼光で睨み付け、口角を愉快そうに歪めて、星眼の構えで荒魂たちを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 ──断続的に続く破壊音。木々を縫って駆ける勇人と真希は、御刀を衝突させ、時には大荒魂の復活が間近に迫る事からか折神家に引き寄せられている荒魂を片手間で両断していた。

 

「ォォオオオッ!!」

「──っちぃ……!」

 

 ダンッと力強く跳躍し、落下の勢いを加えた一撃を繰り出す真希の薄緑を、勇人は朧月夜で受け止める。接触の瞬間に八幡力を起動して膂力を更に増したことで、地面を滑るように後退させられ、勇人は背中を木の幹にぶつけた。

 

「ぐっ──不味っ」

 

 そこに、八幡力と迅移を織り混ぜた高速接近による一閃が煌めく。

 僅かに見えた刀身に反射した月光から、ほぼ勘で屈む勇人。その真上を通りすぎた真希の追撃は、背後にあった木を真っ二つに切断する。

 

 ズズンと音を立てて倒れる木を挟んで、真希と勇人は顔を見合わせる。

 ノロが体を流れている影響で瞳が紅く輝く真希と、反して朧月夜を鮮やかな蒼に輝かせる勇人。一拍置いて、直後──横合いから飛び出してきた荒魂を一太刀で斬り伏せ、そのまま二の太刀で互いの御刀を叩き付け合った。

 

「ハアアッ!!」

「がっ、ぐ……ぅうぉおお!!」

 

 迅移、八幡力、金剛身といった刀使の能力には段階──能力の倍率がある。

 しかし、真希の高い段階の八幡力に合わせて勇人もまた八幡力を起動しようにも、勇人の才能はその段階には並び立てない。

 

 ゆえに、朧月夜の力で体を改造す(つくりかえ)る。その辺に散らばる、今にも再結合を始めようとしているノロにすれ違い様に切っ先を掠らせて吸収し、それを燃料として朧月夜を酷使する。

 

 ──全身に激痛が走る。無視して御刀の衝突に合わせて八幡力を起動する。

 ──全身に激痛が走る。無視して迅移を同時に起動して高速移動を繰り返す。

 

 勇人の一挙一動が洗練されて行き、真希の攻撃が当たらなくなっている。

 能ある鷹が爪を隠していたのではない、むしろ真逆──勇人が戦いのなかで成長しているということを、嫌というほどに理解させられた。

 

「──勇人ぉおおお!!」

「──真希ぃいいい!!」

 

 写シによる白い残像が二つ、薄暗い森の中を高速で動いては何度も交差するように衝突する。途中、勇人の服を掴んだ真希が膂力に任せて木々に投げつけるが、勇人は空中で身をよじると幹に水平に着地して勢いを殺す。

 

 落下を始めるより早く迅移と八幡力を起動すると、勇人は幹を足場に真希に向けて跳躍する準備を整える。──次の一瞬で勝敗が決まると、二人は半ば無意識に悟っていた。

 

 ──なにか真希の意識を逸らせる一手があれば、勇人は迅移で加速した意識でそう考えて、足の裏で幹が軋む感触をギリギリまで感じ取りながらチャンスを待つ。

 

 相討ちにならもって行けるだろう。

 だが、それではいけない。勇人は真希に勝たないといけないのだ。真希の写シを朧月夜で切り裂く為の、最後のピースがまだ欠けている。

 

 

 

 

 

「────」

 

 それは偶然か、必然か。刹那、上空に──花火のような光が炸裂した。

 同時に、勇人と真希の双方の背中にぞわりとおぞましい気配が駆け抜ける。

 

「こ、こ、だ────ッ!!」

 

 ドンッ!! と木を爆破させたような衝撃。

 木の幹を足場に、真希の元に矢のような鋭さを以て接近する勇人に、彼女はほんの一瞬、ほんの一拍反応が遅れた。試合でもなければルールも無用、上空の光に意識を逸らした真希は、薄緑を振り上げるが──

 

「……俺の、勝ちだ!」

「ぐ……あっ」

 

 迅移と八幡力を推進力に使い、弾丸をも上回る速度ですれ違い、勇人は真希の写シを真っ二つに両断する。その勢いで後方に体を引っ張られた真希は、強く背中を地面に打ち付けていた。

 

 足元にブレーキ痕のような線を描いて止まった勇人が、遅れてやって来た疲労に汗を流しながら朧月夜を鞘に納めて真希を見下ろす。

 

「n敗1勝、先は長いな」

「…………負けた、か」

「今までさんざん俺に勝ってきたクセに、なぁにをしょげてるんだお前は」

 

 勇人は視線を上に向ける。真希共々、彗星のように流れて行く()()()光の塊を見届けていた。

 

「あれが、お前の言っていた大荒魂か」

「……だろうな。ってことは、可奈美たちは紫さま……もといタギツヒメに勝ったんだな」

 

 ──結局のところ、二人の戦いは、重要な局面の戦いではない。折神紫(タギツヒメ)が勝つか、可奈美たちが勝つか。それこそが重要であった。

 

 故にこそ、寿々花や結芽は、二人の戦いを喧嘩と言い切っていたのだろう。

 そんなことも露知らず、勇人と真希は、余計な疲労を溜めた体で会話を続ける。

 

「俺の言葉が事実で、折神紫は大荒魂で、その大荒魂は分裂してどっかに言ったわけだが……これからどうするよ」

「僕は……アレを追う」

「そういうと思った」

 

 呆れた表情で、勇人は朧月夜を抜こうとし、その動きを止めた。真希の体からノロを吸収しようとしたが、アレを追う真希にはノロが必要になるだろうと、内心でそう判断したからである。

 

「じゃあ、さっさと行った方がいいぞ。実は折神紫は敵でした……それを知った世間は親衛隊(おれたち)も敵視してくる筈だ。ここから離脱して、追うなら顔も隠せ」

 

「ああ。……勇人はどうするんだ」

 

「どうすっかねぇ。と言っても俺も帰るところとか無いからな……」

 

 ──どうしたものか、と独りごつ勇人は、おもむろにその思考と意識を折神家の方角に向ける。一瞬だけ、強いノロの反応があったからだ。

 

「────、消えた」

「……? どうしたんだ?」

「なんでもねーよ。じゃあ、ここらで一旦お別れだ。上手くやれよ、真希」

「……勇人もな。夜見を泣かせるなよ」

もう泣かせ……ああ、善処する」

 

 立ち上がった真希は、写シを貼り直すと、迅移と八幡力を合わせた跳躍でその場から姿を消す。静寂を取り戻した、荒れ果てた折神家敷地内の森の中で、勇人は重苦しく息を吐く。

 

「タギツヒメ……これで終わったわけじゃないだろうな、どうせ」

 

 

 ──決着がついたとは思っていない。むしろここからが、終わりの始まり。

 勇人は朧月夜の柄を指で撫でると、真希と同じようにその場をあとにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──誰もいない折神家敷地内、大荒魂の復活の予兆に引き寄せられた荒魂の群れと彗星のような光により警備の薄れた一瞬を狙って、二人の少女が貴重品を納める宝物庫に訪れていた。

 

「ここかァ、ジジイの言ってた折神家の宝物庫は。……合ってるよな? あいつ方向音痴だし間違ってそうな気がしてきた」

「合ってます合ってます。ほら、早く四季四刀を回収しちゃいましょ」

 

 病的なまでに白い肌と髪をした少女たちは、堂々と不法侵入しながらも、扉の鍵を無理やりこじ開ける。それからギギギと錆が目立つ扉を開けた先の、御刀を納めるケースに目を向けた。

 

「あったな」

「ありましたねぇ」

 

 長身の少女と小柄の少女は、それぞれが四本の刀──刀匠・星月式の製作した御刀・四季四刀を回収した。

 二振りの打刀と二振りの小太刀をそれぞれが担ぐと、そそくさと宝物庫をあとにする。

 

「あーあー、命を拾われてやることがこそ泥ってのはなぁ……なんつーかなぁ」

「まあまあ。私たちにもこれが必要なんですから、仕方ないですよ。それに……言ってみればあの人の作った御刀を取りに来ただけなんですし、窃盗ではないのでは?」

「いや窃盗だろ。とっくの昔に人にあげたもんを盗んじゃダメだろ」

 

 長身の少女は相方の天然気味の発言に頭を痛くする。──今頃あいつも戦ってんのかねぇ、と、()()()にちらりと視線を向けた少女は、周囲の混乱と騒ぎに乗じてあっさりと逃亡に成功した。

 

()()()()()()、このあとはあの人とどこで合流するんでしたっけ」

「……あー、確か近くの神社で待機してるとか言ってたな。あと()()、名前を出すな」

「きょーちゃんもですよ……」

 

 そんな会話を交わしながら、二人は明らかに人間の身体能力を上回る動きで敷地の壁を飛び越すと、月光で輝く白髪を揺らして路地裏へと消える。人知れず動く第三者の影を、折神家も舞草も、勇人たちですら、把握できていなかった。




胎動編、完結。
波瀾編に続く。
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