【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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タキリヒメと益子の守護獣

「──今一度お願いに上がりました。お力をお貸し願えませんか?」

 

 タキリヒメの祀られている空間に再度訪れた朱音。彼女が続けて放つ言葉に、タキリヒメは淡々と返した。

 

「我らの共闘が叶えば、それすなわち人と荒魂の共存。あなたの願いに近付くための、第一歩となりえましょう!」

 

「不遜。我がお前たち人に求めるのは、共闘ではなく隷属。イチキシマヒメを差し出せ、さすれば我が庇護下で生きる事を許そう」

 

「あなたはそれを共存と仰るのですか!?」

 

「然り、未熟な種は所詮虫や獣と同じ。それを我が良き方向へ導いてこそ真の共存と言えよう」

 

 タキリヒメの言葉は完全に人間を見下したモノでしかなく、朱音の護衛として付き添っていた姫和が、ため息をついてから口を開く。

 

「──ここまでです、朱音様。今確信しました。こいつも所詮はタギツヒメと同じ荒魂、共に在るなど叶わないのです」

 

 最初から期待をしていない姫和。だが、その横で可奈美がおもむろに言った。

 

「あの! タキリヒメさん! 私と剣の立ち会いをしませんか?」

「何のつもりだ、千鳥よ」

「あなたは一度も私達を見てくれてない。それじゃお互い歩み寄ることもできません!」

 

 一拍置いて、可奈美は続ける。

 

「それで、その……お互いをよく見れば、人間の事も荒魂の事も、よく知り合えるんじゃないかなって思って……」

「それには正面から御刀を合わせての立ち合いが一番手っ取り早い……と?」

「うん……」

剣術馬鹿(バトルジャンキー)め」

 

 朱音の問いに肯定する可奈美。ついでにぼそりと呟いた勇人は、見上げた先のタキリヒメの「下がれ」の一言に苦笑をこぼしていた。

 

 

 

「駄目だった……」

「当然だ。だが、可奈美らしいな」

「ええ。確かに突拍子の無い申し出でしたが、頷ける所もあります。何度でも足を運びましょう、彼女の人となりを見極められるまで──藤森さん、どうしました?」

 

 くすりと笑う朱音。彼女はふと、明後日の方向を見ている勇人を見てそう問いかける。

 

「んー? あ~~……わわわ忘れ物~」

 

 視線を下から後方に動かす勇人は、踵を返してタキリヒメの元に戻る。

 おい、と声を掛けた姫和の肩に手を置いて、朱音はかぶりを振った。

 

「……いいんですか?」

「大丈夫。彼もまた、刀使なのですから」

 

 

 

 

 

「──よく見る、よく知る……ん、出てこい」

『ねっ』

 

 タキリヒメの元に、透明化を解除した小さな荒魂──ねねが現れる。

 

「荒魂……いや、本来荒魂にあって然るべき穢れが失せている。荒魂であって荒魂でない。お前は何者か──説明しろ、藤森勇人」

「あ、バレた?」

 

 仮面を付けているにも関わらず、睨まれたのだろうという確信を得ながら、すだれを押し退けて勇人がタキリヒメとねねの前に訪れた。

 

「今自分で言ってただろ、長い歴史の中で穢れを失った荒魂だ。人と荒魂が共存する世界ってのは、こういうやつが居る世界ってことだよ」

「そうか。では去れ」

「やだよ」

「斬られたいのか」

「やってみろ」

「────」

 

 当然だが、ここで勇人を斬れば、折神紫と同化していた時の自分(タギツヒメ)を倒した可奈美と姫和の二人が相手になることを意味する。

 

「……ならば、こちらに寄れ」

「なんだよ────ぐえっ!」

 

 タキリヒメはおもむろに片手でねねをつまみ上げ、空いた手で無防備に近づいてきた勇人の首を鷲掴みにして引き寄せる。

 

「穢れがないとはいえ、人はなぜお前を放置している……?」

「おいもうちょっと力抜け……!」

 

 勇人の抗議を無視して、タキリヒメはねねの記憶に入り込む。タキリヒメと接触している勇人もまた、同じくして記憶を覗き見ていた。

 

 その記憶は古く、そして、どこかの村の一角から川へと流れる大量のノロから始まる。

 その大量のノロが結合して誕生したのが、何を隠そうねねであった。

 

「お前もまた、人の無知と愚かさによって生まれたか。だがなぜお前は穢れを持たない?」

「……続き見ようぜ」

「黙っていろ」

「ぐえーっ」

 

 勇人を黙らせながらも、タキリヒメの記憶の閲覧は続く。時間が過ぎて、ねねが暴れまわっていた頃まで進むと、そこに現れたのは──あの益子薫が所持している御刀・祢々切丸を構える当時の益子の刀使だった。

 

『派手にやってくれるじゃねぇか! 益子の縄張りででけぇツラしてんじゃねぇぞ荒魂野郎』

 

 そうして刀使と激突し、巨大なねねはやがて、祢々切丸を胸に突き刺されたたらを踏む。

 

『荒魂が……てこずらせやがって』

 

 刀使は息を荒らげながらも、髪を掻き分けて楽しそうに笑うと──

 

『そんなに暴れたきゃ、また相手になってやるからよ。またやろうぜ』

 

 ──そう言って、ねねを赦していた。

 

 

 

 何十年、何百年と時間をかけて、何代もの益子の刀使がねねに寄り添い、そうして今に至るまでのあいだに、ねねの穢れは失われていった。その光景を見て、タキリヒメは呟く。

 

「この者達が消したというのか? お前の中の穢れを……長き時をかけて……」

 

 胸元に潜り込むねねの頭を指で撫でるタキリヒメが、勇人の首を掴んでいた手を離す。

 

「穢れを祓うことなど決してできないはずだった、だが人は祓ってのけた。短命で、種として不完全な存在なのに……ただ共に生き続けるという単純な方法で。そのような事がありえるのか? そんな奇跡のような可能性が」

「ごほっ……あのなあ、()()()()()だろ」

「藤森勇人」

 

 首を擦りながら立ち上がる勇人は、タキリヒメと、胸元のねねを見て続ける。

 

「ねねとずっと付き合ってきたのが一人だけじゃないのは、人間だからこそだろうよ。もしも不死身の人間がずっとねねと居たからといって、今のねねみたいになるとは思えない」

 

「──なにが言いたい」

 

「縁だよ、縁。繋がりがあって、違う考えがあって……違うから、それがいいんだよ」

 

「…………」

 

 帰るぞ、といって、勇人はねねを引っこ抜いて部屋から出ようとする。その背中に、タキリヒメは、おもむろに言葉を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

「──千鳥の娘を連れてこい」

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