タキリヒメを取り込んだタギツヒメ。彼女はまるで車の試運転でもするかのように、高速で動いて可奈美たちを一瞬のうちに切り捨てた。
「──うむ。中々に馴染む」
満足げにしているタギツヒメは、腕を切り落とされた勇人すら視野に納めない。
そんな折、ふと、タキリヒメの消滅を見ていたねねが震えだし──突如として巨大化した。
「ね、ねね……っ!?」
「ほう、これがタキリヒメの記憶にあったアレか。成程面白い」
『────!!!』
薫の驚愕の声を掻き消すほどの咆哮を響かせ、ねねは腕を振るい強化刀使たちを薙ぎ払い、その剛腕をタギツヒメに叩きつける。
「驚いたぞ……これほどの荒魂が、人に飼いならされていたとは」
二刀流で受け止めたタギツヒメは、返す刀でねねを滅多切りにする。巨体ゆえに捉えきれない速さで全身を切り刻まれるねねは、一手遅れてタギツヒメが居た場所を攻撃していた。
『────ッ!!』
「ねね! もうやめろ!」
「心ばかりの馳走、とくと味わえ」
「──づ、ぉおおっ!」
とどめとばかりに振り上げたタギツヒメの御刀を、乱入者が受け止める。
──それは、切り落とされた右腕を
「────。ふ、どちらが化物だ?」
「うる、せえ……よ……っ」
不意を突くためにギリギリまで怪我を治さなかったせいで、出血多量で顔面も真っ青の勇人を前に、タギツヒメはそんな皮肉を吐く。
「小烏たちよ。タキリヒメと共に、貴様等は最善の未来を失った。せめて我がもたらす終末をゆるりと楽しむがよい」
興が冷めたとでも言いたげな顔で鍔迫り合いをやめて下がると、そう言って綾小路の強化刀使たちを連れてその場から消える。それから巨大化したねねが元の大きさに戻るのと、血を流しすぎた勇人が膝を突くのは、ほぼ同時であった。
──タキリヒメの消滅と勇人たちの敗北から、早くも一週間が経過していた。
一切のアクションを起こさないタギツヒメに対する不気味さを覚えながらも、刀使として発生した荒魂の対処をしなければならない。
「はあ、しんどい……おっ」
「……勇人くん」
「おにーさん、久しぶり~!」
そんな時、不意に任務を終えて戻ってきた勇人がばったりと鉢合わせしたのは、秋田から帰ってきていた夜見と結芽だった。
「秋田はどうだった?
「……特に変化はありません。私の家族も……髪を見て『グレたのか』と心配された程度で」
「きりたんぽ美味しかった」
「そりゃよかった」
──はいお土産。と言ってパックに詰められた秋田産のきりたんぽを結芽から渡されながら、勇人は夜見を見て質問を続ける。
「そういえば、俺がいた孤児院が崩落したらしいな。なにがあったんだ?」
「──いえ、詳しい話はなにも。ただ、怪我人は出なかったそうですよ」
夜見は一瞬、脳裏に白髪の女性の顔を過らせたが、あっけらかんとした顔で誤魔化した。
「……そうかい。んじゃ、真希たちと合流するか。元親衛隊勢揃いだ、タギツヒメに負けて以来のおめでたいイベントだよ」
「えー、おにーさんたち負けたのぉ?」
「ああ、負けた負けた。なんなら腕もげたし」
「──勇人くん?」
「あ、やべっ」
──食堂に集まった可奈美たち六人と親衛隊の五人。そのうちの一人こと勇人がげっそりした様子でテーブルに突っ伏しており、結芽が暇そうにつむじを指で押していた。
「……なにがあったんだ、こいつは」
「お気になさらず」
勇人の隣に座る姫和の困惑した問いに、反対側の隣に座る夜見はしれっと答える。
その光景を見ながら、タギツヒメの居所を隠す上司──学長である真庭紗南の態度にイラついた様子の薫がぼやくように呟いた。
「防衛省の襲撃には綾小路の刀使達が参加していた。タギツヒメは無理でも、あいつらの足取りなら簡単に追える。ならきっと、そこから地続きでタギツヒメまで辿り着いてるはずなんだ」
「日本の警察は優秀デスからねぇ」
薫の言葉にエレンが肯定し、舞衣が持ち込んでいた自作のクッキーを齧る。
「──半年前は、紫様が肉体の自由を奪われながらも、内側からタギツヒメの力を抑えてくれていた。だが今は違う。タギツヒメは紫様という枷から解き放たれた」
おもむろに口を開いてそう言った真希。彼女は淡々と、事実を述べていた。
「君達六人、いや僕たち元親衛隊を足して十一人でかかったとしても……」
「あら? そういう誰かさんは、たしか一人だけでタギツヒメを斬ろうとしていらしたのではなかったかしら。勘違いでしょうか?」
真希の隣に立っていた寿々花が、彼女にそう言い返す。皮肉気味に表情を暗くして、真希は寿々花にさらに言葉を返した。
「ああそうさ。僕はあの時……刺し違えてでもタギツヒメを止めようとしていた。けれど、君に頬を撃たれて目が覚めたよ」
「──結構、ですわ」
くすりと笑う寿々花は満足そうに頷いた。すると、ずっと結芽につむじを押されていた勇人が顔を上げると、渋い表情で二人に言う。
「人前でいちゃつくなよバカップルめ」
「お前は人のことを言えた義理か……?」
「あらまあ。カップルだなんてそんな」
わざとらしくうふふと笑う寿々花と、勇人に向けて微妙そうな顔をする真希。
そんな会話をしていたその場の全員は、不意打ちのように、食堂の壁に備え付けられていたテレビが生放送の記者会見に映像を切り替えているのを確認した。
「……なに、これ」
代表するように可奈美が口を開く。その場の全員が思ったことを呟くと、傍らで真希と勇人が焦った様子で冷や汗を垂らした。
「──クソっ、やられた……!」
「タギツヒメの野郎……こいつ、表に出てこなかったんじゃない。
記者たちが座る視線の先にあるすだれが上がり──中からタギツヒメが現れる。
タギツヒメは記者たちを、そして画面の向こうの勇人たちを見て、テレビ越しに言った。
【──我の名はタギツヒメ。お前たち人間が言う所の、荒魂である】