──突如として記者会見を開いたタギツヒメ。彼女の十数分の発言は、それを聞いていた勇人たちを呆れさせるに充分だった。
「『こっちは穏便に済ませようとしたのに、向こうが暴力を振るってくるんです!』って、言ったもん勝ちの無敵の理論だよなあ」
「荒魂のクセに、悪知恵働くよね~」
勇人の簡潔な纏めに結芽が同調する。その隣で、タギツヒメの部下として活動してしまっている高津学長を見ていた夜見のどことなくしゅんとした表情を一瞥すると、勇人は続けた。
「しかし高津のおば……学長、なんか元気がなかったな。本当にホウレン草みたいに萎びてて面白……ビックリしたぞ」
「あれ完全に沙耶香ちゃんと夜見おねーさんが居なくなったのがショックだった感じだよねぇ。慕ってた紫さまも居なくなったし、ヤケクソでタギツヒメに従ってるとかそんなんじゃない?」
「…………そうでしょうか」
暗い表情の夜見はポツリと呟く。それから暫くして、放送が終わり一旦解散することとなったが、寮で別れる際、最後に勇人はもう一度夜見に質問を投げ掛けていた。
「なあ夜見、本当に、秋田の方で……なにもなかったんだよな?」
「──はい。なにもありませんでした」
「……そうか。ならいい、また明日」
「はい。お休みなさい」
誤魔化すようにお辞儀をする夜見に背中を向ける勇人。そんな彼の後ろ姿を見ていた夜見は、隣から声をかけてきた結芽へと視線を動かす。
「あの白い荒魂人間みたいな人のこと、言わなくてよかったの?」
「……今はタギツヒメを倒さなくてはなりません。そんな時に、
──そりゃそーだけど。と返す結芽は、お目付け役とばかりに同室にされている夜見と共に部屋に戻りながら、お気に入りのいちご大福を模したキャラクターのストラップを指で揉んでいた。
──早くも三日が経過し、その間一切の放送を行わないタギツヒメを警戒しながらも、勇人たちはバスに乗り込む綾小路の刀使を眺める。
「あれから三日……綾小路の刀使たちは、全員京都に引き上げるようだな」
「綾小路の学長の命令だからね……仕方ないよ」
姫和の言葉に舞衣が返す。その横で、可奈美がおもむろに呟いた。
「あの中にも、タギツヒメの近衛隊に入る人たちが居るのかな……」
「どうだかな。本人が嫌でも、じゃあタギツヒメに逆らえるかと言われたら微妙だ。──そういや、鎌府の方はどうなんだ?」
「わからない」
勇人が続けて、そのまま沙耶香に質問する。高津学長がタギツヒメに着いている今、鎌府女学院の管理は誰がしているのか。
現状を詳しく理解していない沙耶香は首を横に振り、その代わりに薫たちが答えた。
「鎌府なら心配ねえよ」
「サナ先生が学長を代行してマスからね!」
「……大変だな、あの人も」
なんだかんだと多忙の真庭紗南。彼女の忙しなさを理解して、勇人は同情の念を込めた。
そんな折、ふと、可奈美と沙耶香、勇人の端末がメールを受信する。
「おっと……俺たちの出番か」
「荒魂か?」
「ああ、世田谷区の公園付近に荒魂出現だと。ちょっと行ってくる」
姫和が端末を覗き込み、勇人は答える。可奈美と沙耶香に視線を送り、頷くのを見てからソファに立て掛けていた朧月夜を手に取った。
──早速と到着した三人が見たのは、強化S装備に身を包み、大型荒魂を一刀両断する綾小路の刀使……否、タギツヒメの近衛隊だった。
役目を終えて霧散するS装備の中から現れた可奈美たちを慕う少女──
「──衛藤さん、糸見さん! 遅かったじゃないですか! もうおわっちゃいましたよ!」
「あ、歩ちゃん……大丈夫なの?」
「え? なにがですか?」
歩は据わった瞳を向けて、質問の意味がわからないと心底不思議そうな態度で聞き返す。
「沙耶香、この子誰?」
「可奈美に憧れている刀使」
「へえ……」
後ろでそれとなく正体を聞く勇人は、沙耶香の言葉に短く返した。
「歩ちゃんたちは……ここで何を?」
「お仕事に決まってるじゃないですか!
「タギツヒメも荒魂じゃ──」
「タギツヒメ
一切疑う余地もなく、歩はあっけらかんとそう言い切った。強化刀使のノロから『気持ち悪さ』を感じ取った勇人は、タギツヒメ製のそれにより洗脳されているのだろうと察する。
「やめとけ可奈美」
「勇人さんっ」
「近衛隊もお勤めご苦労さん、その荒魂のノロは俺が回収するから気にするな」
「なにを────」
歩が聞き返すよりも早く、即座に抜刀した朧月夜をひゅんっと空気を裂いて投擲する。
近衛隊の間を縫って原型を失いドロドロに溶けた
「じゃ、そういうことで」
あっはっは、と悪役のような笑い声をあげ、勇人は可奈美と沙耶香を連れてその場から離れる。腕を引かれながら、二人は勇人に反論した。
「ず……ズルいやつ!」
「隙を見せた方が悪いよ、うん」
「……でも、向こうに取られるよりはマシ」
「沙耶香ちゃんも肯定派かあ……」
そうして夜道を歩く三人だったが、おもむろに歩みを止めた勇人に違和感を覚え二人は振り返る。視線の先で、勇人は端末を見ていた。
「勇人?」
「勇人さん、どうしたの?」
「……んー、あー……ちょっと別件的な感じのやつ。房総半島に来いってよ」
「ここからだと遠いけど、誰から?」
可奈美の疑問に、勇人は一拍置いて──
「内緒。デートのお誘いみたいなもんよ」
「いや、勇人さん相手いないじゃん」
「…………うん、まあ、うん」
──房総半島沖から離れた位置の鳥居付近に、人影が三つ。そのうちの一人、恩田累が、折神紫とイチキシマヒメに口開く。
「いや~地面が揺れないっていいですね~。私、船ってどうも苦手で……あ、あれは潜水艦か。──ともかく、私はここまでです」
「すまない。フリードマン博士にも伝えておいてほしい、お陰で脱出できたと」
紫は累に礼を言いつつ、時間を気にして周囲を見回す。そんなとき、近くの陰から不意に誰かが現れた。一瞬警戒心で御刀を構えた紫だが、その人物は言う。
「──『荒魂イチキシマヒメの乗る潜水艦を房総半島沖で発見』……とんでもないニュースになってますよ、紫さま」
「遅いぞ──藤森」
構えを解いた紫が、現れた人物──勇人にそう言った。勇人もまた、前日に送られてきたメールと
「すみませんね、免許取りたてだったし、バイクにもあんまり乗らなかったもんで」
「私はここまでだけど、ここからは勇人くんに頑張ってもらいますからねっ」
「俺が役に立つかどうかは不明ですけどね」
「いやいや、自信持とうよ……」
自虐的な勇人の言葉に累が呆れたように返し、言わずとも、紫が同じ考えを浮かべていた。