「…………これ、人間同士の戦いなんだよな?」
現場に到着した可奈美たちのうち、薫が肩にねねを乗せながら上空を見上げながら呟いた。
木々を縫うように蒼白い雷と白い光が移動し、衝突しては、おおよそ御刀を打ち合っているとは思えない轟音と衝撃が辺りに響き渡る。
単なる動体視力では追えない速度を維持している勇人の動きに、舞衣が疑問を漏らす。
「ずっと迅移を使っている……?」
「沙耶香ちゃんの無念無想みたいな?」
「違う」
可奈美が続けて言うが、当の本人である沙耶香は抑揚の無い声で返した。
「私の無念無想は持続的に迅移を使う技術。アレは多分、最初の迅移が終わった瞬間に次の迅移を途切れないように発動している」
「文字通り、人間業じゃないデスね……」
沙耶香の解説に、エレンが苦笑をこぼした。──と、そこで、ようやく戦況が動く。
「──ガッ、ぁっ……!!」
空中で発生した
ゴロゴロと落ち葉を巻き込んで転がる勇人は、体のあちこちに電気を帯電させて膝をつく。その場の全員は──荒い呼吸を繰り返す勇人が写シを張っていない事に気づいた。
「ばっ……お前なんで写シ張ってねえんだよ!」
「……ぐっ……づ、限界まで思考速度を加速させてるが……雷の速度に間に合わせる迅移と、禍神の力と打ち合える八幡力を適宜起動し続けながらだと、写シを張り直す方にまで意識を割けないんだよ……それに、この方が気合いが入る……!」
薫の問いに言葉を返して、ぺっと血の混じった唾を地面に吐き、立ち上がりながら御刀を握り直す。眼前にふわりと降り立つ姫和は、写シの体に幾つかの切り傷を作っていた。
「──どさくさ紛れに、私の中からタギツヒメのノロを微量だけ奪っているな」
「……あ、バレた? 朧月夜の力はノロが燃料だからな。打ち合いながら相手からノロを奪い続ければ、俺は延々と戦える」
「ならば、さっさと背骨でも断つか。お前ならそれでも死にはしないだろう」
ゆらりと幽鬼のように体を揺らし、姫和は即座に加速。反射的に朧月夜を盾にした勇人をそのまま後ろへと押し込み、背後の大木に弾く。
木を足場にバックステップして姫和を釣ると、勇人は追ってきた彼女の小烏丸を朧月夜で弾いて足に力を入れ、迅移と八幡力の併用で瞬間的に凄まじい速度を得る。
写シという名の残機を捨てて雷に追い付ける速さを獲得した勇人に追従する姫和が、蒼白い光の尾を残して接近すると、小烏丸に意識を向けて勢いよく振り抜かんとするように構えた。
「──? っ、マズッ」
──刹那、小烏丸を振るった軌道に沿って現れた複数の電気の塊が矢のように勇人に迫る。
ほぼ脊髄反射で咄嗟に朧月夜を手放すと、電気の矢は全てが避雷針のように朧月夜に引き寄せられてバチリとスパークした。
「タケミカヅチの雷……隠世のどの階層から引き出してる力なんだよそれっ……!」
自分から離れた位置で、自分と同じように落下を始めた朧月夜に手をかざして、勇人は手元に呼び戻す。不自然な動きで軌道を変えて勇人の手にすっ飛んできた朧月夜だったが──
「────墜ちろ」
上から覆い被さるように降ってきた姫和が、再度落雷を発生させて勇人を地面に墜落させた。
「…………ぐ……ぉ……」
途中で木々に体をバウンドさせて嫌な音を響かせながら落ちてきた勇人は、頭を打ったのかぐにゃりと視界が揺れる感覚に吐き気を覚える。
先程はゆっくりと降りてきた姫和だったが、今度はダンッと力強く降りる。
彼女はかぶりを振って立とうとする勇人を前にして、おもむろに車の構えを取り、地面を電気の高温で僅かに溶かしながら──勇人とすれ違いながらに小烏丸を振り抜いた。
「……俺じゃあ、無理……か」
「────くそっ……!」
バツンと、まるで包丁で魚の骨を砕いた時と同じような感触が姫和の手に伝わる。
いまにも決壊しそうなノロを抑え込みながらの戦いで、手加減出来なかったとはいえ。勇人にこの結末を迎える覚悟があったとはいえ。
自分の事を好きだと言った相手を切り伏せた事実に、姫和は誰に見せるでもなく強くまぶたを閉じて激情を露にした。
しかし、これでようやく、自分ごとタギツヒメを隠世の彼方に消えることができる。
「────」
──そう考えていた姫和の体が、地面に倒れ血を垂れ流す勇人の背後でドクンと跳ねた。
そして姫和の背中から、さながら羽化のように、タギツヒメがずるりと現れた。
「──な、んだ、と……っ!?」
「謀っていたのは貴様らだけではない」
そう言って、タギツヒメは、自分に姫和がしたのと同じように──彼女に大典太と鬼丸を突き刺して、ノロに変換して取り込んだ。
一瞬の出来事に、その場の全員が絶句する。しかしその中で、一人だけ、勇人だけが、宣言通りに背骨を断たれながらも無理矢理膝に力を入れて立ち上がろうとしていた。
「テ、メ、ェ」
「ふん、
「うるせ────ぁ、ぇ?」
「……ではな。次に眼が覚めたとき、世界は終わりを迎えているだろう」
哀れなモノを見るかのように、まぶたを細めて、タギツヒメは多量の血を吐きながら血の海に倒れた勇人を一瞥して姿を消した。