【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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神刀の復活と贖罪の刀使

 とあるビルの屋上で、タギツヒメが天に伸ばした光が、()()と繋がる。

 髪のような部分と光を接続しているタギツヒメは、満足気にポツリと呟いた。

 

「──繋がった、ヒルコミタマに」

 

 そう言って天を見上げるタギツヒメに、背後で強化刀使を並べて待機していた女性──高津雪那が淡々とした口調で彼女を称賛する。

 

「お祝い申し上げます。二神を取り込み、隠世にある本体との繋がりを得られた今──姫が現世に覇を唱えるは最早必定」

「……ふ、心にもないことを」

「────」

 

 ぴくりと頬が痙攣する雪那に、タギツヒメは背後に視線を向けて続けた。

 

「貴様はもう、誰への関心も忠誠も無いのだろう? 紫の体を使っていた頃からのよしみで拾ってみたが……反逆する牙すら無いとはな」

「それを理解していながら、なぜ……」

 

 視線を前に戻して、タギツヒメは言う。

 

「政治やらには使える立ち位置だったから、とだけ言っておこう。──ゆえに、さっさと去ね。ここからは、荒魂の領分だ」

「………………そうですか」

 

 雪那は自身への興味を完全に失ったタギツヒメを前に、小さく会釈して、刀使たちを置いてその場から離れて屋上をあとにした。

 

 

 

「──最後の仕事は、しておくか」

 

 階段を降りながら独りごちる雪那は、懐から取り出した端末でメールを送る。

 

「……(やつ)れたな」

 

 途中、壁の金属に反射した自分の顔を見て、自虐するようにそう言った。

 

 

 

 

 

 ──時間が経ち、空にはヒビ割れたように光が広がる。誰に言われるでもなく、世間では、SNSでは、人々の間では、『世界の終わり』というフレーズが流れていた。

 

「────ぅ、あ」

「……ん?」

 

 ()()()()()で意識が覚醒した勇人は、天井の明るさに目が眩んで呻き声を上げた。

 

「…………ひ、ょ……り」

「およ、勇人さーん? 起きましたか?」

「……だ…………れ」

 

 ひょこりと顔を覗かせて、勇人を見下ろす少女が朗らかな口調で笑い掛ける。

 ボサッとした髪を乱雑にポニーテールに纏めた、()()()の制服を着た少女。

 

「あたしをお忘れですか? あたしは貴方のご恩は忘れていませんよ」

「…………水、くれ」

「あ、はーい」

 

 パタパタとスリッパを鳴らして離れると、少女は少しして紙コップに水を入れて戻ってくる。ベッドをリモコンで起こして勇人を座らせると、紙コップを渡して傍らのパイプ椅子に座った。

 

「なんで君がここに居るんだ──由依(ゆい)ちゃん」

「いやぁ、ちょっと前まで妹の快復祝いで旅行に行ってたんですよぉ。戻ってきたら綾小路(うち)の刀使はタギツヒメ? とかいう可愛こちゃんに洗脳? されてるとかで居なくなってるしで、もうなにがなにやらさっぱりです」

 

 身振り手振りで説明をする少女──山城由依に、勇人は呆れ気味に返す。

 

「…………ああ、そう。未久(みく)ちゃんは元気?」

「はいっ! ……それはもう、勇人さんと変な御刀お陰で、ついこの間まで入院してたとは思えないくらい元気いっぱいですよ」

「ならよかった」

 

 ──由依と勇人は、数ヶ月前の折神紫(タギツヒメ)との戦いのあとに出会ったことがあった。

 入院生活をしている妹の治療費のために戦っている由依とくだんの妹のためにと、彼は御刀の力を使って、燕結芽の時のように、病気を消してしまっていたのである。

 

「相楽学長は居ないし外の世界はあんなんだし、おまけに防衛任務で病院に来たら勇人さんは看護師さんいわく『部屋が足りてない』らしくて子供用の病室に転がされてますし」

「だから壁がファンシーな色合いなのか……」

 

 周りを見て自分の居る場所を察した勇人は、ふと()()()()()()()ことに違和感を覚えた。

 

「……なんで俺は生きてるんだ」

「いったい何があったんですか?」

「色々あって背骨を真っ二つにされた」

「──なんで生きてるんですか?」

「まあ……俺の御刀のせいだろうな」

 

 その言葉に反応するかのように、由依の大太刀と同じく壁に立て掛けられていた勇人の朧月夜が、独りでにガタンと床に倒れた。

 勇人が手をかざすと吸い付くような動きで手のひらに収まった朧月夜を見て、由依は困惑するように小首を傾げている。

 

「あー……今まさに世界が終わりそうなんだ、御刀だって独りでに動くさ」

「ナルホド」

 

 暗に『聞くな』と言われていると理解して、由依は追求しようとした口を閉じた。

 

「……なんでも、勇人さんの御刀は搬送されたときからずっと手元から離れなくて、傷の方も気づいたら塞がってたとかなんとか」

「そうか。まだ俺にやるべき事があるって言いたいのかい、お嬢さんよ

「はい?」

「気にするな」

 

 そうですかぁ、と言って左腕に巻かれたハンカチを落ちないように縛り直す由依だが、おもむろに思い出したような声を出して続ける。

 

「そういえば、私がここに来たのはさっきなんですけど、その前まで勇人さんを見てた人が居たんですよ。その人も刀使みたいでした」

「……どんなやつ?」

「こう……髪が()()()みたいな白と黒の、すっごい綺麗なお姉さんです」

「──夜見か」

「それで、あたしに『勇人くんが起きたら、助けないといけない人が居る』と伝えてくださいって言われてたんでした」

 

 いやあウッカリウッカリ、と髪を掻く由依に、勇人は逡巡するようにまぶたを閉じて。

 

「──由依ちゃん、俺の服ある?」

「確か、タンスに念のためにって看護師さんがワイシャツとスラックスを入れてましたよ」

「そうか」

「そうかってうわっちょちょちょっ!!?」

 

 勇人がベッドから降りて、タンスから服を出すと、そのまま病依を脱ぎ捨てる。

 反射的に顔を逸らした由依の前で着替えた勇人は、鞘に装着されたままの帯刀用装備を腰に回して固定すると由依に振り返った。

 

「俺もそろそろ行かないとな」

うわー腹筋見えちゃった……んぇ? えーっと、いったいどこに?」

「そりゃあ……」

 

 ちら、と窓の外を見てから、勇人は由依の問いにあっけらかんと答える。

 

「助けないといけない人が居るからな。あと、ついでに世界を救ってくる」

「──ですねっ! あたしもこの病院を、荒魂とタギツヒメから守らないと」

「しかしタギツヒメはどこに──ん?」

 

 由依の決意を前にそもそもの疑問が浮かんだ勇人だったが、仕舞われていた端末を起動すると、メールが一件届いていることに気がつく。

 そのメールを開くと、そこには──『屋上に行け』とだけ書かれたメッセージの下に、とあるビルの住所が羅列されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──そこは、タギツヒメが居る所とは離れた位置にあるビルの一室。暗い室内で高津雪那は、扉を破壊して入り込む数匹の荒魂を前にして、諦めたように椅子に座っていた。

 

「……年貢の納め時、か」

 

 近づいてくる荒魂を見ながら、終には誰からも見放された自身の末路が()()かと思案する。

 

「──何がしたかったのだろうな、私は」

「──何がしたかったのですか、貴女は」

 

 不意に聞こえてきた、無機質ながらに怒気の籠ったような声色。その声に聞き覚えのあった雪那は、眼前の荒魂の背後から、それらを切り捨てながら近づいてくる人物を見て驚愕する。

 

「……夜見」

「ご無事ですか、高津学長」

 

 元折神紫親衛隊としての制服のあちこちは破け、腕や足、頭からは血が垂れている。

 ()()()()()()()()()ほどの連戦があったのだろうと察せる出で立ちに、雪那は目を逸らしながら言葉を返した。

 

「……ふん。沙耶香を手放し、紫様がタギツヒメだと見抜けず、そのタギツヒメからも牙すら無いと言われた私を助けて、お前に何かメリットでもあったのか?」

「…………本当に、しなびてますね」

「言うに事欠いてそれか貴様……」

 

 自身の御刀──水神切兼光を杖のように床について膝を突く夜見は、息を荒らげながらも、雪那を見上げて言葉を紡ぐ。

 

「……貴女に、ノロという力を与えられたことが、例え……実験の一環だったのだとしても……私にとってはこれ以上無い救いでした」

「────」

「貴女が私を見てくれないとしても、それでも貴女の力になりたかった。自分を傷つける戦い方の果てに、勇人くんにノロを奪われたとしても、力が前ほど無いとしても──」

 

 痛みと出血でぼうっとしてきた思考を振り絞り、夜見は雪那に言った。

 

「──ありがとうございました。貴女のお陰で、今の私があるんです」

「…………夜見」

「……では、戻りましょう……ここも時期に、荒魂の群れがやってきます」

 

 立ち上がろうとする夜見を、雪那は肩を掴んで静止する。ベッドに目線をやると──

 

「先ずは手当てだ、ベッドに座れ」

 

 そう言って、憑き物が晴れたような表情を夜見に見せて口角を緩めた。

 

 

 

 ──水神切兼光でベッドのシーツを裂き、簡易的な包帯を作り手足と頭を縛る雪那に、夜見は感心したように質問を投げ掛けた。

 

「……手慣れていますね」

「20年前の戦いでは物資が足りなくてな、こうして民家の布団のシーツで包帯を作ったり、カーテンと物干し竿で担架を作ったものだ」

 

 昔を懐かしむような声色に、夜見は不思議と心地よさを覚えて目尻を緩める。

 

「──私は、どうしようもなく馬鹿だな。ここまでされて、ようやく気付くとは」

「……高津学長なら、やり直せます。贖罪の意思があるのなら、私も……お手伝いします」

「物好きなやつめ」

 

 ──はい、物好きなんです。そんな夜見の言葉に、雪那は小さく笑っていた。

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