【完結】神刀ノ巫女   作:兼六園

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奪還と決戦準備

 ──ビルの屋上で、三人の刀使がタギツヒメに立ち向かっていた。

 

 衛藤可奈美、折神紫、そして二人に合流して参戦した燕結芽だったが、最後の写シを剥がされた紫は屋上の床に倒れ、結芽もまたその隣まで写シを剥がされながら弾かれる。

 

「ぐっ……もう、写シが……っ」

「むーっ、刃が届かないよー」

「すまぬな。羽虫をあしらうのは、どうにも力加減が難しいのだ」

 

 ちらりと二人を一瞥するタギツヒメは、横合いから斬りかかる可奈美の猛攻を防いで言う。

 

「一度は我を殺して見せた貴様の技は、そんなものか?」

「づっ……姫和ちゃんを、返せ!」

「愚か」

 

 あっさりと可奈美を斬り捨てて写シを解除させるタギツヒメだが、可奈美は即座に次を張り直すと、尚もタギツヒメに御刀を振るう。

 

「返せ、返せっ……返せ──!」

「おねーさん、凄い集中力……」

「──十条姫和を想うが故か」

 

 先程とは打って変わって、逆にタギツヒメを押し始める可奈美。徐々にタギツヒメに足を引かせて行く可奈美だったが──ふと、その背後の奥から、何かが()()()()()のを視認する。

 

「────ん?」

「…………え?」

 

 片手で鍔迫り合いをしながら振り返ったタギツヒメが可奈美の視線を辿ると────

 

 

 

ぉぉぉぉぉぉおおおらァッ!!」

 

 ──藤森勇人が、着地と同時にタギツヒメの片腕を切り落とした。

『龍眼の未来視は、その場に居ない人間を含めた演算は出来ない』という弱点を突かれた形ではあるが──果たして誰が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などと予測できようか。

 

「──貴様……!」

「うぇっ!? 勇人さん!?」

「可奈美、斬れ!」

 

 矢継ぎ早にそう急かす勇人に言われて、咄嗟に可奈美はタギツヒメへと御刀を向ける。

 鍔迫り合いしていた方の手で切り返そうとしたタギツヒメだが、その一撃は迅移で回り込んだ勇人の朧月夜で防がれた。

 

「帰って来て! 私たちはここにいるから! ──姫和ちゃん!」

「ぐっ──」

 

 返す刀を振りかぶった可奈美の千鳥が、タギツヒメの胸を斬る。その傷の奥でなにかが蠢くと──ぬるりと胸元から両刃の御刀が伸び、続けて姫和の体が排斥された。

 

「──はあぁーっ!」

「えっちょっ……うわぁはぁ」

 

 そのまま姫和は勇人に飛びかかる形で落ち、受け止めた勇人は尻餅をつく。

 

「……お前たちの声はよく響く」

「姫和ちゃんっ!」

「姫和……」

 

「ふん、感動の再会だな。さぞ嬉しいだろうが、これで終いだ──「させん……!」

 

 ノロを伸ばして落とされた腕を拾い、接続し直したタギツヒメは、目尻を細めながらそう言って両手の御刀を構える。しかし、それよりも先に、紫が自身の御刀で床を切り裂いた。

 

「うおっ……可奈美、掴まれ!」

「結芽、来い!」

 

 足元が崩れた直後、勇人は片腕で姫和を抱いたまま片手で可奈美の首根っこを掴む。落下が始まり、投げ出されたその体が文字通りの浮遊感を覚え、それからぼふんと何かに着地する。

 

「なん……うおっ、ねね!?」

『ねねー』

 

 それは、巨大化したねねの体だった。勇人たちの近くに結芽を小脇に抱えて着地した紫が勇人を見て、小さくため息をつく。

 

「なんですか」

「……いや、緊急事態だ。あとにしよう」

「はあ……」

 

 とん、と下の階に着地したねねから降りると、その場にはいつものメンバーである舞衣と沙耶香、そしてエレンと薫が揃っていた。

 

「よかった……間に合ったみたい」

「無事だったんデスねひよよん! ……って、なんでユートがここに!?」

「隣のビルからこう、ジャンプして」

「え~、そんなこと出来るの?」

 

 舞衣とエレンがそう言うと、エレンの問いに勇人が説明に困るように小首を傾げて返す。

 勇人の言葉を聞いて、おもむろに結芽が紫を見上げてそんな質問をした。

 

「……八幡力と迅移の併用で、瞬間的だが凄まじい跳躍力を得ることは出来る」

「へぇ、楽しそーっ」

「遊ぶなら全部終わってから、な?」

「はーい」

 

 窘めるようにそっと頭に手を置いた勇人にされるがままの結芽は、他のみんなの会話をぼうっと眺めている。空いた穴から屋上を見上げる可奈美に、姫和が言葉を返した。

 

「タギツヒメ、追ってこないね」

「タキリヒメとイチキシマヒメを取り込んだ以上、私を追う理由は無いからな」

 

「──おい可奈美、ちょっと休憩すっぞ」

 

 姫和の返しを聞いた可奈美は、ふと薫に声をかけられそちらに向かう。すると向かった先で、今度は姫和が声をかけられた。

 

「エターナル、受け取れ」

「む……?」

()()に反応したら駄目じゃない?」

 

 苦笑をこぼす勇人の横で、姫和は受け取った物の正体を確かめると、それはお菓子だった。

 

「これは……チョコミント味!?」

「薫ちゃん、もしかして姫和ちゃんのために?」

「いんや、そこから失敬した」

 

 つい、と指差した方を見ると、そこには複数の菓子類と貯金箱があった。それに顔を近づけて中身を見ていた勇人が口を開く。

 

「置き菓子? 無人販売所みたいな感じか」

 

「失敬した……って、それは、うーん」

「緊急事態だ、多目に見てもらえるだろ」

「泥棒はよくない」

「いい子ちゃんがよ……」

 

 可奈美と沙耶香にそう言われ、薫は渋い顔で舌を打つ。その様子を見ていた勇人がちらりと紫を見ると、彼女はため息をつきながら近くのメモ用紙とペンを拝借した。

 

「……ちょっと待っていろ」

 

 さらさらと何かを書いて、それを貯金箱に貼る。『請求は後日、折神紫まで』と書かれたそれに目を向けて、勇人たちは小さく笑った。

 

 

 

 

 

 ──お菓子での糖分補給をしつつ、チョコミント味の菓子類を紫に食わせている姫和を横目に、通話を繋いでいた端末から、真庭本部長たちの声が聞こえてきていた。

 

「──空が落ちてきてる……」

『ああ、こちらでも確認している。アレは15分ほど前から降下が始まった。23区に展開中の特別祭祀機動隊を含む全警察官及び自衛隊には、退避命令が出された所だ』

 

 沙耶香の呟きに続ける真庭紗南に、可奈美が更に言葉を投げ返す。

 

「アレが落ちてきたらどうなるんですか?」

『さぁな』

「さぁなてアンタな……」

 

 薫が呆れたようにおうむ返しすると、別の端末と繋いでいたエレンの祖父──フリードマンが会話に混ざって弁明した。

 

『彼女らをそう責めないでくれないか。君達には申し訳ないが本当に何もわからないんだ。

 何せレーダーを始め、あらゆる周波数の電波や音波、どのような手段を用いても、あれの向こうがどうなっているかなんてのはまったく観測できないんだからね』

 

「と言っても、ほぼ答えみたいなもんでしょ。ありゃどうみても隠世との境界だ」

 

『その通り。──そして彼我の境界は既に曖昧でノロが染み出している。けどそれは副次的なものに過ぎない。タギツヒメの目的は、隠世を現世にぶつけ境界を取り払うことにあるんだから』

 

 フリードマンはそう言うと、一拍置いて勇人たち全員に聞こえるように続けた。

 

『隠世というのは、可能性の数だけ存在している、数多の現世の影を全て集めたものなんだ。そして()()をこちらの現世にぶつけるという行為は、砂山に津波をぶつけるようなものだ』

 

「…………跡形もなく消え去る、と」

 

『正解。そうなったら現世は隠世に呑まれ、物理法則が通用しない時間も空間も不確かな混沌が訪れる。まさに、この世の終わりだ』

 

 簡単に言ってのけるが、その実そんな世界の終わりは目前に近づいている。

 だからこそ、あっけらかんとした態度で、薫が結論を口に出していた。

 

「そんじゃ、アイツを斬るだけだな」

「わー、わかりやすーい」

 

 ギラリと口角を歪めて、結芽が意見に同調するようにして獰猛に笑う。

 

『──お前達に撤退命令は出さん! 命じるのは、タギツヒメの討伐のみ! 全力をもって……あの凶神を討ってこい!』

 

「…………みんな~……バッテリー……持って、きたよ……ぉう」

 

 そうして、指揮官を担当している相楽結月が締め括ると、不意に勇人たちの階の扉に何者かがへばりついた。見慣れた人物──恩田累が、大きな荷物を背負って上がってきていたのだ。

 

「累さん!? なん、いやここ48階……」

「バッテリーなんか撃ち込んでこいよ……」

 

 驚愕する勇人と呆れ気味の薫がそう言うが、累は疲れきった顔でも満足そうに頭を振る。

 

「そうなんだけどね……座標とか計算するくらいなら、結局これが一番早いと思ったから」

 

 荷物から、紫と結芽、勇人、姫和以外が装着していたS装備のバッテリーを取り出して接続し、それから役目を終えた累は少ししてから踵を返して外へと下りていった。

 

 

 

 ──休息と準備も終え、遂に決着をつけるべく、可奈美たちは階段を上がって行く。

 

「…………む……」

「…………うーん」

 

「──あれ、おにーさん、喧嘩でもしたの?」

 

「違う……んだけどねぇ」

「……別に、喧嘩はしていない」

 

 最後に紫と結芽の後ろを歩いていた勇人と姫和は、顔を合わせては気まずそうに視線を逸らす。その違和感を指摘された二人は否定するが、訝しむ結芽は紫に顔を向けてもう一度問う。

 

「紫様~、なにか知ってる?」

「…………」

 

 結芽に聞かれて、紫はちらりと二人を見る。結芽の後ろで『なにも言うな』と言わんばかりに首を横に振る二人を一瞥して、彼女はしかたないとでも言いたげな表情で誤魔化した。

 

「……いや、知らない。結芽、先に上に行っていよう。二人も早めに上がってこい」

「え~、なぁんか怪しいですけどー」

 

 ぶうぶうと不満を漏らす結芽を連れた紫は、二人を残してさっさと屋上に向かった。

 

 

 

『────姫和のことが好きだから』

 

 

 

「……あのときの答えは、全部終わってからで良いから、とにかく集中しよう」

「そうだな。言われっぱなしは癪だが……下手に答えたらそのまま満足して死にそうだ」

「酷い言い分だな……」

 

 ふっと笑い、勇人は姫和に手を差し出す。

 

「大事な奴を救ったんだ、あとは……世界を救ってハッピーエンドだな」

「──ああ。そうしよう」

 

 

 

 姫和もまた、勇人に笑いかけて、差し出された手を握り返し──バチン! とスパークした。

 

「いっっっ────たいんだけど!!?」

「……すまない、雷神の力が残っているらしい」

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